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12.年市、ワクワクとドキドキのひと時

少し短いです。

 誕生会が終わって一月も経たない頃。


 今日は騎士団の訓練も、貴族マナー講座も無い日。


 俺は今、ブライン西区で開かれている市に、ミナ姉とフランと三人で来ている。

 市があると聞いて行きたがったフランを、俺とミナ姉が連れてきた感じだ。



 今日は年に一度のイベント日なので、いつもよりも大規模に行われており、普通の屋台から茣蓙を引いただけの簡易店だったり、また売られている内容も、自作ポーションだったり武器や防具など様々なものが所狭しと売られている。

 元の世界のフリーマーケットの異世界版的な感じかな。



 至る所で見た事無い色々な物が売られているので、正直興味を引く物が多すぎてすぐ足が止まってしまう。



「お兄ちゃんっ!また止まってるよ!早く行こうよぉー」


 フランが、俺とつないでいる左手をぐいぐい引っ張られる。


「おい、興味があるのはわかるがそんな毎回止まらなくてもいいんじゃねぇの?」


 横を歩くミナ姉も少しめんどくさそうだ。



 ミナ姉は12歳になって大人びた雰囲気がかなり増したスレンダー美少女に成長している。

 ん?女性的な成長?やめてさしあげろ。

 余計な事を考えようものなら、問答無用の鉄拳が飛んでくる。

 一度孤児院でぶん殴られて、大泣きしてる男子を見た事がある。気を引きたいんだろうけど、その話題は迂闊かなぁ。


 フランも8歳になって、元気っぷりが更に増したように思う。

 最近では、常に俺の手を引いてあっちこっちと、色んな所に連れて行って欲しがるのだ。

 まさしく小動物っぽさのある可愛さ全開だ。



「ねぇねぇお兄ちゃん!」


 二人の事を考えていたら、また腕を引っ張られる。


「んぁ?どうした?」


 腕を引っ張っていたフランが、頬をぷくーっと膨らませて俺を睨んでいた。


「お兄ちゃん!今はフランとミナお姉ちゃんと遊んでいるの!だからこっち見て!お空ばっか見上げちゃダメっ!」


 どうやら俺は考え事をすると空を見上げるらしい。

 いい加減にしないと泣きそうだ。


「あぁ、悪かった。ごめんな」


 そう謝ってフランの頭を優しく撫でる。


「えへへ、わかればいいのっ」


 すぐにフランは、にへー、と気の抜けた笑顔を顔に浮かべる。


「まったくだ。レイはマジで反省しろよ」

「ほい、本当にすまんな」


 フランの言葉に乗っかって、ミナ姉も俺に文句を言う。


 うん、ちゃんと二人に集中しよう。

 その前に、二人に謝罪の気持ちも込めて、何か送ろうと思って周りを見渡す。

 お小遣いは母さんから多少もらってきてるので、問題無い。


「お、良いの見っけた」

「何々?」


 目的の物を見つけたので、フランとミナ姉を連れていく。


 そこは、茣蓙の上で男の人が様々な小物を売ってる店だ。

 パッと見てみた感じ、中々良い作りをしててそれなりに安いので、いい店を引いたと思う。


「いらっしゃい」

「おじちゃん、コレ二つとコレと、コレとコレください」


 愛想よく笑う男の人に、欲しいモノを指定してお金を渡す。


「おぉ、丁度だな。ほれ、商品だ」

「はい、ありがとう!」

「この子供、このカワイ子ちゃん以外にもまだ渡す奴が………?」


 男の人がフランとミナ姉を見ながら何か言うが、無視だ。


「フラン、これあげる」

「わぁ、綺麗な花飾りだぁ!ありがとう!」


 いつもツインテールにしているフランには、花飾りのついた髪紐を2個渡す。

 フランは満開の笑顔を咲かせて、自分で髪紐を付け替える。


「ミナ姉も、これ」

「ふん、くれるって言うなら貰ってやるよ」


 ミナ姉には、シンプルな銀色の髪留めを渡す。

 連れない態度だけど、直ぐに髪につけてる辺り大分嬉しそうだ。


 残りの2つ、金色の髪留めはシロに、緑色の腕紐は母さんに上げる予定だ。

 その二つは懐にしまって、今はご機嫌になった二人の機嫌を維持出来るように、頑張って楽しませよう。



 ニコニコが増したフランを腕を振りながら、ミナ姉と雑談をしながら市を歩く。



 そうやって三人でじゃれながら歩いていた。




 正直、かなり気を抜いていた。



 

