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奴隷と私  作者: 四月うさぎ
本編
6/9

奴隷と未来

私たちは並んで星空を見上げる。それはそれは美しい星空だった。

「綺麗ね。椿の故郷も、こんな星空が見えるの」

 私は星空を見つめながら言った。

 だから彼女がどんな顔をしてるのか見えなかった。

「少し……違うかな。でも、此処から見る星も、なかなか」

「そう」

 会話が上手く繋がらない。彼女の故郷を、彼女の幸せを考えると、うまい言葉が出ない。

 自分の本心が分からなくなる。

 今私はどんな顔をしてるのだろう。

「主人様は、星が好きでありんす?」

「ええ」

 嘘だった。

 こんな辛い気持ちにさせるなら星なんて、嫌いだった。

 私はその嘘を誤魔化そうとココアを一口飲んだ。椿の入れてくれたココア、なんの特別も無かった特別な味。

 その優しい甘さに涙が出そうだった。

 良かった。それを見上げていて、涙が溢れないですむ。

「主人様。私、一つだけ、嘘をついてるんです」

 そんな時、椿はポツリと言った。疲れたような悲しいような声だった。

 顔は見れない。見れば泣きそうなのがバレてしまいそうだったから。

「“いい考え”を探しておりんせん。少しづて、それを考えないようになりんした」

 それは私にとっては喜ばしい言葉でした。しかし、何故でしょう?

 チクリと刺すような痛みを感じるのは、何故私の顔は笑ってくれないんでしょうか。

「でもな、それは間違いやと」

 そうそれは間違いだ。きっといつか後悔する事になる。考えない事を止めて、流れに身を任せるのは、いつか後悔する。

 だけど、それでも、分かっていても、私は椿が此処にいて欲しいと願ってしまう。

 苦しくって自然と手は握りしめプルプルと震えていた。

 そんな時、ふと黒い考えが沸き上がった。

 椿は奴隷だ。強い言葉で命令すれば良い。椿は優しいから、分かってくれる。

 そんな考えが沸き上がり、私は思わず唇を噛みしめた。

「私な、故郷に帰りたいと思います。ダメ?」

 それが彼女の願いなら、彼女の幸せなら、聞いてあげたい。

 でも……。

 いつから私はこんな弱くなったのだろう。

 涙を止めることができなかった。

「ちょ、主人様? 泣かんで、ちょっと最後まで聞いてよ」

 椿が慌てたように手を振っている。

 しかし、一度あふれた涙は止まらない。これまで主人として情けない姿を見せないようにしていたのに。

「あのな、主人様。帰るって、少し戻るだけでありんす」

「……少し?」

「うん。親に報告して、戻ってくるから」

 そう言って椿は私の頭を優しく抱きしめた。

 これまでキスしたり、もっと凄い事もした。それなのに、それだけの行為がとても恥ずかしかった。

「ね? 待っててくれへん?」

 頭を抱きしめられ、撫でられて、優しい言葉を囁かれ、主人の威厳と引き換えに、私は落ち着きを取り戻していった。

 そうすると何故だか、とても悔しくなった。

 だから、少しだけ、少しだけ意趣返しをしよう。

「いや。行ったらダメ」

 私は椿の胸を押しのけて彼女の顔を真っすぐ見る。

 椿はダメと言われて、少し困った顔をしていた。

「私は王子様を大人しく待つような、上品なお姫様じゃないの。私も行くから」

 私は椿の返事を待たずに彼女にキスをした。眼前の椿の驚いたような瞳が、閉じ私の背中に腕が回る。

 それだけで返事としては十分だった。


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