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会話の遠投

 どうやら早苗ちゃんは祐介を迎えに来たらしい。

 隣接した家に住んでいる二人は、月に一回は必ず家族ぐるみで食事をすると聞いている。

 普段は二人でデートに行き、それから食事をしている。と散々惚気られているわけだが、今日はデートがなかったようで祐介は完全に忘れていたらしい。


 それに対して早苗ちゃんはクールな顔を怒りで歪めながら、洗濯途中の服を着た祐介を連れて帰って行った。風邪をひいてもあたしが看病するだけだから、と祐介の弱々しい文句も、晃の遠慮がちな心配も振り払っての帰宅だ。

 祐介が濡れた服の影響で凍傷にならないことを、少しだけだが祈っておこう。






 嵐のようにバカップルが去ったあとは、いつも通りに夕飯を食べ、ゲームをした。死んだら交代の交互制だ。疲れたら動画を見て、それにも疲れ果てたら眠る。

 起きたらゲームの攻略法を相談しながら適当な朝食を食べて、再びゲームと動画のローテーションだ。

 一人で過ごす休日の大半はこんな日々だっだが、やはり二人で会話しながら遊ぶとまた別の楽しさがある。まあ、分身して遊んでるようなものだが。


 そんな風に休日が過ぎて、学校の日がやってくる。

 朝は憂鬱だ。

 ナビィに生活リズムを矯正されたことで、以前ほど起きるのが辛いということはないが、それでも寝起きにせかせか動かないといけないのは大変だ。

 顔を洗って目を覚まし、少し慣れてきた弁当作りをする。

 意外と冷凍食品の使い勝手がいいことに気付いてからは時間も少し短縮出来た。ナビィは苦い顔をしていたが、晃も満足していたし問題ないだろう。


「おはよー……」

「ああ、おはよう」


 眠そうながらも晃が自力で起きてきた。弁当に詰め切れなかった余りを皿に盛って朝食とする。

 食事も終わり際になれば、インターフォンが鳴る。今日は祐介が迎えに来てくれたようだ。急いで準備をするとしよう。









「え! ありかちゃん修学旅行行けるの!? やったー!」


 例のごとく六人で机を囲んでの昼食。早苗ちゃんが祐介に餌付けをしているところを見ると、夕食ブッチの件は解決したのだろう。


「父さんが行っていいってさ、な、晃?」

「むっ!? むん」


 話しかけられると思っていなかったようで、咀嚼中に焦りながら頷く晃。

 私が修学旅行に行くのは晃が行けてこそだからな。


「じゃああとはリっちゃんだね! どうかな、行けそう?」

「うーん、リコは、その」

「……もしかして、おうちの事情?」」


 微妙な反応の莉子に、結花が気まずそうに聞く。

 家の財政が厳しいのであれば、今までの問いかけは何気なく莉子を傷付けることになっていたかもしれない。


「あはは、ちがうちがう。ママは行けって言うんだけど、リコがちょっとね」

「そっかぁ、でも、行けそうなら教えてね!」

「もちろん!」


 それを機に話題は移り変わった。結花と莉子が主に話して、アリーはどう? と聞かれたら私が話すようキャッチボールだ。

 結花と莉子のように豪速球を投げ合うことは出来ないけれど、隙を見て、今日うちに遊びに来ない? とボールを投げてみたが、それぞれ塾とバイトということでキャッチボールが終了した。

 私の晃に彼女を作ろう計画が……。


(まったく、そんなに晃くんの彼女は嫌?)


 いやだね。


(嫌いなの?)


 まさか。自分なんだ、嫌なとこはあっても、嫌えないよ。


(じゃあなんで?)


 なんでって……だって、自分だし。そもそも男と恋愛するなんて考えられないよ。


(ふーん。なんだか前時代的だな〜。でもボクは、ありかちゃんを彼女にするよ。そう言ったからね)


 ……勘弁してくれ。あーあ、晃の彼女になってくれるような素敵な女の子がいないものか……。


(晃くんの魅力が足りないんじゃない? それに、ここにいるでしょ!)


 お前……間接的な先祖に向かってなんて失礼な……。

 それに、私はならないったらならないからな!












 翌日。

 教室は少し盛り上がっていた。この原因は私にも分かる。教室の後ろの方に席が追加されていたからだ。一つだけ出っ張るように配置されており、目についた。


「転校生か?」

「みたいだね。ありかちゃんと同じように、変な時期に転校してくる人がいるとは思わなかったよ」


 その点は否定しきれない。私もこんな時期に? と思ってしまった。


 祐介と話していると少しして、担任が入ってきた。


「えー、今日も転校生がいます。入ってー」


 雑だな。入る側は緊張するんだからもっと丁寧にやってあげろよ。

 扉を開けて入って来たのは、女の子。ロングの黒髪が真っ先に印象に残る。

 教壇の前まで辿り着くと、チョークで名前を書き出した。……あれやった方が覚えてもらえたかもな。


冴野(さえの)アヤです。彩の字が気に入っています」


 黒板に書かれたアヤという名前。その横に並べるように彩という字が書かれている。

 少し変な自己紹介だが、その陶器のような肌と優しげな整った顔立ちにクラスのテンションは上がり気味だ。今にも質問に押しかけそうだ。


(冴野……?)


 どうした? ナビィ?


(いや、関係ないはず。でも、こんな時期に……?)


 おーい、ナビィー?


(大丈夫、問題ない。ボクはやり遂げる、大丈夫)

「それじゃあ冴野さんの席は後ろの方だから、あの席に座ってね」

「はい」


 ナビィの呟きに気を取られていたら、冴野さんの自己紹介は終わったようだ。

 自分の席に向かう途中、冴野さんは私の横で立ち止まり、私を見てくる。どうしたんだろう?


「可愛い頭飾りね」

「え……? うん、ありがとう?」


 頭飾り……ポニーテールを結ぶヘアゴムのことだろうか? 言い残してまた歩いて行ったので聞けなかった。


(違う)


 え?


(あの子、ボクのことを見てた)


 いや、ナビィは他の人に見えないようにしてるんだろ?


(だから、おかしいんだ。やはり、そうなのか……?)


 どういうことだよ?

 ナビィは一人でぶつぶつ呟くだけで答えてくれない。


「はい、じゃあこれでホームルームを終わります。皆さん、ほどほどにね」


 その声を合図にクラスメイトは冴野さんへと集い始めた。冴野さんに聞くのも、無理そうだ。

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