13.絶望、衝撃の事態と諦めない母
この展開は自分も苦手なので、連続更新していきます。
本日2本目です。
偶然、私はその瞬間を見てしまった。
今日は母様のお手伝いをしていた。
そしてそれが早く終わったから、兄様の所に行こうと思って、母様に兄様の場所を聞いたの。
そしたら、母様も知らないらしい。
ちょくちょくお城から消えるんだって。
でも私なら大丈夫。
兄様との繋がりがある私には、兄様の居場所は探そうと思えば探せるの。
でも普段は兄様に使うのを止められているけどね。
「………ん、いた」
どうやらお城にいない様だ。
何でか、城下町の西区にいるみたい。
それで兄様の所へ行ったんだ。
西区に行くと、何か大騒ぎになっていた。
だが、兄様はその中心部にいたので、人混みを縫って兄様の下へ向かう。
そしたら見てしまった。
兄様が血を吐きながら倒れるのを。
地面に赤い血を広げながら動かない兄様を。
え?兄様?なんで?どういうこと?
突然の出来事に頭が全く回らない。
すると、近くにいた2人の女の人が駆け寄るのを見て、やっと体が動いた。
急いで兄様の所に駆け寄る。
「お兄ちゃん!」
「レイ!」
「兄様!」
この二人の事も気になるが、それよりも兄様は!?
「だめだ、傷が多い………!このままじゃ………!」
灰色の髪の女の人がそう言う。
嘘だ!兄様は私を守ってくれるって言ってた!私を置いていくわけがない!
「嘘…だよね………!?」
青髪さんは泣き出し始めた。
私も涙が出てきそうだ。
「人は一回しか生きられないんだから、こんな………!ったく、仕方ねぇな………」
灰色さんが何か言っているが、私はそれどころでは無かった。
すると灰色さんは動かない兄様に近寄って―――
え?何でキスを………?
その瞬間、灰色さんが淡く光りだす。
「うっし、どうにか間に合ったな」
そう言って立ち上がり、私の方を見る。
「お前はレイの関係者だな?連れていけ。諦めるなよ」
諦めるな?
だが、灰色さんはもうこっちを見ていなくて、青色さんを見ていた。
「フラン。お前も諦めるなよ。絶対いつか迎えに来るはずだ。わかったな?」
「お、お姉ちゃん………?」
青色さんは泣きながら灰色さんを見ていた。
灰色さんはどんどん透明になっていく。
「頼む。ちゃんと生きてくれよ。お姉ちゃんとの約束な?」
そう笑って灰色さんは、光が散るように消えていった。
「お、お姉ちゃん………!?嘘だよねぇ!?そんなぁ………、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、いなくなっちゃったぁ!!」
青色さんは、ついにうずくまって大泣きし始める。
だが、私に彼女を気遣う余裕など無い。ある訳が無い。
兄様が死んだ。
もう動いていない。
触った。もう冷たくなり始めていた。
青色さんは蹲ったまま動かない。
泣き止む気配も無い。
私は一体どうすればいいのだろうか………。
教えてよ、兄様………。
そんな私達を、周りの人達はただじっと見つめていた。
もう自分の感情が良く分からなくなってきた私は、既に近くに来てた警備隊の騎士さんに母様を呼んでもらった。
母様が来るまでの間、青色さんはずっと泣いていた。
私は只呆然としていた。
もう何をしていいのかわからなかった。
兄様をこのまま置いてはいけなかった。
でも、この青色さんをほっておけなかった。
この子は私と一緒なのだ。
兄様が死んで泣いているのだ。
家族が死んで泣いているのだ。
母様が飛んで来た。
文字通り飛んできた。
氷の羽を生やして、空から来た。
一部始終を見ていたらしい町の人が説明する。
母様はずっと険しい表情で聞いていた。
話を聞き終わった母様は、私の頭を撫でた。
「シロちゃん………。辛かったね、遅れてごめんなさいね………」
母様、私確かに辛いよ………?
