双子トランプ大戦 ―キーパーソンのパーソンは―
この勝ち負けは、人生を左右しうるだろう。
だからイカサマをした。
でもだいじょうぶ。バレることはない。
――そう思っていた。
――――――――――――
昼休み。
教室の一角には生徒が集まっていた。
そっくりな双子の兄弟が賭けトランプをするらしい。
「わざわざ来てやったんだ。もうノーゲームにはさせないぜ」
「こっちのセリフだけどな。そろそろ決着つけてやるよ」
「手加減すんじゃねえぞ」
「てかポーカーで手加減とかできないだろ?」
「まあな。――で、おい。もちろん『あの件』、これで決めるんだろ?」
「ああ、そうだな。でも最初の数回はルール確認も兼ねて、なにも賭けずにやろう」
「はっ。舐めてんのか。ポーカーのルールくらいわかる。PCゲームに入ってるしな。――でもまあ、そだな。お試しで数回やるのは賛成。ディーラーもお前が頼んだヤツだしな」
「グルになってイカサマするって言いたいのか? するわけないだろ。それにクラスのみんなも見てるだろ? こんな状態じゃズルするのは無理だろ?」
「まあ、そりゃそうだけど」
「少なくともディーラーと組んでズルなんてしないよ。てか、さっきお願いしたばかりだし。イカサマをお願いするヒマなんてないって。――あ、もしも不正行為があったら負けってことでいいぞ」
「その言葉、忘れんなよ」
「もちろん。おまえもイカサマしたら負けだからな?」
「ったりめぇだ。そもそも不正行為なんてしねえよ」
「で、正志……最初の2回は練習ってことでいいよな?」
「ああ。いいって伝えただろうが」
ディーラーを頼まれたクラスの子が、言い合う双子に制止の言葉を投げる。
「おい、苗倉の双子。カード配るぞ」
「うん、ナオ頼むよ」
「おう。よろしくな」
1戦目。
5枚の手札が配られる。確認する。
「じゃ、1枚チェンジで」
「こっちは3枚」
2人はそれぞれカードを机に出した。
ディーラーが枚数分のカードを配布。
双子はカードを公開する。
♦5 ♦4 ♥5 ♥4 ♥6
「ツーペアだ」
♣5 ♠5 ♥9 ♥7 ♦2
「こっちはワンペア」
「はい、一回目は弟の勝ちな」
ディーラーが宣言した。
2回戦。
双子は机にカードを捨て、新たに手札が配られた。
手札を確認。
「1枚チェンジ」
「んー。じゃあ3枚チェンジで」
先と同じ順番で机にカードが捨てられる。
カードを配布。確認。
「おっ」
「ん? どうした正志」
「いいや……へへ」
笑っていた。
♠Q ♣K ♥A ♣2 ♦3
「ストレート、だな」
「おおっ」「うわっ」「え、順番になったらやっぱり強いの?」
教室がざわついた。
「あーなるほど、だからお前、ニヤニヤしてたの?」
「うるせえ。はよ出せ」
♥2 ♦9 ♥8 ♣4 ♣9
「ワンペアだな」
「はい、二回目も弟の勝ちな」
ディーラーがまた同じように宣言した。
3回戦。
双子は机にカードを捨てる。
「おい。これで決めるんだろ?」
「ああ、そうだな。これこそが本番だ」
「勝った方が決めるってことでいいんだよな?」
「ああ、そうだな。そうしよう」
新たに手札が配られる。
手札を確認。
「……」
「おっと、どうした? ブタか? もしくはそんなにいい手なのか?」
「いや、別に……」
彼は周囲から見えないように手札を隠した。
「こっちは2枚」
先に兄の方が手を伸ばしカードを交換。
「……チェンジなしだ」
弟は考えた末、カードを出さなかった。
ディーラーが兄の方にカードを配った。
♣A ♣10 ♣6 ♣7 ♣8
「……フラッシュ、だな」
弟が手札を開示。注目が集まる。
「おー、すご」「ガラが同じだ」「コレ強いの?」「さっきのストレートより強いよ」「え、そうなの? ストレートの方が難しい気がするけど……?」
また教室がざわついた。
弟は兄の方をうかがう。
クラスの視線を集める彼は、ゆっくりと手札を公開。
♣4 ♣9 ♦10 ♦Q ♦A
「あちゃー……ブタだな……」
「……弟の勝ちだな」
またもディーラーが同じような宣言した。
