9.相談、未熟と過剰と不能
パターン1:アルレイナ
≪特徴≫
・MPが平均よりも低い。
・INTがE。
・一応火魔法が使えるが、Lv.1。
・また、魔法を使っても、距離が離れるほど魔法の維持が出来なくなる為、飛距離が出ない。
・STR、AGIが高い物理攻撃型。
「んー………」
考え込む俺を、師匠は何も言わずじっと見つめる。
中々難しいな、コレ。
MPの量だが人によって様々で、世間的に最強クラスと言われるレベル100でも、魔術師だと100行けばいい方、魔法を使わない職だと40ほどが殆どらしい。
自分の化物っぷりを再実感すると共に、母さんのレベルの高さにも驚く。
だが師匠は標準以上のレベルである60台なのだが、MPが25しかないらしい。
MPが低いという事は、効率の良い魔法でないとダメだ。
数回しか撃てないのであれば、お荷物であることは変わらない。
そうなると、魔法の要素を削る必要がある。
「師匠は魔物と至近距離で戦闘出来ますよね?」
「当たり前です。剣士としての近接戦闘なら自信はあります」
分かっている事だが、一応確認。
なら、魔法を飛ばす必要性は無い。
飛ばさない魔法攻撃………。
「魔力を纏うくらいしか………」
「魔力を纏う?」
俺の零した言葉に対し、師匠は疑問気な顔をする。
この世界は魔法についての固定概念がある。
それは『レベルに応じた魔法しか使えない』というものだ。
例えば、【火魔法】なら、
Lv.1ならファイアーボールのみ。
Lv.2ならファイヤーボールとファイアーウォールのみ。
といった感じだ。
俺は母さんとの授業の中で、『何故魔法のレベルが上がると、使える技が増えるか』という議論を母さんとした事がある。
その結果、『魔法のレベルは、微精霊に効率良くお願い出来る様になると上がり、使える技が増える』という結論に至った。
理由を説明しよう。
まず、属性魔法が使えない俺でも、効率は悪いが『MPを魔力に変える・集める・飛ばす』事は出来る。【魔力弾】がいい例だ。
これに【属性魔法:Lv1】を覚えると、『効率良くMPを魔力に変える』事が出来る様になるのだと思う。
これが出来るかどうかが「才能の有無」という話になり、俺は才能が無かった為、指定の属性に対し『効率良く変換する』事が出来ない。
これで少しでも才能がある人がスキルを覚えている、という事になる。
そして【属性魔法:Lv1】だと『効率良く変換・集める・飛ばす』でボール系が使える。
これが【属性魔法:Lv2】になると『効率良く集める』事が出来るようになる、と判断した。
ウォール系は魔法の壁を作る魔法だ。
そしてウォール系の魔法は、ボール系より濃い密度で魔法は出来ている。
つまり、ボール系と比べて魔力を固める必要がある。
なので、『効率良く集める』事が出来ないと使えないのだと判断した。
そして【属性魔法:Lv3】では最後の一つである『効率良く飛ばす』事が出来る様になる。
アロー系が、ボール系と比べて速いのはそれが理由だと思っている。
なので『魔力を効率良く飛ばす』魔法とした。
【属性魔法:Lv4】のジャベリン系は『効率良く3つの動作を行う』事が出来る、と考えた。
ジャベリン系は、ボール系より速い。そしてウォール系と同じMPで使え、アロー系よりも威力がある。
つまり、どれにおいてもバランスが良い魔法なのだ。
ジャベリンを使えると一流なのは、この3つの動作を『同時に』『効率良く』行う必要があるので、並みの魔術師では到達する事が難しいから、と言う結論になった。
【属性魔法:Lv5】のストーム系は、この三つの動作だと作動しないので、扱う動作が増える事になる。その為、才能を持った魔術師でも使える者はごく僅かとなると判断した。
まぁジャベリン系とストーム系は今はどうでもいいので大雑把な説明になってしまった。
まぁ何が言いたいかと言うと。
師匠は『火属性の魔力を効率良く変換する』事は出来るのだ。
そして、少しでも消費MPを減らすには、残りの要素を削ればいいだろう。
つまり『集める・飛ばす』の要素をカットする。
この二つは、師匠の苦手な要素なので全然かまわないだろう。
しかし、このままだとMPを変換した場所から魔力が垂れ流しになるだけになってしまう。
それでは、結局浪費しているだけなので駄目だ。
だが、使いたい動作の時だけ変換する事が出来れば、問題は無いはずだ。
師匠の場合だと、切る瞬間にだけ魔力を剣に纏わせるのがいいのではないかな。
