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クレッシェンド〜浮遊大陸の記憶〜  作者: ふゆいちご
第1章
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私はどうしたら


「お前一人じゃなかったのか?」

「もう一人友達がいたんですけど······」


恐る恐るかいつまんで話す。


杉下さんが怪我をしていて熱が出たので、自分一人で助けを呼びに行こうとして、川に落ち、ユシャさんに助けられたことをできるだけ簡単に話した。


「なんで早く言わなかったんだ!バカ!」

「だって、言える状況じゃなかったです!」


ユサさんは頭を掻きながら周りを見渡したあと、少しの間、目を閉じていた。


「この近くにはいないようだな。人の気配はない」

「じゃ、やっぱりドラゴンに食べられちゃったんでしょうか?」

「いや、この辺りには人間を喰うようなドラゴンはいない」


あ、あのドラゴン肉食じゃないんだ。

······よかった······でも、じゃあ杉下さんはどこへ?


「少なくとも生きているようだな。この辺りで人間ほどの大きな生き物が死んだ様子はない」

「どこに行ったんでしょう······あんな体で·····」

「そいつは魔法を使えるのか?」

「使えません」

「そうか······だが生きているのは間違いないと思う。」


良かった······。


「小屋にでも入って休んでろ。私は畑に用がある。アルクも休んでろ」


思い出したように私の方を向いて言った。


「はい。」

「クゥ~ン」


小さくなったアルクくんが私についてくる。


小屋の中はあの時と変わっていない。

アルクくんは杉下さんが寝ていたあたりの藁の匂いを嗅いでいる。匂いで杉村さんの居場所見つけたりできないのかな?


藁にもたれて座ると、アルクくんは私の横にきて、寝そべった。

そっと、手を伸ばし撫でてみる。

嬉しそうに尻尾をふるので頭や背中を撫でていたら、すごく安心できて眠くなった。

何だろう、この癒される感じ······


「帰るぞ」


ユシャさんの声に目を覚ますと外は薄暗くなっていた。

私は眠ってしまっていたらしい。

何時間寝てたんだろう。時計がないとそ時間の感覚がなくて、全然わかんないよ~

再びアルクくんに乗ってユシャさんの家に。


あれ?どこかの街に送ってくれるんじゃなかったっけ?

家に着いたらユシャさんに「飯を作ってやるから部屋で待ってろ」と言われた。


何がなんだかわからないまま時間だけが過ぎていく。

ここは一体どこなんだろう?外国のどこかではないみたいだし(浮いてるし魔法あるし)未来とか過去という訳でもないっぽい。

どこか遠い星?やっぱり異次元とか異世界?パラレルワールド?


わからない······

しばらくするといい匂いがしてきた。


「飯だぞ。こっちにこい」


ぶっきらぼうに呼ぶ声がする。


「はーい」


返事をしてそちらに向かう。

テーブルには、料理が並べられていた。

肉と野菜の煮物、生の野菜(サラダのようだ)、パンの様なもの、飲み物。そしてあのラカの実らしきものもある。デザートかな?


「そこに座れ」

「はい。いただきます」

「アルク、よし」


アルクくんも大きなお皿に山盛りのご飯を貰っている。誰かと一緒にご飯食べるなんて久しぶりだな。


「美味しいです♪」

「それは良かった。たくさん食えよ」

「はい!沢山ごちそうになります。」

「珍しい奴だな」

「そ、そうですか?」


この世界の女の子って一体どんな感じなんだろう?私とは違うのかな。


「ごちそうさまです。ふー、美味しかった。お腹いっぱいです」

「じゃ、少し話をしよう。アサダ ヒナだったな。」

「はい。ヒナと読んで下さい」


ユシャさんが真剣な顔をしている。


「本当のことが聞きたい。ヒナ、お前は何者だ。どこから来た?」

「何者と言われても······」

「ナヤ川で倒れていたお前を見つけたのは二日前だ。前の日、異常なエネルギーを感じたと聞いている。」

「ええ~っ!!!二日前!」

「そっちかよ!」

「すみません······話の腰を折ってしまって······」

「まあいい······魔法で色々調べてみたが、何故かわからないがお前の事をすべて見通すことができなかった。」


魔法でいろいろ?私のすべて?


