2章32 その頃の二人
お久しぶりの更新です。
催事前のルセラと催事中に神殿に忍びこんだユシャです。
(時は遡り催事の始まる少し前)
くしゅん!
「あ~、誰か私の噂してる」
鏡の前、催事の準備をしていたら、いきなりクシャミが出てしまった。
「ルセラ様は有名人ですから、今も誰かの話題になっていらっしゃるのでしょう。白の巫女とはそう言うものですわ。」
そういうものねぇ····
「その上、ルセラ様は歴代巫女でも人気ナンバーワン、神殿入りの御披露目メモリーストーンの売上の記録は未だに破られておりませんわ」
わたしの髪を結っている女性神官がさらに喋りまくる。髪結いの腕は良いと思うのだがちょっと煩い。後ろは長く垂らし頭頂部はまとめ、キラキラした髪留めで押さえる。そして簪。簪。もう一つ簪。まるでピンクッションみたいだな···
「それは言い過ぎじゃないの?わたしがお披露目したのは随分昔だし、今の若い子達もかなり人気があるらしいじゃない」
「いいえ、発売日売上、発売月売上、年間売上など、どれをとってもルセラ様の記録の足下にも及ぶ者はいませんわ」
髪を整えてくれた女性神官は笑いながら返す。
「研修生の中には有望な子が沢山いるって聞いたわよ」
「いえいえ、彼女らはまだまだですわ。ああ、それと、ルセラ様のメモリーストーンは今も売れ続けているようですよ。見るだけでも聞くだけでも癒されると評判だとか」
「まるで都市伝説ね。もう過去のことなのに、騒ぎ過ぎだわ」
「あら、私は今回久しぶりにルセラ様のお世話係になれて誇らしく思っておりますよ。皆もそう思って誠心誠意お仕えしておりますわ」
「それはありがとう。そこまで私を認めてくれているなんて、貴方や皆に改めて感謝しないといけないわね」
「突然どうされたのです?あなたらしくない」
「いや、なんとなく······ていうか、私らしくないってどういう意味よ!私が随分、我が儘で傲岸不遜なヤツみたいに聞こえるんだけど?」
「そうですか?以前からルセラ様は、わたくしでは読めないことをおっしゃったりされたりが日常茶飯事でした。ちょっとやそっとのことでは、もう驚きませんが。まぁ、以前よりは大人になられたとは思いますね」
褒めて落とされた。なんだよ。私のこと覚えてたんかい。嬉しくなんかないんだからね!
誤魔化すように今日の進行表をめくる。
こちらからは言わなかったが私は彼女の事はよく覚えてる。私がまだ巫女見習いの頃、世話係として付いてくれていた。催事の時にはいつも私の身の周りの事を担当していた。衣装や髪型、装飾品など小物のことだけでなく、私の健康にも気を使ってくれていた。
しかし、私が白の巫女に選ばれてからはずっと会うこともなくなっていた。
今回、久しぶりに催事にでることになり、しばらく前から私に密着状態で世話をしてくれている。
多分神官長あたりから、なにか言われているのだろう。私を監視しろ、目を離すな!とかね。
仕方無い事だけど彼女も神殿の職員、彼奴等に従わなければならない。 それでも、あの頃の私は少しは心が通じている·····と思いたかった。
そして、今回は彼女の他にも三人の世話係と高位の神官一人が付いていて、私は常に見張られていた。
ヒナのことバレてるのかな?
全てバレてるとは思わないけど、私が何か企んでいるとは気付いてるらしい。
さて、今日は久しぶりの舞と歌。気持ちを切り替えて頑張りますか。
歌はたまに歌ったりしてたけど、舞は長い事やってなかったから、しっかり練習はしたけどね。
間違えなきゃいいけど····
さあ、あの言葉を上手くヒナに届けられるかしら。
*******
(ユシャ視点)
トリスタのお陰で神殿の裏口から入ることが出来た。
出入りの業者の下働きの一人として厨房に向かう。魔法で容姿を変えるのは簡単だ。
自分より魔力の弱い者や少ない物には私は普通の商家の使用人の姿に見えている。
神殿の裏方、厨房や倉庫などの下働きは魔力の少ない者が多い。むしろ魔力の多い者はいない。他の使用人達からそっと離れ奥に向かう。
だが、ここから先はそう簡単にはいかない。魔力量が中級以上の神官、神殿警備兵、巫女見習い達がいる内政担当の区域だ。
ここからは認識阻害魔法と俺の持つ特殊スキルを駆使して慎重に進んで行く。
今日は催事があるため殆どの警備は表に集中しているはず、魔力を抑え察知されないようにしながら奥にある魔霊樹のその地下の白巫女神殿を目指す。
そこには白の巫女の部屋と祈りの間がある
しばらくすると、催事が始まったらしく人の気配が更に減った。巫女見習いや巫女候補などは、殆ど会場に行っているだろう。出演しなくても手伝いに駆り出されているはずだ。
この辺りに残っているのは下働きと下級の神殿警備兵くらいか。
順調に奥に進む。神殿は魔霊樹を囲む円形、回廊になっている。
中級以上の神殿警備兵はここから先に配属されているはずだ。
魔霊樹の根元には空間があり、そこには小さな庭と白の巫女の居住スペースへと降りる魔法陣がある。幼い頃の記憶がふと蘇る。生まれてから、神殿を離れるあの時までいた場所だ。
渡り通路から魔霊樹の見える場所までやって来た。それにしても、思った以上にトリスタは有能だな。ここまでの地図を手に入れてくるとは。俺の記憶は曖昧になっていたが地図を見て思い出した。
魔霊樹と神殿の間にある庭園は常に交替で警備兵が見回っている。どうやって地下へ向かうスペースまで行くか。おっと警備兵だ。あれは中級か。
「もうすぐ催事が終わるな」
「あ〜俺もルセラ様見たかったな〜」
「チラッとなら見えるかもしれないぞ」
「本当か?!」
「この近くに控えの間が準備されていて、今日だけはそこでお休みになるらしい」
良いのか警備兵。内輪の会話だとしても立ち話でそんな大事な情報を軽々しく口にするとは····
部外者がいるはずがないという気の緩みか。
「今夜の夜番警備担当はうまく行ったら明日の朝、ルセラ様のご尊顔を拝めるかもしれないってか?」
「もしかしたらだけどな。舞台を見られないんだから少しはいい思いしないとやってらんないよ」
「違いない」
いい情報をありがとう。早速行ってみよう。
ここか?美しく装飾された扉。やはり厳重に魔法がかかってるな。だが、これぐらいなら俺には大したことはない。魔法をすり抜け中を確認することにする。
簡単な造りだが家具やカーテン、絨毯などは良い物だ。間違いなくルセラの控え室のようだ。
戻って来て中にいる俺を見た時のルセラの顔は見ものだろう。
おっと、その前に帰還ルートの確認だ。認識阻害だけでなく変装も必要だな。捕まるわけにはいかない。
おや、帰ってきたようだ。
トリスタは意外にエリートかも。アドゥーラは神殿とは付かず離れずの関係。
ぼちぼち更新して行きます。来てくださったお客様ありがとうございます。