 ここは異世界で日本ではないんだと忘れていた。



 思えば、俺自身こんな称号を持っていても、ここまでなるとは思っていなかった。



 いつかは来てもおかしくはなかった事態を、来ないと高を括っていたんだ。




 急に、背中からドンッという衝撃が走る。




「え………?」



 俺のお腹から、血に汚れた槍が生えていた。



「なん、だ、これ………?」



 何で俺の胸からこんな物が?

 どういう事だ?

 何が起きた?


 驚きで考えがまとまらない。


 熱い何かが胃から上がってくる。


「うっ、カハッ」


 それは、すぐさま口からこぼれ出る。



 真っ赤な血だ。



「お、お兄ちゃん………?」

「レ、レイ………?」


 突然の事態に、フランとミナ姉は唖然としている。



 二人は、後ろを見ていた。



「ッ!」



 槍が無理やり俺の体から抜ける。


 激痛がやっと体に走った。


 激痛でゆがむ顔を、後ろに向ける。


 

 成人を迎えたばかり位の男がいた。



 血に濡れた槍をこちらに向けていた。


 目が明らかにおかしい奴の目をしていた。



「おかしい………おかしい………おかしい………」



 男は震える腕で槍を持ちながら、ぼそぼそと呟く。



「何でこんな男がミナと一緒にいるんだ………?こんな一目見て嫌な気分になるやばい男と一緒にいられる?選ばれる!?こんな男がいるからミナがおかしくなるんだ!そうだ!だから俺は間違っていないっ!!」



 喋りながら、男はどんどんヒートアップする。



「だから殺す!殺す!死ねよ!」



 突然の殺意に、俺は全く反応出来なかった。

 師匠と体術は学んだはずなのに、体が全くと言っていいほど動かなかった。


「ッ!」


 また刺さる。今度は正面から。


 それが何度も。何度も。


 どうしても、どうやっても体は動かなかった。


 避ける事すら出来ない。




 辺り一帯に、この凶行に対する悲鳴が上がる。





 どうして、こうなった………?




 恐らく、こいつは孤児院の奴だと思う。

 若干だが見覚えがある。

 そいつの中で、ミナ姉が俺としか遊ばない事に対する溜まった子供心の妬みと、俺の称号で蓄積された俺への憎悪が、感情が爆発しているのだと思う。



 

 考えて無かった訳じゃない。


 男の、俺への憎悪は、称号のせいで勝手に溜まる。


 それがここまで振り切れる可能性はあった。


 俺を整理的に受け付けられない奴が、俺を殺しに来るかもしれない事は多少考えてはいた。


 だが、そこまでは子供に対して行わないだろう、という甘い考えがあった。


 まだ、俺は大丈夫だろう、と勝手に思っていた。


 そう簡単に殺されはしないだろう、と勘違いしていた。




 忘れていた。




 ここは、日本ではない。


 ここは、異世界だ。



 人の命が軽く簡単に飛ぶ世界だ。



 生死なんて簡単に決まる世界だ。




 それが、これまでの王城生活で抜けてしまった。


 あそこはなんだかんだ言っても、国の中でトップクラスで安全な所だったのだ。



 常に【魔力探知サーチ】を使う事を心掛けるべきだったんだ。


 人は誰しも多少の魔力を発している。

 それを常に見て、危険を事前に察知しておくべきだったんだ。



 後悔は募る。


 自分でわかる。自分だからわかる。



 俺は、たぶん助からないんじゃないかと。



 おそらく、重要な臓器が何処かやられている。


 心臓や頭を刺されてないから即死してないだけだろう。


 俺の【回復魔法】じゃ、まだ回復出来ない部類の傷を負ってしまっただろう。



 だが、まだくたばる訳にはいかなかった。



 こいつはもう俺を見ていない。


 しかし横を見ていた。


 ミナ姉を見ていた。



「ハハッ。やってしまった、やってしまった。俺は遂にやったぞ。俺はすぐに捕まるだろう」



 明らかに狂気に染まった眼でミナ姉を見ていた。



「だから、それまでにミナもこいつも殺して俺も死のう。そうしよう」



 男は動き出した。



 ミナ姉は唖然とした顔のまま固まっている。


 多分、俺と同じ状況だろう。

 唐突な展開に頭が付いていってないんだろう。



 だが、それだけは………。



 それだけは、絶対にやらせる訳にはいかない!



