11.戦後、そして次戦と対面
これで前作に追いつきました。
先月と約束していたのに遅くなってしまい申し訳ありません。
「試合終了ッ!勝者、クリス!」
セルディマのコールに、観客席から盛大な熱狂を帯びた歓声が上がる。
自分達が想像していた以上のレベルの試合を見せられて、否応にもテンションを引き上げられたようだ。
「一回戦目、疾風怒涛の連撃交わる斥候同士としては異例の試合は、教師としての意地を見せたクリス先生の勝利でした‼お二方共実力の高さが伝わる、予想を遥かに超える好カードに興奮を抑えきれません!」
「えぇ、二人共事前予想が馬鹿馬鹿しくなる位の戦闘を見せてくれたわ。それにしてもセルディマ?この実力のクリスが『純銀級』なのはおかしくないかしら?」
観客と同じく、レベルの違う試合を見た興奮を抑えきれないピナさん。
学園長はピナさんに同意しながら、ステージに立つセルディマに問いかける。
問いかけを受けたセルディマも同意を示すように頷いた後、懐に入れていた拡声用の魔道具を使って喋り始める。
「そりゃそうだろうよ。このレベルを『純銀級』として扱われたら、他の純銀級冒険者が正直しんどいだろ。学生に伝えておくぞ。先ほどのバトルは『純銀級』なんてなまっちょろいものじゃねぇぞ、勘違いだけはしてくれるなよ。アレはどう見ても『純金級』、クリスに至っては『白金級』に片足突っ込んだレベルまで見せた戦いだ」
学園長に同意を示したセルディマの言葉に、観客全体で驚きの声が上がる。
「とりあえず、この大会が終わったらクリスの昇級は確定だ。協議にもよるが、俺は『白金級』でも問題無いと思っている。なんせ、前衛補助職の斥候なのにこの戦闘力だ。本職の役割含めたパーティでの貢献度を考えたら、確実に優良物件だ」
「セルディマの言う通りよ。彼女達はレイと同じく『例外』の人達よ。同じ斥候の人達は焦る事は無いから、着実に自分たちの力をつけて頂戴。周りもアレを基準になんて絶対しちゃ駄目よ。でも、彼女達は学園関係者だから、教えを願うのはお勧めするわ。あのレベルの人達が身近にいる事はとても貴重な事よ」
セルディマに続く学園長の言葉に、会場の一部から安堵の声が漏れる。
恐らく、斥候の学園生だろう。
周りからこのレベルを求められたら、そりゃしんどいだろうよ。
てか、さり気無く俺も『例外』扱いされとる。
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「只今戻った―――って、どうしたそんな皆して詰め寄ってきて………!?」
「それは当たり前………!」
「お前、尋常じゃないくらい強くなってるじゃねぇか!?」
「私達としては、急激な成長の秘訣が気になってしょうがないんですよ」
「秘訣と言われても………訓練している環境だろうな」
「環境………?」
「あぁ、今私は御大将―――おおっと、レイやレイの仲間たちと訓練しているんだ」
「御大将?」
「そこは気にするな。レイの仲間達で戦える者達は、彼を守ろうと常に努力しているのだ」
「『守る』だと?だが、アイツは―――」
「あぁ、桁外れの強さを持っている。下手な実力でそんな事をしようとすれば、足手まといになるだろう。それでも彼女達は努力を辞めないだろうな」
「それは、間違い無く修羅の道………」
「だろうな。だからこそ、彼女達は自分を高める努力を怠らない。それゆえに成長速度は桁違いだ。信じられるか?私と戦ったシロアは、入学当初の戦闘力は純銅級上位クラスだったんだぞ?斥候としての技術に関しては初心者と相違無かった」
「たった一年でアレか………」
「ぱない………」
「同じ環境に身を置いたら分かる。彼女達は強いぞ。同じ戦士としても、女としても」
「じゃぁ、クリスは残りの3人の事もよく知ってるのか?」
「あぁ、知っている。私がルカ達の情報を殆ど喋っていないから、彼の配下の中でも戦闘力の高い4人が出てきた、はず」
「はず、というのはどういう事ですか?」
「シロアやミアさん、メープルが戦いに出るのは分かる。3人とも強いからな。ルカとミクルは覚悟しておいた方がいいぞ」
「期待………!」
「いいぜ、やったろうじゃねぇか!」
「では、私の相手のアッシュさんは?」
