11.他国、希望と『縁』と『眼』
前作の不満だった点その1『ファルティアの情報が全然語られてない』を補うために、倍くらい情報を追記しました。
「へぇ、ではヘスティ様はそんなにも遠くからわざわざ来られたのですか」
「えぇ、ほぼ反対側に位置する国ですが、レイ様が暮らすガルザード帝国は大きいですから、こういう催し物には参加をしておくと、予期せぬ縁を結べることがあるんですよ。そしてそういう縁ほど、もしもの時に物凄く役に立ったりするんですよ。全て父の受け売りですが」
俺が思わず驚くと、彼女はそう言って微笑む。
少女との話が盛り上がる。
少女はヘスティ・メリオーナと言い、この国から遠い魔の森の隣に位置する国『ファルティア』の貴族の娘らしい。
ちなみに、俺は『レイ』というこの国の貴族の息子を名乗った。
彼女も爵位を名乗らなかったので、俺も名乗っていない。
彼女から、ファルティアの話を聞いた。
魔の森の隣であれば、夕莉達に何か影響があるかもしれないので色々確認してみたのだ。
ファルティアは、魔の森との獣人の国『サフィルス』に面する、というよりこの二つに挟まれた位置に存在する国だ。
海と山脈に魔の森と、人々がまともに生活出来る環境ではない地区に三方向を囲まれ、唯一の交流できる隣国がサフィルスだけらしい。
農業や狩猟等も盛んで、食料や資材をある程度自国で賄ってはいるものの、やはり他国との貿易は必要なので、その相手をサフィルス、又はサフィルス内の川を上った先にある宗教国家『マルスメティア』の2国と行っているのだとか。
その為、国の貿易の生命線をサフィルスに抑えられてるといっても過言では無いらしく、そんな重要な隣国と争いの火種になるような獣人に対する差別は、全くと言っていいほど無いという。
よっぽどの事があれば、お隣から貿易を抑えられ、その上獣王が直々に来るのでそこ辺りは本当に気を付けているらしい。
とはいっても、決してサフィルスの支配国という訳では無く、互いに対等でいい関係を築いているらしい。
ファルティアの方が国としては先に建国しており、広大な大地を持った大きな国で、元から獣人と対等な国だったらしい。
だが他の国はそうでは無かった為、各地で不遇な扱いを受ける同胞を救う為に獣王が立ち上がり、ファルティアも国としてその動きに賛同して、国としての領土を一部提供した形でサフィルスが誕生したようだ。
その為、国王と獣王の仲は非常に良好で、国同士も姉妹国とも呼べる関係だとか。
また、ファルティアは魔の森付近の為、他の国と比べて危険な魔物が多いらしいが、その分強い冒険者も多く、もしもの場合でも獣王が駆けつけてくれるらしく、問題は無い様だ。
「へぇ、それは本当にいい国ですね。獣人との関係が良好なのも素晴らしいです」
「あら、この国で獣人に対して友好的な貴族がいるとは思いもしませんでした」
俺の言葉にヘスティさんは驚く。
まぁ、この国は根っからの人種至上主義だからな。
貴族の殆どが、『叡智教』という人類至上主義の宗教に所属しているくらいだし。
ヘスティさんが話続けていて喉が渇いた様で、グラスに注いである飲み物を飲む。
俺も少し喉が渇いたので、横に用意していたリンゴジュースを飲む。
瑞々しくておいしい。
「第三王子レイヤード様以外にもいるとは思いもしませんでした」
「ブッ!?」
急に名前が上がり、思わず吹き出しそうになる。
アブねぇ、初対面の少女にぶっ掛ける所だった!
「だ、大丈夫ですか?」
突然むせた俺に対し、ヘスティさんは心配そうに聞いてくる。
「は、はい、騒がしくてすみません………。だ、第三王子ですか………」
「えぇ、そうです。私もこの国の第三王子の噂は聞いた事ありますから」
えぇ、そんな遠くの国にも俺の噂話が流れてるの………?
「ちなみに第三王子の噂とは?」
怖いもの見たさで聞いてみる。
「えっと………」
「あ、自分の事は気にしなくていいですよ。是非他国から見た第三王子の話を聞いてみたくて」
「そうですか?それなら………」
ヘスティは戸惑っていたが、俺が言う様に促す。
そんなに人には聞かせられない噂が………!?