双子の弟が、ガッツポーズをした。
「っしゃ! 俺の勝ちだな」
「ああ、やられたな……。おめでとさん。で、正志。どっちにする?」
「んー。それじゃ、俺の方にする。かっこいいし」
「わかった。それじゃ――ん?」
気配。
後ろを振り向く。
「おーいおいおい。なにをしてるのかなぁ? 君たちは」
恐ろしい笑顔。
2年3組担任教師が、小学校に不要なモノを持ってきて遊ぶ者共を見下ろしていた。
怒られた。
双子は職員室から出てきた。
「ったく。怒りすぎだろ……別に誰かに迷惑かけたわけでもねえのに……」
「ああ、うん。そうだけど。まあ良くないことだしさ。――あ、トランプは放課後に受け取りに来いってさ」
「手間だし面倒だな。まあ、トランプは任せたぜ。お前のだし。――でもまあ賭けごとまでしていたのは、バレなかったし、いいじゃねーか」
「それバレてたら、僕らもっと叱られてただろうしなぁ」
「んじゃ俺はいくから」
「ああ、そんじゃな。正志」
弟は自分のクラスに戻った。
クラスに戻る途中で、声をかけた。
「やあ、ナオ。さっきはディーラーしてくれてありがとう」
「ああ、苗倉か。いや、べつにいいんだけど。……あのさ」
「ん? どうしたの?」
ディーラーを務めたその生徒は、言いづらそうに告げた。
「いや、さっきのイカサマの件なんだけど……」
小学2年生の教室前廊下で、人に聞かれないように歩きながら話す。
「え、イカサマって?」
わからないように訊いた。
「さっきのポーカーの、だけど……」
「え、そうなの? やっぱ正志。イカサマしてたのか」
「……言うべきか迷ってたんだけどさ……」
「でも気がつかなかったなぁ。――ああ、だから三回も連続で勝っていたのか」
「……」
「いやー、僕、イカサマされたなんてまったく気がつかなかったよ。まあ、もう勝負は終わってしまったし、見抜けなかった僕も悪いし、しかたがないよなぁ」
あっけらかんと言う。
「それでナオ。正志はどうやってイカサマしたの?」
「……いや、そうじゃなくて」
「ん?」
ディーラーをしていたその子は、まっすぐ相手を見て宣言。
「イカサマをしたのは、おまえの方だろ。――兄の、苗倉真斗」
「え? 僕のほう? いやいや、なんでだよ。僕、負けたじゃん」
「ああ、まあそうなんだけど」
「弟の正志がイカサマしたって話じゃないの? 3回も連続で勝っていたし」
「いや、イカサマをしたのは苗倉――兄のおまえの方だよ。だから――」
「あ、そうか。兄弟とも苗倉だし、呼びづらいし、わかりづらいよね? 真斗って下の方で呼んでいいよ?」
「……じゃあ、そうさせてもらう。マコは――」
「えー、あだ名なのか……。マコって、なんか女の子みたいでヤだなぁ」
「おまえだってオレのことナオって、あだ名で呼ぶだろ。しかも勝手に」
「まあそうだけど」
軌道修正。
「話が飛んだな。――とにかくイカサマしたのはおまえ、マコだ」
「えー、正志じゃないの? 勝ったのはあいつなんだけど」
「だから、オレもどうするか迷ったんだ。――まあでも、始めに言っていたしな」
対戦前の会話を思い出す。
「言っていたよな、おまえが。――『不正行為があったら負けでいい』って。だからマコの負けってことにしたんだけど」
理にかなった審判だった。
それに不満そうに言いかえした。
「なんなんだよー。僕、3回とも負けてるんだけど? 3回もイカサマして負けたって?」
「はじめの2回は、なんの関係もないよ。イカサマがあったのは3回戦だけだ」
「え、じゃあ、僕は最初の2回は、ただ負けたってこと?」
「ああ、ただ負けただけ」
「ふーん。正志にはストレートやフラッシュが出てるんだけど……。あれもイカサマじゃなくて――」
「ああ、ただの運。偶然。すごいよな……」
「まあ、そうだね。でも、ありえないことじゃない、か……」
しみじみと感情を込めて言った。
「1回戦と2回戦は公正なゲームだった。――まあそもそも、『あの件』っていう賭けも、3回戦の勝敗だけで決めるって話になっていた。『ルール確認のためのお試し』の2回で、不正する意味はないだろ?」
