時を越える悶着
「「凄いな、これは……」」
あまりの驚きに晃とハモる。
呼ばれてリビングに着いてみれば、思わず声が出るほどに、冴野さんの作った料理は手が込んでいた。
品目多く、それでいてメインはしっかりとした量を確保している。母さんが気まぐれで買って、それ以来使われることのなかった小皿が有効活用されているのを初めて見た。
「どうですか! 妖精さん!」
「ぐぬぬ……」
ふふん、と腰に手を当てドヤ顔の冴野さん。
ナビィを納得させたいのは分かるが、晃が困惑しているのでやめて欲しい。
「冴野さん一人で作ってもらったと思うと、申し訳ないな」
ナビィは手伝わなかっただろうし、結構な手間だろう。
「いえいえ! 慣れてますから!」
「なにか……なにかしていたはず……」
「そうか。じゃ、ありがたくいただくとしようか」
往生際の悪いナビィを放って置いて、席に着く。
人が作ったものを食べるのも久し振りだ。少しワクワクしながら、
「いただきます」
手を合わせてから食べ始めた。
「やっぱりダメだよありかちゃん! 晃くんを胃袋から取られちゃうよ!」
なんてナビィが騒いでいたけれど、同意出来るほどに冴野さんの料理は美味しかった。
脇腹に痛みを感じて目を覚ます。
見てみれば、私の脇腹に飛び蹴りを繰り返すナビィ。それなりに勢いがあって痛い。
「起きた、起きたからやめて」
「……ふん!」
ナビィが不機嫌だ。昨日の扱いの悪さが不満だったのだろうか。
「今日はきっちり晃くんにアピールしていくよ!」
「はいはい……」
といっても出来ることは変わらない。ナビィが強硬手段に出ないでくれるのは、まだ助かる部分だ。
朝食を作るべく、キッチンへ向かう。
「あ! ありかさん、おはよう」
「なんでぇ!?」
ナビィが悲鳴を上げる。……なんでいるんだ?
キッチンには、家から持って来たのかエプロン姿の冴野さん。
昨日の夕飯後に帰って、私より早く起きて朝食を作りに来たと言うのだろうか。
いや、それよりも
「冴野さん、どうやって家の中に……?」
「それはー、秘密の道具です」
冴野さんは少し言い淀んで言う。
「嘘だ! 冴野博士の作った未来の道具を使ったな!」
「え!? そんなことないですよ!? 未来から来てなんかいないですよ!?」
「ならどうやって家の鍵を開けた!?」
「えーっとぉ、それは……」
ナビィの簡単な尋問で答えに詰まる冴野さん。
しかし未来から来てないって弁解をする現代人がいるものだろうか。なにより、ナビィが知っているらしい人の娘って時点で未来人ではあるんだろう。
「ボクたちが過去の人に干渉するだけで影響があるのに、オーバーテクノロジーを持ち込むなんてなんのつもりだい!?」
「えぇ……そう言われても、僕はアレがないと、なにも出来ないのですよ。それに、妖精さん自体がオーバーテクノロジーじゃないですか!」
「うぐ、それは、そうだけど、キミはバレる可能性を考えてないのか!? こんな使い方をしたら晃くんに疑われるだろう!?」
そうなのか。天然なのか、あっさりと未来人なことを認めるような発言をする冴野さん。
バレる可能性の話をすると、ナビィの方が危うい気がするが。私がいるし。
「だとしても、僕は晃さんのお嫁さんにならなきゃいけないのです!」
「なんだって!?」
なんだろう、未来人って子孫繁栄ばっかり考えているんだろうか。
「パパは言ってました、既成事実があればどうとでもなると!」
「た、確かに……」
確かに。じゃないよ。人をなんだと思っているだ。
「ありかちゃん、余計に晃くんを渡せなくなったよ!」
「……ナビィ、なんでそんなに冴野さんを敵視するんだ?」
気になっていたことの一つだ。未来人ということはともかく、冴野さんが悪い人とは思えない。
「……ナビィ? ……ナビィリィン?」
冴野さんが小声でなにかを呟いた。
ナビィは冴野さんを気にするように視線を彷徨わせ、口を開いた。
「……冴野博士は、ボクのパパに突っかかって来る人だよ。ライバルだなんて自称してたけど、似たような発明ばっかで、ボクにはパパの邪魔をしてるようにしか思えなかった」
未来でのゴタゴタが原因か。
「そんなことないです! 妄言はやめてください、リィン!」
「ボクをそう呼ぶのは、やめてもらえるかな?」
冴野さんの発言をきっかけに、突然険悪な空気を漂わせる二人。
「どうして名前を聞いても教えてくれないのか不思議でしたが、リィンシリーズだったのなら納得です。あなたは何号機なんですか?」
「……キミには関係ないだろ。ボクはナビィだ」
「あなたの中ではそうなのでしょうね。量産型の方の気持ちは分かりませんが」
先ほどまでと一転して、冴野さんがナビィを問い詰めるように話し始めた。リィンシリーズ?
「……気分が悪い。ボクは部屋に戻るよ、家を出るときには呼んでくれ」
そう言ってナビィは二階に飛んで行った。
「そんな機能、ないくせに」
そして、どこか冷たい表情で呟く冴野さんと私の二人が取り残された。




