13.戦闘、精霊王
開幕一発。
『流れを取る為』などという建前の元、衝動に任せて先手を取る。
俺の悪い所が出ていたが、今更だと割り切った。
むしろこれでよかったとも思っている。
これでこそ俺だ。
俺が目指している父さんの姿だ。
俺が幼稚園に入る前、まだ父さんが生きていた頃。
朝8時にTVでやっていた番組の主人公に憧れていた。
皆の為に戦うあのヒーローに。
怪物に立ち向かうあのヒーローに。
子供の頃、よくある話だ。
『将来の夢は仮面〇イダーですっ!』的なアレだ。
普通に生きていれば忘れていたであろうその夢。
それを俺は思いに、意思に強く残してしまった。
それは全て父さんのせいだ。
父さんが実際にやって見せたからだ。
命を懸けて悪に立ち向かい。
戦えない人を守って。
知らない人を助けて。
他人の為に無茶をして。
その無茶が原因で死んで。
それでも死ぬ前に、やってやったぜと言わんばかりに笑って。
俺カッコいいだろ?と笑顔で言った父さんを見て。
俺は心の底から本気で、カッコいいと思った。
こんな大人になりたいと思ってしまった。
誰かの為に戦えるあのカッコいい大人に。
まぁ、父さんが死んだ後、妹と二人になった俺は確かに凄く苦労はした。
小学生くらいの子供二人だけで生きていけるほど世の中は甘くない。
叔父さんや叔母さん、夕莉の両親の助けが無かったらどうなっていたかもわからない。
でも、俺は父さんみたいな大人になりたくて頑張った。
俺のたった一人の家族になった妹を守る為に。
俺に付いて来てくれた幼馴染を守る為に。
それが俺が幼いながらに決めた将来の夢。
『誰かの為に戦える大人になる』
「先手は取った。が………」
すぐにバックステップで下がる。
「効いてる訳無いよな」
下がってすぐに体勢を整え、ラグニを見据える。
「………ハッ!いきなりの攻撃で確かに驚いたが、利かねぇなぁ!」
ラグニは、俺の突然の攻撃に驚き固まっていたが、すぐに立ち直り何事も無かったかのようにそう言う。
「くっ!レイなら可能性がある気がしたのに!」
俺の攻撃が通らなかったのを見て、リボルは悔しがる。
「やっぱりアタシ達もやるしかないわねッ!」
リボルはそう言うと、ラグニに向かって右手を向ける。
「【雷撃】ッ!」
リボルは生半可な攻撃じゃ効かないと判断しているので、先手から飛ばしている。
リボルの掌から放たれた【雷撃】は、辺りに閃光を迸らせながら標的に向かって飛ぶ
そして【雷撃】は、安定の速さと威力をもってラグニの肩に直撃する。
だが―――
「効かねぇなぁ?」
ラグニはニヤリと笑い、こちらを挑発する。
リボルの一撃でも全く効いてないようだ。
「ふんッ!そのくらい知ってたわッ!」
だが、リボルは全く悔しそうにしない。
ラグニも少し訝し気にリボルを見つめる。
「だからこそッ!」
リボルがそう叫んだ瞬間、ラグニの後ろから人影が飛び出す。
「こっちが狙いだ、ぜッ!」
リボルの【雷撃】は派手だ。
だからこそ、周りの注目が疎かになる。
それのタイミングを狙って、ミナ姉はラグの後ろに回り込んでいた。
そして、後ろがガラ空きになっているラグニに向かって、右足で回し蹴りをラグニの延髄付近に向かって放つ。
ラグニは突然の声に驚き、思わず後ろを向こうとする。
偶然にもラグニが後ろを向いたタイミングと、ミナ姉が蹴りを当てるタイミングはぴったしだった。
その結果、ラグニの顎を側面から回し蹴りが直撃する。
「これならどうよ!?」
ミナ姉でも興奮するほど渾身の一撃が入った。
だが、奴は微動だにしない。
それどこか、ニヤニヤした顔は余裕の表れだった。
「なにッ!?」
渾身の一撃を当てたはずなのに、全く効いてない事実に思わずミナ姉は一瞬硬直した。
その隙をラグニは見逃さず、右腕を振りかざす。
「残念だなぁ?全く効かねぇんだ、よぉ!」
振りかぶった拳を躊躇い無くミナ姉に振り下ろす。
「【防御】ッ、『ミナの姉御』!」
ミナ姉の更に後ろに、シーラがいた。
そして攻撃からミナ姉を守ろうとする。
シーラが魔法を唱えると、ミナ姉を青色の光が包む。
それこそ、シーラの魔法が発動した証。
防御魔法を張られている。
なのに、奴はニヤニヤした顔のまま、ミナ姉を殴る。
「なっ、ガァッ!」
「な、なんで!?っわあ!?」
ミナ姉が両腕で防御の構えを取っていた事が幸いする。
ラグニの拳がミナ姉に当たった瞬間、ミナ姉を包んでいた青い光は弾け飛び、ミナ姉は思いっきり後ろに吹っ飛ばされた。
そしてその後ろで、自分の結界を呆気無く破壊されたシーラは呆然と立ち尽くし、飛んできたミナ姉に巻き込まれる。
