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クレッシェンド〜浮遊大陸の記憶〜  作者: ふゆいちご
第1章
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修行か?

洗濯物が風に吹かれて踊っている。空は青くて雲も白い。

私は洗濯物を干し終えて、近くの木陰で体育座りして向かいの大陸と空を眺めている。

この位置から見る限り、元の世界とは大きく違っている気はしない。


どこか外国にいるような気分にはなるけれど・・・なんか違うんだよなぁ。


「ふう・・・」


今朝は早くから叩き起こされ、朝ご飯の支度を手伝い、洗濯の仕方を習った。

私は選択を誤った。


いや、ダジャレじゃなくてマジに。


この世界には電気製品なんてないの知らなかったんだもの!(いや、当たり前か)

洗濯機も電子レンジもコンロも掃除機も!全部ない!


もちろん電気自体無いだろうから電気製品あっても仕方ないんだけど。

だから、朝は火を起こすことから始めた。

火打ち石もあるけれど、それと別に魔法を閉じ込めた魔法石と言うのがあって使い方を習った。

この石があれば、魔法で火が起こせる。

指先で石を軽くたたくだけ、強さを加減することで火の大きさも変えられる。

火打石より超簡単で、まるでライターみたい。


そして燃料に火をつけて、かまど(コンロ?)みたいな所でお湯沸かしたり、焼いたり炒めたりするようになっている。


掃除はホウキと雑巾で。

ホウキは元の世界のものと似てる。やはり、何かの植物から作られているようだ。


ユシャさんの部屋はユシャさんが自分でするから良いと言うことで、私の部屋とリビング兼キッチンを毎日掃除しなければいけない。


洗濯はタライみたいなものに水と洗剤を入れて手で洗う。洗剤は草の実を潰して作ったユシャさんお手製。

お風呂用石鹸とシャンプーも手作りだった。

自給自足に近い生活してるのかな?


因みにお風呂は湯船ではなく、お湯を溜めた大きな桶から柄杓の様なもので汲んではかける。お湯はユシャさんが準備してくれた。多分魔法使ったんじゃないかな。シャワーでも作れないかなあ・・・


でもさ、ユシャさんだったらやろうと思えばなんでもチャッチャッと魔法でできるんじゃないの?

あ、なんでも魔法でする訳じゃないっていってたっけ。

やっぱりMPマジックポイントとかあって、それが減るからとかなんだろうか?

私は魔法が使えないから、こうするしかないけど、昔の日本もこんな感じだったのかなあ。


「はぁ・・・」


家事するなんて言わなきゃ良かった。

自炊はしてたけど、人に言えるほど得意な訳じゃないのに。


洗濯物を干していたら、「ちょっと町に行ってくる」といってユシャさんはアルクくんに乗って出かけてしまった。


お昼は、今朝作ったスープの残りとパン。食生活は質素だ。


「ふぅ、今日って、何日だろう」


つい、声に出してしまっていた。

就職試験サボっちゃったし、それに住んでた部屋だってそのままだし、冷蔵庫の牛乳だって賞味期限過ぎちゃってる。

洗濯物は部屋の中に干してるから、まあいっか。銀行引き落としとか家賃とか来月分どうなるんだろう。

それより、私が失踪したって大騒ぎになってるかもしれない!

杉下さんだってそうだ。

でも、元の世界と連絡なんかとる方法なんて分からない。


「はぁ~」


もう、ホントにどうしたらいいんだろう。ため息しか出てこない。


お昼ご飯を食べて片付けた後、少し休んで洗濯物を取り込んだ。


「夕飯どうしよう」


居間にはチェストや食器棚、本棚、小さな引き出しがたくさん付いた家具とかがある。

本棚から本を一冊取り出して開いてみる。

料理の絵が書いてあるから多分料理の本だろう。


「???」


これ何語?全然読めない。見たことない文字だし。

あ、でも当たり前だよね。

こちらの世界にはこちらの文化があるんだもん。


あれ?

