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実は俺、

「わぁー! ありかちゃん家一軒家なんだー!」

「そうだよ」


 遊びに行きたいと言いつつ家の事情は考えてなかったらしい結花に適当な返事を返して、晃が家のドアを開けるのを待つ。

 今までは一緒に行動してたり、晃が鍵を掛けずに家にいてくれたおかげで問題なく過ごせているが、防犯面を考えると合鍵を作る必要があるだろう。

もっとも、私が思い当たった時点で晃も既にそのことは考えているだろうし、任せる方向で行こう。


「どうぞ入って」

「お邪魔しまーす!」

「お邪魔、します」

「悪いな」


 ドアを開けて皆を招き入れる晃にそれぞれ一言ずつ告げて家に入って行く。

 テンションが上がってるのは分かるが、家主より先に入ってなにをするつもりなんだ。


「わー凄いねー! ね、リっちゃん、凄くない?」

「う、うん。ユイユイがどれを言ってるか分からないけど、凄いと思う」


 リビングへ行った二人を追い付いてみると、語彙を無くした結花と戸惑いの莉子。莉子は一回来てるからな、新鮮に驚くのは難しいんだろう。


「見て! テレビ超デカイ! 凄い!」

「うん、リコもそう思う」

「ほら! ソファふかふか! 凄い」

「うん、リコもそう思う」

「しかもカーペット敷かれてる! 凄い!」

「う、うん、リコもそう思うよ」


 目に付くもの全てに凄いと言ってまわるんじゃないかと思える結花に気圧されながらも話を合わせようとする莉子。

 結花のはしゃぎようは意外だが、莉子のまともな感じの反応もまた意外だ。


「ねぇねぇ! ありかちゃんの部屋行こ! どこどこ?」

「私の部屋って、晃のお母さんの部屋そのまま使ってるだけだけど」

「いいからいいから! 行こ行こ!」


 どこかナビィみたいな話し方をしだした結花に押し切られて二階の自室へ案内する。


(いやいや、ボクはもっとインテリジェンスな感じがだね……)


 そうかぁ?

 ウッキウキの結花と少し期待した表情になった莉子を連れて部屋に入ると、予想していたのと違い結花の反応がない。

 振り向いてみれば気の抜けた顔をした二人の姿。


「どうした?」

「なにもないなぁって……」

「空いた部屋を借りてるだけだからな」


 といってもベッドもあるし、姿見も化粧台も置かれたままだ。前のショッピングで買った服の類はタンスとクローゼットにしまっているし、必要なものは揃っていると思う。


「もっとぬいぐるみとか沢山並んでると思ってたのに……」

「もっと物が散らばってると思ってたのに……」

「お前らは私をなんだと思ってるんだ」


 確かに晃の部屋は散らかっているが。


「だってありかちゃんぬいぐるみ抱いて寝るのが似合いそうじゃん!」

「だってアリー、サバサバしてるのに雑そうなんだもん!」

「結花はともかく莉子はただの悪口だな?」

「アハ……カッコかわいいってリコは思ってるヨ」


 出来る限りの低い声で脅すように言うと、どこかカタコトで莉子が返す。まったく、どこまで本気なのやら。


「それにしても、化粧品もなさそうだけどどうしてるの?」

「どうって……やってないけど」


 元々あった化粧品は母さんが全部持って行ったっぽいからな。一応安いやつをナビィに買わされて、毎朝化粧しろとやかましいがやる気はない。


「ええぇ! 嘘でしょ、素でこの顔なの!?」

「ま、まあ」


 本当か確かめるためか、私の顔をペタペタ触りながら顔を近づける結花。どうしてこうも距離が近いんだ。


「あ、ありえない……」

「ま、元が可愛いならいいじゃん? リコは髪が気になる!」

「ゆひか、はなひてふれ」

「あっ、ごめん」


 ぐぬぬ……と睨むような表情の結花に引っ張られた頬が痛い。

 髪? 確かに髪は重力に従うままだが問題は感じてないぞ? ナビィもなにも言ってこないし。


「髪かぁ……ありかちゃんの髪綺麗だし、なんでも似合いそう」

「サイドポニーしよ? リコとオソロにしよ?」

「大変そうだからやだ」


 リコのサイドテール……ポニー? は編み込んでいるのか複雑そうだ。これを採用した日には、ナビィによって奪われる睡眠時間がとんでもないことになるだろう。


「一応、簡単に出来るのもあるよ?」


 そう言ってどこからかヘアゴムを取り出した結花はあっという間に小さくサイドテールを作り出した。凄い。魔法でも使ったの?


「あ、でもアリーのカッコよさを生かすならアレがいいかも!」


 言うや否や正面から抱きつくように私の髪に手を伸ばす。だから、近いよ。しかも莉子は髪を結ぶのに集中しているのか私に目が向いていない。なんだろう、この背徳感。


「よし、オッケー! めっちゃ似合ってるんじゃない!? ユイユイ!?」

「おお……これは予想以上に……」


 過剰に思える反応をする二人に、流石の私も気になって鏡を見ようとした。


「ありかー、ココア入れたぞー」


 そんなタイミングに部屋のドアがノックされる。晃だ。

 祐介が遊びに来たときはお茶すら出した記憶がないが、気が使えるようになって……。

 自分の成長を晃のことのように……じゃなくて晃の成長を自分のことのように喜びつつドアを開ける。


「はい、こ、れ……」

「おう、おおっ!?」


 耐熱のコップが三つ乗せられた盆を受け取ろうとしたところ、急に晃の手が離れて失ったバランスをどうにか取る。


「どうしたよ」

「あ、いや、ごめんっ」


 逃げるように言い残して晃は自分の部屋へ入って行った。ったく、お礼ぐらい言わせろよ……。


「変なやつだな……」


 我ながら理由の分からない行動であったが、横目に鏡を見て得心がいく。

 そこにはポニーテールの似合う美少女がいたのだ。

 毎朝鏡を見ては美少女がいるなと思うことはあれどもここまでの衝撃はない。数秒見惚れてしまったほどだ。


「私、明日からポニテにする」


 先ほどまでの面倒だの大変だのの考えは頭から一片残らず吹き飛んでいた。

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