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猫耳ポニーテール娘

 晃は相変わらず冴野さんに食事を食べさせてもらっている。これ、一回だけならカップルの甘酸っぱい感じだが、ずっとやっていると赤ん坊に食事させてるようにしか見えなくなるな。


「晃さん、ほら食べて食べて」

「む、むぐ」


 冴野さんの方も最早食べさせることを目的にしてるように思える。早いペースに晃は少し苦しそうだ。


(まさか直接殺すつもりか……? しかしそれは……)


 冴野さんはニコニコとしながら晃の食事を箸で運ぶ。おいしいですか? なんて合間合間で聞いては、より一層笑みを深めている。

 疑い過ぎなんじゃないか? 本人は善意でやっているようにしか見えないぞ。


(わざわざボクの姿が見えてるなんて言ってきたんだ。敵対者の牽制としか思えないよ)


 それは……そうか。

 冴野さんが晃を殺そうとしているとは思えないが、ナビィが見えているような発言は確かに気になる。そのことを伝える意図も含めて。


「うぷ、あ、ありがとう。じゃあ俺、片付けてくるから……」

「おう、私が作ったのも後で食べろよ」

「りょ、了解……」


 フードファイターばりの速さで食事を終えた晃は、吐き出しそうな表情で席を立った。

 腹が落ち着いてから行けよ、と思わなくもないが、返却口は昼休みの終わりに近づくにつれて混み出す。早めに片付けるに越したことはないだろう。


 さて、問題はここからだ。もし、冴野さんがナビィの想定するような人なら、私の質問には答えてくれないかもしれない。


「冴野さん、私の頭の上のコイツが見えてるの、どうしてだ?」


 ナビィを指差し、言葉を選んだ私の質問に対する返事はない。

 冴野さんが手をつけていなかった昼食を口にしていたからだ。口に食べ物が入っているうちは話すつもりがないのか、咀嚼する速度が上がって、ゴクンと喉を動かし呑み込んだ後に口を開く。


「どうしてって……そこにあるのですから、見えますよ。ありかさんはご飯を食べないのですか?」

「……食べさせてもらうよ」


 忠告は受け取ることにして、弁当を開く。どうやら、簡単には答えてくれないようだ。


「だけど、コイツは他の人に見えないようにしてるって言ってて、実際に冴野さん以外には見えてないっぽいんだ。なにか理由はあるだろ?」

「え!? そのネコミミさんは喋るんですか!?」


 ネコミミ……猫耳? なんで今猫耳なんて単語が出てくるんだ?


(ああ、もう! じれったい!)


 ナビィの叫びのあとに頭が少し軽くなる。ナビィが離れたのだろう。


「正直に答えて! キミは冴野博士の娘か!?」


 冴野さんの目前まで飛び立ったナビィは、周りに響くことも気にせず声を上げた。

 周囲が騒がしいとはいえ、なにをやっているんだ。冴野さんも驚いた表情をしている。


「わぁ! ネコミミさんが妖精さんになりました! どうなっているのですか!?」

「しらばっくれないで、質問に答えて!」


 さっきから冴野さんの驚くポイントがおかしい。猫耳ってなんだ。


「えーっと、うん、そうです。僕はパパに生んでもらいました」

「やっぱり! ありかちゃん、間違いないよ! この子はボクたちの敵だ!」


 冴野ちゃんの、これまた不思議な言い回しにナビィが確信を持ったように私に伝える。

 しかし、私にはそれ以上に気になることがある。


「なぁ、ナビィ」

「なに!?」

「ネコミミって、どういうことだ?」

「え?」

「僕も気になります! 妖精さんはネコミミさんなんですか!?」

「光学迷彩を抜けられてもいいように認識阻害はしてたけど……ってそんなことどうでもいいでしょ!?」


 どうでもよくないよ。今の今まで私は見えない猫耳つけて歩いてたってこと? めっちゃ恥ずかしいじゃん。


「なるほど! 妖精さんはネコミミさんではなく、ネコミミさんが妖精さんだったのですね!」

「だから、それはどうでも」

「ただいまー」

「クソっ……」


 怒り狂った様子のナビィだったが、晃が帰って来たことで大人しくなる。

 流石のナビィも晃に気付かれるのは避けたいのだろう。すぐに私の頭の上に戻って来た。今も猫耳をつけているように見えるのだろうか。


(どっちにしろキミたち二人にしか見えないし、聞こえないようにしてたよ。だけど、晃くんが戻って来ちゃうと……クソっ、冴野博士の人造人間が……!)


 人造人間? 冴野さんはどう見ても普通の人間だが……食事も摂っていたし。


「おかえりなさい、今まで妖精さんが居たんですが、ネコミミさんに戻っちゃいました。あれ、でもネコミミさんは妖精さんだから……」

「……どういうこと? ありか、分かる?」

「……さあ? ファンシーな人なんじゃない?」

「あー……そっか」


 晃は微妙な笑みを浮かべた。すまん、私としてもどういう人なのか、分かりかねてる。


(そうか、そうやって晃くんから近づかないようにする方法が)


 なあ、ナビィ。


(なに?)


 頼むから、猫耳はやめてせめてカチューシャぐらいにしてくれないか?


(……)


 昼休みが終わっても、ナビィからの返事はなかった。

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