だったら・・・


言葉も違うはずだよね?

私、ユシャさんと普通に会話してるんですけど?なんで?


まさか、実は私はこの世界の人間だったとか?


それは、ないなあ。

赤ちゃんの時からの写真だってあるし、うちの両親もそうとは思えない。

おじいちゃんとおばあちゃんが異世界人?

いや、見た目から典型的平たい顔の日本人だな。


これって何?どーゆーこと?

偶然?なわけないか。

答えは出るはずもなく


「晩ご飯作ろ」


私は考えるのを放棄した。

アホな考えは休むのと同じ、と昔の人も言っている。

うん、晩ご飯作ってユサさんが帰ってくるのを待つことにしよう。

そして、帰ってきたら色々聞いてみよう。


台所には野菜がいくつか置いてある。

さて、どれを使うか。


タマネギに似たもの、ニンジンに似た色のもの、ニンニクっぽいもの、そしてラカの実。


食器棚や引き出し、戸棚をあけてのぞいてみるが、他にめぼしいものは何にもない。


どうしようかと悩んでいたら、何か外で物音がした。

誰か来たかな?と思ったら、扉が開いてユシャさんとアルクくんが入ってきた。


「ただいま」

「アォン」


アルクくんが勢い良く走って私の所に来てしっぽを振っている。


「お帰りなさい」


そういって、アルクくんの頭を撫でると嬉しそうに目を細める。


「何してたんだ?」

「何って、ご飯作ろうかと思って」

「ああ、今日はいい」


ユシャさんは、そう言いながらテーブルの上に荷物を置いた。結構たくさんある。


布袋から次々出された荷物はその大きさの袋一つに入る量じゃない。


いくつもの紙袋が出された。

大きいもの、小さいもの、フタ付きの器らしきもの。まだまだ出てくる。


それから、布袋を持ったまま私の部屋にいった。


なんで、私の部屋に?

そう思いながらも、テーブルに置かれた良い匂いのする紙袋を覗いてみる。


「わあ!」


美味しそうな肉やソーセージのようなもの、ベーコンのような固まりが入っている。


他にも緑に葉の野菜、根菜らしきもの、小さな瓶は調味料?

小麦粉らしきもの、パン、飲み物が入ってる大きな瓶、まだまだ色々ある。


ユシャさんのあの布袋のどこにこんなに。

あ、魔法か?

そっか。魔法で小さくしてカバンに入れてたんだ。

ドラえもんのポケットみたいな中が異次元て訳じゃないよね。科学と魔法は違うもんね。


「おい、ちょっと来てみろ」

「は~い。」


なんだろう?私の部屋でユシャさん何してるんだろう。


「あっ!」


部屋の様子が一変していた。

窓にはカーテン。この世界にも似たようなものが色々あるらしい。

他にも鏡を乗せた大きなチェスト。それに合わせた椅子。

ベッドには大きなクッション。床には絨毯。

部屋の中央にはテーブル(前のと違うもうちょっと良さそうなやつ)がある。


「引き出しを開けてみろ」

「これは?」


引き出しの中には服やタオルが入っていた。


「知り合いの万屋に選んで貰ったんだが、足りない物があったら言ってくれ」

「ユシャさん。ありがとうございます!」


意外。まさか、こんなことまでしてくれるなんて。


「出世払いにしてやる」「へ?」

「当たり前だろう。俺はそこまでお人よしじゃない」

「…はぁ」


やっぱり、タダじゃないよね。


「さて、飯にするか。」

「は~い」

「返事は短く」

「はいはい。」

「一回で良い」

「はい」


なんのコントやねん!

やっぱり、この人ケチかもしれない。


「肉はその扉の向こうに入れておくから料理に使うときは必要なだけ取って使え。」

「え?腐らないですか?」

「なんで?」

「なんでって・・・」


ユシャさんがキッチンの横の扉を開けると、冷気が漂ってくる・・・って何か居る!


