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人の気持ち

 

「その、あの……」


 これまた今までに見たことのない様子の莉子。気まずそうにこちらをチラチラと見てくるが、一体なんのつもりなのか。


「ごめんなさい!」


 頭を下げられた。謝れば済むと思ってるのだろうか。いや、もしかすると謝って済んできたのかもしれない。そうでなきゃ、ああも人の気持ちを考えないことを言えるはずがない。


「いいよ、もう。いいから、出て行ってくれよ」


 出来るならもう、関わりたくもない。無理やり莉子の手を引いて玄関へ追いやる。


「ありか、リコを嫌いにならないで!」


 今にも泣き出しそうな顔でそう言い放つ莉子。人を傷つけておいて、なにを言っているんだ。


「……嫌いだよ。嫌いだ。お前の方が、下心で近づいてきてるくせに!」

「違う、違うの、リコは、」

「出て行け、出て行けよ!」


 怒りに耐え切れず叫ぶと、莉子はなにかを堪えるように唇を噛んで靴を手に家を出て行った。

 ドアを施錠して、一息つく。


(あーあー、泣かしちゃった)


 私だって泣きたい気分だ。夕方までは楽しく過ごしていたのに、どうしてこうなるんだ。


(まったく、らしくないね、ありかちゃん。人の気持ちも考えずに傷つけるようなこと言っちゃってさ)


 うるさい。自業自得だ。人の考えを読んでおちょくるな。


「いやいや、おちょくってないよ。晃くんに言ったのにありかちゃんからボロクソ言われて可哀そうだな~ってだけ」


 ナビィが頭から離れて話し出す。ナビィなりの誠意だろうか。


「最初にボロクソ言ったのはあっちだろ」

「そうそう、晃くんにね。急にありかちゃんが怒ってビックリしただろうな~」

「自分を馬鹿にされて怒らないやつがいるのかよ」

「あはは、ふふ、それもそうだね」


 ケラケラと腹を抱えてナビィは笑った。


「でもでも、ボクにはありかちゃんの方が怒ってるように見えたからさ。晃くんの彼女になる気になった?」

「ふざけるな。そんなつもりはない」

「そっかそっか、晃くんの部屋の前でキュンとしそうなことばっかり言ってたからついに! と思ったのに~」

「別に、あれが一番尾を引かないだろうと思っただけだ」

「ふ~ん」


 楽しげに飛び回るナビィはそのままキッチンに向かった。追いついて見ればコンロに火を点けフライパンを器用に操るナビィの姿。ちっさい身体のどこにそんな力があるのやら。


「ねぇ、ありかちゃん」


 料理の他の工程もこなしつつナビィは私を呼んだ。


「なんだ?」

「あの子、莉子ちゃんを許してあげたら?」

「……は? なんで?」


 晃を否定するということは私を否定することだ。とてもじゃないが分かり合えるとは思えない。


「それはね! ボクの取れる手段が増えるからだよ!」

「……勘弁してくれ」


 ナビィの手駒を増やすために自分を押し殺すなんて、ゴメンだ。


「じょーだんじょーだん。ボクからすると、莉子ちゃんは悪い子に思えなかったんだよね~」

「それは、確かに、そう思えた部分もあるけど」


 遊んでいるときの莉子は確かに元気で明るく笑っていて、いい子だなって思えた。だが――


「そーじゃなくてさ、なんでお家に来てすぐ文句言わなかったんだろうね」

「なんでって、粗探しでもしてたんだろ」

「そうかな~? だったらなんであの瞬間まで晃くんと話さなかったんだろ? 直接話した方がボロは出そうだよ?」

「それ、は」


 どうしてだろう。晃が莉子に話かけなかったのは莉子が怖かったからだろう。なら、莉子から晃に話しかけなかったのは?


「ボクには精一杯考えたことを頑張って言ってたように見えたからさ、それだけ。実際どうかは脳をいじらないとわかんないな~」

「……絶対にやるなよ」

「まあね~ボクはありかちゃんに操を立てているのだ~」

「ああ……そう……」


 脳いじりの操なんて立てられてどうしろというのだ……。


「そろそろ出来るよ、晃くん呼んで来たら?」

「ああ、分かった」


 流石というかなんというか。途中まで進めていたとはいえ私と比べると圧倒的な早さで調理を終えていた。気を遣ってくれたのだろうが、普段からナビィが作った方が出来もよさそうと思わずにはいられない。



 晃の部屋のドア越しにご飯が出来たことを伝える。返事はなかったが、部屋の中で動く気配はあった。


 リビングで机に皿を並べていると、晃が降りてきた。


「あの、さ」

「ああ」

「俺、これからも手伝いしても、いいかな」

「もちろん」

「……ありがとう」


 それきり無言だった。だけど、それだけで十分だと思えた。



 今日は俺がやるから。という晃の言葉に甘えて後片付けを任せ、一足先に休むことにした。





 風呂に入って、部屋のベッドで横になりながら気になったことをナビィに聞く。


「……ナビィ、調味料入れなかっただろ」

「あはは、忘れてた……」


 どうりで味が薄いはずだ。レシピ通りにしろと言うナビィがレシピを無視するとは思わなかった。


「ボクが食べるのと同じで作っちゃったよ」

「そうかい……」


 呆れた……。ナビィに料理を頼むのはダメそうだ。

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