「そこだ。正直アッシュが出て来たのが意外だ。彼女は、彼の眷属の中でもトップクラスで争い事が嫌いな、臆病で温和であり心優しい性格の持ち主なんだ。彼もその事は重々承知の筈だから、戦いに呼ぶ事は無いと思っていたんだが―――」
「クリスの予想に反して出てきた、と」
「あぁ、恐らくだが彼女が自ら出たいと言ったはずだ。彼は、嫌がる眷属に無理を利かせるタイプでは無い」
「自ら出て来るほど、彼女は強いのですか?」
「恐らく。本体スペックはかなり高い。だが、普段はずっと部屋で編み物や料理ばかりしているからこそ、私も彼女の本気を知らない」
「それは一番気の抜けない相手になりそうですね」
「あぁ、3人とも苦戦必須だろうさ。私が一勝したからこそ、彼女達はレイの為に更に全力を尽くすだろうさ」
「承知の上………」
「それでこそやりがいがあるじゃねぇか」
「私達にも意地があります」
「それでこそ、私の仲間だ。3人の試合を楽しみにしているよ」
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「………シロア、強くなり過ぎじゃない?」
「………あぁ、あそこまでとは私も予想外だった」
「わ、私達、大丈夫でしょうか!?は、話聞いてもらえますかね!?というか、覚えていますかね!?」
「ハイネは怯えすぎだろうが、正直その不安も分かってしまうな」
「な、なら―――」
「だが、私達だって前のままでは無い。レイから教わった技術を鍛え続けている」
「そうよ、私達にはこの力があるわ。この2年で磨いた力がね。だから、ハイネはもう少し落ち着きなさい」
「は、はいぃ………」
「そして、今回の試合をしっかりと見るぞ。これからの私達には必ず役立つだろう」
「そうね。戦闘知識然り、レイ様の配下の情報然り、私達には情報が足りなすぎるわ」
「わ、分かりました。私もしっかりと観察します」
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「………兄様、ごめんなさい」
シトラスによって体力全回復したシロがステージから帰ってくる。
負けた事が申し訳無い様で、耳は伏せ尻尾もだらんと下がり切っている。
そんなシロを少しでも元気づけられるように、俺はいつも通りに頭を強めに撫でる。
「………あうあう」
「なぁに、直ぐに切り替えろとは言わないが、気にする事は無い。寧ろ、クリス先生相手によくやってくれた。分身も4人まで増えていたし、試合中でもしっかりと成長出来ていたじゃないか」
「………でも、クリス先生は5人だった」
「でも、一瞬だっただろ?だからこそ、カウンターでしか使用してなかったはずだ。使用時間はシロの方が長いからこそ、それを生かした戦い方も考えて次こそクリス先生にリベンジしてやろうぜ?」
「………うん」
今は言葉で励ます事しか出来ないが、尻尾がユラユラ揺れてきたので、シロの元気に少しは貢献出来たと思うが、まだシロは落ち込んでいるようだ。
そうやって俺がシロの頭を撫でていると、横からも手が伸びてきてシロの頭を撫でる。
「レイの言う通りよぉ。反省する事は大事だけれど、シロちゃんはまだまだ育ち盛りなんだから、そこまで落ち込む必要は無いわよぉ。それよりも、今はちゃんとお母さんを応援してくれると嬉しいわぁ」
「………母様」
母さんは、そう言って微笑みながらシロの頭を優しく撫でている。
そんな母さんのお陰で落ち着いてきたようで、シロはいつも通りの雰囲気になる。
「………元気出てきた、母様ありがとう」
「いいのよ、シロちゃんが元気ならそれでいいわぁ」
「………頑張って、応援してる」
「えぇ、まかせなさい」
言い切る母さん、カッコいい。
「俺はダメだったのに一発でシロを元気づけるなんて、流石は母さんだな」
「うふふ、そう言う事じゃ無いのよねぇ、シロちゃん?」
「………か、母様」
俺が母さんの事を感心していると、母さんは意味深な言葉を呟く。
そんな母さんのセリフに、シロが少し慌てた様子を見せる。
「………(レイに負けた所を見られて、恥ずかしいのよね。分かるわ)」
「………(………内緒でお願いします)」
そして、二人して俺を置いて内緒話を始める。
「ドユコト?」
「な・い・しょ♪」
俺が聞き返すも、妙なテンションではぐらかす母さん。
まぁ、年甲斐も無くはしゃいで―――痛ッ!?
