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10.10歳、現状の説明と誕生会

前作での閑話の内容を本編に加えています。

 どうも!本日10歳になるレイヤードだ。


 前回から2年経ったが、その間の振り返りをしていこうと思う。




 ここ二年は、主に戦闘訓練を頑張りました。



 師匠達も稽古を重ねて、3人ともイメージしていたスキルを身に着ける事が出来ている。


 師匠は以前よりも鋭さと速さが増した剣技に、【魔力付与エンチャント】を完全に覚えて、高レベルの『魔法剣士(マジカルフェンサー)』に成長した。

 剣を振るたびに火が舞う様子は、ゲームのキャラクターの様でちょっと憧れる。

 持ち前の雰囲気と相まって、かなりカッコいい女騎士となっている。


 エリゼさんは、スキルとして【浮遊剣シャングリラ】は覚えたのだが、型を取り込むのに苦労している。

 それでも、いくつかの型は取り入れる事は出来ているので、理想だったらしい『剣舞』のイメージには届きそうだ、といつも嬉しそうにしている。

 最近は、【浮遊剣(シャングリラ)】に応用が利きそうな、舞踊系の足運びも同時に練習中だ。


 一番化けたのはハイネさんだ。

 師匠と組み手を続けて自分に合った身のこなしを覚えた事で、元々持っていたAGIを生かしたヒットアンドアウェイのスタイルを確立させる事が出来た。

 ただ、その『ヒット』の部分で大爆発が起こるので、戦闘力が跳ね上がった。

 三人で魔物討伐をしていた時、斥候の代わりとして探索に出て、そのまま爆撃させてきた事も何回もあるのだとか。

 まさしく爆弾魔ボマーですね、わかります。



 この三人との練習に、シロがいつの間にか参加していた。


 シロ持ち前のハイスピード戦法にはハイネさんも流石に勝てないが、それに対して隙の無い戦い方で抑えるのが師匠だ。

 だが、師匠は近距離戦闘なので、爆撃ハイネさんには勝てない。


 じゃんけんのようだ。


 え、エリゼさん?

 俺と一緒に浮かばせた剣グルグル回して特訓中だ。


 

 あ、そういえば夕莉が族長をしている村は順調のようだ。


 エルフとダークエルフを仲良くさせるのは一苦労だったと思う。

 それを成し遂げた夕莉の行動力はすごいよな。

 褒めてほしそうな感じがしたので、しっかりと褒めておいた。


 そんな夕莉は、俺に早く村を見せたいらしい。




 だから、そろそろこの世界での生き方を固めていきたいと思う。




 まず、11歳になったら学園都市に行こうと思う。


 そこで、今以上に知識と地力をつけていければ、と。


 学園都市は平等国家なので、獣人差別などは無いと聞いているので、それならシロも安全に生活できるだろう。それだけでも、この国よりはよっぽどましだ。

 そこで、この世界でも通じる実力を身に着けてから、夕莉に会いに行ってそれからを決める予定だ。


 ただ、何も無い状態で夕莉の下に行っても、恐らく村のエルフ達は夕莉と俺が行動を共にする事を反対するだろう。

 だから、学園都市では何か肩書も付けたい。

 最強にでもなれば拍がつくよな。

 頑張る。


 その為にも、そろそろ冒険者にでもなっておきたい。


 実力をつけるなら、やはり実際に経験する事が一番だと思う。


 その話を母さんにしたら、母さんが冒険者になった11歳になれば許可してくれるらしい。

 学園都市に行くのと被ってしまうが、同時進行でも問題無いだろう。

 それまでに、魔物の知識も付けるべきかな?




 さて、その前に一つ、今日を乗り切る必要があるだろう。


 国の王族が10歳になった時、帝国内外へのお披露目の意味が込めて、誕生会をする義務があるらしい。


 つまり今日だ。




「はい、これで大丈夫よ」


 母さんが俺の襟元を整えてくれる。


「ありがとう。でもこれ、すっごく動きにくいんだけど………」


 俺は、腕を上げたり足を開いたりと、母さんに着付けされた服の着心地を確かめながら言う。


 今日の誕生会で着る服は、いかにも中世の貴族服の子供verみたいな感じで、何やらごてごてしている。

 正直着心地は微妙だ。


「あらあら、でもその服じゃないといけないのよねぇ」


 母さんは俺が文句を言うのを聞いて、右手を頬に添えながら困ったように苦笑いを零す。



 まぁ、義務でも無ければ俺の誕生会なんて絶対にやらなかったに違いない。


 今まで誕生日を祝われた事なんて一回も無いし、父様や兄貴達、帝国の貴族達からは嫌われている自信がある。

 実際この誕生会は、10になる王族に帝国内外を問わず様々な国の貴族達が顔を売る為の式典らしいが、俺の場合は俺じゃなくて俺の兄貴達に顔を売りに行くのは想像に難くない。


