8.戦闘、決勝戦【決着】
いつも誤字報告ありがとうございます。
本当に助かっています。マジで。
いつもチェックしてるんですけどね………?
【神威】を発動させてみて思った事が一つ。
魔力が凄く体に馴染む。
先ほどの学園長の解説通り、体の細胞一つ一つから魔力が滲み出るという感じだろうか。
とある吸血鬼の様に高笑い出来るくらいには、体に魔力が馴染んでいる。
この感じを見る限り、【神威】の効果は身体能力強化だけでは無い。
魔力の展開速度や、充填速度、威力などといった、【魔力操作】の能力も上がっている感じがする。
「おいおいおい、只でさえ勝ち目が薄かったのによォ………!」
「更に強化されるとか聞いてねぇぞ………」
「難易度が高すぎる………!」
【戦闘人形隊】『武闘家』モードの3人が、明らかな強化状態になった俺を見て、驚きの表情を浮かべながらそう零す。
「凄く純度の、高い、綺麗な魔力、です。」
ディゼルさんは、少し頬を染めた状態で熱い視線を送ってくる。
もう一体のフェールスは、ディゼルさんの足元の超弩砲に変形中で間違いないだろう。
「この状態になったのは、ここまで追い込まれた対人戦は、今回が初めてだ」
俺はディゼルさん達にそう声を掛ける。
言い訳のしようが無いほど不意を突かれて、たった一撃で予想以上の事態になったのは事実だ。
だからこそ、俺は新たな強化に至るまで追い込まれた。
「ディゼルさんとフェールスの実力は分かった。素の戦闘能力に戦闘技術、咄嗟の判断力にコンビネーション、最後まで一矢報いようとする気力。どれをとっても素晴らしかった」
俺がそう褒めると、フェールス3人とディゼルさんは嬉しそうに顔を緩ませる。
「だからこそ、この状態、【神威】の初戦闘相手に相応しいと思っています」
そして、俺は再度戦闘の構えを取る。
「完膚無きまでに迎え撃ちます」
俺がそう宣言すると、フェールス3人も戦闘態勢を取り、ディゼルさんも右腕で超弩砲を引き始める。
まずはあの超弩砲を制圧する。
右手で拳銃の構えを取り、指先に【王覇】を【充填】する。
明かに【充填】速度が速い。
イメージはシンプルに。
距離が離れていても、弾道が下がらない現代兵器。
俺の狙いに気付いたフェールスの1体が、俺と超弩砲の射線上に入り、硬質化した腕を構える。
だが俺は躊躇う事無く、指先から魔力を放つ。
「【魔力光線】」
放たれた虹色に輝く魔力の光線が、弾道を変化させる事無く超弩砲目掛けて一直線に伸びる。
「壊させはしな―――」
高熱を纏いながら飛ぶ【魔力光線】がフェールスに当たった瞬間、何事も無かったかのように貫通する。
そして貫通した余熱だけで、フェールスは完全に融解する。
それほどの高密度魔力の【魔力光線】だった。
「ッ!」
それを見たディゼルさんは、躊躇い無く超弩砲を手放し、横に全力で飛び退く。
その数瞬後、超弩砲に【魔力光線】が直撃し、此方も瞬時に融解させる。
また、融解した余熱でディゼルさんがさっきまで立っていた場所も、かなりの高温になっている。
「な、何が起きているのでしょう!?レイ選手の右手から放たれた魔力の光線は、間に立つ上級精霊も硬質そうな対地式弓も、瞬間的に溶かしてしまいました‼」
「掠っただけで金属を融解させるなんて、恐ろしいほど濃密な魔力で無ければ出来ない芸当ね………間違いなくあの状態は、魔力を使った力も性能が上がっているようね………実に興味深いわ………」
「先ほどから学園長は、考察に一杯一杯の様です!」
この大会が終わったら、学園長に何されるか考えたくないね?
さて、2体倒した状態だが、未だ残りのフェールスは動いている。
つまり、EMETH持ちは残りの2体だ。
どうしようか?
