奴隷と避暑
熱い。太陽がギラギラと輝き、地上を焼き尽くすような熱線を放っている。
手をパタパタと仰いでみても、幾分の涼しさも感じられないばかりか、運動により体が熱くなるぶんマイナス効果と言って差し支えない。
憎たらしい太陽を睨みつけながら、私はこの暑さを逃れる術を探していた。
「主人様? どうしたん?」
その声に振り返れば椿が氷が沢山入ったコーヒーを二つ持って立っていた。
そういえば暑いからと頼んだのだった。そんな事も忘れては受けていれば、心配するような顔もして当然だろう。
「ありがと」
とコーヒーを受け取ると、積み上げられていた氷がカランと音をたてて崩れ、一瞬の涼を与えてくれる。
「暑いから、涼をとれる方法を考えてたの」
「涼ですか……。あっ……」
椿は私の言葉を繰り返すと何かを思いついた様な声をあげた。しかし、何が不味いのかその方法を語らず、知らないふりをする。
「何かいい案でも?」
私はそう聞くとアイスコーヒーをストローで吸いながら椿の顔をジッと見つめた。
「あのな、いい場所は、知っとるんよ。けど……」
何故か煮え切らない態度で私から目を逸らしてしまう。
何か疚しいことがあるのか、追求するのも可哀想だが、避暑地という理想郷が手に入るかがかかっているとなると、追求しないわけにもいかない。
「椿、案内して」
短く、バッサリと命令を渡すと、椿はどこか諦めた様にため息を吐いた。そして直ぐにいつもの凜とした態度に戻るとわざとらしく言う。
「では、案内します」
そして案内されたのは地下のワインセラーだった。太陽届かないこの場所では年中肌寒い。
失念していた。ワインを飲むのは亡き父の趣味で、私も少しは飲むものの用意するのはいつも椿に任せていた。
だからこの場所がこんなに涼しいとは、頭の中に無かった。
「つまり、椿はここで仕事をサボって涼をとっていた。と」
「そんな事はありんせん」
ぷくーと頬を膨らませて可愛らしい抗議の声をあげる椿を笑いながら思う。
大方は私がこんな風に揶揄うと分かっていたから、言いたく無かったんだろうな。と……。
「でも、そうね。何か、座るものは無いかしら」
私は周りを見るが有るのはワインの瓶と瓶と瓶。そして、ワイン樽くらいなもの。
私は逡巡の末に自分の欲望に素直になる事にした。
「あの樽に腰かければいいか」
「少し、行儀が悪う思います」
「良いのよ。見てるのは貴方くらいだもの」
そう言うと椿は何故か恥ずかしそうに、私から顔を背けた。
「私は、女の子らしい、主人様が好きでありんす」
「そう? 私は貴方に男らしく迫られてみたい。と想像する事もあるのよ」
ちょうど樽もあるし雰囲気もでそうよ。と付け加えて私は椿の頬を撫でる。
すると椿はビクリと肩を跳ねその顔を赤くする。
「涼を取るつもりが、暖を取ってしまったかしら」
私はクスクスと彼女を笑う。
「せっかく涼しいのに、勿体無いわ」
「そう? イチャイチャする為に、涼しい場所を使うなんて、とても贅沢じゃ無い?」