戦いながら『切る』と『変換』を同時に行って、切る動作を行うのは難しいと思う。
しかし、自分で切替が効くようなスキルとして覚えてしまえば、スキル発動中の剣を振る瞬間にだけ魔力を纏わせる事を、オートに出来るのではないかと思う。
「そうですね、命名するなら【魔力付与】でしょうか。出来るかはわかりませんが、可能性は高いと思いますよ」
と、この事を大まかに師匠に説明した。
「なるほど………!その動作をスキルを覚えれば、魔法攻撃と物理攻撃を同時に行う事が出来るのですね!」
自分の弱点が無くなると知って、嬉しそうに笑う師匠。
その笑顔に、ちょっとドキッとしたのは秘密だ。
「ただ、師匠のMPが少ないのは変わらないので、使用回数限度がある事を忘れないでくださいね?」
「わかりました!」
「後、遠距離の手段が無い事は変わりません。そこはまた別途相談でお願いします」
「了解です!レイ様、ありがとうございます!早速練習してみようと思います!」
そう言って、師匠は俺から離れた場所に行き、剣を構えて魔力を纏わせる練習を始めた。
「本当に解決案を出しましたわ………」
驚くエリゼさん。
思わずドヤ顔しそうだ。
「れ、レイ様っ!」
「は、はいぃ!」
急に大声で呼ばれてびっくりした………。
後ろを振り向くと、ハイネさんがキラキラした目でこちらを見ていた。
「わ、私もお願いしますっ!」
さて、次はどうかな………?
パターン2:ハイネ
≪特徴≫
・MPは平均より多め。
・【火魔法:Lv.3】とそれなり。
・INTはCと平均以上。
・驚異のMID:A。
・代償が、STR、VITがF。
・AGI:Cで意外とすばしっこい。
・称号【爆裂の申し子】。
・スキル【暴発】。
ステータス見る限り魔法特化じゃない………?
だが、称号【爆裂の申し子】とスキル【暴発】のコンボのせいで、ハイネはまともに魔法が使えないらしい。
【爆裂の申し子】
・火魔法の効果範囲が拡大する。威力も上昇する。
【暴発】
・魔法が発動と同時に起爆する。代わりに、威力が上昇する。
つまり、【爆裂の申し子】で魔法の効果範囲と威力が大きくなっている状態で、発動と同時に更に威力が跳ね上がって大爆発するのだ。
【爆裂の申し子】だけなら、優秀な魔術師になれただろうに………。
さながら、ハイネ自身が爆弾と同じになった様な物だ。
威力が相乗効果で跳ね上がっているのも、質が悪い。
更に問題となるのが、本人は持ち前の化物MIDで大爆発のダメージを一切受けないのだという。流石A。
その為、本人が大爆発して被害を受けるのは敵では無く味方、という非常に迷惑な存在となっているらしい。
また、一度魔法を発動すると、その威力に耐えられず杖が壊れるらしい。
魔術師が杖を持つ理由として、杖を持つと2つの効果があるのだ。
一つは、魔法発動時に発生する魔力に必要なMPを、杖自身が集める効果があるので、魔法発動の補助を行う事。
もう一つは、集めたMPを増幅させて魔法の威力を上昇させる事が出来る。
なので、魔術師は少しでも魔法の質を上げる為に杖を持っている。
勿論、杖に適性のある素材を使わなければ、杖の効果を発する事は無い。
その為、杖の偽物も世の中には出回っているし、その分ちゃんとした杖は多少金がかかってしまう。
それを毎回壊してしまっては、魔術師としてやっていくのは難しいだろう。
なので、代わりに物理を強化しようと思っても、才能が無いF。
「元々私は宮廷魔道士の見習いだったんです………。でも、でも、このせいで………。うぇぇぇぇん………………」
話ながら何かを思い出したのか、大泣きするハイネ。
恐らく、宮廷魔導士をクビになった後、騎士団にたらいまわしにされたのだろう。
で、近接戦闘が出来ないから、騎士団でもお荷物扱い、と。
そりゃ、苦労してるはずですわ。
「うーん………。正直、このステータスでは近接戦闘を主に戦うのは難しいでしょう」
「ハイ………」
自分でも分かっていたのだろう。ハイネさんは素直に頷く。
「ですが、魔法を使っても人間爆弾状態だと。もう、これに関してはそういうモノだと割り切るしかないです」
「ハイ………」
どんどん視線が落ちていくハイネさん。
「うーん、せめて魔法の発動位置くらい調整出来ないのでしょうか?」
「は、発動の位置、ですか?」
普通の魔術師は杖を構え、杖の先端に魔法を発動させる。その方が、何処に魔法を発動させるか分かりやすいからだ。
