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机くっつけた机

「弁当自分で作ってるの!? アリーは凄いな~」


 やけに近い距離で左隣の莉子が言う。アリーとやらは、私のあだ名らしい。友達になったんだからあだ名で呼び合わないと! という莉子の謎理論の下に決まった。それまで普通に名前で呼んでただろ、友達だと思ってないのにあの距離感だったのか? なんて私の文句は聞き流され、リっちゃんって呼んでね! とのこと。絶対に呼んでやんねぇ。


「別に、簡単なやつだし。莉子の弁当の方が立派だよ」

「ママが仕事終わりに頑張って作ってくれてるからね! でも、自分で作ってるのは凄いよ!」

「そうそう、凄い。しかも美味い」


 莉子に便乗して晃が弁当を褒めてくる。レシピ通りにやっているだけだからお前も出来るぞ。というかお前がやってるようなもんだぞ。と思わなくもないが、褒められて悪い気はしない。


「あ!」


 急に莉子がなにか思い出したように叫ぶ。なんだ?


「アリー、リっちゃんって呼んでよ!」

「やだよ」


 言い出しっぺが忘れてんじゃねぇか。


「あはは……莉子さん、思ってたのと全然違うや」

「もっと人を寄せ付けないものと思っていたけれど」


 苦笑いを浮かべながら言ったのは結花と早苗ちゃんだ。今日は特進クラスの席が空きそうにないからと私たちのクラスでの昼食となった。祐介もまた私の正面で自分の弁当をつついている。軽く紹介をしただけで莉子はあっさり馴染んでしまった。

 ちなみに自分のクラスで食事をすることだが、晃と同じ家に住んでいることと、祐介と仲良く話しをしたことでクラスメイトからの関心もわりかし薄くなったのでそれほど居心地の悪さはない。加えて大きいのは莉子の存在だろう。


「うーん。リコは友達が欲しいんだけど、みんな声かけると逃げちゃうから、諦めた!」


 明るく莉子は言う。一応進学校であるこの学校で莉子の姿は正直浮いている。一人だけ派手であり、一番近い表現を探すならギャルだろう。ゆるギャルだ。悪事の悪の字に一切関わりたがらないわが校の生徒たちはどうしたって避けようと思うのだろう。


「そんな……可哀そう……!」

「髪を黒くすればどうにかなったんじゃないか?」

「これはママが褒めてくれたからやだ!」

「そーかい」


 口に手を当て大げさな反応をする結花を傍に簡単な解決策を放棄する莉子。本人がいいならいいんだろう。


「莉子さん! わたしと友達になりましょう!」


 結花は立ち上がって莉子に宣言した。机の角を挟んだ莉子に向かって右手を差し伸ばし、左手は涙を拭くような仕草をしている。いや、涙出てないぞ、結花。


「んー、オッケー! 結花はなんて呼んで欲しい? ユイユイ?」

「わあ、素敵なあだ名ね! わたしもリっちゃんって呼んでいい?」

「もちろん! よろしくね、ユイユイ!」


 強く握手を交わした二人。

 特進クラスの優等生徒と落ちこぼれギャルの麗しい友情がここに……って莉子の成績分からないんだけどな。

 といっても結花はどちらかといえば莉子よりだ。茶髪のボブカットはともかく変に着崩そうとしていたり、アクセサリーを付けていたりする。中身は真面目な印象を受けるのだが、そういうファッションが好きなんだろうか。


「……なんだか、仲間はずれみたいで少し寂しいわね」

「いいじゃないか、早苗もさーちゃんって呼んでもらったら? って痛っ! なんで脇腹突くの!?」

「早苗ちゃんもリっちゃんと友達になろうよ! ね!」

「いいこと言うじゃんユイユイ~。さーちゃん、よろしく!」


 脇腹を小突かれて悶絶する祐介と早苗ちゃんに手を伸ばす莉子と結花。


「その呼び方は祐介以外には許可しないわ。でも、よろしくね。リ、リっちゃん」


 あまり表情の変わらない早苗ちゃんが頬を染めながら手を出した。意外にも流行ってしまったか、リっちゃん。

 早苗ちゃんのあだ名を相談し始めた女組を放って晃に話かける。


「晃、すまんな、騒がしくなって」

「いいや、楽しそうだし、見てて面白いよ。それに、ありかに友達が出来てよかった」


 まあ、そうだな。晃の友達といえる友達は祐介ぐらいだから、親戚であるありかの心配もするだろう。今の時点で数は超えた可能性があるがな……。


「それなら、よかった。祐介は……まだダメそうだな」


 祐介を人避けにしていることを謝っとこうと思ったが、未だに早苗ちゃんの脇腹攻めは続いていた。まあ、元から男には女絡みで恨まれることの多いやつだし一つぐらい増えても問題ないだろう。


「アリー! 今日ユイユイと一緒に遊びに行こ!」

「結花と、莉子と、早苗ちゃんは?」

「サーナは部活があるんだって~」

「残念だわ」


 なるほど。わずかの間に遊びに行くところまで話が進んだようだ。晃に目線を送る。


「行ってらっしゃい。家も使ってくれていいからね」


 晃はそういって朗らかに笑った。そんな表情出来たのかお前。


「え! 本当!? わたし行ってみたい! 友達のお家で遊ぶの憧れてたんだ!」

「私の家ではないんだがいいのか……?」

「だとしてもだよ!」


 いや、私の家なんだけど、じゃないなって。というかいいの?


「え、えっと、柏倉くん、いいの……?」


 晃が話に混ざると莉子が急にしぼんだような口調になる。許すって言われたんだからそんなに気にしなきゃいいのに。


(……多分、それだけじゃないんでしょ)

「もちろん! 俺は出来るだけ引っ込んどくよ!」

「あ……うん、それじゃ、リコ、お邪魔するね」


 それだけじゃない、ね。なにか気になることでもあったのか。


(ふふーん、少しね! 気になる? 気になる?)


 いんや。話したくなったら話してくれるでしょ。


(ぶー! つまんなーい!)


 ナビィの杜撰な計画がこの性格のおかげで成り立ってるんだからそこは喜んどけよ……。


「それじゃ! 今日はありかちゃんのお家に遊びに行くぞー! おー!」

「おー!」

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