記憶喪失の僕と謎の家
さらりと撫でるような風を感じ、僕は目を静かに開けた。
木と畳の香りのするこの部屋はなんだか懐かしい感じがした。
ふかふかの布団から起き上がり、部屋を見渡すし、ふと違和感が出てくる。
懐かしいと感じるが、ここはどこなのだろうかと。
6畳ほどの和室に寝かされていた僕は考える。
そして、そもそも自分が誰なのかわからないことに気付いた。
男であるとか、右利きであることは理解しているのだが、名前や年齢とかが思い出せない。
―――― 困ったなぁ。
ここはおそらく自宅なのかもしれないが、人と顔を合わせた際、自分の記憶がない事を伝えることが億劫でしかたがない。
しかし、動かないことには何も始まらない。
布団からずるずると這い出て、ふすまを開け、僕は部屋の外をのぞいた。
昔ながらの日本家屋といった感じの廊下があり、他にもいくつか部屋があるようで、大きな家であることがわかった。
「すみません…。誰かいませんか?」
廊下に向かって、少しだけ声を張って出しつつ、自分の声に驚いていた。
もっと低い声である気がしていたのに、少女のような高い声だったからだ。
―――― え、僕、男だよね?
慌てて、自分の存在する息子をちゃんと確認した。そして、改めて、自分の手足を確認する。
まだ丸みのある小さな手足。僕は立ち上がらなかったから気がつかなかったが、まだ子供だったようだ。
『まだ』子供?自分に対しても違和感を感じた僕は早々に誰かに自分について教えてもらうべきだと判断した。
数回、廊下に向かって声をかけたが、何の返事もなく、僕は部屋に引っ込んだ。
寝具しかない部屋に、ひとつある窓。ひらひらと若葉色のカーテンがなびく。
少し外をのぞけば、何か思い出せるかもしれないと、窓から顔を出した。
結果からいうとやはり何も思い出せないということだった。
懐かしい町並みと田園の風景ではあるのだが、まったくピンと来ない。
ただ、今いるのが木造の家の二階の奥の部屋で、裏庭には大きな木が植えられていることが確認できたことだろうか。
腹の虫が鳴り止まなくなった頃、どこからか魚の焼ける美味しそうな香りが漂ってきた。
僕は空腹から耐えられず、おそるおそる部屋を出て、香りの元へと向かった。
廊下を進んだ先に下へと招く階段があり、タンタンタンと降りる。
降りて、すぐ見えるところに暖簾のかかった部屋が見え、そこが台所だと僕は駆け込んだ。
ダイニングキッチンとなっているその空間には誰もおらず、
『おはよう。よくねむれましたか。おなかがすいているとおもいましたので、ごはんよういしました。たくさんたべてくださいね。』と、日本語と英語で達筆に書かれた置手紙と、まだ出来て間もないであろうご飯と味噌汁と焼き魚が用意されていた。
―――― おかしい。
もし、ここが自分の家だったら、わざわざ、二ヶ国語で置手紙を書かれているものなのだろうか。いや、違う。これを作った相手は僕のことをよく知らない。それに、出来立ての食事を見る限り、これを作った人はさっき声をかけた際、聞こえていたにもかかわらず、無視した可能性があり、僕に顔を合わせたくないようだった。正直、この誰が用意したのかわからない食事に手を出すのは、怖い。しかし、これ以上、飢えて苦しい思いをしたくなかったので、僕は料理を口にした。
「あ、美味しい。」
久々に口にした和食に僕は思わず、感想がこぼれた。
そこからはガツガツと頬張るようにご飯を食べていく。
あの警戒心はどこに消えたのか、僕は食事を平らげていた。
おなかが満たされた僕は、少し眠気を感じつつも、この家の中を探ることにした。
TVや電話がなく、PCもない。今、いつなのか知りたくても、時計やカレンダーもない。
外からの情報を遮断しているように感じた。
また、家具家電も最低限のものしかなく、生活感がなかった。まるで、自分以外の存在の手がかりをつかめられないように。
―――― もしかして、僕誘拐されて監禁されているとか?
いや、その割には自由にされているし、さっき窓も開いていたし、玄関へと向かうと、ドアも簡単に開けれるようだった。
しかし、玄関に来て、僕は気付いた。
こんなに大きな家なのに、靴が一足しかなかった。それも、僕が履けるサイズのスニーカーが一足のみ。
恐らく、さっき食事を用意した人間は外に出た感じはなかった。それなのに、靴が一足のみ?
