ナビィのお料理?教室
前話を二分割していれば書きためが出来たのでは……?
「むぎゅ!」
妙な声に意識が引き起こされる。
「むぐぅ、ありかちゃん!起きて!」
半ば眠った脳に声が届く。
「ううん……あと五分……」
「バカバカ!早く起きなさい!」
「いたっ!」
胸に結構な衝撃が来て目が覚める。なんだなんだと上半身を少し上に反らして下を見てみれば、うつ伏せになった身体とベッドの間にナビィが挟まっていたようだ。寝返りを打ったときに挟んでしまったのだろうか……なぜ?
「もう!信じられない!ボクを圧死させる気かい!?」
「いや、なんか、ごめん……」
私からすれば身に覚えがないことなのだが、酸欠からか顔を真っ赤にしていたり、装飾とはいえ羽が曲がっているのを見ると少し申し訳ない気持ちになる。
「うんうん、いいよ!じゃあ今日こそ料理してもらうよ!」
「えー……」
「嫌そうな返事しない!はいはい立って!」
なんか罪悪感を覚えさせるために怒ってたんじゃないかと思えてくる……渋々ベッドから立ち上がり、室内用の上着を羽織る。
母さんの服はありかの身体には少し小さい物が多かったが、これは大きめに着ていたのか、少し緩いぐらいだ。
一階に降りて、リビングの時計を見ると朝七時。昨日よりは遅めだが、十分早いと思ってしまう。
「朝ごはんとか、いらなくないか?」
普段から食べてないわけだし、必要性をあまり感じない。
「ダメダメ!ありかちゃんがいらなくても、晃くんが普段食べてなくても、ありかちゃんが晃くんにご飯を作ることが大事なの!」
「ああ、そう?」
女の子に飯作ってもらいたい、みたいなのはそりゃ願望としてあるけど、世話になりに来た女の子にやって当然だよなぁ?と圧をかけるようなやつじゃないと私は思うが。
「とりあえず、ベーコンとスクランブルエッグでも作ってみようよ。パパッとね」
ふむふむ、ベーコンとスクランブルエッグ。薄切りされたベーコンと卵を冷蔵庫から取り出す。
「ついでにお米炊いちゃおうか、あるといいよね」
うん、米ね。米の場所は分かるぞ。
棚から米が入っているタッパーを取り出す。
米は確か研がなきゃいけないんだよな。
炊飯器を開ける。鍋がない。
「あ、ありかちゃん、なにやってるの……?」
「え?見ての通り炊飯器の鍋を探してるんだよ」
キッチンの棚を端から順に開けていく。お、あった。
タッパーに一緒に入っていた計量カップで適量米を入れていく。水を入れて、研ぐ。水をこぼして、水を入れて、研ぐ。なかなか白いのが無くならないな。
「ありかちゃん!ストップ!」
「え?」
「な、なんでそんなにお米研いでるの……?」
「なんでって、米は研ぐでしょ。まだ白いの出てくるからまだまだかなー」
「……ぐぬぬ、やっぱり料理のデータ類をぶち込んだ方がいいのかな……」
ナビィは酷くショックを受けたように身体を震わせて独りごちた。なんだろう、未来では無洗米しかないのかな。
研ぐ。研ぐ。うーん、母さんの手伝いをした時は途中でそれぐらいでいいよ。と言われたから、どんぐらい研いだら終わっていいのか分からないな……。
「ありかちゃん……お米美味しくなくなっちゃうよ……」
「え?」
その後、ナビィから米研ぎがヌカ、なるものを取るためのもので、何度もやるものではないことを聞いた。この時代で当たり前のことらしく、衝撃的だった。私が今までやっていた米研ぎとは……?
「ちょっとちょっと!ベーコンは油が出るから油入れなくても……!」
「うわ!めっちゃ殻入っちゃった!ナビィ、取って!取って!」
「これはわざとじゃないと出来ないよ……自分で取って?」
と、色々あったがどうにか朝食の体裁が成り立った。
「アイツ起こしてくる……」
「ああ……うん……晃くんね……料理はボクが運んどくよ……」
役割を分けて、二階に上がる。自室のドアを開けてすぐに眠いっている晃が目に入る。コイツ……人が頑張って慣れないことしてる間もグースカ寝やがって……。
眠気が回って来たことと、慣れないことで疲れたことと、晃への恨みから、晃の上に倒れるように寝転んだ。
「ぐふっ!」
大袈裟な声を出して晃が目を覚ました。
「あ、あ、ありかちゃん!?」
「おう、飯だぞ」
「え!?飯!?」
「そうだ、私が苦労して作った飯だ」
「え!?マジ!?」
驚いてばっかだな。
少し気も晴れて晃から離れる。
「ほら、早くしろ、冷めるぞ」
言い残してリビングに降りた。
ちなみに、席に着いたときには二人ともニコニコだったのに、食後には両方とも苦い顔をしていたことから出来は察して欲しい。
「次は全部ボクの教える手順でやってくれないかな?」
「……ああ、うん」
どうやら酷い結果にも関わらず、料理は続けなきゃいけないらしい。
当然のことって誰も教えてくれなくて分からないままだったりする