7.夕莉、現状の説明と溢れ出る思い
前作より倍くらい中身を増量しました。
どうも。もうすぐで1285歳になる夕莉よ。
話始めはこう言う、って怜司が言ってたからやってみたわ。
私と怜司がこの世界に来てそろそろ8年経つ。
本当に最初は大変だったのよ?
今まで毎日会っていた怜司とは会えなくなるし、寝起きにいきなり水掛けられるし、怜司がどうなったか、とか、この世界についてとか何もわからないまま族長にされるし。
私が何も分からない、と一番最初に傍にいたエルフに言うと―――
「では、少しの間勉強の時間としましょうか。その後から族長になってもらうわ」
と言われ、少しの間とかじゃなくて五年くらいずっと勉強させられたりとか。
ずっと勉強させられた時は、『エルフの時間間隔はおかしいだろう』と怜司が言っていた通りだと思ったわ。
まぁそれでも、『この世界で身を守る為の力や知識はしっかりと身に着けるのは大切』って怜司が言ってたから、無駄だったとは思って無いし妥協もしてないわ。
エルフ達やハイエルフ達とは、最近はしっかりと仲良くできていると思うの。
この世界に来たばっかりの頃は、「お前なんか認めない!」だとか「貴様はエルフではない!」とか色々言われたわ。
でも、怜司が『気にするな。俺は一人の友人として、今の夕莉が好きだ。だから、今まで通りに夕莉らしくしていれば絶対大丈夫だ』とか自信満々に言うから信じてみたの。
後、この怜司の言葉は永久保存したわ。
それから、自分の気持ちに従って色々してみたわ。
魔法の練習の為に、魔の森の魔物を一人で狩りあさったり。
「貴様を村から追い出す!」とか言って襲ってきた連中を一人残らず返り討ちにしたり。
自己中エルフや傲慢ハイエルフ等の、村の経営をしていくにあたって害悪になりそうな存在を一人残らず教育してみたり。
そうこうしていたら周りからの目が変わって、いつの間にか皆から『族長様』って呼ばれるようになったのよね。
やっぱり怜司の言うとおりだったわ。
怜司の好きな私らしくしていて大正解だった。
皆、元の世界のクラスメイト達と同じ様な目をしていたわね。
また、村では最近までとある悩みがあったわ。
魔の森を抜けた北の方の山岳地帯に住んでる筈らしいダークエルフが、何故か魔の森に住み着いたのよ。
それで、この村の生活圏と被り、獲物を横取りされたり仕掛けていた罠を壊されたりと、エルフ達と揉め事を起こす様になったの。
喧嘩になった回数はとっくに両手の指を超え、その際この村のエルフも何人か怪我を負ってしまったわ。
それを受けて、村のエルフたちは―――
「奴らは私たちを殺しに来たのです!」
「ここを滅ぼす気では!?」
「いや、きっと私達を奴隷にする心算なのよ!」
「族長様!」
「族長様!」
「族長様!」
「族長様!」
って、うるさかったのよ。
殺す気ならこの村の死人はいないし、村を攻められた事も無いし、奴隷にされた人もいないのだから、皆が言っている様な事では無いのは分かってるわ。
それでも皆不安がってるから、どうすればいいかを怜司に相談したの。
そしたら、『何か理由があるんだろうし、ダークエルフとコンタクトをとってみるのはどうか』って言ってたのよ。
怜司がそう言うのなら、ダークエルフにもちゃんとした理由があるのでしょうね。
だから、その理由を聞いてみようと思ってダークエルフの所に行こうとしたのだけれど、エルフやハイエルフの皆が私の事を止めるのよ。
あ、皆、怜司の言う事を信じてないのね?
そんな悪い子達の言う事なんか聞かないわよ。
そこをどきなさい。
あら、ダークエルフがいるわ、話を聞いてみましょうか。
え、攻撃されたし、襲われたわ?
怜司の言う事は違ったの………?
いえ、そんな事は今まで一度も無かったわ。
だから、ちゃんと理由があるのよね?全部聞いてあげるから止まりなさい。
あら、言う事を聞かないの?
怜司の事を、嘘つきにする人なんて大嫌いよ?
大人しく、理由を教えなさいよ。
ほらほらほら………………。
あら、皆土下座して、ようやく教えてくれる気になったのかしら。
何々、今まで住んでいた所にドラゴンが出て、住む事が出来なくなった?
だから、山を下りて村を作ろうとしていた?
その際に生きる為にどうしても食料が必要で、何回か小競り合いを起こしてしまった?
私を襲ったのは、物凄い気迫で迫ってきたから襲われると思ったから?
ほら、怜司の言う事に間違いは無いのよ。
ちゃんと正当性のある理由があったわ。
やっぱり、私達を悪意を持って襲っている訳では無かったのよ。
それと、そんな怖い顔してたかしら?
怜司の事を証明してくれたいい子達だし、生きるのにも困っているなら一緒に村に来ましょう?
ダークエルフも異世界にしかいない存在だし、怜司に見せたらきっと喜ぶわ。
あら?エルフの皆がその事に対して文句を言うわ。
怜司の言う事を信じなかったエルフ達の言う事なんか聞くつもり無いわよ。
そうよね怜司?
ん?そういえば、『エルフ達を守って欲しい』って最初から怜司からのお願いがあったわね。
ならしょうがないわ。
怜司がそう言ってるから許してあげるわ。だから、皆仲良くしましょう?
