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14.死亡、諦観と逆転の氷地獄

本日3本目です。

 次の日、兄様の死は発表された。



 死因は、街に降りていた際に狂人に殺されてしまった、と。


 その犯人は近くの孤児院の青年で、何者かによって化け物にされていた、と。


 その狂気から町を守る為に兄様が戦闘し、相打ちになった、と。


 その犯人を化け物に変えた男は、近くで隠れて見ており、【鑑定アナライズ】持ちの騎士に見つかって、捕らえられた、と。




 叫びたかった。



 普段、酷く嫌悪していたくせに、こういうときだけ、まるで王族が素晴らしいかのように語られるのが嫌だったから。




 でも、私はそれどころじゃなくなった。




「………え?」

「なんだ?もう一度言ってほしいのか、愚図が」


 朝唐突に表れた、兄様の一番上の兄が言った。


「貴様は元々うっとおしかったのだ。あの変人が獣人なんかを城に入れるから、城の品格が落ちていたんだよ。だから、あいつが死んだのは好都合だ。貴様の奴隷契約も解除されているだろう」

「………あぁ」


 忘れていた。兄様は、いつも私の事を守っていたのだ。


 私の生活を、ここで暮らす為の盾になってくれていたのだ。


「だから、貴様は奴隷商に売る。あいつがお前に熱を入れて育てたからな。買い手はすぐ付くだろう。まぁ、どういう未来に行くかは決まっているがな。あいつ以外の貴族がお前をまとも扱うはずがないしな」

「………あ、あ」

「なんだ、今更気づいたような顔をして。まぁいい、来い」


 首輪に、兄様が私を守る為に付けてくれた大切な物に、鎖をつけられる。


 無理やり引っ張られる。



 正直抵抗する気は起きなかった。



 兄様は死んでしまったのだ。


 母様はここにはいない。



 もう誰も私を守ってくれない。




 

 そのまま城の一階の部屋に連れていかれる。



 そこには、いやらしい顔をした肥えた男がいた。


「いや~王子様この度は私をご贔屓にしてくださり、ありがとうございます」

「いや、何。奴の残した負の遺産を片付けたいからな。お前ならすぐに片づけられるだろう?」

「えぇ。実はもうすでに候補に手を挙げる方が数名いるのですよ」

「ほぅ。物好きもいたもんだな」

「いえいえ、あの男が手塩にかけて育てたこの子は、見た目がかなりいいですからな。この奴隷を欲しがって直談判していた貴族もいたそうですよ」

「へぇ、そんな事があったのか」

「まぁあの男は、必ずと言っていいほど激高し、『誰が貴様などに可愛い妹をくれてやるか』と言って突っぱねていたそうですが」


 兄様………。

 私がいない所でもやっぱり守ってくれていた………。

 会いたいよ………。


「ふん、人の成りそこないなどを妹と呼ぶなど狂っているな」

「まぁ第二王妃様も娘と言って可愛がっていましたからな」

「あの女も変人だ。父上の寵愛を全て理由をつけて断り、挙句捨て子を拾って自分の子供として育てたのだからな」


 え?兄様は捨て子だったの………?


「まぁあの女も死んでしまったがな」



 え?



「………母様が死んだってどういう事ですか?」

「なんだ奴隷風情が。まぁもうすぐいなくなるのだ、土産に教えてやろう」


 そう罵りながら私に言う。



「あの女は、今レイスになっているのだ。城内で迷惑な事に」



 という事は、昨日聞いた魔物は母様だったの?





「なぜか知らんが自分の部屋の奥に隠し部屋を作っていたらしくてな」


「膨大な魔力が検知されたから、騎士共が見に行ったらな、レイヤードの死体に寄りかかりながら死んでいたんだと」


「それで騎士がレイヤードの死体を取ろうとした瞬間、起き上がってレイヤードに手を出した騎士を切り飛ばしたんだと」


「それで【鑑定(アナライズ)】の使える者を読んで見てもらったら、レイスになっていたんだと」


「騎士が言うには、生にしがみ付いた死者がなりやすいアンデットの一種らしいな」


「どんな執念を持っていたか知らんが、相当強い魔術師(マジシャン)だったからな。人の手には負えないレイスになってんだとよ、ほんと迷惑だ」


「まぁレイヤードの死体にさえ手を出さなければ動かないらしいから、放置する事になってるんだよ」


「レイヤードもゾンビになる可能性があるから、早く始末したいのに本当に迷惑だ」





「………あぁ、ああ………………」


 そんな、兄様も母様も死んでしまったの………?

 私を置いて行って………?


「貴様は死なせないからな?売るのだからな」


 王子が何か言っているがもう私には聞こえていなかった。


 もう私には絶望しか残っていなかった。


「まぁいい。さっさと契約更新をやってくれ」

「了解しました。ほら来い!」


 鎖を無理やり引っ張られる。


「………あぁ」


 もう逆らう気も起きない。


 生きている意味すらない。



 いっそのこと死なせてほしかった。



「【契約(アグリメント)】。内容は、目の前の奴隷の主人変更」


 奴隷商が何かを唱えて、私に手を伸ばす。


 奴隷商が私に触れる―――





 あぁ、兄様………。





 突然首輪が光り出し、奴隷商の手を弾く。



「なっ!?」


 そして、周りに声が響く。




『契約変更不可。この奴隷の主人は存命です』




 主人って兄様だよね?



 存命?



 つまり、兄様は生きてるって事………?




 呆然とした意識の中、奴隷契約の繋がりを意識してみる。


 

 

 ………あった。



 あった!!




 細い細い微かな物ではあったが、確かに兄様との繋がり(奴隷契約)は存在していた。



 兄様はまだ………!