「冷獣キィンと契約してるから大丈夫だ。肉は少し奥に、飲み物とかは下の棚に、手前には果物や野菜を置くといい」


この部屋は大きな冷蔵庫兼飼育部屋ですか・・・

この子も私が世話するのか。


「キィンは、餌は何を食べるんですか?」

「草を食べる。キィンは寝床だけ自分で冷気を出し冷たくする。餌は自由に外に食べに行くからほっておいていい。」


なっ!放し飼い。

ユシャさんは扉を閉めて、何か呪文を呟いた。


「何やってるんですか?」

「キーンは契約聖獣だからな、契約更新の呪文だ。」


レンタル冷蔵庫?!

この子も聖獣なんだ。


「今日はご馳走だぞアルク」


ユシャさんがテーブルの上の蓋付のタッパーのような荷物を開けていくと、美味しそうな料理が次々現れた。


「すごい!」


「ラカにいい値がついたからな」


炒め物、焼き物、煮物、肉まんみたいなパンは中の具がジューシーでスゴく美味しかった。

マリネのような野菜料理には白身魚が入っていた。

飲み物は香りの良いお茶のようなさっぱりした物だった。


揚げて砂糖をまぶした甘いお菓子もあった。


「こんなに美味しい料理がこの世界にはあるんですね」

「明日からはお前が作るんだから、よ~く味を覚えてくれよ。これはこの地方の家庭料理みたいなものだ。」

「えっ?!私がこれを?」

「家事を手伝うと言ったのはお前だろう。心配するな。明日から本格的に料理もちゃんと教える。」


そ、それはかなり不安・・・

はっきり言って私は・・・かなり不器用だっ!


「それと、数日前に警備隊が森で誰かを保護したらしいという噂を聞いた。もしかしたら、お前の友人かもしれない」

「本当ですか?!」

「ただ、本部に連れ帰ったと言うことだから詳しいことはわからない。引き続き調べてみるから、もう少し待っていてくれ」

「はい!ありがとうございます」


良かった。杉下さん無事だったんだ。




次の日から特訓が始まった。ユシャさんて、お姑さん?

掃除の仕方。

洗濯の仕方。

料理は一番うるさい。

グルメらしく、色んなこだわりがあるようだ。


「さっさとやらないと鍋が焦げ付くぞ。お前、不器用すぎるぞ」

「ちゃんと部屋の隅まで掃除しろ!ホコリが残ってる」

「もっと力を入れて洗え。汚れが落ちてない!」


口は悪いしスパルタだ。

ユシャさんて、やっぱりドSなんだ!





この世界に来て更に一週間程が過ぎた。

なんとか、家事のやり方は覚えた。まだ上手ではないけれど、一通りはできる。


「ヒナ、料理の本だ。これで色んな料理覚えて作ってみろ」


一冊の本を渡された。

忘れてたけど、私はこの世界の文字が読めない。


「ユシャさん、私、文字が読めないんです」

「はぁっ?でもお前普通に話してるだろうが。」

「それなんですよ!話せるのになぜか文字は読めないんです。」

「そういえば、会ったことのある異世界人も最初は言葉も話せなかったな。なぜ、お前は話せるんだ?」

「だから、わからないんですってば!」

「威張るな!」

「威張ってないです!」


ユシャさんは考え込んでしまった。

ユシャさんにもわからないんだ。


「しかしこの世界で生きていくなら文字は覚えた方がいいだろう」

「それは、多分必要かと・・・」

「だったら覚えるしかないな」


ああ・・・また勉強しなきゃいけないなんて。

誰かが言ってた。人間、一生勉強だ!って。


「ふむ、文字を勉強するための本が必要だな。子供用の絵本でも買ってやろう」


また口の端を軽く上げて笑う。悪い予感…


「それも出世払いですか?」

「まあ、そうだな。」


借金が・・・増えていく・・・orz



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