1.転生、精霊王と血の眷属
今日から新章精霊王編となります。
「…………い」
何か声が聞こえる。
「おーい、そろそろ起きろ?」
この声はミナ姉………?
俺は確か―――
「ミナ姉、なんで急にキスを!?」
意識を失う前の記憶を思い出し、思わず跳ね起きる。
「うぉい、そこかよ!?」
声が聞こえた方を向くと、顔を赤くして照れているであろうミナ姉がいた。
「いや、これはかなり大事な事だ。俺のファーストキスだったんだよ!」
前世も含めて本当に初めてだったんだよ!
まさかこの年で、年上から奪われるとは………!
「男のファーストとか知るかよぉ!?俺だって初めてだったわ!」
「え、そうなの?」
「あ………」
ひとりでに自爆したミナ姉の顔が、爆発しそうなくらいに赤くなっていく。
「そ、そこはいいんだよ!それよりもだ!」
あ、どうしようも無くなって、話をそらした。
「時間が惜しい。早急に伝えるぞ」
真剣な顔をするミナ姉。
まだ顔は赤いが、気にしない方がいいだろう。
「お前は死んだ。それはわかってるな?」
「あぁ」
そうだ、俺はあの時に死んだはずだ。
その事は自分が一番理解出来ている。
「そのはずなんだが、俺はどうなった?それに、ここはどこだ?」
俺は今、一面真っ黒な空間にミナ姉と二人でいる。
「あぁ、これは精霊界と現実の境目だな」
「精霊界ぃ?」
「そうだ」
腕を組み、頷くミナ姉。
………寄せても上がるものが無いな。
「何でそんなところに俺とミナ姉が?」
「なぜって、俺が『時空精霊』で、俺の代わりにお前がこれから『時空精霊』となって精霊界に行くからだよ」
「はぁ………?」
何を言っているのか、さっぱりわからない。
ミナ姉が時空精霊?
俺が代わりに精霊界?
「いや、俺死んだはずだろ?それで、俺はおしまいじゃないのか?」
「あぁ、だからお前は『輪廻の輪』に入り、次の生まれ変わりを待つ予定だった」
何でも、この世界では死んだら『輪廻の輪』という概念に入って、次の人生を待つらしい。
ただ、転生には相当の時間がかかり、また、勿論前世の記憶は無く、全く前世と関係無い者に転生するらしい。
まぁ、そこは当然だろう。
「でも、それじゃ、お前が居なくなってフランが悲しむだろ?だから、俺の力でお前と俺の行き先を交換した。でも、精霊界には精霊しか行けないからな。俺の核とお前の魂を入れ替えて、魂の器を変えてお前を時空精霊にした」
ザックリ言うと、自身を精霊界へ帰還状態にしてから俺の魂と接触し、時空精霊の力の一つ『空間転移』で俺の魂と、ミナ姉自身を入れ替えたらしい。
「はぁ!?じゃあ、ミナ姉が『輪廻の輪』に行く事になるじゃねぇか!?何でそう簡単に俺の代わりになろうとするんだよ!?」
ミナ姉の命をもらって生き返っても、正直俺は辛いだけだ!
「あー、そこは大丈夫だ。俺達精霊は死んでも同じ精霊として生き返るんだよ。ただ、精霊としての格が弱くなるから精霊としての階級が落ちるが、そこは俺はどうでもいい」
「そうなのか?それなら安し………いや、ダメだろ」
ミナ姉が自信満々にそう言うから、一瞬安心しかけたわ。
「ミナ姉の話だと、俺が時空精霊になるんだろ?でも、同じ精霊は存在しないって前に本で読んだ事があるぞ」
「なんだ、知ってたのか」
「じゃあ、時空精霊がいる内は、ミナ姉ずっと転生出来ないじゃん」
「そうだな」
「駄目じゃねぇか」
ミナ姉は、何とも無い風にそうあっけらかんと言い放つ。
結局俺が死ぬまでミナ姉復活しないじゃん。
「大丈夫。ちゃんと逃げ道はある」
「ほう」
「お前が『精霊王』になればいい」
「は?」
詳しく聞いた。
『精霊王』とは現世の『獣王』のように、一番強い精霊がなれるらしい。
なので、現在の精霊王を倒せば、次の精霊王になれるようだ。
その為、精霊王は常に他の精霊から狙われ続ける過酷な役職となる。
ただし、精霊王になれば一つの能力が使える様になる。
それは、精霊王は他の精霊の同意を得る事が出来れば、その精霊を眷属に出来る能力を得る事が出来る。
そして眷属を得た精霊王は、眷属化した精霊の能力を使う事が出来る様になるので、眷属が多いほど強くなれるらしい。
そしてここが大事なのが、精霊王になると『精霊』という括りから外れ、『精霊王』という固有種になるらしい。
なので、例えば俺が精霊王になれば、時空精霊がいなくなるのでミナ姉が再転生出来る様になるんだとか。
あと、俺にも精霊王になる理由があった。
なんでも、精霊界と外部を行き来出来るのは『特級精霊』と『精霊王』だけらしい。
だから現世に帰るには、そのどちらかになる必要があるとか。
「てかミナ姉、特級精霊なのかよ」
ミナ姉の話を聞いた後、俺は思わずそう零す。
そっちにびっくりした。かなりレアな存在でしょ。
「そうだな。現世には、今の精霊王が鬱陶しいから3年くらい前に逃げてきた」
「そんな理由で………」
「いや、アレは本当に駄目だ。アレが強くなかったら、下剋上してやろうかと何度思った事か」
精霊王の事を考えただけで、ミナ姉は相当嫌そうな顔をする。
一体何をしたらこんなに嫌われるんだろうか?