「お前······何か変な想像してないか?」

「変なことしてないでしょうね」

「するわけないだろっ!」


良かった······お父さんお母さん、妃奈は清いままです。

異世界にきて初対面の男の人とどうとかなっちゃったなんて、あまりにもベタすぎる。


「あの畑の近くであった大きなエネルギーの波動の後は、もうほとんど無くなっていた。」


ユシャさんが私を見つけてから2日と言うことは、この世界に私達が来たのは多分3日前と言うことか。


「お前の連れの気配も探してみたがかなり薄くなっていたし、この一帯には居る気配はなかった。」


杉下さんだけ元の世界に戻れたってことは······ないだろうな······


「事と次第によっては助けてやらんでもない」

「ホントですか!」


思わず椅子から立ち上がる。


「だから、話してみろ」

「はい······」


私はここではない世界で暮らしていて、ある日、杉下さんと不思議な石を拾い、突然こちらの世界に飛ばされた事を話した。

そして石は無くなってしまったこと。


杉下さんと小屋にたどり着いたが杉下さんが怪我のため熱を出し、私が助けを呼びに行っている途中で橋から川に落ちたことを話した。


「あの橋腐ってたみたいで·····」


そういえばユシャさんはアルクくんに乗っていくから橋は渡らないよね?


「あれは、俺の師匠が作った橋だ。一応一度架け直したが、もう100年近く経つか。俺には今は必要ないから使わないで放置していた。腐っていても不思議はないな」

「100年!ユ、ユシャさんの師匠って!」

「師匠はとっくに引退して呑気にどこかで暮らしてるよ」


そ、そうか魔法使いだもんね。長生きなんだ。

とするとユシャさんも?


「あの、ユシャさんておいくつなんですか?」

「お前はいくつだ?」

「私は18歳です」


ユシャさんの目が点になった。


「ほんとに子供だったのか······」


あ、ちょっとムカつく。子供扱いし過ぎじゃないですか。

改めて聞く。


「ユシャさんは何歳なんですか?!」

「私は242歳だ。」


にひゃく······よんじゅう······にさい?

超ジジィじゃん!!!!

いや、すごいお年寄り······ご高齢なのね······


やっぱりこの世界の寿命っておかしいかも。

その年でその容姿。詐欺以外の何物でもない。私が子供に見えても仕方ないか。ていうか赤ちゃんみたいなものだわ。


「お前、今俺をジジィだと思ったろう」

「あ、いえ······すみません。」

「我々、魔法の使える人間は魔法の使えない人間より寿命がかなり長い。2000歳以上生きるものもいる。普通の人間の寿命は長くても100歳前後だからな」


すごい······この世界の人の寿命ってファンタジーなんかのエルフ並なんだ。

ん?魔法の使えない人間?


「魔法の使えない人間もいるんですか?」

「魔法が使えない人間は主に下の大陸に住んでいる。この大陸にもいるにはいる。ちなみに魔法の使える人間の最高齢はある賢者の3000歳と聞いている。魔法レベルは魔族以上だという噂だ」