「あらぁ、レイったら何を考えているのかしらぁ?」
「な、何でもないです、マム………」
「うふふ、それならいいのよぉ」
思いっきり考えを読まれたようで、杖で頭を叩かれた。ちょっと痛い。
女性の勘の鋭さは何処の世界でも同じ様だ。
だが、俺と母さんの漫才染みたやり取りが面白かったのか、シロの雰囲気もだいぶ良くなっていた。
それを確認した母さんは、今度こそステージに向かって歩き出す。
「それじゃあ行ってくるわぁ」
「いってらっしゃい、母さんの力見せてやってよ」
「………頑張って、母様」
「うふふ、張り切っていくわよぉ」
母さんは俺とシロの応援を背に、意気揚々とステージに登って行った。
ステージの上には、既に対戦相手のルカさんが待ち構えている。
次はどんな戦いになるのだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「続きまして次鋒戦、ミア選手対ルカ選手の勝負ですが、学園長はどう見ていますか?」
「魔術師同士なら、恐らくだけれど3パターンに絞られるわ」
「3パターンですか?」
「えぇ、『魔術師』という括りの中でも多種多様、様々な魔法の使い手がいるわ。それを大まかに括った分け方が―――」
「『技巧派』と『威力派』、ですか?」
「正解よ。ちゃんと授業を聞いてるわね、偉いわ(ナデナデ)」
「えへへ」
「話を戻すわね。つまり予想される3パターンというのは、『技巧派VS威力派』『威力派VS威力派』『技巧派VS技巧派』ね」
「それぞれの戦いの特徴を教えていただけますか?」
「『技巧派VS威力派』の場合は、威力派が一発当てるか、それまでに技巧派が削り切れるかの勝負よ。技巧派の技術力、判断力が試される試合ね。この戦いは、当てれば勝ちに近い威力派が有利よ。『威力派VS威力派』の試合はとにかく派手ね。一発一発大きい魔法同士をぶつけて競り合うから、見ていてとても面白いわ。魔術師の花形とも言えるわね」
「確かに派手な魔法を使う試合は見ていて気持ちがいいですもんね。では『技巧派VS技巧派』は?」
「その試合は一見すると威力派同士の試合より大人しく見えてしまうから、普通の人達からしたら威力派の試合が面白いでしょうね。でも私は、技巧派同士の試合の方が好きよ」
「それは何故でしょうか?」
「試合で繰り広げられる魔法の使い方が人によって違うからよ。それは見ていて個人の性格や特徴が出るし、同じ魔術師として凄い参考になるのよ。魔法について研究をしている人達も、皆技巧派の試合をよく観戦しに行って、自分達の研究の参考にしようとしている程よ」
「成程、玄人好みの試合という訳ですか。例えば、学園長が見ていて記憶に残った技巧派の試合とかありますか?」
「う~ん、いくつかあるけれど、見ていて感心した試合があるわね」
「それは?」
「『近接魔術戦』ね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ステージ上で向かい合う母さんとルカさん。
「解説、盛り上がってるわねぇ」
「そうね………。貴方、技巧派………?」
「どっちかといえば、私は技巧派ねぇ。貴方はどうなの?」
「偶然、私も技巧派………!」
「あら、奇遇ね」
ぽつぽつと話す二人。
会話の間が、何か独特。
「まさか、近接魔術使えたり………?」
「するわねぇ。もしかして、貴方も?」
「本当に奇遇………!」
「あらあら、コレは近接魔術戦やる流れかしらぁ?」
「間違いない………」
解説が盛り上げてたネタを、まさか自分らがやるとは思ってもみなかったようで、二人共驚いている。
母さんは口に手を当てて驚いたポーズをしているけど、実際フードから覗く口元はニッコニコしてますけどね。
なんせ、魔術武装による近接魔術戦は母さんの得意分野だ。
「それなら―――」
「いざ―――」
二人は確認し合うと、互いに杖を構える。
「【氷結剣】」
「【疾風剣】」
そしてスキルを使用し、杖に魔法を纏わりつかせて『剣』を形どる。
母さんが氷の刃を、ルカさんが風の刃を形どる。
「えっ!?」
「あら?」
それと同時に、二人共驚きの声が上がる。
今度こそフードの隙間から驚いた表情を零した母さんもだが、ルカさんも語尾がはっきりとした声を上げているので、二人ともかなり驚いているみたいだ。
それもそのはず、ルカさんの【疾風剣】と母さんの【氷結剣】、属性が全然違うのに見た目が瓜二つなのだ。
それに名前も気持ち似ている気がするし、本当にどうなってるんだ?
