5.戦闘、テンプレ荒くれ冒険者
冒険者ギルドに入り、列に並んだだけで即酔っ払いに絡まれる俺と母さん。(シロは消えている)
そんな俺達を見て、周りの話し声が聞こえる。
「おい、あれって………」
「あぁ、ラルクだろ?」
「なんだ、あいつまた真昼間から飲んでるのか」
「何でもまた【純銀】の昇格試験に落ちたんだと」
「まぁ、いくら実力が【純銀】クラスの物を持ってたって、あの性格じゃ対人護衛なんかどう見たって無理だろ」
「そりゃ、高頻度で問題起こすような奴が、貴族の護衛なんてやったら揉めるに決まってら」
「だよな」
「でも、いい加減どうにかなんねぇのか?ここ最近ギルドにいて騒動起こしてるじゃないか」
「確かに迷惑極まりないが、下手に実力があるせいで誰も対処できん。そろそろギルマスが対策するらしいが………」
「既に問題起こしてるだろアレ。あのローブと子供、ここいらじゃ見た事無いぞ」
「あぁ、どう見たって部外者だな」
「あーあ。やっちまったな」
「だがこのままじゃ、あの二人に被害が出る前に止めらんねぇぞ」
「まずいな、ラルクに対抗できる【純銀】の連中は真面目が多いから、朝から迷宮に入ってていねぇ」
どうやらこの男、ラルクは問題児らしい。
性格が粗暴だが、実力があるせいで誰にも止められないようだ。
まさに、お山の大将だな。
だが、そんな奴に絡まれた張本人である母さんは、微動だにしない。
「オイ!無視すんなよ!」
ラルクがイラっとしたのか大声を上げて、その声で母さんはようやく前後左右をキョロキョロと見渡す。
「あら?あらあら?ねぇ、レイ。怪しいフードって母さんの事だったのかしら?」
どうやら呼ばれているのが自分だと気づいてなかったらしい。
「あぁ!?舐めてんのか、この野郎が!」
どうやら母さんは完全に挑発を取ってしまったようだ。
だが母さんは特に気にした様子も無い。
「だってねぇ、ガキなんか連れてないもの。レイはもう立派な男の子ですものねぇ?」
俺の頭を撫でながらそう言う母さん。
確かに、この世界の十歳児は地球の十歳児と比べても相当成長している。
感じと言っては、元の世界の十歳は小学四年に対し、この世界の十歳は中学二年くらいの身長がある。
「………頭を撫でながら言われても、子ども扱いしているようにしか」
少し苦笑いを浮かべる俺の言葉に、母さんも笑みを見せる。
「あらあら、確かにそうねぇ。でもレイを撫でるの母さん好きなのよ」
「なら、しょうがない」
そう言いながら、母さんは撫でるのをやめない。
特に問題は無いので、俺も止めない。
そんな俺達の様子は、ラルクの短い怒りゲージを溜めてしまったようだ。
「随分と舐め切ったマネしてくれるじゃねぇか、このアマぁ!?」
ラルクが近づいてきて、母さんに手を上げようとする。
「母さんに手ェ出すんじゃねぇ。只じゃすまなくなるぞ」
ラルクと母さんの間に割り込みを掛け、俺はラルクに忠告する。
母さんが起こったら怖いんだぞッ!?
だが、俺の言い方が悪かった(確信犯)ので、ラルクはなお激昂する。
「てめぇこそ、只で済むと思ってんのか!?」
ここで即座に手を出してくるか?と思ったが、ラルクは俺を指さし―――
「てめぇ俺と決闘しやがれ!ぼこぼこにしてやるッ!」
なるほど、意外と考える理性は多少なりとも残っているようだ。
何もしてない人に因縁吹っ掛けているコイツが明らかに悪いのを、『決闘』という形にして互い同意で喧嘩しました、っていう大義名分を作ろうとしてるようだ。
だが、全然頭自体は回ってなさそうだ。
まず、冒険者ギルドのルールとして、ギルドメンバー以外ともめ事を起こすと除名、と言う明確なルールが存在する。
これは、非力な一般人を冒険者から守る為のルールだ。
だが、俺と母さんはまだ『一般人』枠だ。
ラルクは、既に反している。
いくら建前を用意しようが、既に遅いのだ。
更に、別にこの決闘を俺が受ける必要性は無い。
なんで相手の都合のいい条件に納得する必要があるんだよ。
総合して、ラルクはアホだという事だ。
確かにこんな奴が、護衛任務出来る訳が無いわ。
「あぁ、構わねぇよ」
だが、俺はあえてその条件に乗る。
ちゃんとした理由も存在する。
「おう、言質は取ったからな!おい、そこの受付嬢!急いで訓練所を空けやがれ!」
やはり俺が否定するとは考えてなかったらしく、即座に受付嬢に無茶ぶりをかますラルク。
流石、アホ。
「で、ですが………」
「うるせぇ、コイツも納得してんだ!早くしやがれ!」
受付嬢が止めようとするも、ラルクは聞く耳を持たない。
「おら、行くぞ!」
ラルクは、さっさと階段の裏に回り、そこにあった扉をくぐって奥に行ってしまった。
あの奥に、訓練所があるんだろう。
「んじゃ、母さん行ってくる」
「行ってらっしゃい」
俺の実力を知っている母さんは、俺を止める事無く手を振りながら送ってくれる。
「お、お待ちくださいッ!女子であるあなたがラルクの相手をするのは危険です!今ならまだ止められますよ!」
代わりにラルクに絡まれてしまった受付嬢が、俺を止める。
「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫ですよ、あのくらい」
俺は左手をヒラヒラさせ、問題無い事をアピールする。
「あ、後俺男ですから」
「「「え、えー!?」」」
おい今、受付嬢だけじゃなくて周りの冒険者も驚きやがったな!?