「ユシャさんの魔法レベルはどの位なんですか?」

「秘密だ」

「えー!なんでですか?ケチ!」

「口の悪い奴だな。」


口の端で笑う。魔族もいるんだ。


ユサさんは立ち上がり食器を片づけ始めた。私も立ち上がり自分の食器を片づける。


水はどこかから引いてあるのか、流しの横の大きな水がめに常に流れ込んでいる。これも魔法なのかな。


「洗い物は自分でするんですか?魔法でチャッチャッとやらないんですか?」

「何でもかんでも魔法でするわけじゃない」

「そうなんだ······」


ユシャさんが洗い物を片付けるのを手伝ったあとデザートに、あのラカの実を食べた。


「う~ん、やっぱり美味しい♪」

「そりゃそうだろう。うちのラカは市場でも一番の高値がつく高級品だからな」

「売ってるんですか?」

「俺の大事な収入源の一つだ。後はあの畑で育てている薬草を売ったりとか、魔法を封じ込めた道具とかを店に置いて貰ったりと、まぁ色々だ」

「ラカっていくらなんですか?」

「そうだな。今食ってる位なら3ペル位かな?因みに、最高級だと1個300ペルにはなる。」

「?」


お金の単位がペルというのはわかったけど、価値がわからない。

ユシャさんによると、ペルより小さい単位はメル。

100メルが1ペル。

10000ペルあればしばらく生活できるらしい。

ユシャさんの家程度なら3万ペルで建てられるらしい。つまり······


「えーっ?!ラカ100個で家が建つんですか?!」

「金持ちは美食家が多いからな。言っただろ。生活の収入源だって」


そ、そんな貴重な物を私と杉下さんでバカ食いしちゃったんだ...

思わずラカを食べる手が止まる。


「だから最高級品は、だよ。うちでは最高級レベルが年に2、3回10個位は取れるから楽勝だ。」

「ごめんなさい。知らなかったとは言え、大事なラカをいっぱい食べちゃいました······」

「だから、もういいって。ヒナは知らなかったんだし、非常事態だったんだから。」


ユシャさん、ホントは優しい人なのかな?


「さて······ヒナはこの世界でどうしたい?」

「え?」

「はぐれた友達を探す?元の世界に帰れる方法を探すか?それとも何かやりたいことがあるのか?」


そ、それは·····

帰れるものなら帰りたい。でも杉下さんのことも心配だし······

ユシャさんは黙って私の答えを待っている。


「取り敢えず働きます!」

「は?」

「だって、帰る方法探すにしても、杉村さんを探すにしても、ここで暮らさなきゃ仕方ないなら働かないと。」

「ふむ······」

「ユシャさん、仕事見つかるまでここに置いて貰えますか?」

「ほう、そう来たか。」


ユシャさんが楽しそうに笑う。


「それでは取引といこう」

「取引?」

「俺が仕事の合間に君の友達を探す。帰る方法も調べてみよう。仕事もな。君はアルクの世話、掃除、洗濯、料理など家事をやって貰おうか。取り敢えずはそれで良いか?」

「はい!頑張ります」


家事はまあなんとかなるよね。

一応、一人暮らししてたんだし。


「じゃ、今日はもう休め。明日の朝は早いぞ。」

「はい。おやすみなさい!ありがとうございますユシャさん」


良かった。きっと良い方向に向かうよ。杉下さんと帰れるよね。


パタン



ヒナは嬉しそうに与えられた部屋に戻っていった。

なんと素直で人を疑うことを知らない娘なのだろう。

売り飛ばされるとか考えてないのか?

異世界から来た人間を見たのは初めてではない。しかし、厄介事ははっきり言ってごめんだ。

しかも内に魔法の気配を持った異世界人など初めてだ。しかし、魔法は使えないようだ。

だが、彼女を·····彼女を奴らに渡すのは····躊躇われる。


なんとかしてやりたいと思うのは何故なのだろう?


「クゥン」

「なんだ?アルク。あいつが気に入ったのか?そう言えば河原に倒れていたあいつを見つけたのはお前だったな?」


人間にはあまりなつかない聖獣のアルクが何故かヒナをになついている。不思議なヤツだ。


明日は少し街まで行って情報を集めてくるとしよう。

しかし異世界の人間なんてバレたら神殿派の実験材料にされるのが落ちだ。下手に聞き込みはできないかもしれない。

あいつの友達ってやつが神殿親衛隊とかサルタイラの奴らに捕まってなきゃ良いけどな。


その時はその時······だな。


「アルク、俺たちもそろそろ寝るか。」

「アウォン」


意外に楽しくなってきた······ふふふ。


「クォン?」


妙にユシャが楽しそうだな?アルクは首を傾げた。

ま、いっか。

聖獣は小さなことは気にしないのだ。





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