2.カエル、第一精霊と初眷属
【血の眷属】
つまり、互いの了承があれば、俺の血を与える事で従者に出来、従者に力を与える事が出来るスキル。
らしいが、なんでこのスキルを覚えたんだ?
俺はこんなスキルを覚える様な行動は取っていないはずなんだけど。
本当に謎だぁ………。
まぁいいか。
強いスキルがあるに越したことはない。
ただ今の所、このスキルを使う相手がシロくらいしかいないのが残念。
もう一つの謎スキル【魔力武装】の方も見てみる。
【魔力武装】:魔力を纏う事が出来る。
こんだけ!?
ま、まぁ、試してみよう。
「【魔力武装】!」
すると、金色の魔力が体を覆う。
まるで爆発するようなオーラを纏っているかのような姿になる。
こ、これはまさか………!
「スーパーサ〇ヤ人か!!」
男の夢と浪漫のあの状態に俺はなっている!
これはテンションが跳ね上がる!
今の姿が女である事がどれほど惜しい事か!
しかし、すぐに昔なじみの感覚が俺を襲う。
「え、待って、意識が……ぁ…」
こ、この症状は、MP切れ!?
レイヤード は めのまえ が まっくら に なった !
意識を取り戻す。
うぅ………、あのスキルMP消費が激しすぎるだろ………。
ただ、あの状態になっている間は、かなりのポテンシャルになっているはずだ。
これも要練習である。
と、実はまだ意識が戻ってから目を開けていない。
意識を失う直前に、後ろに倒れた事まではうっすらと覚えている。
つまり上を向いて倒れている。
今、上を向いている俺の顔に、何かが乗っているのだ。
乗っている感覚で何となく生き物だと察する。
つまり初精霊なのだ。緊張する。
な、なんだろう、こいつ………。
ほんのりと暖かくて、ぷよぷよと柔らかくて、顔全体を覆うサイズのであり………。
「ケロっ」
ケロっと鳴く………っておいぃ!?
「精霊界最初の生物がカエルかよぉ!?」
「ケロォ!?」
叫びながら跳ね起きた俺の顔にいたカエルは、それに驚いたようでこっちも飛び上がる。
立ち上がった俺は、カエル精霊を見てみる。
三つの指先は丸い球の様になっており、そのボディは丸みを帯びていて、爬虫類特有の目をしていた。
まごう事なきカエルである。
ただ、かなりデフォルメされており、ぬいぐるみとして出せば人気が出そうなレベルで、カエル特有のヌラヌラ感は無い。どちらかと言うと、つるつるである。
めっちゃ可愛い。
カエルは俺をじぃっと見ている。
俺も見つめ返してみる。
ジー
ジー
ジー
「ケ、ケロォ………(照)」
頬を染め、目を逸らすカエル。カエルが照れた!
「よしよし」
「ケロォ………!」
頭を撫でてやると、嬉しそうに目を瞑るカエル。ペットにしたい。
「おっと………」
カエル精霊が可愛かったので、思わずそれなりの時間戯れてしまった。
空を見ると、そろそろ夕方になりそうだった。
そろそろ今日の野宿先を決める必要がある。
再度しゃがんで、カエル精霊との目線を近づける。
「俺行かないといけないところがあるんだわ」
「ケロ」
「だから、俺は行くよ」
返事をするカエルの頭を撫でる。
そして立ち上がり、カエルに背を向けようとすると―――
「ケロッ!」
肩にカエルが飛び乗ってきた。
「おっ!?、っと、なんだ付いてきたいのか?」
「ケロ!」
俺の質問に頷くカエル。
本当に可愛いなぁ。
「よし。俺もボッチは嫌だったんだ。行くか!」
「ケロケロ!」
一人は寂しいもんな!
カエル精霊が仲間になった!