「馬鹿な、あいつが生きているだと!?どういう事だ!騎士に確かめさせた時は確かに死んでいたはずだ!」

「わ、私にもよくわかりま……グゥッ!?」


 驚く王子を、なだめようとしていた奴隷商は急に呻く。



『契約違反発生。対象奴隷の契約に対する干渉を確認』



 また無機質な声が響く。


 この声は何なんだろう?

 私の奴隷契約の時には聞こえなかったはず。



『罰則を違反者に発動。違反者への【拘束バインド】の発動、及び、【魔力探知サーチ】への反応、及び、登録音声の再生、を行います』



 奴隷商を見ると、既に【拘束バインド】が発動し、魔力の鎖が手足や体をがんじがらめにしていた。



拘束バインド】:魔力で構築された鎖で、対象を拘束する。発動者のINTが高いほど拘束強度が上がる。



 確か母様が、奴隷契約の際に『巻物スクロール』を使用して登録していた。


 『巻物スクロール』は一度のみ、登録されている魔法を発動できるアイテムで、母様がダンジョンから持ってきた物の一つだったはず。



 つまり、相当の強度の鎖なはずだ。


 そして、ジジッッという音の後に登録された音声が聞こえる。

 私はこれを知らない。



『あー、聞こえてるな?』



 兄様の声がした。




『貴様は俺の大切な妹に手を出したな!シロに手を出した貴様は許さない!そこで首を洗って待っていやがれ!』




 兄様ぁ………!


 兄様は、やっぱり私を守ってくれていたんだ………!



「ど、どういうことだ!」


 拘束されている奴隷商を見て、慌てふためく王子。




………バゴォンッ!




 更に、城のどこかから爆発音と悲鳴が聞こえた。



 その音はどんどん近づいてくる。



 そして………




ドゴォンッ!!




 壁が突き破られ、何かが突っ込んできた。



 それは、氷の翼を持ち、黒ローブの下地の上から氷の鎧を纏っていた。

 

 そして、氷の剣を構えて私の前に立った。




 見間違える事は無い。



 いくら顔が青白かろうと、体が半透明であろうと、誰かは一目瞭然だった。



 思わず叫んでいた。





「母様ぁ!」





 涙が溢れる。


「ふふっ、遅れてごめんなさいね、シロちゃん」


 そう言って体は前を向いたまま、顔だけをこちらに向けて笑う母様。


 生気は全くと言っていいほど感じない。

 でも、私に向ける感情は凄く暖かった。


「さっき【魔力探知サーチ】に大きい反応が来て、それでやっと意識がはっきりしたのよ。それまでは完全に魔物になっていたわねぇ」


 つまり、さっきの罰則のお陰で母様の意識が戻ったという事らしい。


 兄様は何処までも………!


「兄様は!?」


 気になっていた。


 生きているはずなのだ。


「レイなら大丈夫よ。ただ、レイはここにはいないらしいの。だからシロちゃんもレイの所へ行きましょうか」

「行く!!」


 もう、涙は止まらない。


 死んだはずの兄様と母様がいるのだ。

 なら私は、兄様と母様がいる所に行きたい!


「分かったわ。その前に私の可愛い娘に手を出した悪い子達を怒りましょうか」


 そう言って母様は前を向く。


「さて、この子に手を出した覚悟はできているわね、アリオン?」


 アリオンとは、この第一王子の名前らしい。

 興味がなかったので、知らなかった。


「なぜ貴様は生きているのだ!?」


 母様を指さして叫ぶアリオン。


「いいえ、死んでいるわよ?確かに、私はレイスになっているもの」

「ならばなぜ意識があるのだ!?」

「私もわからないわ。でも、私は人を辞める覚悟でスキルを使ったもの。別に何も問題は無いわ」


 母様は平然とそう言ってのける。


「でも、これで私は拘束出来ないわねぇ。魔物を法律では抑えられないものね」


 そう言うと、母様の剣に魔力が集まるのがわかる。

 私でもわかるほどの、大きな魔力が剣に集まっていた。


「レイが死んだ事に、貴方達は何か関わっていそうなのよね。まぁ八つ当たりでもいいわぁ」



 室内なのに強風が吹き始める。凄く冷たい風だ。



「城の外に迷惑はかけないし、そこの奴隷商以外殺す気はないわ。でも、見せしめね」



 剣を挙げる。




「私はねぇ?今、すっっごく怒っているのよ?」




 笑いながら、剣を振り下ろして地面に突き刺す。



 刃の部分の氷が魔力となって散る。


 剣は杖で出来ていた。


「だって、私のレイとシロちゃんに手を出したんだもの当然よねぇ?」


 散った魔力が奴隷商に集まっていく。


「や、やめてくれ!助けてくれ!」


 叫ぶ奴隷商。【拘束バインド】で逃げられない。



「嫌よ?」



 ニコッと笑う母様。

 見た事無い、凄く怖い笑みだった。



 魔力が固まり始め、奴隷商の体が凍り始める。


「い、嫌だぁ!死にたくない!?」

「あなた非合法の奴隷商よね?私、大っ嫌いなのよ」


 母様が、再度杖を振り上げる。



「だから、氷の花を咲かせて死になさい?」



 振り下ろす。





「【氷地獄コキュートス】」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 その日、城下町にいた者達は城を見ていた。

 第三王子の死亡宣言を聞いていたから。


 だから、見逃さなかった。



 冷たい風が吹いた。



 人々がそう感じた一瞬で―――





 城が全て凍った。





 表面は氷に覆われ、所々から氷の棘が生えていた。



 外の木は全て凍り、周りを飛んでいた鳥達は全て落ちた。



 一目見て、生物が生きられないほど世界に変わった。





 その様はまるで、一種の地獄のようだった。

次回からは1日更新に戻ります。

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