その日の事を怜司に話したら、仲良くさせた事を褒められたわ。
やったわ。レイが褒めてくれたわ。
怜司がそうやって褒めてくれるなら、これからもこの村の皆を頑張って守っていくわ。
だから、早く私の所に来て、私をいい子いい子って言って撫でてね?
高校生になってからはやってくれなくなったけど、世界を超えて高校生じゃなくなったのなら、やってくれるわよね?
私はそれも目的でこの世界へ来たのよ?
こんな感じで族長の仕事を始めて二年経つけれども、未だに仕事は大変よ。
エルフとダークエルフは定期的に揉め事を起こすし。
今日は何?ダークエルフが仕事の役に立たない?
ダークエルフは農業を始めて未だ二年なんだから、もうちょっと優しくしてあげなさいよ。
傲慢なハイエルフは、何年経っても何回怒っても傲慢が抜けないし。
貴方、また種族を笠に着て、他のエルフの物を取ろうとしてるの?
いい加減、頭に来てるんだけど。
それなら、エルダーエルフ権限で貴方は村の奴隷ね?いいでしょう?
ダークエルフは男手が殆どいないから、集落の男女比が大分歪なままだし。
彼氏が欲しい?
村の男衆じゃダメなの?美形でしょ。
肌が白すぎる?
もう、誰か捕まえて日光でこんがり焼いて来なさいよ………。
いつの間に私は族長じゃなくて、村の相談役になったのかしら?
「ねぇ、トリス。こんなの、族長の仕事かしら?」
「残念ながら」
「トリスがやりなさいよ」
「私はずっと村にいる訳じゃないから、ほら頑張って」
私がこの世界に来た時からのお目付け役であるトリスに文句を言うも、そう流されてしまう。
彼女とは、初めからずっと一緒にいるのでいつも色々相談しているが、いい加減独り立ちするよう言われている。
彼女は数少ないハイエルフで、元々村の外で肩書を持つ仕事についているらしい。
私の体の持ち主だったハイエルフの葬式に参列する為に、村に戻ってきた所で私が転生し、そのまま私の教育係兼村の代表になっていた。
だが、いい加減職場に復帰する心算らしく、代表業務を全て私に引き継いでいる途中だ。
因みに彼女には、私の事を全て話している。
だから、色々相談出来て助かっていたのだけれど………。
「貴方は村から出られないんだから、尚の事村について把握しとかないと」
「好きで出られなくなった訳じゃないわよ、もう」
「でも、貴方が押し通した条例なんだから、村のエルフ達に条例を守らせたいなら、貴方は絶対守るべきよ」
愚痴をこぼしながら仕事をする私に対し、トリスはそう言って宥める。
村長に正式に任命された時、私の村長としての方針を決める事になった。
その際、この村は怜司の為の村なのだから、怜司に方針を聞いたの。
そしたら、怜司は『この4つは最低限守るべきではないかな』と言われたわ。
・エルフ(ダーク含む)は村の領域から出ない事
・全員平等に平和に、健康で過ごさせる事
・訓練はできる限り行って、自衛を覚える事
・夕莉自身で見回りを行い、村の質を上げる事
その4方針を、そのまま私の方針として発表した時、一悶着あったわ。
どうも、1つ目の方針が気に入らない様で、「そのくらい自由にさせろ!」と言ってきた連中がいたわ。
全員村の外に出た事が無いエルフ達だったわ。
私は怜司やトリスから外の事は聞いているけど、このエルフ達は自分達が外の人間に見つかったらどうなるか理解出来ていない様ね。
だから、村の外の話をトリスと一緒にしたのだけれど、「トリスだって外で生活しているのだから問題無いだろう」と言って、全く信じてくれなかったわ。
貴方達、トリスの実力分かって言ってるのかしら?
怜司が言った事だから間違って無い筈だし、トリスもこの方針には賛成だったから、説得を続けたわ。
そしたら最終的に、私も村の外に出ない事で決着したのよ。
まぁ、実際の所、怜司が『夕莉を守れる力と肩書を手に入れたら迎えに来る』と言われているから、私は村を出る気は元から更々無いのだけれどね。
怜司とは毎日【念話】で会話しているわ。
【念話】の時間としては、毎晩一時間だけよ。
怜司が『昼間はしたい事が多いし、夕莉に夜更かしさせるのはあんまり良くないから』と言うから、こうなったわ。
私はもっと喋りたいけど、確かに怜司の邪魔はしたくないし、実際その一時間だけで怜司が私の事を気遣っているのが伝わるし、夜に怜司と喋っていると凄くドキドキするし、毎晩確かな繋がりを感じて嬉しくなるし、前よりも怜司と心の距離が近くなった気がするし、我儘言って別の時間に【念話】送っても文句を言いながらも答えてくれるし、私の質問にはいつも答えてくれるし………。
それに怜司と常に喋れるなんてもう最高じゃない。
アルカナ様は本当に良いスキルをくれたわ。
もう一つ【会話記憶】と言うスキルもくれたのだけれど、コレも素晴らしいわ。
何と、誰かとの会話を一定時間保存出来、何回でも再生出来るというスキルなの!
これのお陰で、怜司との【念話】を何回も思い出して、毎日のモチベーションにしているの。
でも、やっぱり早く会いたいという気持ちももちろんあるわ。
だから怜司、私の所に早く迎えに来てね?
ね?
アルカナ「レイと物理的に引き離されたと気づいた時の目がヤバかったのだよ………」