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天まで届け、地の水流

 今日は星座の話を、色々してくれてありがと! 昔の人ってすごいなあ、本当に色々考えていたんだね。

 だけどさ、天の川が神様のお乳でできているっていう伝説は、ちょっと信じられないな。ミルキーウェイと言っても、織姫と彦星も、七夕にそんな乳臭い川を渡ろうと思う? 僕なら勘弁願いたいなあ。

 今年の七夕、晴れるといいな。去年のような手はもう使えないから、ちょっと考えないとね。え、てるてる坊主? おじさん、そんなおまじないで天気が変わるわけないじゃん。お約束の反応だけどさ。

 じゃあ、去年は何をしたか? おじさん、興味あるの?

 いいよ。話そっか。ホントに去年限りで、今年はもう使えない手だから、そこは気をつけてね。


 去年の七夕の直前。二日くらい前だったかなあ。

 おじさんも知っている通り、七夕は雨になりやすいんだよねえ。織姫と彦星も一体何年おきに会えるのやら。天の川を渡ろうにも、確か二つの星の間は十六光年離れているんでしょ? 光の速さで十六年。とんでもない距離だね。

 そう考えると、二人を会わせてあげようかなって思っても、バチは当たらないでしょ。さっきも言ったけど、てるてる坊主は役に立たないしさ、家にいるじいちゃんに相談したわけ。


 じいちゃん、相談したら腕組みしちゃったんだ。

 天気予報では、七夕当日は全国的に雨の予報。降水確率も八十パーセント。残念ながら織姫と彦星は、今年も泣き寝入りする可能性が高かった。

 天気を変える方法。じいちゃんは一つだけあるって言って教えてくれたんだ。

 僕の学区内にあるいくつかの用水路。そのうち、水の流れていない用水路が一ヶ所だけ残っているはずだっておじいちゃんは言うんだよ。

 実はおじいちゃんが子供の時からその用水路っていうのは、水を流されたことがないんだ。にも関わらず、手でハンドルを回して開けるタイプの、水門が設置されているんだって。

 水を流さないんじゃ、用水路と言わないじゃんって、僕はおじいちゃんに突っ込んだよ。でも、おじいちゃんが首を横に振って言った。

 流さないんじゃない、流せないんだ。なぜなら、その水路は地上ではなく、天上につながるものなのだから。事実を確かめるには、夜空を見上げてみるしかない。

 七夕の日に、雨で川が溢れるから二人は会えなくなる。ならば、雨の原因となる雲を晴らすこと。予め、天に水を流し、雲のことごとくを取り払うことができるただ一つの方法。

 だけど、雲をどかすにはそれなりの勢いが必要で、五十年間、流れをせき止めたあとでないと効果を発揮しないんだってさ。

 じいちゃんが若い時に、お試しでやってみたら、本当に七夕の日が晴れ渡ったんだってさ。あれから五十年以上経ったから、効果は出るはず。そして、予め流す必要があるから、実行するとすれば、今晩か明日しかないって話。


 迷信とはいえ、てるてる坊主を作るより、十倍面白そうじゃん。

 さっそく、じいちゃんに場所を教えてもらって、その日の夜に行くことにしたよ。本当に学区の外れって感じだったけど、自転車ならさして時間はかからない距離だった。

 そして、夜。適当な理由をつけて外出成功。ここら辺って、本当に明るくて星が見えないんだよね。自転車のライトもさ、なくてもほとんど見えるから、役に立たないんだよね。

 え、夜間のライトは乗っている人の視界確保より、向こうから来る人や車に存在を知ってもらうのが、本来の目的? あ、危ないからライトつけないといけないって、そういうことか。一つ賢くなったよ。ありがと、おじさん!


 で、じいちゃんから聞いた用水路。やっぱり見た目的に水が流れてないのに用水路って呼ぶの、おかしいよね。まあ、天の水が流れているなら、用水路でいいのかな。

 立ち幅跳びで飛び越せそうな幅の水路。確かに水は流れていなかったけど、不思議なことがあったんだ。

 蛍だよ。水路の近くに、たくさんの蛍が飛び交っていたんだ。

 ほんの数十メートル行けば、民家があるような町の中。しかも水がまったくないところだよ。多少、草が茂っているくらいじゃ、蛍がいる理由にならないこと、おじさんもわかるでしょ。

 もしかして、って思ったね。ここに見えない川が本当に流れているのなら、おじいちゃんの言っていることも、恐らく本当。

 これで燃えなきゃ、子供じゃない。そうでしょ、おじさん?

 水門はすぐに分かった。川をまたぐように設置された堰。観音開きになっている、小さな鉄の扉と、その上の堰のワクに取ってつけたバルブハンドル。

 固いかもしれないから、軍手でも持ってけってじいちゃんが言った通りだったよ。錆びついたハンドルは簡単に回ってくれなかった。でもさ、自分が奇跡を起こせるかもって時に諦めたくないじゃん。

 回して回して、門が全開になる時には、三十分くらい経ってたよ。

 目には見えない、川の流れ。耳には聞こえない、川のせせらぎ。

 それを信じて僕は帰ることにした。アリバイ工作のために、コンビニでアイスやお菓子を買った後でね。


 結果として? 大成功だったよ!

 全国的に雨の予報は変わらなかったけど、この辺りだけ雲一つない快晴だった。神様が雲の生地から、きれいに型抜きしたのかって思うくらい、不自然にね。

 おかげで、空は晴れたけど、おかしなことがもう一つ。

 流れ星が多かったんだよ。流星群でもないのに、おかしいよね。しかもニュースにならないの。僕たちにしか見えてなかったのかな。

 じいちゃんに聞いたら、こう言ってたよ。

 この五十年で、あの川に捨てられたゴミが、そのまま天に上ったんじゃろ。嘆かわしいことじゃってね。



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