9.戦前、メンバー選抜と対面
さて、エキシビジョンマッチだが、俺自身が急な参戦という事に配慮され、敵チームのオーダーが公表されている。
先鋒:クリス (斥候)
次鋒:ルカ (魔術師)
中堅:ミクル (盾士)
副将:ルルーナ (剣士)
大将:セルディマ(英雄)
いや、セルディマの職業よ。
生まれ付いての主人公気質か。
まぁそこは置いといて、前にクリス先生から聞いていた情報を元に、敵の情報をまとめよう。
クリス先生は、十数個の特殊能力付きナイフを状況に応じて使い分ける、スピードスター。
ルカさんはクリス先生の話通りであれば、【風魔法】と【回復魔法】の二属性を操る事の出来る、自己回復出来る魔術師だろう。
ミクルさんは前に一度グランディアで見た時のままであれば、小型のバックラーを二個両腕に付けていたので、恐らく機動力重視の盾士だと思われる。
ルルーナさんは、トーナメント1回戦で見せた両手にシミターを持って戦う二刀流だろう。
正直、クリス先生以外の敵の情報が情報が少ない。
セルディマに関してはほぼ情報が無く、戦闘手段すら分からない。
唯一知っている情報は、『広域殲滅型』という事くらいか。
この戦いは、ある程度の実力を周りに見せつける必要がある。
せっかくセルディマが用意してくれた舞台なのだ。
実力を見せつけるには、『純金級冒険者』や『人類最強』との戦闘は絶好の機会だろう。
だからこそ、中途半端な戦闘を見せる訳にはいかない。
さっきのセルディマは、俺に対してかなり挑発的だった。
恐らくだが、俺と勝負する気だと思う。
セルディマは、俺のステータスを知っているからな。自分と戦える事は分かっているだろう。
だが、セルディマは『大将』だ。
つまり、前の4人で試合が終わるとは微塵も思っていないという事になる。
つまり、あの4人はセルディマ公認の実力者という事だ。
『という訳で眷属会議だ』
俺は、クリス先生以外の【血の眷属】のメンバー全員に【眷属念話】を飛ばす。
『なら、アタシが―――!』
『あ、全員に【眷属念話】を送っているが、精霊組は不参加だ』
『―――って、何でなのよ!』
リボルが元気よく参加意欲を見せようとしたが、俺に出鼻を挫かれて文句の声を上げる。
『何でって、リボル達3人は俺が『コウ』の時に一緒に戦うのを見られてるだろ?一応『コウ』の正体は隠してるんだから、共通点を見いだせる精霊組は不参加だ』
『グヌヌ………!』
『という事は、俺も一応控えとくべきか?』
『あぁ、懸念点は潰しておきたい。すまん』
『いや、それは気にすんな。だがそうなるとメンバー、相当絞られるだろ?』
ミナ姉の言うとおりだ。
現在の【血の眷属】は31人。
そこから精霊組を抜くと、20人。
今回クリス先生は敵なので、19人。
更に、非戦闘員のフラン・リリス・レナウン・ラピス・ルビィを抜いて、14人。
ティオ様は以ての外なので13人。
シトラスも別で仕事中なので、12人。
『正直、この件については私達には荷が思すぎるかなぁ………』
『流石にね………』
『私達に純金級の相手なんて無理よ』
『ごめんね~』
流石に剣士4人組にそこまでの無茶をやらせる訳は無いので、8人。
『わ、我は………!』
『安心しろ、フィオ。エルフ組も今回はお留守番だ』
『そ、そうか、うん』
『申し訳ありません………』
『次までに、僕、凄く頑張るから!』
『フィオとトルテは気にしなくていい。キキもありがとうな』
『主君、俺は………』
『今回はメニもお留守番だ。まだ、再生した脚のリハビリ中なんだろ?そんな状態で無理をさせる訳にはいかない』
『了解………。主君、俺、次回があれば………』
『あぁ、元々戦えたメニなら即戦力になれると期待している』
という訳で、4人。
『シロ』
『母さん』
『アッシュ』
『メープル』
メンバーが決定してしまうのだ。
『………兄様、私はいける。………任せて欲しい』
『あぁ、ありがとうなシロ。凄く助かる』
実は、シロは先ほどからずっと俺の横にいるので、頭を撫でてあげる。
フサフサの尻尾がパタパタと揺れる。
『私も、本気出しちゃうわよぉ』
『凄く有難いけど、母さんは後でちゃんと仮面被ってね』
母さんが全力出しちゃうと無駄かもしれないが、一応正体は隠してもらおう。
『王よ、私の実力を余す所無く披露しますわ!』
『あぁ、頼りにしている』
腕試しでシロを倒してしまうような戦士だ。
ここぞという所に使いたいと思う。
だが、問題はアッシュだ。
彼女は戦闘が嫌いな穏やかで優しい性格の持ち主だ。
そんな彼女に強敵との戦闘をさせるのは、流石に申し訳ない。
だが、正直アッシュがダメとなるとミナ姉を出さざるを得なくなり、後々色々引きずりそうだなぁ………。
『ミナね―――』
『レイ君、私も戦うよ』
俺がミナ姉に頼もうとした時、アッシュの口からそう伝えられる。
『俺は物凄く助かるが、本当にいいのか?戦うの嫌いだろ?』
戦うのが嫌で雪山に逃げたほどだし、よっぽどだと思うんだが。
『確かに戦うのは好きじゃないよ………。でも、ヒトリボッチだった私を助けてくれたレイ君の為なら、私は何だってしてあげられるよ!』
『アッシュ………!』
アッシュがそこまで言ってくれるなんて………!
