10.地獄、独り身修学旅行と帰還迷宮都市
さてそんな補習が始まってから、3か月ほど経った。
俺の学園生活は何も変わっていない。
周りから疎まれ避けられながら、図書館と教室、自宅を往復する日々を送っている。
図書館の補習と、自宅での母さんとシロとの絡みをモチベにして頑張っている。
母さんのご飯おいしいよ!
正直に言おう。ボッチ辛い。
ガチのボッチと比べると、シロもいるし、家に帰れば母さんとラーナもいる。
だが、やはり辛いものは辛いのだ。
だが、まだまだ読んでいない本と、知らない事が沢山あるからには折れる訳にはいかない。
それと、色々察しているクリス先生から「せめて学園長が戻るまでは、何とか頑張ってくれないか」と頼まれている。
なので、なんとか頑張っている11歳です。
実は『学園長がハイエルフで、私用で実家に帰省している』という話を聞いた日に、夕莉の所にそんなエルフがいないかと夕莉自身に聞いてみたのだ。
いた。
しかも、戻った理由が『エルダーエルフが誕生したから』という、凄い身内に関係する理由でした。
そんな夕莉から、学園長らしきハイエルフはエルフの村を既に出ていて、学園に向かっているという話を聞いた。
それを聞いた時、やっとこの苦行からの解放!と喜んだものだ。
だが、現実はやはり甘くない。
この学園では、毎年一回各学年ごとに学園の外に出て社会見学みたいな事をするイベントがある。
それが、状況改善の前に来てしまったのだ。
『ボッチ』『修学旅行』『お泊り』
この辛さはわかるな?
宿泊先での部屋割りを決める時のあの腫物を扱うような空気よね。
しかも、当然男女別々だからシロもいない。
まさに苦行。
ただ、幸いだったのが、見学先がグランディアで『冒険者という職業を知ろう!』という趣旨の見学だった。
半年ほど過ごした為土地勘があり、俺の心強い味方であるオルがいる所だ
これは、わんちゃん宿泊先を脱走まであるわ。
そんなこんなで日は過ぎ、やってきた社会見学。
グランディアには1週間ほどかけて、昼過ぎに到着した。
ここで、俺達1年生は2週間ほど冒険者と同じ生活を送る、というのが今回の趣旨だ。
その為、冒険者がよく泊まる宿に泊まり、冒険者がよく食べる食堂で飯を食うらしい。
貴族の坊ちゃんども、凄い顔してたぜ。
グランディアに到着してからだが、まず最初に宿泊先に荷物降ろしをする事に。
宿泊先は、冒険者ギルド横の2階建ての大きい宿。
オルが『あそこは【青銅】や【純銅】を詰め込む専用の所だよ』と言っていた場所だ。
俺達学生、オルに詰め込まれたっぽいです。
部屋は全て大部屋で、一部屋に5人で雑魚寝で寝るようだ。
既になかなか狭い。
普段はここにこれ以上の人数で泊まるらしいので、詰め込み部屋で間違いなかった。
セキュリティもくそもねぇな。
現在明日の朝まで自由行動の時間なのだが、学生は誰一人として部屋から出ようとしない。
あぁ、うっとおしそうな目で俺を見るなよ。
俺だって狭いわ、こんちくしょう。
皆荷物持ってき過ぎなんだよ。
今回社会見学をするにあたって、個人で必要になりそうな物を持ってきていい、と言われている。
それに対して皆荷物が山の様にあるのだ。
あの荷物で、どうやってグランディアまで移動するつもりだったんだろうな?
近くに貸馬車があったからよかったものの、学校が用意した馬車に詰め込め切れなくて、荷物が大量に溢れかえっていたじゃねぇか。
俺?
リュック一個で十分だよ。
リュック一個で集合場所に行った時の周りの『コイツアホじゃねぇの?』って顔よね。
こっちのセリフだわ。
お前らグランディアをどんな魔境だと思ってるんだよ。
部屋の中の空気が悪かったので、俺は外に出かける事にした。
何で皆外に出ないんだろうな?
一冒険者にビビりすぎだと思うけどな。
クリス先生や俺だって冒険者だぜ?
