12.後輩、状況のすり合わせと精霊王登場
「な、何で姉御が二人いるっすか!?」
そろそろ人生二度目の死を迎えるのか、と本気で思い始めた俺の耳に叫び声が聞こえた。
そういえばもう一人飛び出してきてたな………。
リボルに締め上げられている首を、精一杯頑張って右に逸らして声の方向を見る。
「あ、姉御………?」
そこには、明るいブラウンの髪を後頭部の上辺りで纏めたフワフワのお団子と、耳から前に伸ばした髪が腰まで伸びているやたら長い触角ヘアーという二つの特徴を持った、元気っ娘っぽい美少女がいた。
その女の子は、この世界では逆にレアな黒色の瞳を収めた若干のツリ目をこちらに向け、恐る恐る俺とミナ姉の絡みを見ていた。
一つ言わせてくれ。
『異世界の精霊』というファンタジー全開の生き物のはずなのに、元の世界の女子高生にしか見えない。
もう制服着せたら、完璧地球でも馴染めるレベルの女子高生感が出ている。
『~っす』って口調からして、完全に部活の後輩というポジションが適役過ぎる。
体操服姿で是非とも『先輩ッ!』って呼んでほしい。
おっと思わず前世での願望が………。
「てめぇずいぶん余裕そうだなぁ………!」
意識を横に向ける俺に対して、ミナ姉の締め上げレベルが上がる。
違うんだよ………!
余裕無さ過ぎて、むしろ走馬灯で前世が見えてるんだよ………!
ミナ姉の腕を全力でタップする。
まじでギブッ!
「ふんっ」
「んばッ!?」
面白くなさそうな声を漏らしたミナ姉にぶん投げられて、俺は廊下に顔面ダイブした。
やっと、息ができるッ!
「ハァ、ハァ………。せっかくの再会なのに、ミナ姉がガチすぎる………」
「人の話の途中にくだらねー事考えるからだ、バカタレ」
「むしろ余裕が無くて、普通の事が考えられなかったんだよ………」
呼吸を整え、ようやく落ち着いてミナ姉と向き合う。
向こうも、すっきりしたのか落ち着いている。
「なんか予定と色々違ったが、何とか合流できたな」
「本当に予定と違い過ぎるんだよ、まったく」
「それでもまた会えたんだ、過程はどうでもいい」
「いいわけあるかよ………」
俺は本気でそう思うが、ミナ姉は呆れた様子を見せながらも笑う。
いつも通りの俺らだ。
「俺が死んだ時、躊躇い無く助けてくれてありがとう。おかげでまだ生きてられるよ」
「………………おうよ」
ようやく、あの時バタバタしてて言えなかった言葉を言えて、やっと色々心境的に落ち着いた。
ミナ姉は俺の顔をまったく見ないで、斜め下を見ながら返事をする。
ミナ姉はまっすぐに気持ちを伝えられる事に弱い。
そこが孤児院にいた頃と変わらなくて、凄く安心する自分がいた。
ぶっ飛ばされて気絶してたリボルを回収して、全員でミナ姉達がいた大部屋に集まる。
俺とリボルが暴れてしまったので、精霊王には潜入はバレてるだろうから隠れるのは無駄と判断した。
なので、いっその事ここで迎撃してやろう、という結論で落ち着いた。
で、精霊王が来るまでの間、MPの回復と互いの連携を取るために話し合いを始めた。
俺が【魔力探知】をこまめにバラまいてるので、精霊王が来たらすぐに迎撃態勢を取れるように各自準備はしてある。
そこでシーラに俺の自己紹介と、互いの今までの状況を伝え合う。
俺の話を聞いた後、ミナ姉からは「やっぱお前いろいろぶっ飛んでるわ………」と安定の呆れ顔をされ、シーラからは「なんだかわからないけど、レイ先輩はすごいんすねッ!」とキラキラした目で見られた。
初めから先輩呼びで呼ばれた俺は心の中で歓喜したのは秘密だ。
その後ミナ姉の話も聞く。
どうやら、ミナ姉は捕まった精霊を既に匿っていたらしい。
通りで捕まっていた女精霊が、ミナ姉とシーラしかいなかった訳だ。
ミナ姉は復活し直ぐに城に乗り込んだらしいが、精霊王と対峙し即座に俺じゃないと確信したらしい。
で、一度敗北している精霊王相手に一人で勝てる訳が無いと判断し、見た目が違う事を活かして時空精霊というのを隠してワザと捕まり、他の捕まってた女精霊を救助したとか。
でも、自分も別空間に隠れると、恐らくここに来るであろう俺と入れ違いになると判断した。
で、捕まってた精霊の中にいた『結界精霊』であるシーラだけ残し、扉に結界を張らせて粘っていたらしい。
「緊急時は逃げられるからって、ミナ姉はなかなか無茶をする………」
「だって体を渡したはずなのに、俺が時空精霊の力を使えたんだぞ?お前に何かあったと思うだろうが」
ミナ姉が言う事は俺も疑問だったのだ。
何故、ミナ姉と入れ替わったはずの俺がミナ姉の能力が使えないのか。
何故、俺はまだ精霊王になってないのにミナ姉は復活したのか。
何度考えてもわからない。
まるで俺が別の精霊として転生したかのようだ。
そうだったら辻褄が合うんだがな。
「とりあえず俺が時空精霊じゃない何かになってるのは確実だな」
「そうねッ!ミナがここにいて時空精霊の力を使っている時点でアンタは別の精霊よッ!」
「ケロケロ」
「だな」
「そうっすね」
総意だ。
「俺、何の精霊になっちまったんだろうな?」
「まぁそこは時間も無いし、後程調べるしかないだろうな」
私、気になりますッ!
