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おつかいイベント

 あれからナビィに何度か問いかけてみるも、まともな答えは返って来なかった。

 ホームルームの時間からぶつぶつと自分に言い聞かせるように呟き続けていたナビィも、昼休みになる頃には完全に静かになった。

 私の質問に返事が返って来ないのに、ナビィ側から思念を伝えられ続けるのは少し辛かったので、ある意味ではよかったのかもしれない。



 昼休みになって、私と祐介の席に晃と莉子が集まる。隣の人の机を借りてくっ付けて、あとは早苗ちゃんと結花を待てばいつもの昼食時間だ。


「冴野さん、大変そうだな」


 晃がわたしの後方を見て苦く笑う。振り向けば、中心の見えない人だかりがある。

 学食組の分は減っているとはいえ、冴野さんと一緒に食事したい人は多いようだ。

 私のときと違って、莉子の威圧や祐介の介入がないのに加えて、誰からの質問でも分け隔てなく答えているからだろう。

 隣のクラス——かどうかも定かでない生徒たちが入ってきて、質問して盛り上がってから出て行く様は少し面白かった。


「だな」


 晃に同意しつつ、なんとなく集団を見ていると、人の波が割れる。誰と食べるか決めたのだろうか?

 冴野さんがモーセのごとく私たちの方に歩いてくる。

 まっすぐ歩いてきてそのまま通り過ぎるのかと思いきや、私たちの手前で立ち止まり、その可憐な口を開いた。


「柏倉さんはいますか?」


 晃と私で顔を見合わせる。居るには居るが、どっちだろう?


「二人いるよー」

「なるほど。では晃さんはいますか?」

「あー、俺だけど」


 莉子の気の抜けた返事で晃の方であることが判明。どちらにしても、転校生に話しかけられる理由は——


(あるでしょ?)


 あるか?

 ようやくナビィが会話をしたと思えばまた意味深な調子だ。


「そうでしたか! 晃さん、お会いしたかったです! 僕と食事に行きましょう!」

「……は?」


 お?

 晃が返事するとすぐに距離を詰め、晃の手を両手で掴んだ冴野さん。

 周りが困惑している間に晃の手を引いて移動し始めた。


「ちょ、ちょ、ちょ、なに!?」

「いいから行きましょう! お話はそれからです!」

「いやいや、離し……って力つよっ!? ちょ、弁当!」


 晃は叫びながら廊下へ消えていった。弁当を机に残して。


「……なに、あれ?」

「……さぁ?」


 あとには状況に着いて行けない私と莉子、それと祐介が取り残された。冴野さんに集まっていた人たちは、一緒に食事出来ないことを知ってそれぞれ散り散りになった。


(なにやってるの!? 急いで追いかけて!)


 なんでそんなにピリピリしてるんだよ?


(いいから!)


 はいはい……。


「晃に弁当届けてくるわ」

「はーい」


 とりあえず私の弁当も持っていくか。











 追いかけて、と言われて教室を出たはいいが、既に二人の姿はないわけで。

 食堂か、購買か。もしかすると校外に出た可能性もある。


(晃くんならどこに行くの!?)


 晃なら、食堂かなぁ。


(急いで!)


 はいよ。




 それなりに広い食堂で晃を探す。見つからない。

 冴野さんを探してみよう。

 ……いた。長い髪はやはり特徴的だ。

 二人は既に食事を頼んだようで、二つのお膳がテーブルに乗っていた。弁当あんのになに頼んでんだよ。


「晃さん、はい、あーん」

「あ、あーん」


 初対面も同然の女の子にあーんされる晃。流されやすいにも程がある。チョロい。


(やっぱり、間違いない、クソ! そういうことか!)


 口が悪いな。いい加減になにをそんなに怒っているか教えてくれないか?


(察しが悪いな、もう! あの子が晃くんの女嫌いの原因だ! 未来人ってオマケ付きでね!)


 え? でもめっちゃ好意的に見えるけど。


(そういう策略でしょ! こんな時期の転校生な上に、冴野が晃くんに近付いてくるなんて!)


 いや、それ、私が言えたことじゃないし……。というか冴野さんがどうしたんだよ?


(説明はあと! 早く二人の邪魔して!)


 邪魔って言っちゃってるじゃん……。

 ただ、私としても食堂の通り道で立ち尽くすのはごめんだ。二人の元へ歩みを進める。


「こんにちは」

「どちら様?」

「ありか!?」

「弁当、届けに来たぞ。もう必要なさそうだけど」

「その、悪いな……」


 ひとまずは晃に弁当を手渡して向かいの席に座る。邪魔はしたけど、この先は?


(晃くんに近づかないように言って!)


 却下。印象悪過ぎ。


「いいよ。別に。冴野さんに誘われてたの見たし。冴野さん、私は柏倉ありか。クラスメイトだ。よろしく」

「もう一人の柏倉さんでしたか。よろしくね」


 ニコニコと笑顔でこちらに手を差し出して来た。握り返して握手をする。

 とても罠に嵌めようとしているようには見えないんだが。


(演技に決まってる! 晃くんに近づく目的は!?)


 まあ、それぐらいならいいか。


「一つ、質問いいか?」

「はい、どうぞどうぞ」


 特に嫌がる様子もない。むしろ晃の方がビクビクしているぐらいだ。


「なんで晃に近づく?」

「そ、それは」


 まさかの動揺した反応。本当に晃を陥れに来たのだろうか。


「少し、言いづらいんですけど……」

(ほらほら! 化けの皮が剥がれるぞ!)


 お前の方が剥がれまくりだよ。ボロボロじゃねぇか。


「助けてもらったことがあって、恩返しと言いますか……」


 恥ずかしそうに、指を絡めながら冴野さんは言った。まるで恋する乙女といった感じに頬を染めている。


(あ、ありえない……!)


 どういうことだよ、ナビィ……。

 ポンコツ妖精の想定と違って、只のいい人っぽいぞ……?

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