 意識が鮮明になっていくにつれ、俺の身体を光が包んでいく。


 俺が、生まれた頃から常に包まれていた癒しの光が、また俺の傷だらけの体を包む。


 【継続回復リジェネレーション】が発動した。



 痛みが多少だが、マシになった。



 ようやく、体が動く。



 これなら、いける!



「やら、せるかよっ!」



 渾身の力を振り絞って、男の体を蹴り飛ばす。


 俺から零れている血が辺りに飛び散る。


 俺を意識から飛ばしていた男は呆気なく吹き飛ぶ。



 それを見た周りの人がようやく動き出し、大人の男達が奴を抑えに走る。



「レイ!」

「お兄ちゃん!」



 ミナ姉が、フランが、俺を呼ぶ。



「任せろ」



 まだこいつはくたばっちゃいない。


 ここで潰す。


 絶対に二人の下には行かせない。



「グルゥゥゥラアァァァ!!」



 男が大の大人を数人弾き飛ばし、叫びながら立ち上がる。


 明らかに人では無くなっている。

 男の両腕が黒くなっていて、口からは牙が見えていた。


「ワオォォォン!」


 獣のようになった男が、止める大人達を薙ぎ倒しながら俺に突っ込んでくる。


 槍が突き出される。かなりの早さだ。



 だが、師匠の剣速に比べたらまだまだ!



 その槍を、横から腕で振り払う。


 槍がへし折れる。

 


 腕にまとった魔力に俺は気づかない。

 腕と足を纏う金色の魔力に全く気付いていない。

 この魔力が障壁になっていて、槍先に手をぶつけたのに傷がついていない事に。

 この魔力が体を活性化させる【継続回復リジェネレーション】が強化されたものである事に。

 その為、元々鍛えていたのと相まって、身体能力が跳ね上がっている事に。



「シッ!」


 男のボディに全力で拳を叩きつける為に、腕を大きく振りかぶりながら一歩進む。


 右手に金色魔力が集中し、渦を巻く。

 金色魔力がドリルの様に渦巻き、腕に纏う。


「ッ!?」


 男は咄嗟に両腕でガードする。


 男の黒い獣の様な腕は明らかに堅そうだった。



 全力で腕を振り抜く。



「グオゥ!?」


 

 その程度では威力を抑えられなかった。


 拳が男の両腕をへし折り、衝撃が男を貫く。



 パリンッ



 何かが砕けた音が聞こえた。


 男は後ろに殴り飛ばされ、ぶつかった壁を壊して尚、吹き飛ぶ。


 もう一度大人達が男を取り押さえに掛かる。

 男はもう起き上がる事は無かった。



「ざまぁみ、………ガハッ!」



 終わったと思った瞬間、纏っていた魔力が消える。


 口から流れ出る血が止まらない。

 痛みがぶり返し、立っていられなくなって頭から前に倒れる。


 どんどん視界がぼやける。


 体が冷えていく。


 自分の命が、血と一緒に零れている気がした。



「………ちゃ……!」

「…イ………!」

「…………にさ…!」



 誰かが駆け寄ってくる。


 おそらく、フランとミナ姉だろう。

 だが、足音は3人いる気がする。


 やばいな、考えがまとまらねぇ。


 意識がボーっとする。

 

『悪い、夕莉。俺、も……う………』


 夕莉に【念話(コール)】を送ろうとするが、うまい事送れない。


『どうしたの?怜司?ちょっと、ねぇってば!怜司!?』


 悪い、送っといてなんだが、返信も出来そうにないな………。




 視界が定まらなくなる。




 あぁ、そういえば、母さんとシロに送ろうとした物、血で汚れてしまったかな………?




 重くなる瞼。



 身体からどんどん温度が逃げていく。



 ぼやける視界の中。




「……たく、仕……ぇな………」


 

 俺が最後に見えたのは。





 俺とキスをしているミナ姉の顔だった。

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