「後、今の名前はラーナだったか?お前本当にココに残るのか?」
「はい、私も残るのです。それに例え私であっても、頭数は一人でも多い方がいいのではないですか?」
ミナ姉が、この場に残ると言い張るラーナに対して再度聞き直すも、ラーナは折れない。
ミナ姉は自衛すら出来ないラーナをを心配しているんだろうが、【二重奏】を覚えたラーナは5回までならスキルを使用出来るので、不意打ちを取る事も可能だ。
それに実は、【精霊憑依】中に使ったあのスキルをラーナはストックしているのだ。
ここに来る為に【精霊憑依】を使用した以上、緊急時にあのスキルを使う為にはラーナがいないと困るのだ。
だが、ラーナが戦えなかった事をよく知っているミナ姉は不安がったままだ。
そんなミナ姉を見て、あまりラーナの事を知らないシーラは疑問気だ。
「でも、ラーナ先輩は初代精霊王なんすよね?そんなに弱いんすか?」
「新入りのお前はよく知らないかもしれないが、コイツが弱いのは古参なら全精霊が知る事だ」
またもシーラを新入りというミナ姉。
シーラは全体的に見てもまだ若い精霊であり、何も出来ない状態で捕まっていた所で特級精霊の座が回ってきたらしい。
色んな意味での新入りだ。
ちなみにシーラをリボルが知っていた理由として、新しく特級精霊が入ると同じ特級精霊にはスキルガイダンスが入るらしい。
特級が今日だけで4人空いたが、スキルガイダンスが入ってないのでまだ決まってないと思われる。
こればかりは、再度男側に特級が出ない事を祈るばかりである。
「それと、ラーナとリボルは既にレイの眷属なんだってな?」
ギロッ!っとすごい眼光でミナ姉がこっちを睨む。
「ケロロン!」
「そうよッ!」
俺が睨まれてる事も気にせずに元気に返事をする二人。
「な、何でそんなに怒ってるんだよ………?」
「別になんでもねぇよ。………チッ、出遅れた」
ミナ姉、全部聞こえてます。
どうやらミナ姉は、俺と再会したら俺の眷属になるという約束を守ろうとしてるのだろう。嬉しい話だ。
「何なら、今なるか?戦闘に便利な能力が付くかもしれないしな」
【血の眷属】の能力は説明済みだ。
「確かにそれがいいな。俺はいいぜ」
「じ、自分もレイ先輩の眷属になりたいっす!」
ミナ姉が同意を示すとシーラもなりたいと言い出した。
「初対面の俺の眷属になってもいいのか?」
なんかこの質問、ラーナやリボルにもしたなぁ。
俺中身男って説明したはずなんだけどなぁ………?
精霊娘、即断すぐる………。
「全然構わないっす!むしろ、リボル先輩や姉御を眷属にするような先輩に自分もついていきたいっす!」
あぁ、純粋な後輩オーラが眩しい………!
俺がシーラから溢れ出す後輩オーラに慄いてると、スキルガイダンスが聞こえた。
『ミナとシーラの眷属化が可能になりました』
同意認定されたようだ。
「オッケー、行けそうだ」
この事をミナ姉とシーラに伝える。
「確か、レイの血を取り込めばいいんだな?」
そう言って、ミナ姉はニヤリと笑う。
輝く白い歯が眩しい。
「そのネタはもういいから!」
天丼はいらんのですよ!
「ちぇ、まぁいいや。血ィくれ」
「自分も欲しいっす!」
美少女二人に血を要求される。
相変わらず、すごいシチュだ。
「りょーか―――ッ!?来たぞッ!」
また指を噛もうとした瞬間、【魔力探知】に強大な魔力の反応が発生する。
そして、その魔力の持ち主がこっちにものすごい速度で向かってくるのを感じた。
「はい!」
「了解したわッ!」
「まじかいな………」
「ッ!?」
各自それぞれ臨戦態勢を取る。
眷属化が間に合わなかったのは惜しいが、やるしかない。
反応は目の前の廊下を直進してこちらに突っ込んでくる。
そして―――
「来るぞッ!」
ドォォンッ!