でも、母様。
母様もすごい泣きそうだよ?
すごくすごく辛そうな顔をしているよ?
「シロちゃんはその子をお願いしていいかしら?母さんは急いでしないといけない事ができたの」
思いつめたような顔をしている母様。
「………ん、わかった」
「お願いね?」
いつもの余裕が無くなって、周りを放置していったまま、母様は兄様を抱えてお城に飛んで行った。
「………ねぇ」
「………うん」
青色さんと顔を合わせる。
ひどい顔だ。
私もなんだろうな。
「………送る」
「………うん」
二人で無言のまま孤児院まで向かった。
青色さんもとい、フランを送ってきた。
フランは、私と別れる間際こう言っていた。
『私は………。私は、ミナお姉ちゃんと約束したもん………。いつか迎えに来るって言ってたもん………。だから、だから私は諦めない。ミナお姉ちゃんやお兄ちゃんに会うまでは、絶対に諦めないよ!だから、シロちゃんも一緒に頑張ろうよ!?』
彼女は、フランは、強かった。
灰色さんの言葉を信じていた。
目に力が籠っていた。
だが、私はどうしても信じる事が出来なくなっていた。
だって、実感してしまったのだ。
兄様の身体から温度が抜けていくのを。
人の温度では無くなっていくのを。
どうしても、どうしても、その温度がまだ手に残っている気すらするほど、リアルだった。
城に戻ると辺りは騒然としていた。
何か騎士達が城の中を駆け回っていた。
「………どうしたの?」
近くにいたメイド仲間に聞いてみる。
「あ、シロアちゃん無事だったのね!」
「………ん。………で、この状況は?」
「それがね、お城の中に魔物が出たんだって。で、騎士団が討伐に行ったら返り討ちにあったとか何とか」
そう言って、少し怖がるメイド友。
「………それはまずくない?」
そんな強い魔物がお城にいるのは、かなり危ないんじゃないの?
「それがね、その魔物は目撃された部屋から出てこないんだって。それで、監視をつけて放置してるんだってさ。怖いよね」
「………変な魔物」
そんな魔物が、お城の内部で急に発見されたってのも変な話。
まさか、城下町にいた兄様を奪ったやつ関連?
そうだったらどうしようか。
アレは、人ではない存在になっていた。
腕とかも堅く硬質化していたし、尋常じゃない戦闘力持ちだったから、兄様が倒さなかったら町は大変なことになっていただろう。
少なくとも、兄様は町を、民を守ったのだ。
「それでね、その魔物はカミア様のお部屋の隣に出たって聞いたから、朝カミア様と一緒にいたシロアちゃんを心配してたの」
「………へぇ。………そういえば、かあ…カミア様は?」
「それが、お昼に急に飛び出していったっきり見つかってないんだって」
じゃあ母様は、兄様を連れてどこに行ったのだろう?
