転校生って本当に注目されるんだろうか
月曜日になった。昨日で受け取った制服を着て、朝食の準備に向かう。身体が慣れてきたのか朝の憂鬱さも多少は減って来た。ナビィに叩き起こされてること自体は変わらないのだが。
昨日の晩の時点で多少の準備をしていた食材を調理して、弁当箱に詰めていく。母さんが弁当を作っていた時期に買っていた弁当箱が人数分あったので、私の分を買いに行く必要がなくて助かった。
「おはよー……」
晃が心底眠そうな声を出しながら二階から降りてくる。少し早めの時間に自分で起きる努力を始めたようで、スマホのアラームが何度も鳴っていた。一人で暮らしているときも試してはいたが、成功したのは今日が初めてじゃないだろうか。
「おはよう。弁当の余りはあるけど、トーストもいるか?」
「トーストはいいや、準備手伝うよ」
言って皿を取り出す晃。日々の中で何気なくやってくれるが、母さんが作業してるときは手伝ってと言われたときしか手伝いしてなかったはずなので、自分の意外な一面の一つだ。
「おぉ? それうちの学校の制服?」
「そう。今日から通うから、よろしくな」
「え? マジ?」
「マジマジ、だからこの家に来たわけだし」
と、いうことに昨日なった。制服の受け取りはナビィと一緒に行ったので、そのときになぜこの家に来たのかの設定を話し合うことになった。ちなみに両親は海外出張だ。……本当に大丈夫なのかこれ。
(学校側にはそう通しちゃってるからね~誰かに聞かれてもそう答えてね!)
はいはい。返事がないので晃の方を見てみると、唇を震わせてなにか言おうか言うまいか悩んだ様子だ。
「どうした?」
「あ、いや、同じクラスになれたらいいな……なんて、なんでもない!」
蚊の鳴くような声で、照れくさそうに言う晃に思わず笑ってしまう。
「ふふっそうだね、同じクラスだといいね」
別のクラスで全く知らない環境に置かれるよりは、多少とはいえ知っているクラスの方が居心地はいいだろう。祐介もいることだし。
「あ……うん」
らしくない反応に疑問を抱きつつ、朝食をリビングへ運ぶ。
この時間なら祐介が来る時間には家を出れるだろう。
履き慣れないローファーと、スカートの風通しのよさに違和感ばかり感じながらの通学であった。
「そういや祐介、早苗ちゃんと登校しなくていいのか?」
「今日からゼロ校時始まるみたいでさ、『早起きさせるのも悪いから今日はいいわ』って言ってたってさ」
晃の問いに答える祐介。早苗ちゃんと登校するときは迎えに来れないとか言ってたな。
早苗ちゃんは特進クラスなので、通常授業の前にもう一つ授業がある。参加必須の授業に違いないのだが、通常授業が一校時から始まるために便宜的にゼロ校時と呼ばれている。
「早苗に起こしてもらうためにわざとアラームを少し遅く設定してるのに、母さんに伝えるだけ伝えて行ってしまうなんて……」
「あーはいはい、惚気ね」
祐介と早苗ちゃんは幼馴染で、家が近い。今までであれば納得いく理由だったが、初詣のときに早苗ちゃんの愛の重さを知った今、毎日一緒に登校していないのはむしろ謎だ。
「それでいうと、ありかちゃんの振り分けはどうだった?」
「元から通常クラスでの転入を希望してたから、通常クラスだ。というか特進だったらこの時間に登校してないだろ」
「あはは、それもそうだね。ごめんごめん。早苗と一緒のクラスなら馴染みやすいかなと思ってさ」
とぼけたように言う祐介。分かっていての質問だろう。あのときはテストの出来が悪いからって落ち込んでたからなぁ……心配させてしまってるんだろう。
「まあ、大丈夫だって。それじゃ、私は職員室に行かなきゃだからここで」
学校に着いて、昇降口で晃と祐介の二人と別れる。さて、どのクラスになるのかな。
「それじゃあ柏倉さん、先生が呼んだら入って来てね」
「はい」
職員室で学生証などを受け取ったあとに告げられたクラスは晃の頃と同じクラスだった。4月から12月までですっかり見慣れた女教師について行き、通い慣れた教室の前で待つ。
まさかと思うがナビィ、クラスを指定でもしたのか?
(ふふーん、どうだろうね~)
あくまでもはぐらかすつもりか。
「柏倉さーん、入って来てー」
早くも呼ばれたので、緊張しながらクラスに入る。視線が集中するこの感じは苦手だ。
「はい、柏倉さん。自己紹介してね」
「はい。か、柏倉、ありかです。趣味は、えっと、ゲームとか……?」
緊張からしどろもどろになった上に、疑問形だ。晃のときと同じ趣味でいいのかと言ってる途中に思ってしまった。
私が次の言葉を続けないせいか、教室が少しざわつく。
「はーい静かに、質問はホームルームが終わってからしてねー」
にわかに静まる教室。その、もう自己紹介終わりなんですが。
「あっ……以上です」
「あら、そう? 席はとりあえずそこに座ってね。今日の私の授業の時間を少し使って席替えするから、前が嫌でも我慢してね」
指定された席に向かえば、隣の席の男子生徒が私の席の椅子を引く。なに? ……なに?
「はい、じゃあ今日のホームルーム終わり。ちゃんと次の授業の準備してね」
そう言って先生が出ていくまで、恐ろしいほど静かだった。




