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奴隷と私  作者: 四月うさぎ
本編
4/9

奴隷と星空

時計の針が天辺を通り過ぎ、夜鳴きする動物もいない静かな夜。

 外は月と星が光を落とし、ボンヤリと明るい。

 眠れない夜は決まってそんな夜だった。

 私はマグカップの中のココアに口をつけて、ため息を吐く。

 椿の淹れてくれるココアの方が美味しい。昔は自分で淹れて飲んでいたのだけど……。

 はぁ、と息を吐くと白い息が闇夜に溶け出す。

 まったくあの子の味に慣れたのか、それともあの子が上手くなったのか……。

 それともそれ以外が理由か。

 分かっている。答えはそれ以外の理由だ。だからこそ、こんな夜深くに椿を起こす事もしなかったのだ。

 夜、一人になると柄にもなく乙女の様な思考をしてしまう。月と星の光が私の影を暴いてしまう。

 私は手の中でマグカップを二度回すと、再び星空を見上げた。

 世界中の何処からでも、この星空を見ることが出来るのだろうか?

 そう、例えばだ。彼女の故郷からも同じ様に。

 そこで私はハッとする。同じ様に見えたらどうというのだ? 椿を手放すのか?

 そんな事は、そう彼女は私の奴隷で、私の物だ、手放すわけがない。

 そう自分に言い聞かせると胸が痛んだ。

 私の中で彼女はもう奴隷(もの)では無かった。

 彼女を愛してしまった。

 彼女の笑う姿がみたい。その笑顔を守りたい。その為には、奴隷から解放するのが良いんじゃないか。

 でも、そしたら、私たちの関係は、何に変わる?

 気がつくとマグカップは空になっていた。

 私はそれを気に立ち上がると星空を憎々しげに見た。

 こんな事を考えてしまうなら、眠れなくともベッドに入るべきだった。


 翌日。

 私はキッチンにいる椿に声をかけた。

「美味しいココアの作り方。でありんす?」

「そう。最近じゃあなたの作るココアの方が美味しいの」

 美味しいと言われ嬉しいのか、椿は照れ笑いを浮かべながら、クスリと笑った。

 そしてキッチンの中をテキパキと動きココアの材料を集めていく。

「別に変わった事をありんせん。主人様に教えてもらった通り……」

 それは確かに教えた通りの作り方だった。変わった事は何一つ無い。するとやっぱり理由は……。

 昨晩の事を思い出し、少しだけナイーブになってしまう。

「でも、私としては、まだあの味にならないでありんす」

 椿は完成させたココアを私の前に置いた。

「あの味って?」

 私はココアを受け取りながら、何気なくそう聞いた。しかし、聞かれた本人は重大な質問だったのか、首まで赤くして、頬をカリカリ掻いている。

 私はその姿が不思議で、ココアを飲みながら見つめていると、椿はプイッとそっぽを向き。

「初めて……主人様が、作ってくれた……ココア」

 消え入りそうな声で恥ずかしそうに。しかし、どこか私を責める様に言った。

私はあっけに取られながらも、その日のことを思い出した。

そこでふと椿も自分のココアが一番美味しいと思っている事を知った。そしたら、なんだかさっきまでの悩みがバカみたいに思えた。

「ねぇ椿」

「なんです? 主人様」

「今夜、一緒に星を見ましょう。ココアを飲みながら」

 椿は目をパチクリとさせる。突然の申し出に戸惑った後、すぐにその顔を満面の笑みに変えた。

「わかりんした。美味しいココアを淹れましょ」

「ええ、私もあなたの為に美味しいココアを淹れてあげる」


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