「たしかにそうだね」
うんうん、と納得して頷く。
だが。
「でもナオ。僕がどうやってイカサマしたって言うんだよ。――そもそも負けてるしさ」
「うん。負けてんだけどさ。……マコがイカサマをしたのは確実だよ」
「えー。じゃ、どうやって? カードの山はナオが持っていたじゃん。多く引いたりとか、できないよ?」
「1回使ったカードを、もう1回使っただろ?」
「……」
少し黙ったあと、フッと笑った。
「はは。バレてた?」
「ああ、クラスの誰も気づいてなかったし、あの入れ替えテクニックはすごかったけど……」
「案外みんな気がつかないもんだね」
「たしか黒色の4と9が、2回使われていた。マーク覚えてないけど。――カードを机の上に捨てるふりをして、2枚を入れ替えたんだろ?」
使用済みカードは机の上に盛られていた。
手札のカードを捨てるのではなく、机上のカードと交換したのだ。
「そんでオレの配ったカード。ディーラーからのカードは、バレないようにポケットにでも入れたってところか?」
「おおー。正解。すごいな」
軽い雰囲気だった。
「それでマコ。なんで弟にわざと負けたりしたんだ? やっぱり、例の『賭け』ってやつが理由なのか。いや、その前に、なにを賭けたんだ。いや…………少し待て。考えるから」
「たぶん、賭けたモノは考えてもわからないと思うよ」
「……勝負の後、弟が言っていたよな。――俺の方にする、とか。かっこいい、とか」
双子で、どちらが入手するか、賭けをしていた。
俺の方にする。――もともとなにか持っていたモノということか?
かっこいい。――物品ということだろうか?
………………。
…………。
「プラモとか?」
「ちがうよ」
「ゲーム」
「ちがう」
「…………わからん」
「だよね」
腕を組んで悩む姿を見て、納得していた。
「降参。わらないから教えろ」
「わかった」
そして答えを告げた。
「一人称だよ」
「は?」
答えを聞いてもわからなかった。
「どゆこと?」
「だから、自分の呼び方だよ」
「よ、呼び方?」
「僕、俺、私、拙者、ワイ、ウチ、チン、そういう自分を表わす言葉」
「ち、……いや、知らない呼び方もあったけど……」
下ネタの類かと思って言葉にするのをためらった。
それでも、聞いても、わからない。理解はできなかった。
「なんじゃそりゃ。べつに好きに呼べばいいじゃん」
「でもさ、僕ら双子だろ。そっくりだし」
「あ、ああ。そうだけど」
「どちらがどちらか、わからないだろ。同じ一人称を使っていたら」
「ああ、そういうことか」
「だから一人称を分ける必要があったんだ。よく勘違いされるし」
「ああ、理解したよ。弟の言っていた『俺の方にする』っていうのはそういうことか。一人称を『俺』にするって意味か。なるほど。たしかに僕とか私よりも『かっこいい』な」
「そういうこと」
「あー。それで……でも、なんでわざと……ああ。そういうことか」
理解した。
「マコ。お前、だから弟に譲ったのか。――好きな一人称を使えるように」
「……まあ、そういうこと」
「まったく、優しい兄ちゃんだなぁ。気ぃ使いすぎじゃないか?」
「…………」
無言だった。
「でもさ。マコ。わざわざイカサマ使うまでもなくないか? ポーカーで負けるなんて、簡単じゃん」
「ん。そうかな?」
「あえてペアにならないようにカードを切ればいいんだから」
「それでもペアになってしまうことはあるだろ。ディーラーから配られるカードは、ランダムなんだから。――『確実に負けるため』には、イカサマするしかなかったんだ」
「まあそっか。偶然ワンペアくらいはできてしまうかも……」
「正志に配られているカードもわからないし。――それに、僕の方に配られたカードも、問題だったんだし……」
「ん?」
「本番――3回戦で僕がブタとして出した手札だけど、アレはさ――」
♣4 ♣9 ♦10 ♦Q ♦A
「――だったよね?」
「ああ、うん。そうだった。思い出した」
