4.戦闘、岩石精霊とゴーレムと二重
声が聞こえた前の方を向くと、5mくらい先に一人の男がいた。
褐色の肌をして、がっしりとした体格の男だった。
人型。
つまり、上級精霊だ。
その目は、しっかりと俺を見ていた。
「久しぶりの女だなぁ。最近全く見なくなってイライラしてんだよぉ」
そう言って、ニヤニヤ笑いながら俺を見てくる。
………あいつの目、ヤバい。マジでキモイ。
俺の体を舐めるようにガン見しながら、視線が上下する。
胸や尻を通るたびにニヤニヤが増し、どんな想像をしているのか丸わかりな表情をしながら、俺に向かって話しかけてくる。
「おっ!?肩に乗ってるそいつも女かぁ。いいねぇ」
はぁ!?
カエルのラーナですら、今のこいつにとっては欲望の範疇なのか………。
「おい、ちょっとこっちに来いよぉ。俺が楽しい事してヤるぜェ?」
褐色の男はそう言って、自分の欲望を全く隠そうともせずに俺達を手招きする。
本当にこいつ上級クラスの精霊か?
「は?マジ無理。キモイ。絶対嫌。気持ち悪すぎて吐けるレベル」
おっと、思わず思った事が口からするりと抜け出てしまったぁ(棒)
いやこいつマジで無理。
前世で夕莉が『欲望まみれの男の目線は、本気で気持ち悪い』って言ってたが、確かにこれは嫌悪感しか感じない。
これほどの目線はそうそう無いだろうが、女になるとこんな気持ち悪い目線で見られるのか。
人間界に戻ったら、女性陣を労わってあげよう。
これが毎日とか、絶対辛い。
俺が全力で拒絶の意思を見せると、男はすぐにイラついた顔をする。
「はぁ?お前、少し顔が良いからってチョーシ乗ってんの?俺が手を出さないとでも思ってんのか?」
そう言いながら、俺の方にゆっくりと近づいてくる。
「そんな奴は一度痛い目にあわして、屈服させてやるのがいいんだよ………なっ!」
そして、数歩進んだ辺りで右手を大きく振りかぶる。
明らかにその拳が俺に届く距離ではない。
でも、俺は油断してはいなかった。
奴の拳に対して、【魔力探知】が大きく反応していた。
男が拳を振り下ろしたその瞬間、拳から男の顔と同じくらいの岩が飛んできた。
「【岩弾】ォ!」
【岩弾】は、それなりの速度でこっちに飛んできた。
当たれば少なくはないダメージを与えてくるであろう一発。
腐っても上級精霊の一発だ。
まぁ、当たればの話だがな。
拳銃の形にした右手を即座に構え、左手を添える。
「【魔力弾】!」
白い魔力が指先に集まり、発射される。
【魔力弾】は、【岩弾】よりも圧倒的に速い速度で飛んでいく。
俺が【魔力弾】を作った際に求めていたものは二つ。
何よりも『早く』、そして、どれよりも『速く』。
どの魔法よりも、『早く』撃てるように。
どの魔法よりも、『速く』飛ぶように。
シンプルを極めるのが、何よりも強かったりする。
この二点を意識して練習し続けたんだ。
【魔力弾】の練度は、相当の物だと自負している。
そんな【魔力弾】の尖らせた先端が【岩弾】に触れると、岩を粉砕しながら進み、【岩弾】を貫く。
男の右腕ごと。
「何ッ!?ギャアァッ!!」
腕を貫く痛みに苦痛の声を上げる男。
「初めて遭遇した上級精霊だから警戒してたんだが、なんだこの程度か」
思いっきり挑発してしまったが、本心だ。
それにこいつ、ラーナに手を出そうとしたんだ。
俺も少しイラついている。
「なんだと!?たかが、一発防いだ程度でぇ!」
いや、その一発でお前は大ダメージを受けてんだろ。
「がぁぁッ!」
男が叫び声を上げると、男の周辺に拳大の石が浮かび始める。
数えきれないほどの石が浮かんだ。
「てめぇがどんな精霊かは知らねぇが、チョーシこいてんじゃねぇぞ!」
男は完全に切れていた。
「【石弾】ォ!【石弾】ォ!」
男は両手を前に突き出し、浮かばせた石をどんどん飛ばしてくる。
だが、数が来ようが俺の敵ではない。
右手だけでなく、左手も拳銃の形を取り、構える。
勢いで、またスキルを作ろうと思う。
右手と同じ事をイメージするだけなので、比較的簡単だ。
だが名前を付けないと、スキルはしっかりと発動しない。
そうだな………。
「【二重詠唱】」
俺が思いついたスキル名を唱えると、両手の指先に魔力が籠る。
どうやら新スキルは成功したようだ。
さて、左だけでの練習はした事があるが、同時は初だ。
行けるかな?
