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5.神狼、可能性と謎と奴隷

 母さんと迷宮の話をしようとした時。



「…………って!」


 ドタドタッ!


「ちょっ…………よ!」


 バタバタっ!



 部屋の外から走り回るような音がして、騒がしくなっていた。


「あら、そういえばリネアに子犬を洗ってもらうように頼んでいたわねぇ」


 母さんも外の騒音を聞いて、外の事を思い出した様だ。

 俺も母さんの話で考えがいっぱいになって、すっかりリネア達の事忘れてた。


 母さんから降りて、子犬の方へ―――


 ガシッ!


「ちょっ、母さん、子犬の様子を見に行きたいんだけど!」


 膝から降りようとする俺に対し、母さんは抱擁を強くする。

 溢れる母性本能が大爆発を起こしている様だった。



 

 様々な理由を使って抱擁を解こうとしない母さんに対し(最終手段の涙目は卑怯だと思うなぁ!?)、何とかお願いして懐から脱出し、部屋を出る。


 ドアを開けた先の廊下では、タオルを手に持ったリネアと、びしょ濡れな子犬が睨み合っていた。

 どうやら、拭かれたくない子犬と、拭かないとロッジハウスが濡れて困るリネアで追っかけっこをしていたようだ。

 リネアには申し訳ないが、床はだいぶ濡れちゃってるな………。


 それにしてもこの子犬、泥と血を落として結構綺麗になってるな。

 銀色の毛が綺麗だ。


「そのまま大人しくしてくださぁい………!優しくしますよぉ………!?」

「ワゥゥ………!、ッ!?、キャン!」

「っあ、何処に―――坊ちゃま!」


 そんな事を考えながら二人の睨み合いをボーっと見ていると、子犬が俺に気付いた。

 って、ちょっ、鳴きながら俺に突っ込んできた、って、えぇ!?


 急に子犬が光りだした!?


「待て、止ま、………ぐぅっ!?」


 眩しくて、目がぁ!?

 目を瞑った為、避ける事も叶わず子犬(光の塊)は俺に突っ込んで―――


 ガシッ!


 いや、抱き着いてきた。


 俺は飛び込んできた勢いに負け、押し倒された。


「痛てて、【軽回復ライトヒール】………。一体何が起きたんだ?」


 少しして光が収まったのを感じ、自分に【軽回復ライトヒール】を掛けながら起き上がる。

 普通にタックルが痛かったんですが………。


 痛みが引いた後、何かが抱き着いているお腹付近を見る。


 そこには―――。


 パタパタと楽し気に左右に尻尾を揺らし、ピンッと犬耳を直立させた―――。



「………兄様!」



 銀色の髪をしたびしょ濡れ幼女が抱き着いていた。



「えぇ………?」

「ぼ、坊ちゃま、何が………?」


 予想外の事態に俺は思わず疑問気な声が漏れ、リネアも何故か俺に聞いてくる。



 子犬が飛びついてきたと思った?


 残念、ケモ耳幼女でした!


 ………いや、全然残念じゃないけどさ。



 OK、ひとまず落ち着こう。

 予想外の事態に気が動転して、良く分からない事を考えてしまった。


「聞きたい事や言いたい事は山ほどあるが、とりあえず体を拭いてくれないかな………?」


 あぁ、俺の服までびしょびしょに………。


「………そうした方が兄様も嬉しい?」


 抱き着いたまま俺を見上げて、無表情で首を傾げるケモ耳幼女。


「もちろん。濡れたくは無いからね」

「………じゃあ、兄様が拭いて?」


 そう言って、ケモ耳幼女は俺をじっと見つめたまま動かない。


「わかった。リネア、タオル貸してくれない?」

「は、はい、坊ちゃま。………それにしても、この子はいったいどういう事なのでしょうか?」


 リネアは不思議そうにしながらも、座り込んでいる俺にタオルを差し出した。


「わかんない。とりあえず、リネアは僕の服を持ってきてくれないかな。この子に着せよう」


 いくら良く分からない幼女とはいえ、いつまでも全裸はあかんでしょう。


「わかりました。カミア様も呼んできますね~」


 俺の指示を受けてリネアは母さん()いる俺の部屋に向かった。


「さぁ、君も立ってくれ。座ったままじゃ拭けない」

「………ん」


 俺がそう言うと、ケモ耳幼女は頷くと立ち上がって、両手を広げる。

 勿論全て見える。


「なんで君は僕に対してそんなに無防備なの………」

「………兄様だから?」


 俺の零した言葉に対し、そう言って首を傾げる幼女。


 なんだそりゃ………?