なんか、今の【神威】状態、何でも出来そうな万能感に襲われてて、考えるのが非常にめんどくさいのだ。
後、MPやっぱりそれなりに消費しているので、あまり時間を掛けたくない。
なので、脳筋作戦で行こう。
二人共、同時に消し飛ばします。
俺の前方左右に立つフェールスに、それぞれ掌を向ける。
「まっ!?」
「やべっ!?」
それを見て、即座に回避行動を取ろうとする2人。
逃がしません。
【神威】は攻撃速度も上がっているのだ!
「【二重噴火】ッ!」
俺の両手から、普段以上の速度で普段以上の規模の【二重噴火】が放出される。
「あっ、逃げ―――」
「来たコ―――」
【二重噴火】は、呆気無く2人に直撃する。
直撃した瞬間、愉悦の表情を浮かべていたのは俺の気のせいであってほしい。
気を取り直して、これで4体とも融解させたので、文字なんざすべて消えている。
フェールスは倒したと思っていいだろう。
このまま、今の圧倒している流れで勝負を決めようと思う。
「【縮地】」
俺はディゼルさんの見えない速度で移動し、背後を取る。
そして、右手を拳銃の形にして、指先をディゼルさんのこめかみに当てる。
「動かないでください。チェックメイトです」
「ッ!?いつの間に………!」
急に消えたと思ったら、背後に立たれていた事にディゼルさんは驚きの声を上げながらも、自分の状況を理解したようで素直に右手を上げる。左腕は上がらないもんな。
その動作、こっちの世界でもするのね。
「ギブアップ、です」
そして、そう宣言する。
「試合終了!勝者、レイ選手!」
ルルーラさんが勝者宣言を行うと、会場全体を大きな歓声が包む。
観客達は、このトーナメントが始まる前とは全然違う目で俺を見ている。
いいね、たまにはこういう周りを驚かせてみるのも。
俺は、衆人環視の目線に多少ながらの満悦を抱きながら、ディゼルさんの元に向かう。
ディゼルさんが負ったダメージはシトラスによって既に回復しており、俺が向かっているのを見てディゼルさんもこちらに向かってくる。
「お疲れ様です。いい試合でした」
「お疲れ様、です。私も、色々学ぶ事が、出来たので良かった、です」
互いに声を掛け合いながら、握手する。
「それで、王様から見て、私達はどう、でした?」
ディゼルさんは、不安げにこちらの様子を窺いながらそう聞いてくる。
「えぇ、素晴らしかったですよ。もし、私が騎士団を作る際はスカウトをしたいくらいに」
「ッ!やった………!」
俺がそう返答すると、嬉しそうに顔を綻ばせる。
嬉しさが滲み出た良い笑顔だ。
「それじゃ、これから、よろしくお願いします」
そして、俺に頭を下げる。
いやー、先ほどからずっと横にいるルルーナさんの目線が気になるね!
「いやー、素晴らしい試合でしたッ!歴代のトーナメント戦の中でも、明らかにトップクラスの試合だったことでしょう!予想外の下克上に、私も興奮を押さえきれません!」
「えぇ、私が今まで見てきた試合の中でも、特にレベルが高い試合だったわ。上級精霊を有した、歴代でも強者に当たる生徒会長をこうも見事に圧倒して見せるなんて、レイの今後に期待を隠しきれないわ」
「学園長の記憶の中でもですか!やはり、レイ選手と同時期に学園に居られた事は、私達も運が良かったのでしょう!」
俺が冷汗をかいている中、ナレーターと学園長の掛け合いが聞こえる。
後で、あのナレーターにはお礼でも言いに行こうかな。
「ここで、来賓の方々に感想を伺いたいと思います!」
そのナレーターは、実況席を立って来賓席に向かい、インタビューを始める。
「ルカです………。やっぱりレイ選手の魔法が凄まじかったです………!アレは、魔術師としては、異常と言わざるを得ないです………。後で色々話を聞きに行く予定です………」
「ミクルだよ。アタシも、レイ選手の実力は桁外れだと思うね。ルカが驚くほどの魔法を使いながらも、あの近接戦闘力だ。アタシも、ルカと一緒に話を聞きに行くよ。他にも聞きたい事もあるしな」
ルカさんとミクルさんは、興味津々な目で俺を見ている。
戦闘力以外で聞きたい事ってなんだ………?