俺が【魔力弾】の時に、指先を構えるのも同様の理由だ。
だが、空間把握能力が高いと、何も構えずに目線だけで発動させる事が出来る。
母さんはこの辺りが上手で、棒立ちの状態で魔法を放つ事が出来る。
まぁ、杖自体に魔法を増幅させる効果があるので、杖は持っている状態ではあるが。
その辺りの事をハイネさんと試してみた結果。
まず、杖ありだとどうしても杖が爆発するらしく、杖を持つ事は出来ない。
その為、MP効率は悪いが杖無しで魔法を発動させる方針にする。
魔法の発動位置に関しては―――
・何も無い空間に発動させるのは、無理。
・離れた物に対して発動させるのは、難しい。
・手に持った物であれば、発動できる。
という結果だった。
離れた所に咄嗟に発動できれば、遠隔地雷みたいな事も出来るんだけどなぁ………。
それに関しては、将来的に出来れば万々歳と言う意味も込めて、要訓練と言う形に。
とりあえず現状としては、師匠の様に剣で攻撃する瞬間に発動させるしかないかな、と言う結論に。
師匠との違いとしては、師匠は『単騎戦闘用』という用途に対し、ハイネさんは『単騎殲滅型』という違いがある。
一振りで周りを爆発させる爆撃無双だ。
「で、ですが、私はアルさんほど速く剣を振れないですし………。そ、それに、一振りでもすれば剣は壊れてしまって、次が無いですよ?」
だがその意見に対し、ハイネさんから懸案が上がる。
確かにハイネさんは、STRとVITが絶望的なので剣を振る事に向いておらず、また一撃で武器を壊れてしまうと、その後は只のサンドバッグになってしまうだろう。
「別に、武器は剣じゃなくていいかなと。一撃で壊れてしまうのであればナイフとかダガー、または木刀とかでも一緒ですし、そっちの方が安くつくと思いますよ」
実際に運用する事を考えたら、剣一本も安くは無いだろう。
まぁ、剣として使わないのであれば、木刀も十分アリだと思う。
「ハイネさんはAGIは高いので、それを生かして先手を取ってヒットアンドアウェイかな、と思います」
仕留め方が爆撃なのは大分派手だが。
「な、なるほどっ………!つまり、私には速さが必要なのですね!」
「後は回避力をつけましょうか。物理に対して紙装甲なので、被弾すると一発だと思います」
「は、はいぃ………!」
一撃でつぶさせる自分を想像したのか、ハイネさんが震え上がる。
「で、ですが、自分の目指す戦い方を掴む事が出来たと思います!ありがとうございました!」
そうお礼を言って直ぐに師匠の方に走っていき、師匠と会話を始める。
元気ですねぇ。
「あ、あのっ」
「ん?」
あ、あと一人いたね。
「先ほどの発言を謝罪します。何も知らないのに評判だけで決めつけて申し訳ありませんでしたわ!」
そう言って謝るエリゼ。
「いえ、気にしておりませんよ。それに自分の非を認めて、謝れる事は美徳だと思います」
ちょっと上から目線だけど正直な気持ちだ。
評判の悪い俺に対しても、しっかりと謝れるのは好印象だ。
他の貴族の様に、思考が染まり切ってなさそうな感じがするな。外から来た師匠のお陰だろうか。出来れば、味方につけたいな。
「それではエリゼさんの悩みも聞きましょうか」
「お願いしますわ!」
パターン3:エリゼ
≪特徴≫
・平均よりもMPがかなり多い。
・だが、属性魔法を一つも使えない。
・INTとDEXはCと平均以上。
・他のステータスが軒並み低い。
「是非握手しましょう!」
「え、えぇ、いいですわよ………?」
急な俺の態度に対し、エルゼさんは戸惑いながらも手を握ってくれる。
最初の二つだけで俺とお友達である。
エルゼさん自体、元々運動も得意な方では無かったらしく、高いMPとINTを持っていたので、初めは魔術師になろうと思ったそうだ。だが、属性魔法がどうやっても使えず諦めたそうだ。
でも、貴族の三女だからこのままでは政略結婚の道しか無く、それが小さい頃から嫌だったようだ。
「でも、その頃に先代の騎士団長を拝見する機会がありまして。その姿に私は一目見て憧れましたの」
流れる様な剣先の動きに舞う様な足さばき。
まるで踊っているかの様な剣捌きに、理想を見たそうだ。
その日から騎士としての鍛錬に励んでいるらしい。
「でも、ダメでしたの。私、どれだけ訓練を積んでも非力なままですの」
DEXが高いので技術はそれなりに覚える事が出来たが、他のステータスが低く、剣の打ち合いも力負けしてしまって弱いらしい。
更に、盾が重く持ち続ける事も出来なかったそうだ。