 ゴシゴシゴシ………。



 とりあえず、タオルで頭から拭きながら、聞きたい事を聞いていく。


「まず、何で兄様?」

「………んっ、そこ気持ちいい。………私を助けてくれたし、痛いのも直してくれた」


 そう言ってケモ耳幼女は俺をじっと見つめる。


「………一人ぼっちの私を守ってくれる。………つまり、家族。………私の兄様」

「そんな、単純な………。実は、君を騙す為に良い人ぶってるだけかもしれないぞ?」

「………それはない」

「何でそう言い切れるの?」

「………野生の感」


 俺に髪をわしゃわしゃされながらも、表情を変える事無く胸を張る幼女。

 何故か自慢げな雰囲気だった。 


 俺の事をこんなにも無垢に兄と慕ってくれるこの子、危なっかしくて仕方が無くて目を離せなさそうにないんだが………?

 単純と言いたければ言えばいいさ。俺もそう思うもの。

 この年齢にして、母さん直伝の庇護欲が沸いた瞬間だったかもしれない。




 ケモ耳幼女の体を拭き終わった後、俺の服を着せてから事情を聴く事にしたんだが………。



 スリスリ、クンクン



「ちょ、近い近い。もう少し離れて………」

「………ヤ」

「ちょっ」

「あらあら、この子すごくレイに懐いているわねぇ」

「ですねぇ~」


 このロッジハウスのリビングにあたる部屋で皆で集まったのだが、この獣っ子俺にくっついたまま離れてくれない。

 母さんとリネアは対面のソファに座ったまま、ニコニコ笑って助けてくれない。


「はぁ、もうこのままでいいや………。聞きたい事があるから答えてくれる?」

「………兄様の命令なら何でも聞く」


 俺が彼女の顔を見ると、彼女もじっとこっちを見つめて来る。

 この高い忠誠度はどこから来るのかも知りたいよ、ホント。


「まず名前は?」

「………シロア。………兄様には名前で呼んでほしい」

「分かった。シロア、一体君は何者だ?子犬が人になるなんて聞いた事が無いんだ」


 母さんも、魔物が人になるのは初めて見たと言っていた。


「………逆。………私元々この姿」


 だが、シロアはそう言って、俺に見せる様に両手を広げて見せる。


「え?それじゃ、僕が見つけた時のあの姿は?」

「………スキルの影響?………気が付いたら使えたからわかんない」


 俺が問いかけるも、そう言ってシロアは首を傾げる。


 えぇっと?つまり、あの子犬の姿の方がスキルで変化した状態って事か?


「あら、そのスキルなら聞いた事あるわぁ。【獣化ビースト】といって、獣に姿を変えて身体能力が上がるスキルよ。今の獣王が持っているスキルとして知られているわね」

「へぇ、じゃあシロアは凄いスキルを持ってるんだな」

「………ん」


 俺がそう言うと、シロアは感情の起伏に乏しい顔をこちらに向け、胸を張る。

 表情は変わらないが、尻尾が凄い勢いでパタパタしてて、褒められた事が嬉しそうだ。


「じゃあ次、シロアは何であんな所に一人でいたの?」


 見た感じでは、あの一帯に他の獣人はいなかったと思うが。


「………わかんない。………気が付いた時にはここにいた」


 だが、俺の疑問に対し、シロアは明確な回答を持って無い様だった。


「………フラフラしてたら他の魔物に襲われて、何とか逃げたけど、ケガで動けなくなってた。………そこを兄様に助けられた」


 そう言って、シロアは俺の腕に抱き着き直す。


「親は?」

「………分からない。………人を見たのは兄様が初めて」


 もしかして刷り込み(インプリンティング)で俺を親―――家族の様に思っているからこんなに無防備なのか?


 だが、本当にこれは一体どういうことだろうか?