俺は疑問を抱きながら大通りに沿って歩く。
大通りには冒険者を狙った食べ物屋やポーション売りなどの屋台が沢山並んでおり、大変にぎやかだ。
「お!?レイ坊じゃねぇか!」
途中の屋台で、焼き鳥売りのおっちゃんと遭遇する。
このおっちゃんの店には、グランディアにいた半年のほぼ毎日お世話になっていたのだ。
このガチムチな見た目通りの、ワイルドな焼き鳥がどれだけうまいか。
「おっす、久しぶり」
「おうよ!最近見ねぇからどうしちまったのかと思ったぜ?」
「俺クリカトル学園に入学したんだよ」
「まじか、すげーな!?流石ギルマスのお気に入りなだけはあるな!」
実はこのおっちゃんも【純銅】級の冒険者であり、早朝のうちに迷宮に潜って自分で鶏肉を集め、それを昼から焼いて売っているのだ。
おっちゃん曰く、俺はオルのお気に入りだと思われているらしい。
何でも、オルは女子っぽい見た目の俺を守ろうと『あの子に手を出したら、アタイが黙ってないと思いな!』とギルドで宣言したんだと。
流石女傑、安定のワイルドだ。
「ま、だからおっちゃんの焼き鳥食べたくてうずうずしてたんだわ。2本くれ」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。はいよ!」
そう言っておっちゃんは焼き鳥を三本差しだす。
「流石おっちゃん、分かってるね。あんがとよ」
「少しは遠慮しろよ………。ま、構わねぇがな」
そう言っておっちゃんは豪快に笑う。
おっちゃんと別れ、俺は焼き鳥を食べながら喧騒溢れる道を目的無く歩く。
「この喧騒は嫌いじゃ無いけど、落ち着いて焼き鳥食えねぇ………」
今も道を走っていった男とぶつかりそうになったし。
なので、途中にあったベンチに座り焼き鳥を食べる。
少しの間焼き鳥を食べるのに集中する。
おっちゃんの焼き鳥は一つ一つの鶏肉が大きくぶつ切りにされてるから、一本だけでも結構満足な量を食えるのが嬉しい所だ。
そしてこの肉にたっぷりしみ込んだ、ピリ辛のタレがまた最高なんだよ。
もう一口食べたい欲が止まらないのだ。
そんな風に焼き鳥一本を食べ切り、次の一本に口をつけようとする。
「あ………」
俺の近くでそんな声が漏れた。
「ん?」
顔を上げると、いつの間にか俺の前にボロボロのローブを着た人が立っていた。
フードの隙間から見えるその目は、物欲しそうに焼き鳥を見ている。
「………」
「………」
見つめ合う。
互いに逸らさない。
「………食べます?」
先に折れたのは俺だった。
あの、まるで捨てられた子犬のような目は卑怯だと思う。
「本当にいいの?」
驚いた。
このボロボロの格好とは裏腹に、大人の女性らしい艶やかな声が出てきた。
てか、女性だったんかい。
「え、えぇ、構いませんよ」
落ち着け、俺!思わぬギャップにドキッとするんじゃァない!
「なら、ありがたくもらうわね」
女性はお礼を言いながら、俺の隣に座る。
「助かったわ。実は私ココに来る途中にお金無くしちゃってね。ご飯をあまり食べれてなかったのよ」
「それは大変でしたね。これでよければ普通に差し上げますよ」
「そう?いい子ね」
「いえいえ」
「それよりも、実はあなたに聞きたい事があるのよ」
「それは奇遇ですね。自分も聞きたい事があったんですよ」
「「あなた、何者ですか(かしら)?」」
ボロボロのローブの女と向き合う。
この女はおかしい。
さっきから【精霊眼】を使っているのに、一切魔力が見えない。
それに、いくら食べるのに集中していたとしても、俺はこの女が声を出すまでいる事に気づかなかったのだ。
只者じゃない。
そんな女が俺を怪しんでいるのは同じ理由だろう。
俺だって【魔力遮断】を使っていたので、魔力を消しているのだ。
この世界の生物は多少なりと魔力を垂れ流している。
だからこそ、【魔力探知】なんてスキルに需要があるのだ。
そんな状況なら、俺とこの女の方が異端者だ。
「………………」
「………………」
互いに顔を逸らさない。
フードで見えないが、女は俺の顔を見ている気がする。
「………もしかして」
女が口を開く。
さて、何と問いかける?
「あなたは、ぞくty―――」
「レイ?こんなところで何をしているんだい?」
女の問いに、唐突に言葉が被せられて聞こえなかった。
俺を呼ぶ声に振り替える。
「オッス」
そこにいたのは、俺のおばあちゃんであるオルだった。
「なんだ、オルか………」
「なんだ、とは失礼な奴だね。アタイはそんな子に育てた覚えは無いよ」
俺の言葉に対して、オルが文句を零す。
「そもそもオルに育てられた覚えが無いんだが………」
「なんだい、文句でもあるのかい?レイの母親のカミアを育てたのはアタイなんだよ?ならそんなカミアが育てたレイはアタイが育てたも同然さ」
「何その超理論………」
自信満々に胸を張るオルに、思わず苦笑いを零してしまう。
俺のおばあちゃんは、面白い人だと思う。
「ね、ねぇ、無視しないでくれるかしら………」
俺の後ろにいたボロローブの女の呟きが聞こえた。
おっと、思わずオルのペースに乗せられて喋ってしまい、ボロローブ女が意識から飛んでいたようだ。
あんなに警戒していたつもりなのにこんな簡単に気がそれるという事は、実はこの女をそこまで危険視していないのだろうか。
「ん?誰だコイツ」
オルがようやくボロローブ女に気付く。
と同時に、女もしっかりとオルの方に意識を向けたようだ。
「あら、急に出てくるから誰かと思ったのだけれどオルじゃない」
ボロローブの女がそう言う。
「あれ、知り合い?」
「ん~、どこかで聞いた事のあるような気が………?」
オルに聞いてみるも、オルも自信がなさそうだった。
「それはひどくないかしら………?これでもあなたのパーティメンバーだったのよ?」
そんなオルを見た女は、少し悲しげな声を上げる。
え?オルの仲間?