「あら、あらら?そっくりさんね?何故かしらぁ?」
「その見た目、そして氷の剣………まさか、まさか………!?」
素で驚いた様子の母さんに対し、ルカさんは何かしらの確信が浮かんだような表情をしている。
「あら、貴方は何か心当たりがあるの?」
「ある、間違いない………!私の【疾風剣】は、私の憧れの冒険者の真似をして覚えた………!」
母さんが問いかけると、ルカさんは段々テンションを上げながら解答する。
というか、徐々に母さんを見る目が輝いて来ているような………?
まさか?
「あら、もしかしてその冒険者って―――」
「『氷の魔女』!」
さっきまでのボソボソとした声が嘘の様に元気な声で答えるルカさん。
「私の故郷が魔物に襲われてピンチだった時に、颯爽と駆けつけていとも容易く魔物を倒した私の英雄………!あの日から私は少しでも彼女の様になりたくて、魔法も覚えたし冒険者にもなった………!それに、彼女の使っていた魔術剣が使える様に必死で練習して覚えた………!」
表情や言動相まって子供の様だ。
憧れだけで『純金級』まで登り詰めて、挙句同じ武器を使おうと思って実際に覚えたって、凄まじいな。
「数年前に死亡したと聞いて、凄いショックだったし実際寝込んだ………。でも、まさか、まさか………!」
にしても喜色満面な表情、明かに母さんの正体を確信してるよね?
ルカさんは【疾風剣】を床に刺し、速足で母さんの前まで詰める。
そして、両手を差し出し―――
「ファンです、握手してください………!」
腰から折る全力の礼をおみまいしながら、そう言った。
その勢いには、流石の母さんも多少怯んでいる。
「そ、そうなの?ありがとうねぇ、嬉しいわぁ」
怯みつつも、直ぐに口元に笑みを浮かべて両手を優しく握る。
「あぁ、カミアさんと握手してる………!夢が………!」
にしても、ルカさん心底嬉しそうだ。
ニヤニヤが止まる様子が無い。
「さて、握手やお話は後でいくらでもしてあげるわぁ」
「ほ、本当ですか………!?」
「えぇ、約束するわ。私は、私を参考にしたって言ってた貴方の魔法を見たいのよ」
「分かりました………!」
母さんから言質を取って、母さんの望みを聞いたルカさんは全力でバックステップして、刺さっていた【疾風剣】を抜き、再度構える。
というか、今の今まで【疾風剣】は形を留めていたままだった。
あれだけ興奮しながらも、意識の片隅で魔法を維持してたって言うんだから驚きだ。
「今の私を全て見せます………!」
「えぇ、かかっていらっしゃい?」
互いに杖を構える二人。
「ミア選手とルカ選手、先ほどまで何かお話していたようですが、お二人共準備が出来たようです!」
「まさか、話題に上がった『近接魔術戦』を実際に行うようね。面白いわ」
「魔法の技術の粋とも言える『近接魔術戦』、しっかりと観戦しましょう!」
ナレーターの二人も盛り上がっているようだ。
「それでは次鋒戦、ミアVSルカの試合を始める」
セルディマが右手を上げる。
会場が静まり返る。
「始めッ!」
振りかぶる音と共に、氷の刃と風の刃が真っ向からぶつかり合う音が会場に響いた。