 獣人のシロアが生まれた時からここにいたとすれば、赤ん坊の時は一人で生きられるわけがない。その期間は誰が育てたのいうのだろうか。


 しかも、シロアの問題点はそれだけじゃないらしい。


「レイ。この子、只の獣人じゃないみたい」


 そう言う母さんは、目が光っていた。恐らく【鑑定(アナライズ)】を使ってシロアのステータスを見たのだろう。


「シロア、ちょっとステータスを見せてくれないか?」

「………ステータス?………どうすればいいの?」


 俺がそう聞くも、シロアも首を傾げ返す。

 まぁ、人に会ったのが初めてというのなら、ステータスなんてわからないか。


「自分の事がわかる魔法の事だ。『ステータスオープン、リアライズ』っていえばこんな感じで出てくるぞ」


 俺はそう説明しながら、目の前に青い板を出す。俺のステータス板だ。

 急に青い板が出てきたので、シロアはビクッっとフサフサの尻尾を逆立て驚いていた。


「大丈夫だ」


 だが、そう言って頭を撫でてあげると、シロアはゆっくりと落ち着いていく。

 ケモ耳がフサフサしてて、気持ちいい。頭を撫でるの癖になりそうだ。


「………わかった、やる。………ステータスオープン、リアライズ」


 シロアも俺の真似をして、ステータス板を出す。


「………お揃い」


 そう言って、シロアは撫でる俺の手に頭を押し付ける。


 俺とお揃いが出来て嬉しい様だ。可愛い。

 しっかりと頭を撫でてあげる。


 さて、シロアのステータスは………?





☆★☆★☆ステータス☆★☆★☆



名前:シロア

Lv:2

種族:神狼族

年齢:2

性別:女

職業:無職



HP:23/23

MP:5/5

STR:E

VIT:F

INT:F

MID:F

DEX:F

AGI:E

LUK:D



《称号》

神狼フェンリル


《スキル》

獣化ビースト】【加速アクセル



☆★☆★☆☆★☆★☆★☆★☆





 え、神狼フェンリル




 神獣。



 それは畏怖と敬意をもってそう呼ばれる存在。


 息を吞む神々しさと、周りを圧倒する存在感と力を持った獣。


 成長を重ね、経験を積み熟練された個体は、並の国家戦力にも勝る。


 彼の存在が一度暴れれば甚大な被害が発生し、過ぎ去るのを待つしかない。


 まさしく『天災級』と呼ばれる実力を持った存在である。




「って、聞いてたんだけどねぇ………?」


 『神狼フェンリル』といった、『神を冠する獣』である神獣について説明した母さんは、そう首を傾げながらこっちを見る。


「………ん?」


 俺に引っ付き、顔をお腹にこすりつけているシロアが『神狼フェンリル』ねぇ………。

 どう見たって、挙動の一つ一つが元の世界にいた子犬と変わんないよな。


「まず、神獣が人の姿をしている事が驚きなのよ」


 母さん曰く、過去神獣と称された存在は総じて獣の姿をしていたらしい。


「しかも、子供の頃から神獣として決定づけられている事も聞いていた話と違うわ」


 そして、『神獣』とは強さの格として周りから付けられる二つ名の様なモノであり、このような子供が位置付けられる事も無いらしい。



「「「謎だ(わぁ)………」」」

 


 俺ら三人の総意見である。


「後、シロアはこれからどうするつもりなの?」


 腕にくっつくシロアのケモ耳をモフりながら聞いてみる。

 どうにも、これからを一人では生きて行けそうにないんだが………。


「………兄様についていくよ?」


 なんでそんな当たり前のことを聞くの?とも言いたげな雰囲気で首を傾げるシロア。


 そんな事だろうと思った。レイ、知ってた。


「だよなぁ。母さん連れて帰っちゃダメ?」


 元の世界で捨て犬を拾った子供の様に、ケモ耳幼女を拾った俺は母さんに問いかける。


 ステータスを見ると俺と同じ年齢だった。

 つまり、この二年間の記憶も親も家も食料も何もない様だ。

 そんな子を、ここまで懐いてる子を、放置していくのは俺に出来そうに無かった。


 甘ちゃんだと罵りたければ好きに言えばいいさ!

 モフモフは俺の癒しなんだ!