夜。
星空が綺麗である。
今俺は、森の中で一回り大きかった木の上に登り、俺が座っても折れなさそうな太い枝の上に座っている。
先ほど気づいたが、この体は寝る必要も無く、お腹が空く事も無いようだ。
一日中歩いたのに、眠気も空腹も来ないのだ。
これは助かった。
食べる物なんか無かったし、何も知らない土地で眠るのは危険だと思っていたからだ。
それでも今休んでいるのは、失ったMPの回復が遅かったので、何かあった時の為に休憩を行っている。
だが、ただ待っているのも暇なので、声のボリュームを落としてカエル精霊と喋っていた。
このカエル、喋りかけるとちゃんとリアクションを返してくれるので、話すのに問題は無かった。
話してて知ったのだが、このカエルは下級精霊らしい。
それで最近生まれ変わったばっかりで、まだ自分の身が守れないようだ。
そこで、俺に助けてほしくて付いて来たらしい。
「俺がお前を騙して襲うような奴だったらどうするんだよ………」
「ケロ?」
そんな事は微塵も考えていなかったらしい。
天然の気があるカエルだった。
「それよりも、お前に名前はあるよな?」
「ケロロン」
頷く。
「うーん、でも流石に分からんしなぁ。なら、俺があだ名みたいなものをつけてもいいか?流石に呼び名が無いのは不便だ」
「ケロッ!」
嬉しそうに鳴く。
「うーん………。ラーナなんてどうだ?」
最初英語のフロッグを思いついて、可愛くアレンジしようとしたら『フロン』しか思いつかなくて、これでは、フランと被ってしまうと思ったのだ。
もう元の世界にも連れて帰る気満々である。
もう一個知っていた外国語で、イタリア語でカエルを意味する言葉だがどうだろう。
「ケロロ!」
大喜びである。
「よしっ。改めてこれからよろしくな、ラーナ!」
「ケロっ!」
ラーナの手のひらと、指を合わせる。
ビリッ!
「うぉ!?」
「ケロッ!?」
その瞬間、電流が流れるような痛みを感じた。
どうやらラーナにも来たようで、悶絶している。
「な、なんだ!?」
驚きの声を上げる俺の頭に、声が響いた。
『ラーナの眷属化が可能になりました』
えっ?
け、眷属化が可能………?
【血の眷属】の事だよな?
確か眷属化には、同意が必要なはずだ。
って事は、ラーナからの同意があるってことなのか?
「ラ、ラーナ?」
「ケロ?」
何?と言わんばかりに首を傾げるラーナ。
ラーナに態度に先ほどとの変化は無い。
つまり、俺のスキルを知ってて、それに同意しているわけではない?
だが、スキルガイダンスは、『可能』と言っている。
『スキルガイダンス』とは、この世界で知られている現象の一つだ。
スキル関係で変化が起こったり、同意や許可が必要なスキルを使う場合などに聞こえてくる声の事だ。
この現象が起きる主なスキルは、【契約】が代表的だ。
契約の際に、『契約内容設定』や『契約内容確認』、『違反発生時』などに起こる現象だ。
この声は、神の代理ともされており、この現象が言った言葉に間違いは『絶対に無い』。
つまり、スキルガイダンスで伝えられた以上、ラーナの同意があるって事になる。
「なぁ、ラーナ。【血の眷属】って言う、スキルは知っているか?」
「ケロケロ?」
案の定、首を傾げるラーナ。
やっぱり知らないらしい。
ちょっとスキルを試してみたいので、ラーナに【血の眷属】について説明する。
「というスキルらしいんだが、どうだ?」
「ケロッ!」
右手を上げて同意を示すラーナ。
「オッケー。………………痛ッ。よし、俺の指を舐めたら眷属になるぞ」
自分の指先を噛んで血を出す。
ちょっと強く噛み過ぎたが、どうせ【軽回復】程度で回復できる傷なので気にしない。
「レロンッ!」
「うおっ」
ものすごい勢いで舌が出てきて、俺の指に絡みつく。
すると、ラーナは光り始めた。
だがそれでも舐めるのをやめない。
光が増していく。
そろそろ眩しくてラーナが見えなくなった頃、ついに変化は訪れた。
この世界へ来たあの時のような、特大の光が俺の肩から起きる。
「ッ!?ラーナ!!」
この光は、正直トラウマだ。
