望まぬ始まり
始めてです。
「……ここは……」
目が覚めたとき、僕は湖の上にいた。
辺りを見渡しても月の光を浴びた水面ばかりで何も無い。
「…!若様、お目覚めになりましたか!」
…若様……あぁ…じぃやか…
「…すまないじぃや、心配をかけたようだな」
僕が小舟で横になっている間、ずっと漕いでいたようだ。
額に汗を流しながら、僕のことを笑顔で見てきた。
「…すまない。疲れているだろう、じぃやも休んでください」
「なにを言いますか、私はまだピンピンしていますよ!」
そうは言うが、じぃやのオールを持つ手は血塗れで、腕も震えている。気を失っていた僕を1人で連れて逃げてくれていたのだろう。
「じぃや、無理をしないでください。今は小船に身を任せ、休もうじゃないですか」
「しかし若様…」
「大丈夫ですよ、今の僕ならわかります。追手が来てないことくらい。」
「…本当に…なってしまったのですね」
「…まったく、今日は災難ばかりですね。平和な暮らしが失われ、望まぬ者にもなってしまうなんてね」
「…若様の授かった力は、神書に書かれている力の中でもっとも危険なもの…力を授かりし者は力を支配しないと力に支配される恐ろしく強大な力…あぁ、なぜ神は若様にこのような仕打ちをされるのでしょうか!」
じぃやは小船の手すりに手を叩きつけ、怒りながら涙を流していた。
「…すまないじぃや。じぃやが僕のために泣いてくれているのはとても嬉しいよ…でも僕は今、嬉しいと思えないんだ」
「…それは、どういうことなのでしょうか」
「…力に支配されているからだと思う」
「まさか!すでにもう力に飲まれて…」
「飲まれるというより、僕の考えでは力の代価をはらっている感じなのかな」
「代価…ですか?」
「うん、力を授かったときに僕は……」
じぃやに代価のことを話そうとしたが、言葉がつまってしまった。思い出してしまったのだ。僕の目の前で、僕を庇いながら死んだ母のことを…。
「…若様、あれは若様のせいではありません。お母様…エルレイド様が望んで行ったことです」
「あぁ、わかってる。わかってはいるんだ…だからこそ今の僕には早くこの力を自分のものにしないといけない…母様の死を…自分の気持ちで噛み締めたいんだ…」
「…!!まさか若様の支払った対価とは…」
僕はじぃやの言葉を最後まで聞かず、小船の上で立ち上がり、後ろを振り返った。
僕の目に映ったのは、月の光と混じりながら水面で踊る炎の光がてらされていた。
そして、湖の丘の上で燃え上がる僕の住んでいた屋敷を、ただじっと見つめていた。
「…若様」
「僕はこれから…試練を乗り越えなければいけない。自分の感情を取り戻すために…じぃや、僕の進む道を…迷わないように照らしてくれないか?」
若様は感情なくなってしまった。いや、正確には止まって閉まったのだろう。これが若様の手に入れた力の対価なんだと思う。
そんな若様がこの老いぼれにむかって、精一杯のお願いをしたのだ。
「若様!いえ、レイ・フォン・フィルフェルム様!この老いぼれ、貴方の盾となり、貴方の道を照らす光となりましょう!」
わしの誓いの言葉は、老いぼれには似合わない情けない泣き声といま出せる精一杯の声で空へと誓いを立てた。
若様の心無くも真っ直ぐな思い、そして、若様は分からないだろうが、その頬に流れる涙へ答えなければいけない。
「…ありがとう、じぃや…」
これから数々の試練を乗り越えなければいけない。
きっと修羅の道を通るよりも厳しいだろう。
だがやらなければならない。
僕の…いや、俺の復讐を成し遂げるために。
神よ、あなたがくださったこの理不尽なる力、いつか必ずお返しいたしましょう。
俺から奪ったもと同じように、あなたが愛しているこの世界を…
壊してから…な
初投稿でした。




