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突撃! 隣の

 莉子とゲーセンに行って、クレープを食べて、なんだかんだでウインドウショッピングにまで連れ回された。

 チャラチャラしていて、怖い印象ばかりだった莉子だったけど、遊んでみればとてもいい子だった。柔らかい笑顔と明るい話し方に、私も自然に話せるようになっていた。

 夕食の支度もあるからそろそろ帰ろうか。という段階になって、帰路も終わりに近づいたときに違和感を覚える。

 莉子に離れる様子が一切見えないのだ。


「私そろそろ家に着くんだけど、莉子の家はどこなの?」

「んー、リコ、ありかの家に遊びに行こうかなって」

「……でも、私は居候してる身だから……」


 急な宣言に驚いたが、どうにか設定を引き出して都合が悪いですと伝える。

 今日一日を通して考えると入れてもいいんじゃないかと思えてしまうが、晃としての心が拒否感を感じていて断らねばと思ってしまった。


(まあまあ、入れてあげてもいいんじゃない?)


 遊びに行く前は反対していたナビィから肯定的な意見。ナビィも莉子に抵抗がなくなったのだろうか?


「だからこそ、だよ! リコはありかが柏倉に脅されでもしてたらどうしようか不安で不安で」


 俯いた莉子は胸の前で手を組み、言葉を切った。

 いや、大丈夫だよ。一切ありえないことだよ。夜這いかけようとして手すら出さない男だよ。私がやんないってなってるしやんないよ。

 そんな私の思いは届くことなく、莉子は口を開いた。


「だから、リコがありかを守るよ」


 ……重い。今までと別人のように感じる場面は多かったが、今日一番だ。帰れと言うのは簡単だが、そう言って素直に帰るものか……。


「はぁ……家に来るのはいいけど、あんまり晃をイジメないでくれよ」

「もちろん!」


 家に遊びに行けると分かって莉子は上機嫌だ。頭によぎるのは結花の言っていた噂。

 ストレートな好意に悪い気はしないんだが、私と晃の違いは容姿と性別ぐらいだ。あまり毛嫌いされると複雑な気持ちになる。どうか、優しく対応してくれ。














「ねえ柏倉、アンタ、ありかに馴れ馴れし過ぎじゃない?」


 私の願いは儚く散った。かつてよく見た冷たい方の莉子が、晃に睨みを利かせていた。

 ここ数日の我が家では、ご飯の時間が固定されつつある。

 ナビィの指示あってのものなのだが、その時間に気付いた晃が今日も料理の手伝いに来てくれたまではよかった。

 莉子の分も合わせて作っているのに晃と莉子が私にしか話しかけずに手伝いをしていたのも、まだよかった。

 だが、コレだ。


「な、なんだよ! 別になにもおかしくないだろ!」


 テンパって答える晃。焦った様子がなにかしましたと言わんばかりだ。

 しかし、実際普段と違うことは特になかったのも事実だ。私としてもなにが莉子の逆鱗に触れたのか分からない。


「親戚だからって遠慮なしに話していいわけ? それにアンタ、手伝うなんて言っときながらほとんどなにもしてないじゃない。下心がミエミエ」

「藤永だってなんなんだよ! 急に来て、急に文句つけて来やがって! 俺は、少しでもありかの負担が減るようにって」

「負担が減るように考えて、皿運びと洗い物だけ? 何様なの、アンタ。負担を減らそうってんならアンタ一人で全部やるとかじゃないの?」

「ッ……! それは……」

「キッチンも狭いしさ、いない方がいいんじゃない?」


 晃が拳を握り締めて、それから脱力し、キッチンを飛び出して二階へ駆け上った。気持ちは手に取るように分かった。

 私だって拳を握っていて、そのくせ父さんの『女は殴るな』って言葉が呪いのように手を動かなくしているのだから。


「ホント、男ってどうしてああなんだろうね」


 甲高い声で同意を求める姿が憎たらしかった。視界の端で火に焼けるフライパンの音がやけに大きく聞こえた。

 火だ。私のこの怒りは。握り拳を開いて、強火で熱し続けるそれを消火し、言い放つ。


「なあ」

「なぁに?」

「今すぐ、この家から出て行ってくれ」

「え……?」


 晃を、私を否定したことに腹は煮えていても、頭は冷静であろうとした。冷たく、怒りを込めた声で突き放した。


(あらら、これは、逆効果だったかもね)


 莉子を放って二階に向かうとナビィの声。どういうことだよ?


(うんうん、莉子ちゃんを使って晃くんを女の子に慣れさせようと思ったんだけど、失敗だったなって)


 そりゃ大失敗だ。私の考えも、甘かったけれど。

 晃の部屋の前に着いてドアノブを回すが、開かない。一人暮らしが始まって一度も使わなくなった内鍵がこんな場面で使われるなんて。


「晃、聞こえるか?」


 ドア越しに声をかけるが返事はない。ただ、このドアの薄さは知っている。聞こえているはすだ。


「あんなやつだと思わなかった。急に家に連れて来てゴメン」


 まず謝った。でも、私ならこんな言葉はいらない。


「晃の手伝い、いつもありがたいよ。確かに、本当ならやらなくたっていいことかもしれない。でも、私は晃の心遣いに感謝してる。なんで私が、なんて思わずに、楽しんで料理出来てる」


 晃が、自分でも意外なほど気の使える人で嬉しかった。


「だから、気にすんな。これからも一緒にゲームして、一緒にご飯作って、一緒にご飯食べよう。な?」


 語りかけても、相変わらず返事はない。

 晃はきっと、自分を責めてる。その自責を和らげることが出来れば、それで立ち直れるはずだ。


(まあまあ、お腹空いたら出てくるでしょ!)


 そりゃ、そうかもしれないけど、そのときには女嫌いかもしれないぞ?


(ええぇ! それは困るよ!)


 そうならないように励ましたんだろうが……。

 とりあえず、料理の続きをしよう。晃が出て来たときに冷凍食品を突き付けるわけにもいかない。



 一階に降りると、なぜかまだいる莉子。


「その、リコ、」

「お前、なんなの?」


 まだ言いたいことがあるのか? この女は?

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