夕莉を連れていかれたあの光だから。
だが、俺もまたあの光に包まれてしまう。
俺は真っ白な空間にいた。
体は動かないし、声も出せない。
でも前は見えている。
でも目線は変えられない。
俺は定点カメラになった様だった。
どこからか女の声が聞こえる。
「要望を」
どこか機械的で感情のない声だった。
聞いた事のない声だった。
「主様と共に、そして、主様の助けになる力を」
次に聞こえた声は、無音の空間に響き渡り耳に残る、鈴の音のような綺麗な声が聞こえた。
「受理。レイの助けになるスキルを授与」
「ありがとうございます」
「帰還します。最後に一言どうぞ」
目の前に、人が現れる。
元の世界ではありえない鮮やかな黄緑色の髪を、さっぱりとおかっぱにまとめた美少女だった。
その人物は、目の前で片膝を片膝をつき、頭を即座に下げる。
「私を保護していただき感謝しています」
そう言って顔を上げる。
一文字に整えられた前髪から藍色の目が見える。
そして、意志を詰め込んだ、強い眼差しで俺を見る。
「これからも主様のお傍に、主様の支えに」
そういい、もう一度頭を下げる。
姿が掻き消える。
もしかして、さっきのは―――。
意識が飛ぶ。
「ハッ!?」
周りを見渡す。
夜の森。
木の上。
幹を背に枝の上に。
光に包まれる前の、状態のままだった。
アブねぇ、太い枝の上でよかった。
慌てて落ちる所だった。
「そういえばラーナは!」
慌てて肩を見る。
幸せそうな顔をして肩の上で寝ていた。
「ホッ………」
ひとまず安心だ。俺から奪われていなかった。
見た目はカエルのまんまだ。
だが、あの空間にいた美少女はこいつのはずなんだ。
眷属化の恩恵であるスキルをもらっていたはずだしな。
「てか、たった一日であの忠誠度の高さはなぜなんだろうな………」
そんなに、こいつに対して好感度を上げるようなことをしたか?
肩のカエルを掴み、前で抱える。
ひっくり返しても、でろーんと力の抜けたまま寝ている。
お腹をぷにぷにしてみる。
やわらかい。
すると、急に意識を取り戻し………
「ケ、ケロロ!?ケロケロォ!」
どうやら、ひっくり返っていたもんだから驚き、俺がそうしているのに気が付き、降ろせと言っているようだ。
「ほい」
伸ばしていた膝の上にのせる。
「ケロォ………」
脱力するラーナ。
「安心しな。俺の癒しなんだ。お前は置いていかねぇよ」
そういって頭を撫でてやる。
「ケロケロッ!」
そうするとすぐにこっちを向き、飛びついてくる。
俺は夜が明けるまで、お腹にくっついたラーナを撫でていた。
朝!
「よしっ」
朝露が滴る森。
木漏れ日が乱反射して綺麗だ。
朝になった事を実感した俺は、枝から飛び降りる。
「さて、俺は精霊王の下に行かないといけない」
「ケ、ケロォ!?」
ラーナは、俺が精霊王の所に行くと聞いて驚く。
「お前確か女だったよな?」
「ケロン!」
胸を張り、丸い手で叩くラーナ。
やっぱ、あの美少女はラーナか………。
「なら、お前はいつか精霊王に襲われちまうだろ?その前に倒してしまいたいんだよ」
「ケロォ………!」
目をキラキラさせるラーナ。
気のせいか、頬が赤くなっている気が。
「それに、俺個人にも精霊王になりたい理由があるんだ」
そう言ってラーナの目を見る。
「そんな俺に付いて来てくれるか?」
「ケロォンッ!」
ラーナはここ一番の大きい声で返事をした。
「さて、行先は決まった。それがどこかわかるか?」
「ケロロ………」
上を見上げるラーナ。
太陽の位置を見ているようだ。
「ケロ!」
俺から見て、右側を指す。
「………まじか」
こいつは昨夜、最近生まれたばかりといった。
それなのに、精霊王がいる場所を知っている。
つまり、精霊王について知っているという事だ。
そしてそれは、一度死んでいる事を意味する。
「ケロ?」
突然黙った俺を不思議そうに見るラーナ。
「………いや、何でもない。行くか」
「ケロ!」
ならば、次は俺が守る。
ラーナは俺の眷属となったのだ。
俺が守ると決めたのだ。
次の転生なんか絶対させねぇ。