「なっ!?物理ですら通らないっていうのッ!?」
吹き飛ばされる二人を見て、リボルは驚いた声を上げる。
「ハッ!俺に貴様らの攻撃が効く訳が無いだろぉうが?」
その声を聴いてラグニは嬉しそうに笑いながら、こちらを向く。
そしてそのまま言葉を続ける。
「なんてったって、俺は『魔力の影響を一切受けない』チート持ちだからなぁ!まぁお前らには何言ってるか分からないだろうがなぁ!」
ラグニは嬉しそうにそう言い放つが、残念だが俺にはお前の言ってる事はわかるんだよ。
今の一言で全てわかった。
ミナ姉の蹴りが効かなかったのは、魔力の塊に等しい『精霊』だから。
シーラの【防御】を簡単に砕いてみせたのは、防御『魔法』だったから。
そしてこの前から感じていた違和感の正体も分かった。
『あれほど傲慢になって精霊界の女を自分の物と言い放つほどの、自己中心的な考えを持つコイツが何故「精霊王」という肩書を持っているのに、人間界に降りないのか?』
コイツほどの調子に乗った奴なら、人間界に降りてエルフや獣人でハーレムでも作りたがるだろう。
だからこそ引っかかっていたのだ。
それこそが違和感の正体。
何故、人間界に行ける肩書を持っているのに行かないのか?
何故、数多の精霊を眷属にして能力を沢山得たはずのコイツが行かないのか?
答えは簡単だったのだ。
人間界だと魔法無しでも戦える人がいる。
そんな相手がいる所で自分の好き勝手すれば反撃にあい、それで死んでしまうかもしれない。
でも、異世界で自分の好きなようにしたい。
だから、人間界に行って危険を負うくらいなら、全く死ぬ可能性の無いこの世界で好き勝手した方がいい。
一言で纏めると
『ラグニは只のチキンだった』
そんだけの話だったのだ。
「ははッ」
思わず笑いが漏れる。
何てバカらしいんだ。
「な、何を笑っていやがるッ!」
「レ、レイ………?」
ラグニは笑う俺に苛立ち、リボルは突然笑い出した俺を不安そうに見る。
「おい、チキン野郎が」
俺はラグニに向かってそう言う。
一歩、前に歩き出す。
「だ、誰がチキンだ!」
「うるせぇよ、お前なんてチキンで十分だ」
ラグニに向かって歩み寄っていく。
冒険、努力、苦労、危険、挑戦。
それら全てから逃げようとする。
それでいて、自分の好きなようにしたい。
自分の思い通りにいかせたい。
そんな都合のいい話があってたまるか。
「お前はカッコよくない」
そうだ、そんなのは全くカッコ良くない。
「な、何だとッ!」
「お前は相応しくない」
人の上に立つには相応しくない。
「お前は戦えない」
人の為に戦える訳がない。
「そんなお前を見てるとさ」
視界の奥で、ミナ姉とシーラが見える。
殴られて痛そうに呻く二人が見える。
守るべき相手が苦しんでるのが見える。
「やっぱり父さんみたいな大人に俺は憧れるよ」
だからこそ、守るべき人達の為に。
俺は。
「お前を倒す」
「ふ、ふざけるなよぉ!?」
俺の言葉にラグニは激怒する。
まぁ思いっきり馬鹿にしたしな。
コイツみたいなタイプなら思い通りに動かない俺にイラつくだろう。
予定通りだ。
「お前が精霊な事に変わりは無いんだよ!そしてお前が精霊なら俺に勝ち目は無いんだよッ!」
ラグニは怒りを隠そうともせず、俺を指さしながら叫ぶ。
「そうかい。なら、試してみなよ」
俺はそう呟き、ラグニに向かって真っすぐ駆け出す。
「ハッ!遂に気が狂ったか!」
正面から突っ込む俺を見て、ラグニはそう言いながら右腕を前に向ける。
「お前の攻撃が効かないとはいえ、真っすぐ向かってくるお前を通すと思ったか!?」
そして、右腕から俺に向かって緑色の光が飛び出す。
その光は、レーザーの様な見た目を持って俺に向かって伸びる。
「【魔力弾】」
走りながら右手を拳銃の形にし、光と交差するように撃つ。
そして光と【魔力弾】が互いに掠り合った瞬間、小規模ながらも威力のありそうな爆発を起こす。
「どうだ見たかッ!?これが『爆発精霊』の爆発を精霊王の力で改造した俺専用の魔法だ!」
自慢げに言うラグニ。
残念、俺もオリジナル魔法一杯持ってるんだ。
「これでお前は俺に近寄れないだろう!」
「確かに普通に真っすぐ進むのは無理だな」
普通に、はな。
「【縮地】」
オリジナル魔法の御返しの意味も込めて、スキルを使って奴の正面に飛び込む。
「なッ!?何だそのスキルは!?」
「俺のオリジナル魔法だ。後、これはおまけ―――」
驚くラグニを見据え、右腕を引く。
さっきのミナ姉のお返しだッ!
