ナビキャラに動かされるやつ
「な、なんだこれ」
変わり果てた自分の姿に困惑する。そんな姿も可愛らしいが、それが自分となれば話はそれどころではない。
視線をちょいと下げれば以前は無かった胸の膨らみ。服だけは先ほどまで着ていたもののようで、サイズが合わず谷間が見えてしまう。
思わず目を逸らし、次に下半身を触って確認するも、あったものがない。
どうして、と思うが思い当たるものは一つしかない。
「やあやあ、調子はどうだい?」
そう、先ほど見た小人だ。
「どうだい? じゃないんだよ! なんだよこれ! どうなってるんだ!?」
「まあまあそう焦らないでよ、別に特別な技術じゃ……ってこの時代じゃそうでもないか」
少し上を向いたなら、呆れたような様子の小人。
「でもでも、許可はもらったからね。彼女を作るってことで」
「だから! 意味が分からない! どう言うことだよ!?」
「もー、騒ぐなぁ。ボクの時代じゃ人を作るのは国際法で禁止されているんだ。だったらあり物でどうにかするしかないじゃん?」
余計に意味が分からない。コイツは説明する気があるのか?
「適当な女の子を洗脳しても良かったんだけどどうしてもグレーな方法になっちゃうし、どうせならキミだけで」
「待て、ヤバい言葉が聞こえたのは置いといて、そもそもお前はなんなんだ? 一体何が目的なんだ?」
急に頭が冷えて、ペラペラと喋り続ける小人の言葉を遮って尋ねる。一度ムッとした表情になるもすぐにニコニコとした顔になり、言った。
「うんうん、自己紹介は大事だもんね。ボクはナビィリィン。ナビィでいいよ。キミの名前は?」
「え、あぁ、俺は柏倉晃」
「えぇ? 柏倉晃くんはこの家の人でしょ、キミの名前は?」
おちょくるような話し方をする小人——―ナビィに、何を言っているんだ。そう言おうと思ったその時に、ガチャンと重いドアが開き、そして閉まる音がした。
「……え?」
今この家に入ってくるのは俺だけのはず……。
「柏倉晃くんが帰って来たみたいだよ」
「は?」
俺が帰って来た?俺はここに居るのに?
「……泥棒とかじゃないのか?」
「いやいや、泥棒がわざわざ玄関から入るわけないじゃん。晃くんはこれからキッチンで冷凍のチャーハンを食べて、ケーキを食べて、お風呂に入って眠るわけだけど、どのタイミングで押しかけるのが良いんだろうなー」
今家に入って来たにも関わらず、見たかのようにこれからのことを語るナビィ。どのタイミングでもおかしいだろ。
「そうそう、キミの名前だけど、どうせだしボクが決めてあげるよ。あきらちゃんってのも悪くないけど、同じ名前ってなんだか嫌でしょ?」
小さな腕を組んで、何度も頷きながらナビィは続ける。
「うん、うん。あきらのローマ字読みを逆に読んでありかちゃんなんてどうかな? うん、そうしよう!」
「何を勝手に」
「そうと決まればありかちゃんが生活が出来るところまではやってあげるよ! なんてったってボクはスーパーナビゲーターのナビィだからね!」
俺の発言を無視したナビィは、俺の頭に飛び込んで来た。頭に軽いものが乗った感覚がして、話を続けるためにナビィを引き離そうと手を伸ば——せなかった。
身体が動かない。にも関わらず視界や肌に触れる感覚などはそのままだった。
「うんうん、良い感じじゃない? これなら記憶に齟齬も出ないだろうし」
だから、ナビィの話し方を自分の身体がしていることが分かった。言葉を紡ぐ口の動きが、耳触りの良いその声を受け取る聴覚が、自分の意思以外で確かに稼働していた。
「うーん、流石に服装がイメージには微妙かなぁ。今日のところは認識阻害でどうにかすればいいかな?」
姿見を見るその表情がコロコロと変わる。先ほどまでの僅かな表情の変化と違い、それは身体に見合った表情に見えた。
「ああ、そうだ。ボクの目的を言ってなかったね。それはね、柏倉晃くんを女好きにすることだよ!」
満面の笑みで、そう言い放つ美少女が鏡には写っていた。