『そう、何だってやるよ!服だって作ってあげるし、料理も自信あるよ!そ、それに、レイ君だったら、一緒にお風呂で洗いっこや、え、エッチな事だって出来るんだよ!』
『ちょっ!?』
気が付いたら暴走し始めたアッシュが飛んでも無い事を言い出した。
『お、お口でしてあげてもいいし、この胸だってレイ君の物だし、そ、それに、私にだってギリギリだけど人間の女の子と同じ、その―――』
『ストップ!分かった、アッシュがどれだけ俺の事を思ってくれているのかも理解した!ありがとう!』
『そ、そう?えへへ………。じゃあこの続きは、今夜、ベットの上で―――』
『アッシュちゃん、ストップよぉ』
『へ?』
『その辺りの御話を、後で私とシロちゃんとしましょうねぇ?』
『は、はいぃ………!』
流れる様に母さんに捕まったアッシュ。
アッシュは初めて母さん達と会った時の一件で、二人に対しそれなりの苦手意識があるようで、かなり怯えた声を上げている。
すまない。母さんとシロ相手では俺は無力だ。
『それでは、これから冒険者ギルド主催のエキシビジョンマッチを始めます!』
会場に先ほどと同じナレーターの声が響く。
『司会はトーナメント戦から引き続き私『ピナ』と、解説に白金級冒険者である学園長で行います!』
『宜しくお願いね』
今明かされるナレーターの名前。
大会終わったらピナさんに挨拶行こう。
『さて、ギルドマスターであるセルディマ様の提案により、今年初めて開催されるエキシビジョンマッチ。対戦カードは、ギルドマスター直々に率いる『二重乙女』の5人組と、対するは召喚士でもあるレイ選手率いる愉快な仲間達という事ですが、正直私ではレイ選手の予想を行うには経験が全くと言っていいほどありません。という訳で、この戦いを学園長はどう見ますか?』
『とりあえずだけど、レイを常識で測っちゃダメよ。彼の戦いを予想するなら、それこそ経験は邪魔になるわ』
学園長、何か酷い事言ってない?
『それで予想だったかしら?レイなら、決勝戦で見せた【神威】を抜きにしても、『二重乙女』の誰と当たっても善戦、もしくは快勝するわ。それほどのポテンシャルを既に見せているわ』
『やはり、レイ選手はそれほどですか………!』
『でも、先ほどの感じを見ると、レイは必ず大将戦に出て来るわ。セルディマも、それを狙って煽っていたわ』
『大将戦ですか?ですが、前4人で先に3敗すれば………』
『その時点で試合終了よ。だからこそ、レイは『二重乙女』に競る、もしくは勝ちうる戦力を出してくると思っているわ』
『純金級冒険者に匹敵する実力者が、レイ選手の眷属に少なくとも3人はいると見ている訳ですか!』
スゲェ。
学園長、予想だけで俺の戦力をある程度当てに来ている。
今回の件はしょうがないにしても、やはり熟練の冒険者相手にはあまり手札を切りたくはないな。
精霊組は秘匿しとくべきだろう。
『えぇ、彼といつも一緒にいるシロアも、今回は出て来ると思っているわ』
『レイ選手の奴隷の銀狼族の少女ですか。2年時の進級テストで教師ごと全滅させた話は、学園内で有名ですね』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「やっぱりあのナレーター、『シロア』って言ったわ!」
「やはり、彼女はシロアで間違いないか………。連れていけなかった事を心配していたが、どうやら杞憂で済んだようだな」
「という事は、やっぱり『彼』は………!」
「あぁ、最低でも関係者ではあるだろう。必ず話を聞きに行くべきだろうな」
「そ、それにしても、シロアちゃん、クリカトル学園の教師もものともしない程、強くなったみたいだね」
「元から実力者に化けるとは思っていたけれど、順調に強くなっているようね。今でも私は勝てないでしょうね………」
「しょうがない、何事にも相性という物がある。それよりも、今回のエキシビジョンマッチは必ず凄い戦いになるはずだ。しっかりと私達の糧にするべきだろう」
「そうね、これからの事もあるし」
「は、はい!」
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『それでは、選手入場です!』
ピナさんの声に合わせて、俺達はステージに登る。
反対側では、セルディマ達も登ってきているだろう。