「アレは女精霊を見つけるたびに、精霊王の権力片手に眷属化を強要してくるんだよ。しかも強くて誰も抵抗出来ないから尚たちが悪い。まさに屑。控えめに言ってもゴミ」
ミナ姉の口から辛辣な言葉な言葉しか出てこない。余程溜まっているモノがありそうだ。
「え、そんな相手に対して、ミナ姉は大丈夫だったのか?」
「これでも時空精霊だぞ?奴が来れない空間に転移なんかお手の物だ。他の女精霊も全部俺が保護して、違う空間に避難させてる状態だ。精霊界以外なら奴は干渉できないしな」
「成程な。流石ミナ姉だな」
「急に褒めるなよ………」
俺の言葉に対し、ミナ姉は恥ずかしそうにそっぽを向く。
ミナ姉は褒められなれていないので、褒められるとすぐ照れる。
でも、直ぐに申し訳なさそうな顔に変わる。
「ただ、微精霊から進化して、下級になる精霊の性別はランダムで決められる。俺がいなくなった後に進化した奴を助けられてないから、それは心残りではある」
ミナ姉はそう言った後、俺に頭を下げる。
「頼む。精霊界に行ったら、そいつらも助けてやってほしい」
「了解した。どうせ精霊王を倒すんだ。その精霊達を仲間にして手を組むよ」
「あぁ、その精霊達は眷属になってくれると思うし、大切にしてやってくれ」
そして、チラッと目線だけ向けてくるミナ姉。
「も、勿論俺もお前の眷属になってやる。………眷属化の儀式やっちゃったしな(ボソッ)」
「お、おう、ありがとう」
最後なんて言ってたか全然聞こえなかった。
「ご、ゴホン。それじゃあ頼んだぞ。お前は普通の精霊と違う経緯で精霊になる訳だから、普通の精霊じゃないはずだ。だから俺らと違って精霊王攻略の方法があるはずだ」
「オッケー。出来るだけ早く精霊王になって見せるから、少しだけ待っててくれ」
ミナ姉と手を握る。
「はやくしろよ?現世の時間も過ぎるんだからな」
「勿論だ」
俺がいない今、シロの立場は危うい。
相当急ぐ必要がある。
「それじゃ、頑張れよ」
ミナ姉が光りだし、やがて前が見えなくなる。
それじゃぁ、いっちょ精霊王になりますかぁ!!
穏やかに吹く風が体に当たる。
揺れる草木の音がする。
ま、まぶしい………。
目を開けてみる。
見渡す限り一面の草原に、俺はいた。
ここが精霊界………!
周りを見渡してみる。
一面草、草、草!
せ、精霊界感が、あんまり無いな………。
もっと、こう、何というか、光の玉の様な物がフヨフヨ飛び回って、神秘的な森をイメージしたんだが………。
元の世界であれば、ここまで広い草原は珍しいかもしれないが、ここは異世界。
草原なら、シロと出会ったバルラの森に行く道中で、飽きるほど見る事が出来る。
まぁ、いいか。
とりあえず、精霊界というからには様々な精霊が住んでいるんだろう。
太陽を見る限り、まだ上ったばかりという感じだ。
昼までには見つけて、精霊界を案内してもらうとしよう。
急いで、俺は精霊王とやらになる!
それじゃあ、第一精霊を探しに出発!
と、元気な頃もありました。
歩き続けてそろそろ、四時間。
草原は抜けて、森には入った。
だが………。
精霊どころか、生き物一匹いません………。
お日様は、精霊界でも凄く元気なようだ。
木漏れ日が的確に俺を狙う。
普通に疲れた………。
そんな感じでグダグダ歩いていると、
水の流れる音が聞こえてきた。
ちょうどいいな、流石に喉が渇いた………。
飲めるかはわからんが、川水くらいだったら平気で飲めるはずだ。
精霊界の川とか、絶対綺麗(確定)。
音の聞こえた方に進むと、一部の地面が少し凹んでおり、そこに奥から水が流れ込んで小さな池になっていた。
おぉぉ………!
