ぼっち同盟
「友達と旅行に行けるんだよ!? 行くよ! もちろん!」
昼休みに私のクラスに来た結花の発言だ。どうやら凄く楽しみにしているようで、祐介の問いかけに随分と食い気味に答えていた。即断即決といった様子の結花に、私と莉子には苦笑いが浮かぶ。
「リコ、特進クラスって修学旅行には行かないと思ってた」
言われてみればそうだ。一年後の受験に向けて、昼休みにも単語帳を手放さないような連中の集まりだ。
三泊四日らしい沖縄旅行よりも英単語の一つを優先するのではないか。ぐらいの偏見はある。
「クラスのみんなはそうかも。でも! そのおかげで特進クラスで修学旅行に行く人は、通常クラスの班に入ることになるんだって! これってリっちゃんとありかちゃんと一緒の班になれるかもしれないってことだよ!」
「結花、特進クラスに友達いないものね」
「そんな! わたしには早苗ちゃんがいるもん!」
「ふふ、そうね。一緒の班になれるといいわね」
「うーその問題があったかぁ、秋月くん人気そうだもんね」
期待に満ちた結花を前にしすると、行かないかもと伝えづらいな……。
「あはは……でもリコは行けないかも」
「えー! そんなぁ……」
「あー、私もかな」
「ええっ! そんな!」
さらっと告げた莉子に便乗して行かない可能性を伝える。期待だけさせるのも悪いし、助かった。
「え、じゃあ結花ちゃん下手したらボッチ?」
「ボ、ボッチ……わたし、ボッチ……?」
「こら、祐介。結花は実際にボッチだったときがあるんだから。デリカシーないよ」
「うぅ……ぐぅぅ……」
祐介のデリカシーのない発言に、それ以上にデリカシーのないカバーを入れる早苗ちゃん。カバーになっていない。
ついには結花がわたしなんて……と暗く呟き始めている。
「それ以上はやめたげなよ……」
耐えきれずといった感じに晃が言う。友達と言える友達が祐介ぐらいしかいないからな。ボッチの気持ちは分かるような気もする。気がするだけだが。
「ユイユイ……! リコもボッチだったけど、今は違うよ! ユイユイがいて、アリーがいて、サーナがいるよ!」
「リっちゃん……!」
感極まったようにヒシッと抱き合う二人。くぅぅ! なんてうめきが聞こえてくる。どんだけ悲しかったんだ。
「よかったじゃない、結花。今はこうして友達も増えて」
優しく微笑む早苗ちゃん。そもそもの原因が物凄くニコニコしている。
「早苗ちゃんもだよ〜!」
輪に早苗ちゃんが加わって三人に。強く抱きしめられて、嫌がるような表情はするも早苗ちゃんの手は結花と莉子の背中に回っている。
「ほらほら、ありかちゃんも〜!」
すっかりご機嫌な結花に引き込まれて、私も輪の一部になる。なにがとは言わないが、凄く柔らかい。
ぴょんぴょん跳ね出した結花と莉子に引っ張られて身体を上下に動かしていると、なんだか楽しくなってきた。そして視覚的にも非常によい。
「あはは、あはははは〜!」
トリップしたように笑い出す結花にクラスメイトはドン引きだが、私の視線は結花の胸元に釘付けだ。
「あれ、俺らは?」
「女の子は女の子同士ってこった」
一瞬で蚊帳の外になった祐介が気が抜けたように言い、晃が少し投げやりに言った。
そうなると、私と晃の関係はなんなんだろう。やはり親戚だろうか?
今日は結花は塾、莉子はバイトがあるとのことで、晃と二人で帰宅した。
自室で服を脱いで、自分の胸をブラごと手で揺らしてみたり、姿見の前で飛び跳ねてみる。
うーむ、この身体の胸はそれなりに大きいと思うのだが、結花の揺れようはこれ以上だった。着痩せしていて見た目以上に詰まっているのだろうか。
しかし不思議なものだ。この身体になってからも、男のときとは少し感覚が違うが女性の胸には目が行ってしまう。これは魔性のモノなんだろう。間違いない。
「ありか! 俺、修学旅行行ける! ありかは!?」
そう叫びながらノック無しで部屋に入って来た晃と目が合う。テンション上がって勢いそのままに突っ込んできたのだろう。
身体を見られるのはまあいい。晃だし。
ただ、このタイミングなのはよくない。
上半身はブラだけなのに対して、スカートもタイツも履いたままだ。そんな状態で胸に手を当てているのはあらぬ誤解が——
「あ、ごめん、着替えてる途中だった? 俺の部屋来たときにどうだったか聞かせてよ、じゃ!」
あまり動揺した様子もなく晃は部屋を出て行った。
私と晃の関係はなんなんだろうな。短い期間で慣れ過ぎじゃないか? くっ、状況が状況なだけに少し恥ずかしい!
(そ、そんな……晃くんって不能なの……?)
失礼な。健全で正常な男子高校生だぞ。
多分、異性としての認識が薄くなって来たんじゃないか? 私としてはありがたい限りだ。
(困るよ! そんなの! ありかちゃん、晃くんを押し倒して!)
……百歩譲ってそこまではやったとしてもその先は絶対にやらないぞ。
とにかく、晃が修学旅行に行くことになったからには私も行かなければならない。
着替えて、遊びに行くついでに伝えてやろう。あの様子なら喜んでくれるはずだ。
着替える最中、鏡に映った私は少し笑っている気がした。……修学旅行に行けるからだ! そうに違いない!
(晃くん……どうして……)
ナビィはしばらく落ち込んだ声色だった。そこまでショックを受けることだったのだろうか?