「オルゼだ。アタイはレイの戦う様が見れて満足だよ。前会った時よりも更に成長している様で、アタイとしては周りに自慢して回りたいぐらいだよ」
オルゼは胸を張りながらそう言う。既に自慢げだ。
グランディアでは、義孫とまでは知られてはいないが、俺とオルが親しい間柄であるのは知られているので、俺との関係を隠そうともしていない。
「デュエラよ。レイ様は実力も素晴らしい人物の様ね。終盤の【神威】だったかしら?あの状態のレイ様は、神々しさすら感じました」
「ティオです!やっぱり、レイ様はカッコいいし強くて、本当に素敵だと思います!私も、これからのレイ様の御活躍を期待している一人です!」
デュエラ様、現教皇が『神々しい』なんて言ったら、大げさにもほどがあると思います!
ティオ様も、直接的に絶賛しすぎです!
「セルディマだ。俺はオルゼと一緒に話した事があるからレイの実力は知っていたが、やっぱ『凄まじい』の一言に尽きるね。まだまだ底が知れねぇ、潜在能力の化物だ。………これならまだまだいけそうだな」
オイ、最後に何をボソッと呟きやがった!?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「………ねぇアル、学園生ってあそこまでレベル高いの?」
「いや、生徒会長ですら例年よりも全然強い。あの『レイ』という人物は最早論外だ」
「そ、そうですよね!?あの人クラスが毎年出ている訳ではありませんよね!?」
「あぁ、当たり前だ。あのクラスが毎年いたら、私の自信など在学中に粉々に砕かれている」
「あれ程の魔術センスを持ちながら近接戦闘も俊逸なんて、そんな後衛職聞いた事が無いわね」
「凄いですよねぇ………。あの決勝戦で見せたスキル、キラキラしてて綺麗でした」
「………………」
「ちょっとオル、急に考え込んでどうしたのよ?」
「いや、あの超強化スキル、【神威】だったか?アレを発動する前の数秒間だったが、全身を虹色じゃなくて金色の魔力で覆っていなかったか?」
「そうなんですか?」
「えぇ、確かに数秒間だったけれど、金色の魔力が覆っていたわ。ハイネは、【魔力操作】が苦手だから、ハイネが感知する前に切り替わったわ」
「う、そ、そうなんですか………」
「それがどうし―――ん?」
「エリゼも感じたか」
「え、えぇ、アレ、あの金色の魔力、どこかで見た事が無いかしら………?何か、こう、既視感が………」
「あぁ、ある。あれは【継続回復】だろう」
「えっ!?【継続回復】ってレイ様の―――『レイ』、様………?」
「え、え………え!?」
「そうだ、私もそこに行きついた。あの人物には『レイ様』に関する何かがある。トーナメント戦が終わったら、学園長に頼んで話をさせてもらいに行くつもりだ」
「えぇ、それがいいでしょうね。私も気になるわ」
「は、はい、私も行きます………!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、賭けは私の勝ちね?」
「い、イカサマだ!あの実力は学園生にしてはおかしすぎる!」
「そ、そうだ!あんな回復士が居る筈もないだろう!?」
「職業詐称ではないのか!?」
「いいえ、そんな事は無いわよ?彼はれっきとした『回復士』と『召喚士』の二重職よ」
「しょ、証拠があるのか!?」
「えぇ、あるわ。ねぇ、そうなんでしょう、オル?」
「え―――お、オルゼ殿!?何故ここに!?」
「アタイが証人だからさ。レイはギルドカードを作ってるし、その作成はアタイがやったよ。その時にしっかりと確認しているよ」
「そ、そんな物が証拠になる―――」
「アタイがいうのもなんだが、アタイの発言を疑うつもりかい?」
「オルの発言を疑うというのは、『清廉女傑』の発言を疑うという事。それは、国どころかこの大陸中に広がる逸話や記録、彼女を支援した全ての人達に真っ向から対立する事と同義よ?」
「………話が大層過ぎるよ」
「くっ………!」
「わ、私達教師を全員辞めさせれば、学園が回らなくなるわよ!?」
「全員ではないでしょう?クリスが残るわよ?」
「所詮、冒険者たった一人ではないか!」
「貴方の様に、『所詮』とか言って周りを見下している人物なんて必要ないわ」
「なッ―――!?」
「それに、人材に関しても問題は無いわ」
「あぁ、その通りだ」
「せ、セルディマ様!?」
「失礼するぜ。まぁ、こいつらに敬う礼儀なんて微塵も無いがな」
「そッ―――!?」
「人材に関しては、怪我や年齢によって引退した優秀な元冒険者達を冒険者ギルドから派遣する予定だ。元純金級とかを呼ぶつもりしてるが、それでもお前らの方が優秀だと?」
「そ、それは………」
「まぁ、そう言う事だ。だから―――」
「潔く全員辞めてくれ。英雄の原石達が腐る」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
決勝戦が終わって直ぐ、フェールスが取込んで粉々になったステージの修復が行われた後、表彰式も無事何事も無く終わった。
だが、セルディマの笑みは深まるばかりだ。
本当に何を企んでいる?