風に揺れる水面に太陽の光が乱反射して、凄く眩しいな!
駆け降りてみる。
近くで見ると、恐ろしい透明度だ。
底までくっきり見える。
これはダイレクトで飲むしかないな!
池の淵に寄り、水を飲もうと顔を水面に近づける。
すると水面に、青色の大きい目をしっかりと開いた、透き通るような透明感のある白い肌をして、男にしては長い髪をサラサラと風に靡かせて、水面を見つめる美少女の顔をした―――
「ファッ!?」
女性の甲高い声が響く。
待て、誰だ貴様!?
今水面を覗いているのは俺のはずだ。つまりこの顔は俺なのだ。
だが、のぞき込んでいるのはかなりの美少女だ。
「んっ………?」
それに、俺の声もおかしい気がする。
なんか男にしてはやたら透き通る声に………。
「あーあー、あぁ!?」
自分の声を確かめる様に、喉を触りながら声を出す水面の女。
そして驚いたような顔をしている。
これは、駄目だ。
「女になってるぅ!?」
おk、落ち着いた。
あれから少しの間、自分の頬をつまんでみたり(痛い)、自分の頬をビンタしてみたり(痛い!)、近くの木に頭突きをかましてみたり(すごく痛い!)してみた。
全く夢ではなかった。
………全体的に顔が痛い。
そして冷静になって気づいたが、俺は確かミナ姉と魂が入れ替わっている状態だった。
つまり、この美少女ボディはミナ姉という事になる。
嘘だろぉ!?
あの男まさりで女性らしさが殆ど無くて、絶壁でまさに『兄貴』なミナ姉が、こんなおしとやか系美少女だと!?
これには俺もビビった。
だって普通にCクラスの胸もあるし。
そりゃ、胸が無いって言ったら怒るわ………。
それよりも、明らかに自分の体に変化がある。
ステータスにも影響が出ているはずだ。
「ステータスオープン!」
☆★☆★☆ステータス☆★☆★☆
名前:レイ
Lv:69
種族:精霊
年齢:0
性別:女
職業:上級精霊
HP:85/107
MP:356/356
STR:C
VIT:D
INT:B
MID:D
DEX:C
AGI:D
LUK:S
《称号》
【女群集の呪】【真祖妖精族の友】【王の血統】【神狼の兄】【剣豪の弟子】【黄泉還】【母の愛】
《スキル》
・物理系
【剣術Lv.2】
・魔法系
【魔力弾】【浮遊剣】
・強化系
【魔力武装】
・耐性系
【魔法耐性Lv.3】
・生産系
【料理:Lv.1】
・回復系
【回復魔法:Lv.3】【継続回復】
・探知系
【魔力探知】【魔力操作】【魔力遮断】
・特殊系
【×念話】【血の眷属】
☆★☆★☆☆★☆★☆★☆★☆
LUK以外のステータスが全て一段階上がっている!?
HP三桁!?
MPもまた増えた!?
称号が原因だった。
【神狼の兄】
シロアの兄貴分。一緒に鍛錬すると、互いに早く強く成長する事が出来る。
【剣豪の弟子】
剣豪アルレイナの一番弟子。一緒に鍛錬すると【剣術】が上がりやすくなる。
【黄泉還】
一度死を経験した者。ステータスが一段階上がる。
【母の愛】
母親に最高級の愛情をもって育てられた子供。スキル取得率が上がる。一緒にいると母親のステータスが上昇する。
どうやら俺は、周りのおかげで強くなる事が出来ていたようだ。
そして、ステータスの急激な成長は【黄泉還】の影響だ。
またスキルも増えている。
【剣術Lv.2】は師匠と訓練を続けて覚えていたスキルだ。
死んだ時にしっかりと帯剣しておくべきだった。
【浮遊剣】は、前に見せたスキルなので省略。
【魔力武装】?俺が知らないスキルだ。後で試してみようと思う。
【魔法耐性Lv.3】は持ってなかったスキルだが、おそらく精霊になったので取得したと思っている。
【念話】には×が付いている。
恐らくだが、俺が上級精霊なので、世界を超える事が今の俺には出来ないからだと思う。
だが、何故特級精霊だったはずのミナ姉の体なのに、上級精霊になっているのかがわからない。
そして最後。
【血の眷属】
これがわからない。
称号と同じようにステータス板のスキル名をタッチし、音とともに文字が飛び出す。
それを見てみる。
【血の眷属】
・互いの同意の元、契約者の血を他人に与える事で眷属を作る事が出来る。契約者は眷属の居場所がわかり、スキルを確認する事が出来る。
眷属側には様々な恩恵が与えられる。与えられる恩恵は、契約者との絆が深くなるほど強いものとなる。
おぉい!?