ステージに登りきると、丁度セルディマ達も登り切った時だった。
そのまま、俺だけがステージの中央に向かう。
セルディマも、それに合わせてこちらに向かってくる。
「よぉ、実際に顔を合わせて喋るのは初だな」
「あぁ。今回の件は色々助かった。ありがとう」
「気にすんな。俺もオルゼから話を聞いてそうするべきだと思ったしな。にしてもお前、凄い見下されてたもんだな」
「やっぱりおかしいよな?俺、入学試験で【範囲回復】使ったんだぜ?」
「その年で【範囲回復】の時点で化物だよ」
セルディマと軽い雑談を行う。
するとセルディマがニヤニヤしだす。
「にしても、お前の眷属初めて見たが、案の定みんな女だな」
「うるせぇよ………。俺だってこんな体質じゃなけりゃ男の眷属だっていたはずなんだよ………」
「ハハッ。だが、実力は皆スゲーな」
俺の眷属を見たセルディマの目つきが鋭くなる。
戦士の眼だ。
「だろ?俺の眷属の中でも選りすぐりのメンバーだよ」
「何で魔物が人型になっているかは聞きたい所だが」
「俺のスキルだ」
「だろうな。それにしても、噂の銀狼少女に『氷の魔女』、それに―――『雷撃槍蜂』は素直にスゲェな。しかも『女王』かよ………。よく仲間に出来たな」
「こればっかりは、俺も自分の豪運に感謝したね」
「もう一人は………アラクネ?どう見てもステータスが只のアラクネじゃねえぞ?」
「だろ?優しいイイ子なんだ」
「このステータスだけ見ていると、優しいとは、って考えたくなるな」
俺の言葉を聞いて、セルディマは苦笑する。
それほど、アッシュのステータスは凄いのだ。
「だが、こっちの4人だって負けてないぜ?」
「そうだろうな、クリス先生から話だけは聞いている。それでも、俺の仲間達ならやれるさ」
「なら、大将戦、俺は楽しみにしてるぜ?」
「あぁ、任せろ。今回は宜しく頼む」
「おうよ」
そう言ってセルディマと握手を交わす。
『二人が何か話をしているようですが、私的にはレイ選手が連れてきた4人が気になります!』
『やっぱり、シロアは出てきたわね。残りの3人は―――』
『黒いフードを深く被っている杖を持った人物、所何処にモフモフの毛のついた高そうな鎧を着た長身の女性、オドオドしている銀髪の女性、ですか』
『黒フードは間違いなく魔術師でしょうね。同じ魔術師として相当な実力者だと分かるわ。自分の魔力を完全に抑えているもの。あの安定感は並みの魔術師では出せないわね』
『成程。鎧を着た長身の女性も、見た目の時点で強そうですね。威圧感があります』
『えぇ、彼女も強者ね。あの鎧は蜂種素材の最高級品素材で出来ているようね。王者が着ていそうな雰囲気の鎧だわ。でも彼女自身の雰囲気もそんな鎧に負けてない、王族の様な堂々とした雰囲気が滲み出ているわ。腰に据えた槍も業物ね。確実に魔法武器でしょうね』
『成程。もう一人はどう見ますか?』
『銀髪の彼女ね。正直に言わせてもらうなら、オドオドと観衆に怯えていて強者の様に見えないわ。けれど、この場に出て来ているという事は、前の2人に比肩するほどの実力者のはずなのよ。だから、私は3人目が一番怖いわね』
『学園長でも分からないのですか!?これは、彼女が出る試合が楽しみですね!おっと、オーダーが決まったようです!今回のエキシビジョンマッチのオーダーはこちら!』
【先鋒戦】
・『シロア:斥候』VS『クリス:斥候』
【次鋒戦】
・『ミア:魔術師』VS『ルカ:魔術師』
【中堅戦】
・『メープル:槍士』VS『ミクル:盾士』
【副将戦】
・『アッシュ:戦士』VS『ルルーナ:剣士』
【大将戦】
・『レイ:召喚士』VS『セルディマ:英雄』
『このオーダーを見て学園長はどう思われますか?』
『実力不明の女性はアッシュ選手らしいけれど、まさか副将とは思わなかったわ。レイ選手から確実に自分につなげてくれると信頼されているようね』
『成程!私としては、彼女が戦士という事に驚いています!』
『えぇ、私もよ。彼女がどんな肉弾戦を見せるのか期待ね』
『それでは、そろそろ試合に移りましょう!』
先鋒戦は、シロとクリス先生による斥候バトルだ。
「………行く」
試合に向かうシロの頭に、ポンと手を軽く撫でやる。
少しはシロの力になればと。
「おう、お前がどれだけ成長したか、クリス先生にしっかりと見せつけてこい」
「………うん!」