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第5話

 『アベンジャーズ』のキャプテン・アメリカとアイアンマンのやり取りで、「スーツを着ろ」という台詞が好きです。

 わかる人、居ますか?

「こちらは『連邦日本軍』所属、的場薫二等兵!」


 的場薫は戸口の影に隠れながら、上から降りてくる人物へ声を掛けた。

 暫くの沈黙が続いた。

 何故だか分からないが、緊張して喉がカラカラになっていた。

 重たい沈黙を破ったのは、女性の声だった。


「そこに逃げたネズミが一匹。狩らなければ噛み付かれちゃう」


 まるで歌っているかのような声音だった。

 薫は『シュマイザー』を持つ手に力を込めて、もう一度「こちらは『連邦日本軍』の者だ!」と告げた。

 女性はクスクスと笑いながら、「知ってますよ」と言った。


「私も『連邦日本軍』の者です」


 薫はホッと溜め息を吐いた。

 味方であるなら、警戒する必要は無いだろう。

 そう思えたのは束の間の事だった。


「貴方がかくまっているネズミちゃん、私に殺させてくれますか?」


 ゾッとするほど綺麗な声音で、女性は予想外の発言をした。

 薫は戸口から出ようとした足を戻し、『シュマイザー』を構え直した。その必要があると、本能が告げていた。


「彼女を何故殺す?」


「愚問です。そこのネズミは『不死人』になろうとした。今回はなれなかったけど次はなるかも知れない。災厄の種は早めに摘み取る方が良い、という事ですよ」


 つまり、あの女子生徒がまた『RED SHOT』に手を出すかも知れない。だからその前に殺してしまえ、という分けか。

 狂った思考だ。

 例え再犯の恐れがあろうとも、民間人を殺害するのは戦争犯罪になる。とても看過出来ない。


「彼女は今日、死ぬほど怖い目にあったんだ。再犯の恐れは無いと思うのだが?」


「人の思考など分かりはしません。今回は駄目だったけど次は出来る、と思っているかも知れませんよ?」


 薫は視線だけ女子生徒の方へ向けた。

 恐怖で固まり縮こまってしまっている。

 彼女を連れて逃げるには、あの方法しか無いだろう。


「ターナー、下のジープはまだ居るか?」


「はい、薫様。運転手は送迎が仕事ですので、まだこの場に留まって居ます」


「なら、いつでも発車出来るように伝えてくれ」


「了解しました」


 小声でターナーと逃走準備を整える薫。

 『QPS』の能力を活用すれば、ジープまで逃げ切る事は可能だろう。後は全速力でこの場を脱出するだけだ。

 そんな事を考えていると、階段を降りる靴音がまた響き始めた。


「私も鬼ではありません。一発で仕留めてあげます」


「あんた、自分が何を言っているか分かってるのか? 一歩間違えば戦犯だぞ?」


「戦犯? 笑わせないで下さい。不安要素を早めに取り除くだけです」


「それは警察の仕事だ」


「警察になど犯罪の未然防止が出来るとは思えませんね」


 やがて女性は階段を降り切り、踊場に来た。


「薫様、準備完了です。いつでもどうぞ」


 瞬間、ターナーの声が鼓膜を震わせた。

 良いタイミングだ、と褒めてやりたいところだが、一刻も早くこの場から女子生徒を逃がさないとならない。故に、薫は行動を起こした。


加速(アクセル)!」


「Count Start」


 電子ボイスが流れた刹那、薫以外の時間がゆっくりと流れ始めた。

 薫は小さくなっている女子生徒の元へと駆け寄り、抱え上げる。すると背後で銃声が轟いた。本当に撃ってきた、と頭の端で考えながらも、一目散に窓の方へ向かって走った。そして、肩から窓に激突し、ガラスを割って外へ出た。

 先ほども述べた通り、ここは三階である。普通なら地面に激突し重傷を負うか、悪くて即死してしまうだろう。

 しかし、『QPS』により強化された脚部を持ってすれば、三階からの飛び降りなどどうという事は無い。


「3、2、1ーーーーTime Over」


 地面に着地したと同時に、『加速(アクセル)』の時間が切れた。

 超高速移動を可能とする『加速』だが、その超人的な能力故にエネルギー消費が激しく十秒程しか発動出来ないのだ。それに長時間使用すれば、先ず肉体が着いて来れず、筋肉疲労から自壊してしまうだろう。

 それは兎も角、女子生徒を抱えた薫は到着した時と同じ場所に停車しているジープまで駆け寄り、後部座席に彼女を乗せた。


「出して下さい!」


 そして車体を二度と叩き、発車を促した。

 流石、軍人と言ったところか、薫の事を嫌っていても民間人の身が危険とあらば指示に従ってくれた。ジープは急発進し、瞬く間に現場から離れていった。


「何をしているのですか、薫様。薫様も乗らなければ脱出出来たとは言えません」


「あぁ、けど、彼女を野放しにするわけには行かなくてね」


 ターナーにそう告げた薫は、雑居ビルを見上げた。三階の窓ガラスが割れている。

 すると、別の窓が開いたかと思えば、そこから飛び降りてくる人影があった。その人影は華麗なまでに完璧な着地をすると、薫と向き合った。


「上手くネズミを逃がした様ですね? 薫ちゃん」


 女性、というより少女は、『適性銃器』であろう『64式7.62mm小銃』を肩に担ぎ、薫へ無邪気な笑みを向けた。


「やっぱりそうか。そうじゃ無いかと思っていたけど」


 薫は少女の姿を見て、彼女の身元に確信を得た。知っていた声だったので、もしかするとと思っていたのだ。


「戸嶋兄とのデートは良いのか?」


「あんな雑魚に付き合っているより、こっちの方が楽しいですからね」


 少女の正体は戸嶋兄弟の兄の許嫁、三科凛子であった。

 この狂気の絶世の美女は、うっとりした眼で小銃を撫でる。


「ところでだが、あんたこの後どうするつもりだ? まさかと思うが、あの女子高生を追うつもりじゃ無いだろうな?」


「勿論、身分を証明するものも手に入った事ですし。けど、その為には先ず貴方を倒さないとならない様ですね?」


「察しが良いね。悪いけど、軍人としてだけでなく的場薫としても見過ごす事は出来ない」


「強気ですね。“サンドバッグ”になっている時とは大違いです」


「スーツを着てるからね」


「では、そのスーツで見事私を止めて見て下さい」


 次の瞬間、三科凛子は小銃の銃口をこちらへ向け、何の躊躇いもなくフルオートで撃ってきたのだった。

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