「そのうち♣4と♣9は、捨てられたカードから再利用したモノだから除外すると――」
♦10 ♦Q ♦A
「――この3枚が残る」
「うん」
「そして、僕はわざと負けようとしていた」
「ああ」
「でも、そう考えるとこの手札はおかしい」
「ん?」
「もしも万が一、イカサマが見破られた、できなかった、失敗したときは――やっぱり、ディーラーからのカードで勝負するしかない。――負けるように」
「ま、クラスのみんなの眼があったからな。イカサマが見破られる可能性もあったかも」
「再勝負になったら面倒くさいしね。だから手札はできるだけ崩したいはずなんだ」
「そうだな」
「けれど、さ」
「けれど?」
「スート。――マークが同じだろ。フラッシュができてしまう可能性がある」
「……たしかに。全部♦だな」
「さらに数字の方も。ストレートができてしまう可能性もある」
「ああ、そうだな。10、J、Q、K、Aでストレートができるな。ロイヤルストレート」
「山のカード――ディーラーからのカード次第では、ものすごく強い手札になってしまう可能性がある」
「負けようとしていたにしては、おかしい手札だな。もっと崩せばよかったのに」
「つまり、それ以上、もう崩せなかったんだ」
「え、あれ? もしかして――」
「ああ、つまり最初の手札が、最強だったってこと」
想像した。その最強を。
♦10 ♦J ♦Q ♦K ♦A
「ロイヤルストレートフラッシュかよっ!」
奇跡が起きていたらしい。
「ちょっ、え。ロイヤルストレートフラッシュって、何十万回に一回の確率じゃないのか?! いや、確率とかまだ教わってないし習ってないから、オレよく知らないけどさ!」
小学2年生が興奮していた。
「ああ、うん。かなり低い確率らしいね」
「それを崩すって……おいおいおいおい。マコ、何やってんだよ……」
「しかたないじゃん。負けようと思ってたんだから」
「いやまあ、しかたないけどさぁ。――ええぇ、ロイヤルストレートフラッシュを崩すかぁ、ふつう。えー。マジでかー」
その小学二年生は動揺していた。
「もういいだろ。その件は、俺、トイレに行ってから戻るから。ナオは先に教室に帰ってろよ」
「あーもー、別にそういうの言わなくていいから。わかった。オレは先に教室に戻ってるぞ」
そう言って別れた。
2年3組の教室に戻ってきた。
「やあ、ナオ。さっきはディーラーしてくれてありがとう」
やってきた彼がお礼を述べた。
「え? あれ、おまえ」
「ん? どうしたの?」
「いやマコ、トイレ行くんじゃ、なかったのか?」
「トイレ? 行ってないけど。――それよりマコって、僕のあだ名なのか……。マコって、なんか女の子みたいでヤだなぁ」
「いや、だって……。つーか、デジャヴなんだが……」
「なに言ってるの?――まあたしかに、僕もナオのこと勝手にあだ名で呼んでるけどさ」
「……これは、まさか」
「どうしたのさ?」
思えば、不自然だった。
――ロイヤルストレートフラッシュ。
自身に配られた手札のことを話しているのに、妙に客観的な視点からの推理がなされていた。
気がついた。
「きっとあいつ、なんとなく気がついていたけれど確証がなかったから、オレにカマをかけた。そういうことなんだろうなぁ……」
「そういうことって、どういうことだよナオ」
「あー、なんというか……」
「ん? なんというか?」
「その、わるいな」
「は?」
彼は意味がわからず首を傾げた。
トイレにて。
悪態をついた。
「――ったく。あのクソ兄貴はっ!」
――そんな訳でバレた。
お読みいただきありがとうございました。
お疲れ様です。
もしかしたら、知っている方もいらっしゃるかもしれませんが……
実は、この双子、
『ツインスタンダード』シリーズの登場人物だったりします。
こちらも基本日常ミステリ短編集になっております。
これも何かの縁なので、初見で
「お、これ、おもろいんじゃね?」
と思われた方、もしもいらっしゃいましたら、どうぞご覧くださいませ。
それでは、失礼いたしまする。