「【連撃】」
ついでに、魔法を連射させるスキルも作った。
やはり、成功した。
精霊は『魔法を司る存在』と言うが、まさにその通りだと思った。
順調すぎるくらいに新しい魔法スキルが作れる。
指先に勝手に魔力が集まるので、後は撃つだけだ。
飛んでくる石は、さっきの岩よりも小さいため、スピードはかなり速い。
だが、俺には見えている。
石に標準を合わせ、すぐに【魔力弾】を撃つ。
そして、その後を確認しないまま次の石へ標準を向ける。
外す気は全くしなかった。
今の俺にはその場から動かなくても、全て対処ができるレベルだ。
右、左、右………と交互に【魔力弾】を撃ち、石を打ち落としていく。
そして1分立たずに、全ての石を落とす事が出来た。
「で、この程度か?」
「て、てめぇぇ!!」
男を挑発すると、男は睨みつけながら吠える。
こいつは精霊だから死んでも蘇るんだろ?
階級は下がるんだろうが、俺にとっては全く問題では無いな。
右手の指先に普段よりも魔力を込める。
「食らいな。【魔力弾】」
その弾丸は、いつもより大きく、いつもより鋭かった。
「ッガァ!?」
そしてその【魔力弾】は勢いそのままに、男の胸を貫く。
自分でも驚くほど、俺はこいつに対して冷徹になっていた。
正直、敵にしっかりと非情になれる事は大切だと思っている。
明確に俺の敵となった人物を放置すると、周りが被害を受ける。
だからこそ、確実な敵は倒しておくべきだ。
一度死んで、反省した事だ。
こいつは完全に敵だ。
だから、倒す。
既にこれは決定事項だ
さて、さも余裕そうに考え事をしているが、さっきの攻撃は正直普通に危なかった。
左のエイムがあまりにも悪過ぎた。
【魔力弾】の貫通力が強くなかったら、壊しきれなかっただろう。
だが、もう大丈夫だ。
胸元に重めの一撃が入った。
確実に致命傷を与えたはずだ。
だが、奴は腐っても上級精霊だった。
「ガァァァァァァッ!」
男は胸元を押さえて呻いていたが、唐突に叫び声を上げる。
すると、男の体がボコボコと膨れだす。
「キザマァ、ダケワァ!」
言葉も片言になり、どんどん人の姿をやめていく。
「ユルザナイッ!」
大きさは3mほどになり、体はまるで岩のように、というより岩そのものだ。
手、腕、二の腕、肩、といった体を構成するパーツが、それぞれ岩になっていた。
そして体の表面の至る所に、光る文字が浮かんでいる。
初めて生で見たが、これは俺でもわかる。
『ゴーレム』だ。
意志を持たぬ人形。
命を持たぬ化物。
生命を持たぬ不死者。
様々な言われようをするゴーレム。
鈍重であり、巨大で無意志。
だがそれ自身が最大の武器。
その攻撃は重く、当たれば大ダメージは必須。
巨大な体は硬く、並大抵の攻撃じゃ沈まない。
意志を持たぬ代わりに、死すらも恐れない。
そんなゴーレムに目の前の男はなった。
薄々感じてはいたが、あの男は『岩石精霊』といった存在なんだろう。
その最終形態で自分自身が岩になってしまったが。
ただ、先ほど与えた致命傷はどうやら無駄になってしまったようだった。
「グラァ!」
ゴーレムが俺に突っ込んでくる。
って、見た目に比べて速くて、避けられないッ!?
