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冷凍チャーハンはうまい

クリスマスに書き始めたのでセーフだと思っています

 クリスマスに浮かれる街並みを見てため息を吐いた。


 ひと月は前から設置されていたイルミネーションを今日だけは褒め称えるカップルたち。訳もなくショッピングセンターに向かう家族連れ。車道に目を向けてみれば混みに混みまくった車たち。平成最後とかこつけてあっちもこっちもバカ騒ぎだ。

 再度、ため息。意味がないことは分かっていても、待ち人を求めて顔を上げたり下げたりを繰り返す。大きめに幅取られた歩道の真ん中で柱に凭れながらスマートフォンを見つめる俺の目はさぞ死んでいたことだろう

 

『彼女が機嫌悪くしてるやばい』

『ごめん晃! 行けなくなった! 埋め合わせは必ずするから!』

 

 SNSツールを介して友人から送られてきた詫びの連絡は、俺、柏倉(かしくら)(あきら)に残酷な現実を直視させることとなる。――すなわち、クリぼっちである。

 はあ、と周囲の浮かれ具合に反比例するようにため息を大きく吐いた後にそそくさと帰路を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ことの始まりはそう、一週間も経たない前のことだ。件の友人である秋月祐介とクリスマスの話が出たときだ。

 俺にクリスマスの予定がないことを知った祐介はすぐに張り切りだして、彼女経由で女の子を紹介するよ! なんて言ったまま冬休みに突入し、待ち合わせ場所だけ指定された結果がこれだ。

 といっても祐介を責めるつもりはない。どうせあいつのことだから彼女に向かって『女の子紹介して』とか勘違いが起きるような言い方をしたんだろう。

 ……当日までにはどうにかすると言っていたのはともかく。


 そんなわけで一人寂しく帰る道の途中、コンビニに立ち寄る。家から程近いこともあって見慣れた店員さんだ。一ヶ月は着けられ続けたサンタ帽はどこかヨレて見える。

 既に大半が売れている洋菓子コーナーに残った一人用ケーキを手にレジに向かえば、店員のお姉さんのどこか優しげな目。あなたも同類ですからね?


「ありがとうございましたー」


 気の抜けた挨拶を背にコンビニを出て、五分と歩けば家に着く。それなりの大きさの一軒家のドアを開けながら返事があるはずもない挨拶をするのは治らない習慣の一つだ。


「……ただいま」


 分かっちゃいてもこういう日はどうにも寂しくなる。キッチンで冷凍チャーハンをレンジに突っ込みながら今日を振り返る。


「……ドタキャンされて、逆に良かったかもしれないなぁ」


 女性は苦手だ。何を考えているか分からないし、突拍子もない。だってのにその発言は胸を抉るように人を傷付けるところがあるように思える。

 ……俺の考えすぎなのかも知れないけれど。

 ピー、と音がしてレンジが止まる。量だけはある冷凍チャーハンにスプーンをそのままぶっ刺しては口に運ぶ。


「彼女、ねぇ……」


 思い浮かぶのは学校での彼女に振り回されている祐介の姿だ。大変そう、という感想が大きく、祐介が何故機がある毎に彼女はいた方がいいと推してくるのか分からないぐらいだ。


「彼女が欲しいのかい?」

「は?」


 誰もいないはずの自宅で背後から声をかけられ気の抜けた声がでる。振り向いてみるも誰もいない。


「幻聴?」


 いくら寂しいからって幻聴はマズイっしょ……。


「聞こえてますかー? 彼女欲しいですかー?」


 上。顔を上げて宙空を見れば手のひらほどの大きさの人。警官服のような服に、時計のようなデザインがされた帽子を着けてる小人がそこにいた。


「もしもーし、ボクのこと見えてはいるよねー?」


 羽根もないのにブンブンと飛び回り俺の目の前で小さな手を振り回す小人。


「あ、あぁ」

「だよね。時空の狭間に捕まってたらどうしようかと思ったよ」


 呆然としている俺とホッとしたように呟く小人。


「それじゃあもう一度聞くけど、彼女が欲しいのかい?」


 そうして再度繰り返される質問。彼女が欲しいか。面と向かって聞かれると妙な感じだ。なのでその答えも


「まあ、一応?」


 という疑問系な曖昧な答えになってしまう。


「そっか、そっか! 良かったー。この時点でダメだったらどうしようかと思ってたよ」

「……どゆこと?」


 なんだか大袈裟に身体を動かしながら喜びを表す小人の姿に少し不安になる。というか何で普通に会話しているんだ俺。なんなんだコイツ?


「それじゃあキミの意思は確認出来たし、()()に彼女を作ってあげよう! いっぱい愛してくれる子にするよ!」

「は? お前なにをいって」

「またね」


 パチ、と体相応に小さな指鳴らしが僅かに聞こえたと認識してすぐに、俺の視界は黒く染まり、意識は混濁し、沈んだ。







 覚醒は唐突だった。気付けば目を開いていたような、見ていた景色を脳が認識していなかっただけのような。見慣れた自室が視界に広がっていた。


「なんで俺、部屋にいるんだ?」


 ついさっきまで一階のキッチンにいたはずで、二階の自室にいるのはおかしい。しかしそれ以上に


「今、喋ったの俺だよな?」


 声がおかしい。平均的な男子高校生のそれであった声質が、ソプラノの透き通る声になっていた。

 いや、それだけじゃない。身体がおかしい。感覚が違う。

 今さらな焦りが湧いて、部屋を出る。すぐに元々母親が使っていた部屋に駆け込んだ。


「これ、俺か……?」


 大抵の物が運ばれた中で残った姿見に写る自分を見る。

 肩を超える長い髪、可愛らしく整った顔立ち、男ではあり得ない胸部の膨らみ。


 ——俺ではない美少女の姿がそこにはあった。


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