 だからこそ、俺は服装などそれなり程度でいいと思うのだが………。



「適当で行けば王族の恥だから、これ以上俺らの顔に泥を塗るなって感じだろうな………」



 だから、母さんに無理やりにでも頼んだに違いない。

 正直父様や兄貴達はどうでもいいが、母さんに迷惑をかけるのは本意ではない。


「大丈夫だよ。ちゃんとこれで参加するから」


 そう母さんに伝える。

 少ししかめっ面になったかもしれないが、それはご愛嬌という事で流してもらえれば。


「そう?やっぱりレイはいい子ねぇ」


 そんな態度の俺の頭を、母さんがニコニコしながら撫でる。

 むしろ、愛でるというレベルの甘やかしを食らってしまう。


「ちょっ、俺の中身の話したでしょ!?」

「それでも、あなたは私の子供だもの。少しでも可愛がりたいのよぉ」


 焦る俺を尻目に、そう言いながら撫でるのをやめない母さん。


「まぁ、母さんがそういうなら少しだけなら………」



 全然少しじゃなくて、結構撫でられました。





「いいか!?ちゃんと行儀よく参加しろよ!?」

「そうですよ。ちゃんとしてもらわないと僕の評価まで下がるんですからね?」

「はい」


 怒るように俺に言う第一兄貴と、厭味ったらしく言う第二兄貴。

 名前は全然覚えてない。全く興味ないし。


 二人に部屋に呼ばれたのは、今日の誕生会での文句を言う為に呼ばれた。

 まぁ、結論だけ言うと、諸外国との対応は俺達がするからお前は黙ってろ、との事。


「ふんっ。さっさとどこかにいけ!」

「視界に入らないでほしいんですよ。うっとおしい」


 俺を呼んだの二人なんですがねぇ?


「はい、失礼します」


 頑張って顔に出さないようにしながら、兄貴達の部屋を出る。


「ふぅ………」


 あー息苦しい。

 マジで城の中しんどい。

 孤児院に遊びに行きたい。


 ウダウダ文句を零しながら、城の廊下を歩く。


 母さんに言って、城を出るのを早くしてもらえないだろうか………。

 早めに学園都市に移動して、冒険者になったらだめだろうか………。


 そんな風に考え事をしていたせいで、前から歩いてくる人に気付かずぶつかってしまう。


「おっと、申し訳ない」

「………いい、気にしない」


 ん、この声は?


「お、シロか。ホントにすまんな」


 偶然ぶつかった相手はシロだった。

 今日も無表情で狼耳と尻尾をフサフサでモフモフさせながら、メイド服をスラっと着こなしている。

 モフモフ………。


「………兄様お疲れ?」


 フラフラ歩いている俺が気になったのか、表情の変化は少ないながらも、シロは心配そうな雰囲気を醸し出しながら聞いてくる。


「俺は大丈夫だよ。心配してくれてありがとな」


 心配を掛けたお詫びに、シロの頭に手を置いてわしゃわしゃと少し乱雑に撫でる。


 俺が前の世界で子供の頃、妹が頭を少し荒っぽく撫でられるのが好きだったので、俺はこの撫で方が癖になっている。

 なんでも「兄さんっぽいから」とかなんとか。


 実際シロもこの感じで撫でられるのが好きらしい。

 今も、目を瞑って少し口角を上げて嬉しそうな雰囲気を出しながら、俺の掌にぐりぐりと頭を押し付けている。

 というより、尻尾がめっちゃパタパタと揺れてる。


 あぁ、ケモ耳がモフモフだぁ………。

 荒んだ心が癒される………。

 尻尾もワフワフしたい………。


 そんな本心を心に押し込めながら、シロに聞く。


「せっかくの髪が荒れるからやめた方がいいか?」


 この撫で方は、シロのモフモフをたっぷり堪能できるが、その分シロの髪型がぐちゃぐちゃになる。

 シロの髪はサラサラのドストレートだが、そんな髪をこんな分に撫でればぐしゃぐしゃになる。

 髪型の維持も大変だろうと思うと、自分の欲求の前に申し訳なさが来る。


「ダメッ!」

「うぉ!?」


 だが、シロは珍しく大きな声を上げる。

 シロの大声なんて何年ぶりだろうか。


「………私は兄様に撫でられるの好き。………だから気にしなくていいし、寧ろもっと撫でてほしい」


 俺の目を覗き込むように上目遣いで俺を見ながら、シロはそうおねだりする。

 あぁ、俺の義妹可愛いなぁ、もう!