「ゴォォ!」
ゴーレムは右腕を振りぬく。
体格差を生かした、上から叩きつけるようなパンチ。
避けられない。
「ッ!」
咄嗟に両腕を盾代わりに前に構え、その一撃が俺に直撃した。
「グッ!?」
衝撃を抑えられず、後ろに吹き飛ばされる。
「ゴゴゴゴッ!」
そんな俺を更に追撃しようと、追いかけてくるゴーレム。
チッ………。
「これ以上お前の好きにさせるかよォ!」
俺は飛ばされながらも、左手を右肘に置き、右腕を前に突き出し、両腕を覆わせていた魔力を右手に全て集中させる。
奴の攻撃自体は【魔力武装】を両腕に集中して発動する事で防いでいた。
だが、足には何もしていなかったので、踏ん張りがきかずに後ろに飛ばされたのだ。
だが、攻撃を放つ余裕はできた。
片腕でやるのは初めてだがやるしかない。
右腕一本で放つ。
「【噴火】ッ!」
反動で後ろに飛ぶ勢いが増したが、わかっている。
それよりも、ゴーレムの右半分を消し飛ばせた事の方が重要だ。
【噴火】の出力が明らかに化物だった。
恐らく、しっかりと魔力を一点に集中させて撃てたからだと思う。
更に、スキルに使用した魔力が【魔力武装】製の普通よりも強化された魔力だ。
その威力は、俺の予想を遥かに上回る出力だった。
俺は、勢いを保ったまま、そのまま地面に突っ込み転げまわる。
「いってぇ………」
【継続回復】を発動させながら立ち上がる。
実は服の中に逃げ込んでいたラーナを守る為に咄嗟にやったが、何とかうまくいったようだ。
流石のゴーレムも右半分を消し飛ばされたら―――。
だが、ゴーレムは倒れない。
地面から土が巻き上がり、壊れた体の部分にくっつき、再生していた。
やはり、不死身か………。
だが、ゴーレムには明確な弱点があったはずだ。
『EMETH』の『E』を消し、『METH』にする。
これはゴーレムの弱点として有名だ。
だが、奴の体に浮かぶ文字は全身に及んでいて、見極めるには多すぎる。
あの中から『EMETH』の文字を探し、『E』を削るのは相当難易度が高い。
なら―――。
「………全て消し飛ばせば問題は無いか?」
それほどの火力が出せるかどうか。
今俺の覚えてる魔法で最大火力は【魔力武装】からの【噴火】だ。
だが、それでもまだ足りていない。
それをもっと威力を上げるには………。
あっ、あのスキルと組み合わせれば………?
「よしっ」
思いついた。
正直これ以外の手を思いつかない。
なら行くしかない。
思い立ったら吉日、決断即行動だ。
「ゴゴッ」
考え込み動かなくなった俺を隙だらけと見なしたのか、再度正面から突っ込んでくるゴーレム。
だが、流石に二度も同じ手は食わんだろう?
奴の突進を右に飛んで躱す。
ゴーレムは勢いを殺しきれず、膝から倒れる。
そして膝を立たせ、振り返ろうとする。
俺はそこに駆け込み、ゴーレムの膝の上に飛び乗る。
そして、ゴーレムの体の表面の凹凸をうまく使い、頭の上へ。
頭の上は平になってるので、立つ事が出来る。
「ゴッ!?」
ゴーレムは飛び乗った俺に驚き、俺を落とそうと手を伸ばす。
だがその前に終わらせる!
「【魔力武装】!」
体中から吹き出す金色の魔力を、両腕に集中して纏わせる。
一部に集中させるのなら、もう余裕で出来る。
そしてその魔力を、更に右腕に集中させる。
尚且つ―――
「【二重詠唱】!」
同量の魔力を左にも纏わせる。
これを同時に下に向かってッ!
「【二重噴火】ッ!」
ゴーレムの頭の上から、真下に向かって解き放つ。
金色の光がゴーレムを飲み込み、ゴーレムの体を勢いよく消し飛ばしていく。
だが、後もう少しで消し飛ばせるという所まで来て立ち眩みがする。
「魔力がッ!?」
元々無駄遣いしていた所に、【魔力弾】の乱射、更に先ほどの【魔力武装】からの【噴火】で大分MPを消費をしていた。
その上で、【二重噴火】は俺の予想よりも多くの魔力を消費している。
このままではゴーレムを削りきる前に、俺の魔力が尽きてしまう!
俺が焦ったその瞬間。
『【二重噴火】!』
俺の声が響く。
これは、ラーナの【再生】か!
すると、消えかかっていた【二重噴火】の威力が戻る。
まるで、もう一回スキルを使った様に。
そして、再度威力の戻った【二重噴火】にゴーレムは耐えられずに。
跡形もなく消え去った。