目の前の扉を壊しながら、膨大な魔力の塊が部屋に突っ込んでくる。
破壊された扉が砕けて、砂煙が舞う。
やばい、正直冷汗が止まらない。
【魔力探知】で反応している魔力が、今まで遭遇した事も無いほど圧倒的だ。
シーラも、一度捕まった経験からか明らかに怯えた表情をしていた。
しかも、あのミナ姉やリボルでさえ緊張からか表情が強張っていた。
その表情だけで、前回どれだけ完膚なきまでにやられたのかが伝わる。
やばい、三人の顔見てたら俺も緊張してきた………。
俺までコンディションを下げそうになっていた時。
「主様」
静かに、ただ一言ラーナが呟く。
だがその一言で、俺は多少なりとも余裕を得る事が出来た。
そうだ、周りがどうこうじゃない。
俺が何処まで出来るかどうかだ。
ミナ姉達が返り討ちを受けた時との違いは、俺とラーナの有無くらいだ。
だから、俺がどうにかするしかねぇんだ。
この世界に来てからずっと鍛えてきたじゃねえか。
それは大切な人を守る為、俺がこの世界を生きていく為だったはずだ。
なら、今更グダグダ言うのは違う。
今俺に出来る事をやるしかないんだ。
何だ簡単な事じゃないか。
俺が頑張ればいいだけの話だったんだな。
俺が落ち着いたのとほぼ同タイミングで状況が動く。
「ふっふっふ………」
煙の中から男の笑い声がする。
「おやおやぁ?特級精霊様が3人もいるじゃぁないか」
その喋り方はやたらと癇に障るような、言うなれば相手をイラつかせる喋り方をしていた。
こいつが一言喋っただけで俺とはそりが合わないと確信した。
ガルザードの傲慢貴族と同じ雰囲気がガンガンするんだよ?
聞いたら分かる、うざい奴やん。
俺が心の中で暴言を吐きまくっているとも知らず、煙の中からの声は止まない。
「しかもそのうち二人は『最強』と名高い初代特級精霊のお二人じゃぁありませんか」
すると突然、煙が晴れる。
ラグニが魔力で吹き飛ばしたのだ。
恐らくハエを払う程度の気分で放ったであろうその魔力は、上級精霊が持つ【魔法耐性Lv.3】でも無ければダメージを負ってしまうほどの威力だった。
こいつ、何体の精霊を眷属にしてるんだよ………。
腐っても精霊王か。
晴れた煙の中から出てきたのは、ローブで体を隠している、血の様に真っ赤な髪の色をして真っ黒な肌をした180smほどの大男がいた。
こいつがラグニ………!
「俺にコテンパンにやられた癖に今更何をしに来たんでぇすかぁ?」
ラグニはその顔をニヤニヤと歪めながら、ミナ姉とリボルを挑発する。
その挑発に乗ったらカウンターが来るとわかりきっているので、二人は飛び出そうとする気持ちを耐えていた。
イライラが顔にめっちゃ出てる。
「それに、そこにおわすは初代精霊王様じゃないですかぁ」
すると標的が俺の横に立つラーナに変わる。
「戦えない精霊王様は自殺するしかなかったんですもんねぇ?それで、そんな格下になってまで生きてて、なぁにが楽しいんでぇすかぁ?」
ラグニは元々ニヤニヤしていた顔を、更にニヤニヤとさせながらラーナに向かって言う。
ぶっ殺したろうか貴様。
一瞬鎌首をもたげた衝動は、ラーナの声で止む。
「全然楽しいですよ?」
ラーナは、何が可笑しいの?と言わんばかりに首を傾げながらそう言う。
その様子は怒りに狂いそうだった俺とリボル、ミナ姉を落ち着けるだけでなく、怯えていたシーラの緊張を和らげていた。
一言呟くだけで味方の状況を和らげるのだ。
やっぱりラーナは戦いに向いてないのも分かったし、流石初代精霊王様だと関心もした。
だが、その様子が気に食わないのが現代の精霊王様だ。
「な、何を呑気に首など傾げてるンだよッ!」
一瞬で化けの皮が剥がれる。
「お前らは俺にビビってればそれでいいンだよッ!ここじゃぁ俺が王なんだよ!だから、俺が正義なンだよ!だから、逆らうお前らが悪だ!」
まるで子供の癇癪の様に怒るラグニ。
こいつ精神年齢低すぎじゃないか?
煽り耐性の無いガキじゃねぇか。
こんなのに力持たせるのは、一番ダメだろ。
「だから殺す!まずはそこの女から殺す!」
ラグニは癇癪を起こし、ラーナを指さしてそう宣言する。
ハイ、有罪。
「泣き叫んで許しを請わせ―――ワァッ!?」
「【縮地】」
まだ何か言おうとするラグニの前に飛び込む。
突然視界に飛び込む俺にビビるラグニ。
「挨拶代わりだ。くらいなッ!」
右手を後ろに引く。
「【噴火】ッ!」
開幕一発だ!
俺の守備範囲に手を出す宣言をしたんだ。
覚悟しやがれッ!