「えっと、私が聞いた噂では『人種主義であるガルザードの王族でありながら、獣人を愛する虚弱な変人』だと」
「へ、へぇ、そんな噂が………」
分かっていたとはいえ、予想以上のダメージを心を負う俺。
でも、全く間違って無いのが辛い………!
「でも、私は第三王子にどうにかして一目会えないかと思って、今回の誕生会に参加しに来たんですよ。お父様も顔合わせに行ってこい、と」
「えっ、そうなんですか?それはまた何故?」
ヘスティさんは俺に会いに来たと聞いて、驚いた。
しかも、親御さんからも猛プッシュが?
どんな理由があれば、そんな明らかにやばそうな噂聞いて遥々会いに来るんだろうか?
「だって、ガルザード帝国の様な環境の中枢にいても、獣人を守って愛していける人なんですよ!?しかも、周りから色々言われようとも主義を曲げない、そんな人柄を感じられるじゃないですか!」
ヘスティさんは目をキラキラさせながら、めちゃくちゃ持ち上げて来る。
お、おおぅ、予想以上に褒め殺し………。
「まぁ、挨拶に伺おうと思ったのですが人が多くて挨拶に行けず、人混みが無くなったと思ったらいなくなっていたので、お会いする事は出来なかったんですけどね。どうにか一目会えないかと思い、他の貴族の方にも伺ってみたのですが、予想以上に、その………」
ヘスティさんは、そう言って苦笑いを零す。
まぁ、他の貴族の俺に対する対応なんてお察しだよね。
「あはは、それは、また大変でしたね」
「えぇ、お父様にも何といえばよろしいか悩んでいるのですよ」
俺も苦笑いを返すと、彼女は多少笑みを深めて愚痴をこぼす。
まぁ、彼女ならばらしてもいいか。
一つお願いしたい事もあるし。
「まぁ、その点は大丈夫ですよ。ヘスティ様の希望は既に叶ってますから」
「えっ?えぇ?ど、どういう事でしょうか?」
俺の言葉に、ヘスティさんは驚いたようだ。
「私が噂の第三王子ですから」
俺はニコッっと笑ってみる。
「へっ?」
急な俺のセリフに呆然とするヘスティ。
「改めて自己紹介を。ガルザード帝国第三王子、レイヤード・キルシュ・サンベルジャンです。どうぞお見知りおきを」
そう言って、漫画で貴族がやるようなお辞儀をしてみる。
「えっ?えっ!?あ、貴方が………!?」
ヘスティは突然の展開に追いつけな様で、アワアワとしている。
「えぇ、隠していて申し訳ありません。ですが、本日は貴方と縁を結ぶ事が出来て本当によかったと思っています」
「あ、ありがとうございますっ………!」
「ですが、そろそろ戻らねばならない時間なので、本日はここまでという事で宜しいでしょうか?」
「は、はいっ!」
「そんな緊張せずとも、先ほどのように話してくれると私は嬉しいです」
「は、はい」
突然の事態に驚いてヘスティさんのアワアワが止まらない。
だが、本当にもうすぐタイムリミットだ。
会の締めがあるから、俺も元の席に戻らないといけない。
その前に『お願い』を1つ伝えよう。
「ヘスティ様、最後に一つ。私は今日の話を聞いて、ファルティアと言う国に非常に興味を持ちました」
「そ、それは恐縮です………」
ヘスティさんは本当に恐縮そうに身を縮める。
「私は、来年になったらクリカトル学園に入学する予定でいます。ですから、これから5年経って卒業出来る頃になったら、是非私をクリカトル学園まで迎えに来てくれませんか?」
「え?」
「来てくれたら、そのままファルティアに母と妹と一緒にお世話になろうかな、と思いまして」
驚きで固まるヘスティさんに対し、俺はそんな感じで冗談っぽく笑う。
まぁ、冗談のつもりは全く無い。
ヘスティさんがどのくらい偉い貴族の娘なのかは分からない。
だが、彼女の服装や立ち振る舞いを見る限り、中々の名家なのではないかと俺は思っている。
そんな彼女と繋がりをもっておけば、ファルティアに行った時に色々強力な縁になってくれるんじゃないか、と。
「は、はいっ、了解です!ぜ、是非、5年後レイ様とお会い出来る事を楽しみにします!」
