2章25 どっちもどっちな二人
本日も投稿致しました。よろしくお願いします。
杉下さんがこんなに感情的になるなんて思わなかった。
一応、私のために怒ってくれてる?いや、杉下さんは関係無いのに巻き込まれたんだから、怒る権利はあるんだけど。
「ヒナちゃんは就活中で面接という大事な日だったのに、俺だってあの日は大きな仕事のプレゼンがあったのに···」
「そうだったんだ。杉下さんも大事な日だったんだ。ごめんなさい。私のせいで巻き込んでしまって···」
私、一人が召喚されれば良かったんだ。でも、最初、杉下さんが居てくれて心強かった。
「でも私、杉下さんが居てくれて良かったって······?杉下さん?」
「·······」
「杉下さん?」
「·······」
「あの、杉し··」
「········んがっ」
「え?」
「·····ふすー···」
「·····」
杉下さんてば····寝てる。お約束すぎる。起こすべき?どうしよう?
しかし、器用だな。バルコニーの手摺に凭れて立ったまま寝てる。もしかして酔っ払ってた?確か今日はお酒も出てたみたいだったけど。
さっきの会話覚えてるかなぁ?
足音が聞こえる。
「おーいケント、ヒナちゃん、話済んだ?」
「二人ともデザート食べる〜?」
「ケント、酔い覚めた?」
サライさんとレトさん、それにジュノさんだ。私達を呼びに来たんだ。
「ここでーす。杉下さんが寝ちゃいました」
「ええ?おーい、ケント大丈夫か?」
「うわっ!立ったまま寝てる。器用なヤツ」
「サライ、レト。部屋まで運んでくれる。」
まあ、そうなるよね。
サライさんが杉下さんを背負ってレトさんが出入り口の扉を開ける。
「あれ?ジュノは行かないの」
「ちょっとヒナさんに確認事項があるから、先に行ってて」
え?ジュノさんが確認事項って何だろう?
私が警備隊の人達の中で結構親しいかな〜っと言えるのは、杉下さんの他は、サライさん、レトさん、ジュノさんだろう。厨房の人やドラゴン関係の人と話したりはするけど、そこまで親しいとは言いにくい。
ドラゴンの訓練に付き合う(遊ばせて貰う)時は必ずサライさんかレトさんがいないといけなかったし、それにプラス杉下さん。
そして街とかにお出かけの時はジュノさんが漏れなくついて来るのが基本だった。
街へのお出かけやその他の警備隊内での移動などはジュノさんが着いてきてくれて、時々杉下さんが同行する感じ。
でも、ジュノさんは私の前では口数が少なく、いつも距離を感じていたのよね。
それに、この数日はユシャさんとリナリナさんが一緒だったので、皆とは殆ど話せていなかった。
「········」
ジュノさん?何だろう?確認事項とか言ってたけど。
「ヒナさぁ、ホントに気づいてないの?」
「え?何のことですか?」
「マジか。いや、確かに鈍そうな奴だとは思っていたけど···」
何かあったの?明日には私はリナリナさんと町のアパートに引っ越す。そのことで何か問題でもあるのだろうか?
「女の人が苦手なジュノさんが私と二人っきりになっても伝えなきゃいけない連絡事項って一体何なんですか。とんでもない秘密を告白とか私には荷が重いですよ」
「は?何言って···」
「しかも、引っ越し前日ギリギリで····」
まさか、愛の告白?
「いや、確かに女性は苦手だけれど、アンタは友達だと思ってるし大丈夫だから」
私は大丈夫?それって私のこと異性と見てないとか?そうだったら、ちょっと失礼じゃないかね、君!
しかも笑いを堪えきれないという風に口を手で押さえて、肩が震えてますよ。
「こほん、失礼。本題に移ろう」
なんですか。勿体ぶって。
「ヒナはケントのこと、どう思ってんの?」
「同郷の優しいお兄さん」
あれ?ジュノさんが、崩れ落ちた。杉下さんから手を引け、とかライバル宣言とかじゃないの?
私の脳内は今、BでL思想なんですけど?だから私と杉下さんは兄妹みたいな関係ですよと伝えたつもりなんですが。
「はあ····ケントが報われない」
「ジュノさんと杉下さんの邪魔をする気はないですよ」
「何言ってんの?」
あれ?違ったかな。
「僕はケントがヒナを好きだと気づいているかと尋ねたんだよ」
「はへ?」
「まるで考えて無かったって様子だね」
杉下さんが私を···好き?いや。ないないない。
吊り橋効果とかそんな言葉が頭を過る。
「それは無いと思うけど」
「ヒナに再会できるまでずっとヒナのことを心配して考えて、本当に気の毒なくらいだった。」
私の方はユシャさんに保護されて衣食住足りてたし、言葉も通じてた。学校にも行かせて貰えて友達も出来たし、呑気に雨宮さんちで懐かしい味も楽しんでた。
でも、杉下さんは·······
ああ~っ!申し訳無さ過ぎる!きっと自分の状態を鑑みて、まだ子供(杉下さんにとって)で女の子である私がきっと自分より大変な苦労をしているに違いないと心配してたんだ。
「ジュノさん!私を殴って!」
「な!突然何言い出してるんだよ。お前、僕の言ってる意味理解してる?」
「杉下さんは優しいから頼りない私が大変な目に遭ってないか心配してくれただけだと思う。でも、私はニニカで呑気に暮らしてた。もうほんっとに申し訳なくて泣けてきそう」
ジュノさんがため息をついて私のことを頭を撫でる?
は?何?その可哀想な子を見るような目つき。
「仕方ないな。ケントには君がもう少し大人になるまで待つようにアドバイスしとくよ」
「はあ?」
いやいや、女性が苦手なアナタにアドバイスなんて無理な気がするんですけど。しかもこの人、私の事をお前とかアンタとかキャラ変わってない?それともこれが素なのか?妹に対する慈愛的なモノを感じるよ。
はっ!孤児院で面倒見てた子供に対する対応なの?
翌日の朝、杉下さんは途中から記憶が無いそうだ。それほど飲んだつもりはなかったけれど、久しぶりのお酒のせいか酔ってしまったらしい。
平身低頭で謝られた私は逆にオロオロしてしまった。
あっ、肝心の私の話覚えているのか聞き忘れた。
サライさんとレトさんは私の魔力の件はうっすら感づいていたようだ。
ジュノさんは「昨日の話は忘れてくれ」と言った。まあ、良いけど。
ちらっと杉下さんを見る。
まさかね。私を好きだなんて無いっしょ。
さあ、新生活に踏み出します。
お酒ってしばらく飲んでないと酔いが回るのが早いですよね。
どっちもどっちなのは誰と誰でしょう。恋愛要素少なすぎる。
そのうち、そういうお話がでる······かな?