「そうねぇ、連れて帰るのは私も賛成よぉ。でも、このままだと問題があるわねぇ」


 母さんは、そう言って問題点を教えてくれる。



 母さん曰く、神獣を国の中核である城に入れる自体が見つかると大問題である。

 隠して連れて行ってもいいが、【鑑定(アナライズ)】持ちにバレると隠しきれない事。

 それに、隠して連れて行ったとして、只の獣人の子供として連れて行くわけで、連れていける建前が存在しない事。

 また、この国は獣人に対しての扱いが良くない為、連れて行ってもろくな扱いを受けない事。


 問題だらけである。



「手段が無い事もないのだけどねぇ」


 考え込む俺に対し、さらっと言う母さん。


「どうするの?」

「簡単よぉ。この子をレイの奴隷にするの」


 そうする事で、『第三王子の奴隷』という肩書が付くと共に、他人の物に手を出すと犯罪である為、連れて帰る理由と守る方法が両立できるという事。

 また【鑑定アナライズ】に関しては、【隠蔽フェイク】のスキル付きの首輪を母さんが持っているらしいので、それを使う上でも奴隷にする事で首輪を付けている事が違和感が無いらしい。

 首輪はもちろんダンジョン産である。


 その首輪、悪い人が持ったら悪用されそうだな………。



 でも、問題点が減るだけで全部無くなる訳ではないらしい。


 子供の奴隷なんて労働力にもならない存在は、無駄飯食いとして権力者からすれば忌み嫌われるし、更にうちの国なら獣人であるという事でもっと嫌われるらしい。そんな存在を第三王子が匿うというのは、他の貴族辺りから嫌われ軽蔑されるとか。


 その点は、問題無いと思う。

 貴族の当主などは男ばかりなので、【女群集の呪(ハーレムのいわい)】で既に嫌われてますからね。


 ていうか、壮絶な過去や【天涯孤独(ヒトリボッチ)】で一人になってしまう母さんや、獣人嫌いの国で奴隷になるしかなかったリネア、森で死にかけていたシロア、と既に【女群集の呪(ハーレムのいわい)】の影響が出始めてるのかもしれない。

 母さんやリネア姉、シロアなら俺は気にしないがな。


「あとは、この子がいいかよねぇ」


 そう言ってシロアを見る母さん


「………何?」


 首を傾げるシロアに、母さんが利点・問題点含めて軽く説明する。


「………問題ない。………兄様の奴隷になる!」


 それを聞いて尚、そう答えて食い気味にこちらを見るシロア。


「本当にいいの?僕の命令に従わなければいけなくなるよ?」


 と、俺がそう確認してみるも、


「………大丈夫、気にしない。………寧ろずっと兄様と一緒にいれる奴隷になりたい」


 そう言い切られてしまう。

 それにしても、幼女の口から『奴隷になりたい』って………。


「そこまで言うならわかった。僕はまだ強くないけどシロアも守ってみせるよ」


 こうも無垢に俺を兄と慕うこの子を、俺はほっておく事は出来ない。

 自分が強くなる前から守るべき対象を増やしてしまったが………。


 こうなったら、この子も含めて守れる様に強くなる事が本当に急務だ。


「分かったわぁ。それなら帰りに奴隷商の所にでも寄って登録しましょうか」


 こんな事態でも、母さんはニコニコと楽しそうだ。


「うふふ、娘が出来たわぁ。私はカミア。お母さんと思ってくれてもいいわよ、シロちゃん」


「私は坊ちゃまの専属召使、リネアです!私はシロちゃんに従者としての何たるかを全て教えてあげます!お姉さんと呼んでくれてもいいですよ!」


 リネアも後輩が出来て嬉しい様で、尻尾をゆらゆらさせながら胸を張る。


「………ん、おねがいします、母様、リネア姉様」


「姉様!いい響きですねっ!坊ちゃまも、私の事お姉さんと呼んでくれてもいいんですよ!」


 シロに姉と呼ばれたリネアのテンションが留まるところを知らない。俺にも、急にそう言ってきた。

 まぁ、それくらいなら全然構わないけど。


「はぁ………。リネア姉。これでいい?」


「はいっ!」


 本当に嬉しそうに笑っちゃって、まぁ。


「騒々しくて悪いな。改めてレイヤードだ。これからよろしく、シロ」


 シロアの事も略称で呼ぶ。

 すると、フサフサの尻尾ををブンブンと振り、耳をパタパタさせながら―――



「うんっ」



 ここに来て、初めての笑顔を見せてくれた。


 とてもいい笑顔だった。

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