ギルド内訓練所に移動。
俺とラルクは、訓練所の真ん中で少し離れて向き合っていた。
遠巻きに飲食コーナーにいた冒険者達といった観客が出来ている。
「さぁ、準備完了だ!覚悟しやがれ!」
俺の前には、模擬戦用の木で出来た大剣を構えたラルク。
やっぱ体格が大柄だと、使用武器は大剣一択説がある気がする。
そんな相手に対し、俺は素手だ。
だって、あんな大剣相手に普通の片手剣で戦えそうな師匠ほどの技術は出来てないもの。
「えっと………。本当によろしいのですか………?」
俺とラルクの間に立つ、今回の決闘の審判を務めてくれる人が、俺の事を心配してくれる。
不幸にもラルクに絡まれてしまったあの受付嬢が、そのまま俺達の審判もしてくれるようだ。
どうやら冒険者ギルドの受付嬢は、模擬戦や決闘といった場での審判も出来る者も多いらしく、有名な公式戦とかでも審判を行っているほどの、国に認められた正式な資格者らしい。
え?それって、トップクラスの戦士たちの審判が出来るってことだよな?
つまり、受付嬢って相当な実力者の集まりなんじゃ………?
俺が恐るべき真実に気付いてしまい慄いていると、それを自分への恐怖と勘違いしたラルクが調子に乗り出す。
「おいおい、今更ビビってんのか?」
「いやお前よりも、そこの受付嬢の方が怖いわ」
俺が思わず食い気味に即答してしまった事に対し、ラルクは更にキレる。
「何だとてめぇ!?」
いやだって、俺の言葉に対しこっちを向いている受付嬢、顔は驚いてるんだけど目がマジなんだよ!?
俺、背中に冷汗かいてるからな!?
「と、とにかく、さっさとかかってこい。すぐに決着をつけてやる」
早くあの受付嬢の目線から解放されたい。
「あぁ、調子に乗んなよ!?」
ラルクは完全にプッツンな様子だ。
「………では、互いに準備が整ったようなので決闘を開始します」
受付嬢、声がガチだよ!
こっち見るなよぉ!
「始めッ!」
「うぉらぁッ!」
受付嬢の視線に気を取られ、俺の初動が遅れる。
その隙を見逃すほど、ラルクは甘くなかった。
大剣を右横に構えながら全力で突っ込んで来ており、一撃で俺を沈める気満々のようだ。
うーん、マジで早く決着をつけよう。
右手に淡く輝く虹色の魔力を薄く纏う。
精霊王になった際に進化したスキル【王覇】だ。
【魔力武装】から進化したスキル【王覇】は、前よりも格段に使い勝手がよくなっている。
消費MPが減り、コントロールが効きやすくなっており、今回の様に薄く表面のみを纏う事も出来るようになった。
また魔力の質も上がり、威力の上昇と共に防御力も上がっている。
つまり、正直あの大剣は全く効かない。
「死ねぇッ!」
ラルクは大剣を横に全力で振る。
木剣にしては、中々の重さを持った一撃だろう。
だが―――
「その程度で死ぬか、バーカ!」
俺は、大剣に正面から迎え撃つように右腕を振る。
「馬鹿がァ!」
ラルクは俺が取った行動を見て、勝利を疑ってないようだ。
大剣と俺の右手が真正面からぶつかり合う。
パァァァァンッ!!