「それよりもシロアちゃん、どうしたの?すごい顔をしているよ?」
メイド友が不思議そうに聞いてくる。
兄様の死は、すぐに発表されるはず。
あんな人混みの中で殺されたのだ。
発表しない訳にはいかない。
「………兄様、レイヤード様が死んだ」
「えっ?」
「………カミア様を呼んだのは私。兄様をどうすればいいかわからなかった」
「えっ、え?ほ、本当に?」
私の言葉を聞いて、メイド友は本気で驚いた顔をする。
兄様は、私の事もあって周りの貴族達からは敬遠されてる。
でも、メイドや女騎士などからは嫌われてはいない。
常に、周りに丁寧に接していたから。
「………ん」
考えたら、また………。
「ご、ごめんねシロアちゃん!まさかそんなことになっているなんて思わなかったの!」
「………いい。それじゃお部屋に戻ってる」
「う、うん。じゃあね………」
気まずそうに手をするメイド友。
魔物を見ようと思って母さんの部屋に行ったけど、厳重な警備だったので見る事は出来なかった。
母様はその日帰ってこなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は、レイを抱えてお城へ飛び込んだ。
そして、そのままの勢いで私の部屋に入り、本棚に突っ込む。
大丈夫、あの本棚の奥に壁は無いわ。
本棚の裏には隠し部屋があって、このもしもの時のための用意をしていたのよ。
飛び込んだ部屋には床、壁、天井、部屋一面に魔法陣が書いてある。
全部、私が書いた。
魔力増幅効果のある魔法陣を、これでもかと言わんばかりに書き込んであるわ。
部屋の中心にレイを寝かせる。
「ごめんね、レイ。母さんのせいで、こんな目に」
私は小さい時から、一緒にいる人が、仲のいい人が、みんな死んでいった。
称号のせいよ。
私は常に一人でいろ、と言われているようだったわ。
私が、人との温もり、繋がりを求めてしまえば、求めた人皆が死んでいった。
私が呪われているとしか思えなかった。
そんな私に子供ができた。
依頼の途中で捨てられた赤ちゃんを見つけたのだけれど、まるで自分のようだ、と思ってしまって拾って帰った。
もちろん揉めたわ。
ただでさえ、私は一度も彼の寵愛を受ける事を断り続け、そんな状態で捨て子を拾ってきたのだもの。
でも手放す気はさらさらなかったわ。
初めて【鑑定】でレイを見た時、関係無い筈なのに【王の血統】の称号を持っているのはびっくりしたわね。
他も色々凄かったけどね。
初めの方は、いつ私の前からいなくなるかと不安だった。
でも元気に育ち、10年もすれば称号の事も忘れかかっていたわ。
でもやっぱり、神様はあの子を連れて行ってしまった。
「でも、大丈夫よ。母さんはちゃんとこの時の為の準備をしていたもの」
そう、ダンジョンで見つけていた。
私が着ている黒フードの前の持ち主には、体が無くなっていたから使えなかった。
でも、レイには体がちゃんと残っているわ。
「レイのためなら、私は倫理観なんて知らないし、人間だってやめるわ」
昔、教会で習った事がある。
『人の人生は一度きりだ。死者蘇生は、この世を定めた神への冒涜となる』
そんなもの、私は知らないわ。
私をこんな目に合わせる神なんか知った事じゃ無いの。
私は、もうレイの居ない生活は考えられないの。
レイのためなら、私は人だってやめられる。
「だからお願い………!帰ってきて………レイ!」
私はスキルを発動する。
スキルが発動するとともに、私のMPが凄まじい勢いで消えていく。
【隠蔽】で隠し、レイにも見せなかった二つのスキル。
【自己犠牲】と【輪廻転生】
【輪廻転生】は、対象の人物をもう一度生き返らせるスキル。
ただ、発動に膨大なMPを使用する。
私のMPでも全然足りない。
だから【自己犠牲】を使う。
自分のHP、生命力をMPに変えるスキル。
この用意したMPを、部屋の魔法陣を使って更に増やす。
このスキルを使う準備だけは、ずっとしていたのよ。
生命力は命の源。無くなったら死んでしまう。
このスキルを使ったら、私は死んでしまうかもしれない。
でも、死んでしまったら元も子もないのよ。
レイと二人で生きるの。
いや、シロちゃんと三人でまた生活するの。
「だから、私は死ねないわ!」
正直、もう意識が消えかかっている。
ステータス板で自分のHPを見ると、既に10を切っていた。
「まだよ!まだやれるのよ!」
ポーションでHPを回復しても、生命力は回復しないから意味が無い。
だから、この一発勝負。
HP残量、5
「お願い………!」
4
「生き返ってよ………!」
3
「また、母さんって言って、私に向かって笑ってよ………!」
2
「母さんはもう………!」
1
「あなたがいないのなら、生きている意味は無いのよ………」
レイの体が光りだす。
ようやく、ようやくスキルが発動したみたいだわ。
「レ……イ………」
意識が遠のく。
体が冷えていくのが分かる。
レイは、レイは成功したはずよ………。
だから………。
私は………。
「死ぬ訳には……いか………ない、の……………」
0