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第10話

 皆様、8月でございます。

 何かウキウキしますよね。私だけでしょうか?

 さて、波乱万丈の任務の後は、楽しい報告書作成である。

 そんなもの人工知能であるターナーに任せれば良いでは無いかと思われるだろうが、インターンでも軍人は軍人である。というより、軍人に限らず社会人ならば報告書は必ず本人が作成せねばならない。それが社会のルールと言えよう。

 駐屯地の『QPS』研究室に戻った的場薫は、空いているパソコンに向かい合って、苦手なブラインドタッチを披露していた。打ち間違いが激しい事で有名である。

 そんな中、『QPS』の武装面を担当する一ノ瀬優がしたり顔で歩み寄って来た。


「どうよ、薫。“電動ノコギリ”、役立っただろう?」


 どうやら自分の武器が役立った事を自慢したいらしい。

 薫はパソコンから目を放さず、「人間相手には有効でしたね」と答えた。


「何だ? トゲのある言い方だなぁ?」


「すみません」


「ま、あの“変異種”は意外だったな。けど、『パンツァーシュレック』が役立ったろう? これからもじゃんじゃん武器を追加していくから、よろしく頼むぜ」


 そう言って薫の肩を叩くと、一ノ瀬優は自分の席に戻って行った。

 因みにだが、薫の戦闘は全てモニターされ記録されている。薫が何と戦い、何を喋ったか全て把握されているのだ。故に迂闊な事は言えないのだが、もう慣れてしまったので好き勝手にやっている。

 その後は特に誰も話し掛けて来なかったので、薫の報告書作成はスムーズに行った。今回は撃ち間違いは少なくて済んだ。


「よし、後はこれを大佐に提出すれば終わりだな」


 薫は報告書を咲浪霧也大佐の仕事用URLに送ると、デスクワークで凝り固まった体を解すように軽くストレッチをした。


「薫、ちょっと良い?」


 不意に声を掛けてきたのは、人工知能を担当しているクララ・クラーク・クランだった。


「何ですか?」


「ターナーが薫は大馬鹿だって言ってた。AIとは思えない発言だったから、ちょっと気になって」


「あぁ、その事ですか」


 クララは恐らく他の作業をしていてモニタリングに参加して居なかったのだろう。

 薫は事の顛末をかい摘まんで話した。

 クララは終始無表情だった。元々、彼女は感情表現が乏しい。故に最初は嫌われていると思っていたが、話してみると意外と良い人で、今では友人と呼べるほどに仲良くなっている。


「成る程、薫はその三科って人を助けたんだ。殺されるかも知れないのに」


「まぁ、そういう事です」


「ふぅん、馬鹿だね」


「一言で言うと、やっぱりそうなりますか」


 馬鹿な事をしたというのは自分がよく分かっている。

 殺される可能性があるのに、その人間を助けたのだ。馬鹿と言われても仕方がない。


「薫、『エネルギーシールド』が突破されそうになったと聞いたがーーーー」


 そう言いながら天真時雨が歩み寄って来た。が、「時雨、聞いて」とクララが言葉を遮った。


「イチもちょっと来て」


「ん? 何だ?」


 こうして三人が集まって、薫の行った愚行がクララによって広められた。その結果ーーーー


「馬鹿かお前」


「大馬鹿だな」


 時雨にも一ノ瀬優にも馬鹿呼ばわりされる事となった。


「大体、お前はお人好し過ぎるんだよ。この前も似たようなこと無かったっけ?」


「ヤクザのあれ」


「あぁ、それだそれ。あの時も結局、腹に一発食らっただろう?」


「防弾ベストのお陰で助かった奴だな」


「今回も同じだって。後々、厄介な事になるぜ?」


「ちょっとは考えて行動しろという事だ。ーーーーこのところ思っていたのだが、ターナーだけに薫を任せるのは不味いのでは?」


「私のAIは最高」


「それは分かるが、誰か実地について行かせた方が良いと思うんだ」


「テストパイロットを増やすのか? 大佐が許可するとは思え無いぜ?」


「何とか説得しよう。そうだ、量産型のテストパイロットを募集するというのはどうだ?」


「そりゃ今の試作機が完成したらって話だろ?」


「まだAIの量産体勢も整って無い」


「次に造る『QPS』を量産型に近い物にするんだ。AIも試験だって言って何とかだな」


 話がどんどん逸れていく。

 けど、どこかで結局薫が責められる事になるので、ここは素直に謝って置こう。


「皆さん、お気持ちはありがたいですが、僕は大丈夫です。今回の事は心配掛けてすみませんでした。けど、僕は後悔だけはしたくなくて。もう一度同じ状況になっても、多分同じ事をします」


 薫の言葉に三人は黙って顔を見合わせる。

 それも束の間、時雨が「やはり誰か見張りを付けるべきだ」と言った。


「でないと、こいつは死ぬぞ?」


「そうだね、いつか死ぬね」


「後ろから刺されて死ぬ感じだな」


 今度は死を宣告されてしまった。

 三人は本当に薫の事を心配してくれているのだろうが、こう言っては何だが、余計なお世話だ。


「やぁ、諸君。残業、ご苦労様」


 そんな中、間の抜けた声が研究室に響き渡った。

 我らが“大君主(オーバーロード)”の登場である。全員が起立し敬礼する。


「的場くん、見せて貰ったよ、今回の戦闘」


「はっ」


「『ハイヒューマン』に勝った、と僕は見てるけど、君の意見はどうだい?」


「その事は報告書に記載してあります」


「君の言葉で聞きたいんだ」


 咲浪大佐が薫の前まで歩み寄る。


「現段階の『QPS』で、『ハイヒューマン』に匹敵する戦闘能力を出すことは可能と思われます」


「うむ。ーーーー何か聞きたい事がある、という顔だね?」


「はっ、僭越ながらお尋ねしたい事があります」


「良かろう。答えられる範囲なら答えよう」


「はっ、三科凛子の事ですが、彼女は本当に新兵(ルーキー)なのですか?」


 咲浪大佐は暫く沈黙した後に、「公式記録では、ね」と答えた。

 含みのある言い方である。


「さて、諸君。テストパイロットの彼がこう言っているんだ。そろそろ量産型の検討をしてみてはどうかね?」


「その事ですが、大佐」


 時雨が一歩歩み出て口を開いた。


「的場二等兵の補佐役として、テストパイロットを募りたいと思っております」


「ほう、続けたまえ」


 こうして時雨はテストパイロットの増員を提言する。

 大佐は“検討する”とだけ言って、研究室を後にしたのであった。

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