「こちらも楽しみにしています。それでは、また5年後に」
「は、はいっ!」
ガチガチになったままのヘスティさんと別れる。
今日で、俺の人生設計が更に進んだ。
1年後学園都市に行き、卒業後はファルティアに移住しよう。
勿論、母さんとシロも連れてだ。
王族が他国にそう簡単に移住は出来ないだろうが、どうせうちの親族だ。
俺が王族である事を放棄して城から出ていくのなら、大喜びするだろう。
学園を卒業する時に、ヘスティさんに会えるかは分からない。
まぁ、会えなくてもファルティアに行くのは変わらないだろう。
でも、俺はまたヘスティさんと話がしたい。
再会出来たら、ファルティアの道案内でもしてくれたら嬉しいな。
嫌だったが、パーティに参加してよかったかな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お父様」
「あぁ、ヘスティ。今日はお疲れ様。残念だったな、第三王子に挨拶できなくて」
「いえ、実は―――」
「な、何と!?あの後、かの第三王子と無事縁を結ぶ事が出来たのか!?」
「えぇ、私も驚きましたが、無事に」
「そうか、それだけで今回ここまで来た甲斐があったな………。第三王子に我が国はアピール出来たか?」
「そちらも、無事になんとか。まさか、あの御方も身分を隠して来られるとは思っておらず、考えていたアピールも殆ど出来ませんでしたが………」
「ある意味、素の『ファルティア』を教える事で信頼を得られたのなら良かったと思うべきか」
「そう思います。恐らく、不用意な言葉は彼の警戒心を強くするだけでしょう。彼は思った以上の傑物かもしれません」
「それは………。王女としてのお前の経験からか?それとも、お前の『眼』によるものか?」
「両方です。彼の志は素晴らしく、意志の強さも証明済みです。更に、『眼』に見える彼は唯一無二と言えるほどの輝きをしていました。近くで見た時、思わず驚いてしまったほどです」
「成程、思っていた以上に只者ではないか。この国に着いた時、彼が獣人を奴隷にしていると聞いた時、噂は嘘だったかと思って落胆したが、城の廊下で見かけた彼は『義妹』の事を心底可愛がってた。やはり、奴隷としているのは彼女を守る為なのだろうな」
「えぇ、彼は『自分の妹』の話は凄く楽しそうにされていました。それに、我が国に行く際は、母と妹を連れていくとも」
「彼の母親は『氷の魔女』か。貴族の中で疎まれていると聞くな」
「母子の仲は良好な様で。やはり彼は家族を守る為に我が国に来るつもりなのでしょう」
「彼が『ファルティア』に興味も持ってくれたのは、本当に良かった。これだけでこの遠出が報われるほどだ」
「えぇ、学園卒業後迎えに来て欲しいと仰ってました。彼は、『最年少での入学』も『最短での卒業』も問題視されていない様でした。それほど自信があるのでしょう」
「あの年齢で人生設計を行っている事も、それが並大抵の道ではない事も素晴らしいな。彼の自信も貴族としての驕りでは無いのだろう?」
「恐らくは。彼は自分が王族である事を疎んでいる素振りがあります。そんな彼が権力を盾にする事は無いでしょう。つまり、自力で到達できる自負がある、と」
「『第三王子』の噂は城内に居れば、嫌でも耳に入った。聞けば、5歳から騎士団の訓練に自分から参加しているらしいじゃないか。王族の息子が、そんな幼い事から自分を鍛えようと思う事が凄い事ではないか」
「彼自身、身のこなしも中々の物だと思われます。話しかけられた時、あれだけの輝きをしていたのに、傍に近寄られた事すら気付きませんでした。かなりの身体能力でしょう」
「そうなると、『虚弱』と言うのはデマだったのかもしれないな。やはり彼は我が国に欲しい」
「えぇ、絶対に必要な御方でしょう」
「いいか、必ず5年後彼を迎えに行く事。これは絶対だ。お前自ら行くんだ」
「勿論、私も5年後の彼を一番に見たいと思っています」
「ははっ、そうか。なら、お前の道も決まったか?」
「えぇ、決めました。私も彼と―――」