「そうか!俺もシロの髪撫でるの好きだぞ!」


 そう言ってさっきみたいにまたわしゃわしゃと遠慮無く撫でる。


「………ん。………フフ」



 母さんの代わりじゃないですが、こっちもか結構撫でました。





 さて、夜になって誕生会という名のパーティが始まった。



 雰囲気的には、イメージ通りの貴族のパーティとまんま同じだった。

 キラキラの会場に、大量に盛られた食事。

 そして、高そうな服を着て指輪やらネックレスを付けた貴族達が色んな所を立って回る。


 今回の誕生会、シロは当然ながら母さんも参加していない。

 どうも、母さんが平民上がりがどうので揉めた様だった。

 その事を父様も止めてないみたいで、父様も母さんと確執が何かある様だ。



 最初の回の挨拶の時に自己紹介があったが、父様が全部喋ったので俺は頭を下げるだけでよかった。

 まぁ、余計な事を言われない様にしたんだろうがな。


 その後、群がる貴族達のうっとおしい事うっとおしい事。


 俺に擦り寄り、媚びを売る。

 俺を持ち上げ、自分は味方ですよと言わんばかり。


 わかってるんだぞ、それが方便なのは。

 お前らが心の中で俺を蔑んでいるのは。

 欲しいのは俺じゃなくて、『王族との繋がり』なのは。

 誰も俺の目を見て話してないし、すぐに皆父様や兄貴達とばっかり喋ってたし。


 そして、媚び売り貴族がひと段落したところで、俺はトイレに避難した。

 そこで時間を少し潰した後、落ち着いたコートを羽織ってから会場に戻った。


 俺の所に来た貴族連中、誰も俺の顔を見て喋らないんだぜ?

 絶対、服を変えれば気付かれない自信がある。


 そして実際に会場に戻ったら、誰にも絡まれなかった。

 なので、寧ろ好都合だと思って、各テーブルを自由に回って食事を食べていく。


 ご飯めちゃくちゃ美味しい。

 普段も高そうな飯だったが、今日はまた一段と良い食材を使っているようだ。

 どのテーブルに行っても、ご飯が美味しくて幸せだ。


 今は良く分からん鳥のステーキを食っているが、この鶏肉のうまい事うまい事。

 肉が焼けるいい匂いを回りに振り撒く胸肉にかじりつくと、噛み応えと柔らかさが両立する最強の食感と共に口の中に肉汁が溢れ出る。何で鶏肉なのにこんなにジューシーなの。

 そんなお肉を口いっぱいに頬張る。


 もうこの飯食えただけで、このどうでもいい会に出た事が報われるレベルだ。


 そんな感じで各テーブルを回り、色んな種類の食事をいただく。



 実は今、練習を兼ねて常に【魔力遮断シャットダウン】を発動させながら、会場を回っている。

 これをすると案外誰にも気づかれず、気配を隠す事が出来るのだ。

 もしかしたら、人間も魔力を察知しているのかもしれないな。



「ふぅ、食った食った」


 もう満腹だ。


 こんだけ美味しい料理、シロや母さんにも食べさせてあげたいな。

 どう見ても余るほどの量があるし、いくつかちょろまかしても問題無いんじゃないかなと思う。


 そう思い、周りをキョロキョロしていると、隣のテーブルにいた暗めの茶髪をボブカットにした少女に目が留まる。



 正直に言うと、周りの貴族達と比べると地味だったからこそ目についた。



 その少女は、普通に可愛かった。

 見た感じほぼスッピンだから、他の貴族令嬢達と比べて地味に見えているのだろう。

 だが、確実に光れば輝ける原石な気がする。

 それに、肥えている他の貴族達とは違い、スラリとしたモデル体型をしていた。


 それと、着ているドレスが大人しめなのだ。

 だが、そのドレスはしっかりと見るとわかる良い生地で出来ていて、いい仕立てをしている。


 俺の第一印象としては『堅実』だ。


 所作の一つ一つがしっかりとしていて、派手な装いでは無くそれでいて高級感のあるドレスを着ている。

 ちゃんといい環境で育ったのだろうとわかる。


 俺は今回のパーティでよく見かける、贅沢してますよと言わんばかりに大きく肥え、派手なだけの貴族がどうしても『成金野郎』にしか見えなかった。

 だからこそ、俺の理想の貴族像であるこの少女に興味をひかれた。


 ちょっと声を掛けてみようかな。


「どうも、こんばんわ」

「ッ!?」


 あ、【魔力遮断シャットダウン】切るの忘れてた。


 突然予想だにしない所から声を掛けられた少女は、慌てて手に持っていた皿を落としそうになる。


「おっと、ごめんなさい!」


 落ちそうだったお皿を反対側から支える。


「い、いえ、こちらこそ、申し訳ありません!」


 お皿をテーブルに置いてから、頭を下げる少女。

 驚いたせいで少し声が大きい。


 ちょっと周りから目立ってしまったかもしれん。


「少しあちらで落ち着いて話をしませんか?」


 会場の隅っこを示し、聞く。

 ナンパに等しいが、子供だから許してほしい。


「は、はい。私で宜しければ」


 突然現れてナンパする俺に少し緊張しながらも、少女は俺の誘いを承諾する。


 互いに飲み物を持ちながら、隅っこの椅子に腰かけ話をする事にした。

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