僕は固唾を呑む。ここは一体なんなんだ。ひどく喉の渇きを感じ、さっきの台所まで戻る。
すると、さきほどシンクに置きっぱなしにしていたはずの食器が、洗われていて、水切りかごに入れられていた。
今、少し家の中を探索し、確認していた間に、僕とすれ違うことなく、特に音も立てずにここにきて、片付けをしたのだろうか。ゾッと寒気を感じた。自分も誰だかわからないし、この家のこともわからない。
でも、ここから出たところで、帰るべき場所もわからない。
そのときだった。ガタンと隣の部屋から音がした。
慌てて、隣の部屋に向かうと、一箇所、畳があがっており、地下へと通じる階段が見えた。
「おいで。私は、さすがに説明するべきと思いました。」
地下から男性と思われる者の片言の日本語が聞こえてきた。
「あ、あなたは誰なんですか。」
姿を見せず、地下の暗いとこから話しかけてくる相手に僕は、階段に近づかず、そうたずねた。
「私はあなたの親のようなものです。ずっとおきない。心配してた。やっとおきた。うれしい。」
「誘拐犯ではないのですか?」
「『ゆうかいはん』…。ご飯のしゅるいですか。」
この人、日本語勉強はしているほうだと思うけど、よくわかってない気がする。
「えっと、僕のお父さんとお母さんはどこですか。僕、記憶がないのですが。」
「私が親のようなものです。記憶ないのは想定内です。」
「想定内?」
「私、あなたをつくりました。私、日本地域の遺跡興味あって、あなたをつくりました。」
―――― まったく意味がわからない。
「かつて、この星、いくつもの文化、言語あった。私は研究者。あなた、つくった。」
「作ったってどういうことですか?」
「あなた、こっちこない。しかたない。私をみても、驚かない約束してほしい。」
そして、相手は僕にその約束の確認を取る前に、地下から姿を現した。
僕は今まで話していた相手の姿を目にした瞬間ふるえた。
なんと例えたらいいんだろうか。
爬虫類と昆虫を足して2で割ったものに、さらに毛のない猫のスフィンクス種と人間を足したような外見をしていた。いや、わかりづらいな。二足歩行だけど、腕は左右に2本ずつあり、トカゲのような鱗と尻尾があり、顔はスフィンクスに昆虫のような触角があり、でも、手足は人間のような五本指がある。キメラのような姿だった。
「やはり、驚かないのは難しかった。しかたない。でも、こういう種族。わかってほしい。」
僕は静かに頷く。そして、相手は話を続けた。
「この星、『●◇×$Θ』、あ、えっと『地球』は一度、どんな生き物も生命活動ができないくらい環境荒れた。そのとき、人間と呼ばれるこの星の生物、ほろんだ。私たち、ほかの星から来た。いろんな星調べるの、私たちの本能。ここ、何もない、思ってたら、地中深く、いろんな文化埋まってた。私たち、環境と生き物、よみがえらせる計画立てた。私、日本地域担当。私はエオラ。あなた、最初によみがえらせた日本地域の人間の子。私がつくった。記憶ない、しょうがない。記憶まではつくれない。よみがえる、出来ない。」
「えっと、つまり、僕は人工的に作られた人間ってことですか?」
「そうです。私、遺跡から得た知識から、すむとこ、たべもの、用意してみました。問題ない、よかった。」
僕の想像をはるかに超える展開に僕の頭はパンクしそうだった。
「えっと、ほかに作られた人間はいないのですか?」
「日本地域、小さくて、研究すすんでない。研究してる、私だけ。ほかの地域、いるけど、ここはあなただけ。」
「そうですか…。」
「私、あなたの仲間つくるのがんばる。まっててください。」
最初は気味の悪い姿だと、少し引いていたが、相手、いや、エオラの微笑んだ顔に安心している僕がいた。
こうして、宇宙人エオラと僕との不思議な共同生活が始まった。
宝宝拳さん(@baobaoken23 )にイメージ絵をいただきました!!
ありがたいです!!嬉しすぎです。
あれ、でも、どうやって貼ったらいいんだ?