その為、受け流すような剣捌きになっていったのだが、それが騎士としての評価を落としている様だ。
「騎士は民を守り、盾となる存在です。その騎士が盾も持てず避けてばかりでは、『民の盾』等と口が裂けても言えません」
どうやらエリゼさんは、自分の理想と現実のギャップに苦しみ、どうすればいいのか分からなくなっている様だ。
因みに縦の話だが、師匠は盾を持たぬ方が強く、怒涛の攻めの姿勢から騎士団内では評価が高い様だ。
ハイネさんはそれ以前の問題らしいが。
「では、エルゼさんには、自分が作ったオリジナルスキルを教えます」
自分と同じ悩みを持っているのなら、是非とも解決させてあげたい。
ここまで真っ直ぐな思いを持っているのなら、尚の事。
「い、いいのですか?」
「構いません。ただ、他の二人より覚える事が多くなりますが、それでもよろしければ」
実際【魔力操作】は必須だし、その上で新スキルの練習となるので、難易度は二人よりも高いだろう。
「全然問題ありません!ぜひ、お願いしますわ!」
エリゼさんは、気合の入った表情で頷いて見せる。
「それでは剣を10本ほど持ってきてもらえませんか?」
「分かりましたわ」
他の二人にもお願いし、剣を持ってきてもらう。
そして剣を用意してもらった後は、円形に均等に地面に突き立てる。
三人には離れた場所で見てもらっている。
「それでは行きます。【浮遊剣】」
両手を左右に広げて、スキル名を唱える。
これが起動の条件だ。
ゆっくりと剣が浮かび上がる。
「お、おぉ………!」
いいリアクションをしてくれるエルゼ。
そんなリアクションをされると、テンションが上がるな。
「これだけじゃありません、よっ!」
次に両手を正面に突きだし、その後目の前を開くように両手を左右に開く。
剣が正面に向かって飛んで言った後、左右五本ずつに分かれる。
「ふっ!」
右足を踏み込み、右手を右水平に払う。
剣が腕に合わせて、右から水平に10の剣線が目の前を切り裂く。
「はぁ!」
両手を交差するように振り降ろす。
左右から交互に剣が振り降ろされ、目の前を×に切り裂く。
「ほっ!」
右手を開き、上から下に下げる。
上から五本の剣が地面を突く様に、勢いよく前に落ちる。
様々な動作を、流れるように繋げて行う。
そして、それに追尾して浮かぶ10の剣が動く。
その動きはまるで舞っているかように。
「ふぅ………」
数分の間動いた後、立ち止まって左右の手をゆっくり降ろす。
剣がゆっくりと降り、地面に刺さり最初の状態に戻る。
はぁ………、やっぱりまだ疲れるな。でも、初めに比べればまともに動けるようになってきた。
「どうですか?」
汗をぬぐいながら、エリゼさんに聞く。
「凄い、凄いですわっ!まさしく剣舞と呼ぶにふさわしい華麗な動きでしたわ!」
キラキラと目を輝かせ食い気味に近寄ってくるエルゼさん。
自分が作った技を他の人に褒めてもらえると、こうなんていうか、凄く嬉しいな………!
「これが自分が作った【浮遊剣】というスキルです」
原理は簡単である。
魔力で剣を覆い、魔力で剣を動かす。
まさしく、サイコキネシスだ。
作った理由も単純だ。
サイキック剣士とか浪漫だろ!
名前は何となく思いついたものを呼び名にしてたら、スキル名になってました。
まぁ、現実的に見ても、いろんな利点があるはずだ。
敵と距離をとれますし。
師匠と同じく、物理魔法の同時攻撃ですし。
直接打ち合う事も無くなるので、非力とか関係ない筈ですし。
後は、剣の作動ルーチンをしっかりさせれば、操作も簡単だ。
例えば『右手を水平に振る』と『剣を順番に水平に振る』とか。
ほかにも『手を振り下ろす』で『剣を突き刺すように落とす』とか。
動作に合わせて一定の動きをする様に出来れば、行動を繋げやすく出来るし細かく考えずに剣を操れる様になる。
まぁ、慣れるまでにかなり時間がかかっていますがね!
「このスキルを使うには【魔力操作】というスキルを覚える必要があります。このスキルは属性魔法が使えなくてもMPが有り余っている人なら使えて、応用が利かせられるスキルなので、エルゼさんにお勧めですよ」
「便利そうですし、そのスキルも覚えたいですわ!スキル伝授よろしくお願いしますわ!」
「はい。頑張りましょう」
希望が見えたエリゼさんの笑顔は、年相応にキラキラして綺麗だ。
この笑顔を曇らせる事が無い様、しっかりと練習していこう。
この日から、4人で居残り練習をするようになった。