学校へ行こう
うだうだ過ごしていると三ヶ日が過ぎた。相変わらずナビィに叩き起こされる朝は辛いが、簡単な食事なら作れるようになった……と思う。
かちゃかちゃと食器の音だけが響く食卓で、晃は半ば寝たまま朝食を口に運ぶ。
私は日を跨いだぐらいでナビィが寝ろと騒がしくなったのでゲームをやめて寝たため眠いぐらいで済んでいるが、晃はその後も続けていたのだろう。身体の一挙手一投足が緩慢で、しんどそうだ。
冬休みが三ヶ日で終わり、今日から学校が始まることもしんどさを増長させているのだろう。一日出ればまた休みとはいえ、面倒なものは面倒だ。
そんな晃を眺めながら朝食を食べていると、チャイムが鳴った。
(朝から誰だろうね)
すっかり私の頭の上を定位置にしだしたナビィ。考えるだけで会話出来るのが楽な気がしてきた。
来たのは祐介だろうな。朝の弱い私……というより晃のために通学路の途中ということで学校の日は起こしに来てくれることがある。
「あ……ぁ……」
「私が出るよ、食べといて」
うめき声をあげながら立ち上がろうとする晃の代わりに玄関へ向かう。
ドアを開ければ、やはり祐介だった。朝っぱらにも関わらず、シワのない制服姿で元気そうにニコニコしている。
「やほ、おはようありかちゃん。晃は起きてる?」
「一応は。中で待つか?」
「いや、大丈夫! 外で待っとくから晃に早く準備しろって言ってもらえる?」
「了解。すぐに準備させる」
リビングに戻ると、晃は相変わらずノロノロと食事をしていた。椅子に戻って、祐介が来たことを伝えると少しだけ動きが速くなる。
今までは朝食を食べずに出ていたから良かったが、この調子だとちゃんと食事を取ろうとすると学校に間に合わなさそうだ。
ナビィの指示通り毎朝食事を作るにしても、食べるのに時間がかからないものの方がいいんじゃないか?
(そうだね〜。弁当作らなきゃだし、朝ごはんはトーストとかがいいかもね!)
弁当!? 昼は学食食べさせとけばいいだろ。
(まったく、ありかちゃんは萌えが分かってないな〜。この時代じゃ女の子の手作り弁当は特別なんだよ?)
それについてはロマンを感じはするが、今以上に早起きなんて無理だ! 大体、作れて生姜焼きぐらいなんだぞ、そんな弁当に萌えがあるのか!?
(ありありでしょ〜萌え萌えでしょ〜)
そうだとしても、嫌だからな!
「……ごちそうさま」
ナビィと話していると、晃が食事を終えた。
着替えるのはあまり時間をかけないし、そう長く祐介を待たせることにはならないだろう。
(でもでも、お金のこととか考えると弁当の方がいいんじゃない?)
ぐっ……急に現実的な話をしやがる。現状でも生活の全てを晃に頼っているのに、二人分の食事を別にすると金の消費はより早まるだろう。父さんからの仕送りがゲーム機を買えるほど余裕のあるものだとしても、それはよろしくない。
(そうそう、それに晃くんがありかちゃんの素性を詳しく知ろうとしても手間でしょ?ボクは楽にやりたいな〜)
ナビィの事情は知ったこたないが、弁当の方がメリットがあるように思える。だが早起きは……。
(まあまあ、とりあえず今はありかちゃんの分の朝ごはんを食べたらどうかな?)
言われて手が全く動いてなかったことに気付く。そうだな、とりあえず食べて……どうしよう。
「行って来まーす……」
晃の気の抜けた声が玄関から聞こえる。
本来であれば晃として死にそうな顔で学校に行っているはずだが、今はそうではない。ゲームでもして過ごしてしまおうか。
(ええ? ありかちゃんなに言ってるの? ありかちゃんも学校に行くんだよ?)
え?
(晃くんからの好感度を稼いでくれなきゃ困るんだから、同じ学校に行くのは当然だよね!)
……え?