この後に残っている行事なんて、優秀冒険者によるエキシビジョンマッチ―――
―――まさか?
可能性に気付いた俺が思わずセルディマを見ると、驚いた俺の表情が面白かったのか満面の笑みで頷きやがった。
「さて、本日最後のイベント、冒険者ギルド優秀者によるエキシビジョンマッチです!」
「優秀な冒険者同士の戦いは、戦い方を参考に出来るだけでなく、学園生達より遥かに高い戦闘はいい刺激、目標になると思うわ。しっかりと観戦して欲しいわ」
「さて、今回の対戦は何でしょうか?」
「それを今からセルディマが発表してくれるわ」
学園長が言った通り、セルディマが闘技場のステージに上がる。
「紹介に預かったセルディマだ。またまたよろしく頼む。今回のトーナメント戦は、決勝戦で並みの冒険者すら圧倒する試合が行われたから、エキシビジョンマッチも豪華に行こうと思う。今回は両チーム5人ずつ個人戦を行い、先に3勝したチームが勝利となる団体戦を行う。それじゃあ、まず1つ目のチームの紹介だ」
セルディマはそう言って、ステージ下に控えていた選手を呼んだ。
ステージに上がったのは4名。
その中には俺の良く知った顔ぶれもある。
「という訳で1チーム目は、純金級に最も近いパーティ『二重乙女』の4人だ」
セルディマの紹介の後、観客席から歓声が上がる。
数少ない純金級で、しかも全員美人の集まりだ。盛り上がるのは間違いない。普段だったら、金が取れるぞ。
「そしてもう一人だが、これは俺自身が出る」
セルディマがそう宣言すると、歓声は更に大きくなる。
全人類の憧れ、『人類最強の英雄』の戦闘が見れるのだ。学園生歓喜必須だろう。
本当に金が取れるぞ。
「それで、もう1チームだが………」
そう言いながら、セルディマはこちらを見る。
やっぱり………?
「レイ、出て来てくれ」
セルディマが俺の名前を呼んだ事で、観客がどよめく。
そりゃそうだ。
いくら、圧倒的な戦闘をしたとはいえ、俺はぽっと出の2年生だ。
それが、冒険者ギルド代表のエキシビジョンマッチの呼ばれるのは違和感しかないだろう。
そんな客席の目線を尻目に、俺はベンチからステージに向かう。
「俺らの対戦相手は、召喚士のレイだ」
セルディマは俺を紹介する際、召喚士と強調して呼んだ。
つまりそう言う事だろう。
「俺達の対戦相手は、レイと愉快な仲間達だ。コイツが召喚士として、優秀な配下を持っている事を俺は知っている」
オルを見る。
目を逸らした。
「並外れた主人だ。配下が普通な訳が無い。楽しませてくれる事に間違いは無いだろう」
セルディマはそう言って、俺に向かって獰猛な笑みを浮かべる。
挑発されておる。
だが、ここまでお膳立てされているのだ。乗ってやろうじゃないか。
「あぁ、勿論だ。セルディマがアッと驚くような自慢の配下を見せてやるよ」
俺がセルディマに対しタメ口で挑発し返すと、俺の事情を知らないルカさんとミクルさんが驚いた表情を浮かべる。
クリス先生はともかく、ルルーナさんも動揺しませんかそうですか。
「ほぅ………!良いぜ、掛かって来な」
俺が挑発した事にセルディマは一瞬驚いた顔をするも、直ぐに面白い事を見つけた様な表情になった。
予想外の延長戦が決まった。
さて、誰を出そうかね。