固い物同士がぶつかり合ったような、物凄い音が辺り一帯に響き渡る。
「なぁっ!?」
ラルクの驚きの声も響く。
俺の右手が、思いっきり大剣を砕いた。
半ばで砕かれた大剣を振りぬいた大勢で固まるラルク。
「次はこっちの番―――」
こっちも振り抜いた勢いで、右膝を抱え込むようにして足を上げる。
魔力を纏わせる必要は無い。
既にオーバーキルだ。
「だァッ!」
ラルクのボディめがけて蹴りをかます。
完全なヤクザキックだ。
「くっ、グボッ!?」
咄嗟に大剣を盾にした判断は素晴らしい。
だが、腕の三倍の力のある足を相手にするには、硬さが足りない。
大剣のガードを余裕でぶち抜き、ラルクを訓練所の端まで蹴っ飛ばす。
正直無強化状態でも、STR:Bの力を持ってすれば木剣など砕くことは容易だ。
だが、さっき【王覇】を纏ったのは、いくらSTRが高かろうと、正面から攻撃を受け止めるのは痛そうだったからだ。
「………………」
子供が大男を圧倒する光景を見た外野は、静まり返る。
「勝負ありですッ!」
そんな中でも受付嬢は、冷静に仕事をこなしていた。
俺は決着がついてすぐに、飲食スペースで待機していた母さんとシロの二人と合流した。
「ただいま母さん」
「あら、おかえりなさい」
「………お帰り。………兄様、かっこよかった」
母さんはのんびりお茶を飲んでいたようだ。
シロは【完全隠密】を使って、ひっそりと観戦してたみたいだ。全く気付かなかった。
「おう、ありがとな」
褒めてくれたので、代わりにシロの頭を撫でてあげる。
「………ん」
尻尾がパタパタと揺れて、嬉しそうで何よりだ。
俺らが家族の団欒を楽しんでいると、後ろから声がかけられる。
「あの、すみません」
こ、この声は………。
恐る恐る振り返る。
「少しよろしいでしょうか」
案の定、先ほどの受付嬢だった。
「な、何でしょうか………」
何故俺は、特に何もされてないはずの受付嬢に、こんなにビビっているんだろうか………。
「何でそんなに怯えられてるのでしょうか………?まぁ、そこはいいです。今回の件についてギルドマスターの方から話があるそうなので、ギルドマスターの所まで来ていただけないでしょうか?」
受付嬢は申し訳なさそうな表情でそう言う。
来たッ!これを待っていたんだ!
実は、母さんが用があると言っていたのは、この冒険者ギルドを率いるギルマスだったのだ。
正直最初は、普通に受付に並んでギルマスを呼んでもらおうとしていた。
だが、得体のしれない俺ら相手にギルマスを呼んでもらえるという可能性は低い、というのが全員の総意だった。
しかし、それ以外の方法を思いつかなかったので、結局正当な方法で会おうとしたのだ。
いざ、並んでいるとテンプレの様に母さんが絡まれた。
最初は、撃退するとギルド職員の印象が悪くなりそうだったので、嫌だったのだ。
だが冷静に考えると、これは『無関係な人間をギルドメンバーが脅した』というギルド側の不手際になる。
ここをきっちり正式に圧倒的に撃退して、俺達と敵対するのは得策ではないと思わせ、ギルマスとの面会の機会をもらおうと考えたのだ。
ついでに、これから半年近くグランディアにいる事になるので、一々絡まれないようにしっかりと戦闘力を持っている事を誇示する意味もあった。
これを思いついて、すぐに母さんとシロに【眷属念話】で、この考えを伝えた。
【眷属念話】も、俺が精霊王になった際に手に入れたスキルの一つで、俺と眷属間で【念話】が使えるスキルだ。
【王覇】といい、【眷属念話】といい、精霊王になった際にかなりの強スキルを手に入れた。
その理由は称号【王の系譜】の効果だった。
【王の系譜】:王の名を連ねる事が出来る者。【王】と付く称号一つにつき、スキルを一つ覚える。
1:【王覇】
2:【眷属念話】
強い(確信)。
今持っている【王】のつく称号は【精霊の王】と【女群集の王】の二つだ。
これ、他にも称号を手に入れたらチート級のスキルが手に入る様なので、今後も積極的に狙っていく予定だ。
話を戻そう。
その新スキルを使って母さんとシロに連絡を取り、互いから同意をもらって作戦を決行した。
その結果、思いの外キレイにはまったのだ。
「一つ条件があるのですが、いいですか?」
「何でしょうか?」
「ここにいる母さんも一緒に連れて行ってもいいですか?」
「そうですね………。確かに今回の件に関わりのある人ですので、構いませんよ」
この目的達成の為には、母さんも連れて行く必要がある。
なので、お願いしてみたら、意外と簡単に許可がもらえた。
「了解しました。なら案内をお願いします」
「わかりました。では付いて来てください」
母さんと二人でついていく。
ように見せかけて、ちゃんとシロも付いて来ている。
さぁて、後は母さんがちゃんと説得できるかだ。