「だよッ!」
そして、全力で右ストレートを放つ。
腰をしっかりと捻り、上から叩き付けるように振りぬく。
完全に拳に俺のフルパワーを乗せる。
「ハッ!それは効かな―――」
自分のチートを信じ切ってるのか、ラグニは防御の構えも取らずに正面から受けようとする。
あーあ、しっかり落ち着いて見たら気づいただろうにな。
俺の右腕の魔力が消えている事に。
インパクトを込める瞬間、左足でラグニの足を巻き込みながら踏み込む。
そして、渾身の右はラグニの顔面を正面から捉える。
「なッ、グガァッ!?」
自分のスキルが発動しない事に驚く暇も与えずに、顔面を殴られて思いっきり後ろにぶっ倒れる。
俺が足を踏んでいるから、後ろに吹っ飛んで衝撃を逃がす事すら許さない。
ラグニは後ろにひっくり返り、地面に頭を強打する。
だが、精霊界の地面には魔力が込められてる為、ダメージは無いだろう。
俺の目の前でノーガードになるがな。
「な、なぶぇずぎるがぎがないんどぅあ」
フルパワーで顔面を殴られた為、ラグニはまともに話せなくなっている。
『何故スキルが効かないんだ!?』って感じかな。
「簡単だよ。俺が魔力を体に抑え込んだから、魔力無しの物理攻撃になってるんだよ」
城に来てから大活躍の【魔力遮断】先生のお陰だ。
こいつは人間だ。
だからこそ【魔力遮断】を使っても、リボル達みたいに俺の右腕が見えなくなる事は無い。
だから、気づけなかった。
そして、俺の体は人間寄りだ。
だからこそ、しっかりと殴る事が出来たのだ。
「自分の好きな様に生きて、周りの事を疎かにする。貴様は『悪』だ」
目の前で痛みに悶えるラグニを見下ろす。
ラグニはこれからどうなるか分かっているんだろう。
怯えた顔で座り込んだまま後ろに下がる。
「『悪』にはヒーローが勝つのが相場だ」
朝のヒーロー達のお約束だ。
「というより、異世界で自分の為だけに周りの考えず好き勝手すると、民衆の為に立ち上がる勇者にやられるのもお約束だな」
俺のセリフに驚くラグニ。
「ま、まざか、おばえも………!」
確かに元は同じ世界の人間なんだろうな。
だが、俺は一度死んだ事で、俺の中での命の重さは変わった。
強制的に考えさせられた。
仲間の命は元の世界以上に重く。
敵の命は気にも留めないほどに軽く。
「お前は俺の『敵』だ。俺の仲間を害する『悪』だ」
たとえ相手が同じ転生者だったとしても。
「それなら俺は遠慮や躊躇はしない」
俺は再度ラグニに向かって飛び出す。
奴に与えたのはたった一撃だが、その一撃は確実にラグニの致命傷になったはずだ。
この世界でのHPは、その持ち主の弱点に攻撃できれば、その弱点の弱さに準じたダメージを与える。
HPが残っているからって、首を切られた人間が生きていられるのはおかしいもんな。
だからこそ、精霊だったら知らないが、人間である以上頭は何よりも弱点だ。
「ま、まっでくr―――」
思いっきりジャンプして、空中で態勢を整えながらラグニに攻撃する。
飛び蹴りの構えで。
いわゆる、ラ〇ダーキックを意識して。
「食らえッ!」
一閃の光がラグニを貫いた。




