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距離の近い子

 それはまるで獣の狩りのようだ。獲物に殺到し、目的の部位を持ち去り腹を満たす。問題は獲物が私なことだろうか。先程までの静けさが嘘のように、教室は騒がしくなっていた。


「柏倉さんは彼氏いるの!?」

「どうしてこの時期にこの学校に!?」

「すっごいかわいいー!」


 などなど。聖徳太子でもなければ拾えたもんじゃないだろう。周囲に殺到するのは女子が大半だが、外縁の男子からも質問は投げ掛けられる。

 飛び交う質問と女の子のいい匂いに頭がふらふらしてくる。


「皆、ありかちゃん困ってるし、一人ずつ聞いたらどうかな?」


 そんな中、ひときわ通る声で入ってきたのは祐介だ。


「おいおい秋月、お前は気にならないのかよ?」


 そんなどこから発せられてるかも分からない男子生徒の質問に祐介は爆弾を投げ込んだ。


「だって俺はありかちゃんが晃の家に住んでるの知ってるし……」


 場の空気が凍った。そして一部の男子は晃の元へ、大半の女子は祐介に詰め寄ることとなった。

 晃の方からは脅しをかけるような声が、祐介の方では女子たちの黄色い声が聞こえる。あ、祐介すげぇボディタッチされてる。モテてんなぁ。

 祐介の話の段階をいくつか無視した発言によって、私を囲む包囲網は随分と緩くなった。これなら対応出来そうだ。もっとも晃と祐介からほとんど漏れ出るだろうから、私が答える必要はあまりないだろうが。

 そんなことを考えていると、背中に柔らかな感触。え?


「ふぅー」

「ひひゃい!」

「あっは! 『ひひゃい!』だって、かっわい〜」


 耳元に息を吹きかけられ、後ろから抱きしめられていることに気付いて首を後ろに向ける。げ。


「ねーねー、ありかちゃん、彼氏いるの? リコ、気になっちゃうなー」


 藤永(ふじなが)莉子(りこ)。金髪のサイドテールが印象的な、チャラ目の女子だ。晃だった頃は、ちょうど今隣の男子を追い払うように向けている冷たい目線が怖く、近くに寄らないよう気を付けていた。

 追随して質問が投げ掛けられることもなく、この場は完全に莉子に支配されていた。


「ね、ありかちゃん、どうなの?」


 見たことのない期待に満ちた笑みで、聞いたことのない高めの声で問われる。甘ったるい匂いが鼻孔をついた。すぐ近くで見つめる大きな目の熱がとても熱かった。


「い、いないよ」

「そっかー! こんなに可愛いのにぃ〜」


 さらに強く抱きついて、頬ずりまでしてくる藤永。その双丘がより深く押し付けられる。

 こ、怖い……別人のような対応に驚きが隠せない。


「それで、柏倉……アイツとはどういう関係?」

「た、ただの親戚だよ」


 晃に向けられた視線の冷たさに怯えながら答える。恐らく晃の方でも同じように答えていることだろう。


「へぇ〜親戚か〜。確かアイツ、一人で暮らしてるらしいけど、本当にただの親戚?」


 ぐ……一度も話したことないのになんでコイツそのことを知ってるんだ……。実は未来から来た妖精に女子にされた晃本人なんですーなんて答えるわけにはいかない。


(ほらほら! 設定設定!)


 ナビィ、静かに見てないで助けてくれよ。


「も、もちろんだよ。父さんと母さんが海外に行っちゃってさ。晃の家を頼ったんだ」

「へぇ……」


 藤永は変わらず推し量るような目をこちらに向ける。やっぱ無理のある設定だったんじゃないか?


(え〜そんなことないない! そんな心配するより友達作りな〜?)


 ……ナビィにそんな忠告されるとは思わなかったよ。


(なになに? 失礼な! ボクだって色々と——)

「うん、でもそうだよね! ゴメンね変なこと聞いちゃって」

「いや、いいよ。これからよろしく」

「うん、また話そうね」


 そう言って藤永は私から離れ、小さく手を振りながら自分の席に戻っていった。

 藤永の牽制がなくなり、男子の質問タイムになるのでは、と思ったが、皆自分の席へと帰って行く。

 疑問に思いながらも前を向けば一校時目の担当教員が教壇に立っていた。

 とりあえず、少しは休めそうだ。











「ってことがあってさ」


 時間は過ぎて昼休み。自分のクラスだとゆっくりすることも出来なさそうなので、晃と祐介と共に早苗ちゃんのいる特進クラスへと逃げてきた。

 流石に特進クラスとなると、高二の時点から昼休みは単語帳を見ながらの食事が多いようだ。部外者が気になってチラチラと見てくる人はいても、声を掛けようとはならないらしい。転校生って情報が回ってないだけかもしれないけど。


「あはは、二人も大変だったね」

「祐介、お前は女の子に囲まれてただけだろ……俺なんて胸ぐら掴まれそうだったってのに」

「祐介?」


 祐介の労いに晃が勘違いを生むような返事をし、早苗ちゃんの尋問に移った。また不自然な焦り方を始めた祐介を擁護する気は起きない。


「そっかぁ……それじゃああの噂って本当だったのかも」


 痴話喧嘩をよそに口を開いたのは結花(ゆいか)ちゃんだ。初詣の時に微妙な別れ方をしてしまい、二度と会うことはないかもしれない感じだったがこの特進クラスで普通に再開を果たした。


「噂?」

「そう。藤永さんが女の子が好きって噂」

「「え?」」


 私と晃でハモるほどの驚きがあった。

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