「あぁッ!トリスかい!?ボロボロだったから気が付かなかったんだよ」
女の言葉でようやく気づいたっぽいオルが、女に駆け寄る。
どうやら、この女性は『トリス』さんというようだ。
年上っぽいから、さん付けで呼ぼう。
「どうしてまたアンタほどの奴がそんなにボロボロになるんだい?」
駆け寄ったオルは、心配そうに言葉を掛ける。
オルの言葉を聞く限り、やはりトリスさんは強いっぽい。
「聞いてよ、オル。実は私学園に戻ろうとしてたのだけれどね」
ん?学園に戻る?
ふと沸いた疑問は、次の言葉ですぐに消えた。
「その途中で飛竜に襲われたのよ」
「何ッ!?」
「何だって!?」
トリスさんから聞いた情報に、俺とオルは驚きを隠せない。
「私も飛竜となら少しは戦える自信はあったのよ」
「そうだね、トリスなら勝てないまでもいい勝負できると思ってるよ」
生物最強格の竜と戦えると豪語するトリスさんと、それを否定しないオル。
どうやらトリスさんは、予想以上に凄い人物のようだ。
「けどね、全く歯が立たなくて逃げてきたのよ」
「トリスでも戦えなかったのかい!?」
だが、そんなトリスさんでも全く歯が立たなかったらしい。
「そんなに噂の飛竜は強かったのかい!?」
驚きを隠せない様子のオルがクリスさんに聞く。
「えぇ、確かに竜はそれなりに強かったわね。でも私がまともに戦えなかったのは、それが理由じゃないのよ」
トリスさんはオルの言葉を否定する。
じゃあ、何が強かったんだろうか?
「魔法が一切効かなかったのよ」
精霊王戦の時にも考えた事がある。
この世界で『最強』と呼ばれる者達の共通点は何か?
答えは簡単だった。
魔法をメタればいいのだ。
元の世界と比べて様々な技術が劣るこの世界で明らかに進化している技術。
それが『魔法』だ。
そして、元の世界で俺達が『科学』に頼り切っていたように、この世界の人達は『魔法』に頼り切っている面がある。
普段の生活然り、戦闘面然り。
『魔法』は確実に欠かせない物となっている。
そんな魔法に完全な対策を立てればどうなるか?
答えは『相手を封殺できる』だ。
実際この世界ではそんな者達が最強の扱いを受けている。
身近な例で行くと、それこそラグニがいい例だ。
正直あれは、俺が他の精霊と違ったからこそ勝てた訳であって、俺も魔力体だったら勝ちすら危うかった。
また、実は獣王も魔法が一切効かないスキルを持っているらしい。
だからこそ、単騎で遠距離の魔術師隊ですら倒す事が出来たのだ。
そして今回の飛竜も、その例に漏れていない。
恐らくだがトリスさんは魔術師なんだろう。
俺が言うのもなんだが、自然体で魔力を完全に体内に抑え込めるのは相当な訓練が必要だ。
それを完璧にこなしているトリスさんは、魔力をコントロールするのがめちゃくちゃうまいはずだ。
だが、件の竜はそんなトリスさんを一蹴している。
それはひとえに『魔法が効かない』というアドバンテージが大きすぎるからだ。
「魔法が効かない、か………」
だが、俺は負けるつもりは無い。
そんな敵がいるだろうと考えていたからこそ、近接戦闘の訓練もしていたのだ。
もう二度と、その努力を無駄にするわけにはいかない。
「そうか………。まぁ、アタイはトリスが無事で何よりだよ」
その話を聞いて、そうまとめるオル。
「それがそうもいかないかもしれないの………」
だが、当のトリスさんは申し訳なさそうな声を漏らす。
「実はうまく撒けてない可能性が高いのよ」
「どういう事だい?」
「私、飛竜に魔法が効かないって分かってすぐに逃げようとしたの。でも、そう決断するまでに攻撃しすぎてヘイトをとってしまったのよ」
そこからが大変だったらしい。
どこまでも追いかけてくる飛竜を巻く為に、大陸中の逃げ回ったらしい。
もちろん、人里を避けてだ。
その際に、道具を使い捨てたり、お金を落としたりしてしまい、こんなボロボロになったのだという。
「それに正直今も撒けた自信は無いの。でも、食料やお金的な問題で寄らざるを得なかったのよ」
そう言いながら、トリスさんは頭を下げる。
「町の代表に近い立場にいるオルには、頭を下げる事しか出来ないわ。ごめんなさいね」
「何だそんな事か。アタイは気にしないよ!」
トリスさんをかばおうと、オルがそう言う。
いや、オルさん。竜をトレインはシャレにならないっす!
「まぁ、だからからこそ私はすぐにここを出ていくつもりよ。学園に戻れば一安心ですもの」
さっきから学園に戻るとか言ってるが、トリスさんは学園の関係者なんだろうか?
「そうだね。トリスが学園長をしてる学園だものな。脅威に対しての対策は立ててるに決まってるな」
え?学園長!?




