出会い
なんでこんな事になっちゃったんだろう······
杉下さん、ドラゴンに食べられちゃったんだろうか······
あの時、一緒に小屋まで帰れば良かった。
私もドラゴンに食べられちゃってたかな?
でも、川に落ちたりして疲れきって、私ももう長くないのかもしれない。
ところで、ここって、天国?
暖かくていい気持ち。なんか、やわらかいしハーブみたいな香りがする。
それと······
美味しそうな食べ物の匂い。お腹すいたな······あの木の実もっと食べとけば良かった。
なんか私、マッチ売りの少女みたい。天に召される前にいろんな幻見るの。
絵本ではケーキとか七面鳥とか、ストーブだったけど、私は何が見えるのかな?でも、目を開けずに幻って見られるものなのかな?
私、今目を閉じてるよね。でも、目を開けるのは怖い。
目を開けたら、目の前にドラゴンがいたりして。
まてよ、暖かいってことは······
まさかドラゴンの巣?!ひえ~~~っ!
私、もしかしたらドラゴンの子供のお土産に持ってこられたとか?
ど、どうしよう······どうやって逃げよう。
魔法?無理。武器だって持ってない。
戦うのは無理だ。ドラゴンと交渉するとか?ドラゴンって言葉理解できるの?
もっと痩せてれば食べる気起きないかもしれないのに。ダイエットしとけば良かった~。
······隙を見て逃げる。もう、それしかない!
「何、バカなこと言ってるんだ。」
へ?
「早く起きてスープでも飲め。」
あれ?
あれあれ?
ゆっくりと目を開けてみる。
「やっと起きたか。」
目の前に男の人がいる!
柔らかそうな水色の髪。水色って珍しいな。目は青に近いんだ。綺麗だなぁ······しかも超イケメン。でも、誰?
「お褒めにあずかって光栄です。だが、人に名前を聞くなら、そちらが先に名乗るべきではないかな?」
「あ、失礼しました。私は浅田 妃奈······って私、まだ声に出してない!」
この人、心の中読んだ~~っ?!
「気にするな。面白かった」
面白かったとか、そういう問題じゃないでしょう!ていうか、それって魔法なのかな?
「起き上がれるか?テーブルにスープがあるから飲め。」
あ、意外にいい人かも。
ベッドから起き上がり下にある室内履きらしき物を履く。柔らかで清潔な布団、気持ち良かった。
この人が助けてくれたのか。
すぐそばのテーブルの脇の椅子に座る。
テーブルの上には深めの皿があり、具だくさんなスープが湯気を立てている。
「いただきます。」
手を合わせた後、皿の横の木のスプーンを取り、スープをひと口食べる。
ん~美味しい~!お腹はもとより体中に染み渡る。
空腹だった私は夢中でスープを飲み、食べた。
具がたくさん入っていたので、お腹いっぱいになった。
「ご馳走様でした。ありがとうございます。あの、私は浅田 妃奈といいます。ヒナと呼んで頂ければ」
「私はユシャ」
ユシャさん私が食べ終わるの待っていてくれたんだ。
「助けていただき、ありがとうございます。ユシャさん、料理お上手なんですね。すごく美味しかったです。」
シチューのように煮込んだスープは美味しくて体まで温かくなって元気が出るような気がした。
「そりゃよかった。元気になったら、さっさと着替えて出ていってくれるかな?私はこれから出かけなくてはいけないんだ」
う…
······優しそうな人だと思ったのに言い方はキツい。
「はい。お世話になりました。」
「ほう。意外に素直だな」
なんかムカつく······ん?着替え。
「あ~~~っ!」
私の服······私の······
今、私が着ているのは裾が長くて、飾りのついてないシンプルなネグリジェのようなもの。
見ると、私が着ていた服は綺麗にたたまれて、部屋の隅の低いチェストの上に置かれていて、その床には靴も置かれている。
······と言うことは着替えは
「あ、あの、もしかして······」
「ん、着替えか?もちろん私がしてやった。他に誰がいる?」
そんな、事も無げに······
そりゃ、あなたは大人で女の子の裸なんて珍しくもないだろうし、何てことないでしょうが······
「何、顔赤くしてパクパクしてるんだ?フラウラ(金魚)みたいなヤツだな」
ま、また魔法とか何とか?
「お前の考えそうなことくらい術を使わなくてもわかるし、下着は魔法で乾かしたから安心しろ。」
下着見られた~!
「今の若い娘というのはなかなか派手な下着をつけているのだな。」
ユシャさんがクスッと笑う。
「こ、これは······」
恥ずかしすぎる!就職試験に勝負下着だなんて言えないっ!普段はもっと地味なんだから~
「変なヤツだな。」
またクスッと笑って背中を向け出ていこうとする。
「あ、あの······」
「着替えを手伝えとでも言うのか?手伝ってやらんこともないが、私は脱がす方が得意なんだがな」
「結構です!一人でできます!」
「それは良かった。子供の世話は慣れてない。」
そう言うと部屋を出ていった。
ムキ~~~~~ッ!!!
いちいち失礼な人だなあ。笑顔は素敵なのに言ってることは最悪!
もう~っ!さっさと着替えして出て行こう。
きっと、この世界にももっと優しい人はいるはずだもの。それに杉下さんを探しに行かなくちゃ。
杉下さん······大丈夫だったかな······
あのユシャって人、優しいのか意地悪なんだかわかんないよ·····
私を助けてくれて家まで連れてきてくれたんでしょう?······の割には物言いがキツすぎない?
きっと、ひねくれ者なんだ。
さて、着替えもすんだし出て行こう。
ふと窓から外を見る。ここも緑が豊かな所らしく、葉の茂った木や、実のなった木が家の前に何本もある。後は草地で、遠くに山が見える。
あの森はどの辺りなんだろう。昨日見た景色とはずいぶん違う地形のようだ。
かなり川下まで流されたってことなら、杉村さん探しに行くの凄く難しくないか?場所もわからないし、あの獣道みたいな道は歩いて行くしかないだろうし。
ん~······仕方がない。事情を話してダメもとで協力してくれないか聞いてみようか。
そう言えば、ユシャさん、私の素性とか何にも聞かないな?
どこから来たとか、なんでこんな事になったとか······ある意味ではおおらか?
脱いだネグリジェをたたんでベッドに置く。
しかしスカートというのは、活動的ではないなあ。
しかもあちこち破れてしまってるし、パンツだったらよかったのに。
今になって恥ずかしい······
ここの世界ではどんな服が主流なんだろう?ユシャさんは生成の長いシャツに同じ色のパンツ、皮っぽい茶色のベストを着てたな。
ドアを開けると、さっきの部屋よりは広く、真ん中に大きめのテーブル。ここがリビングだろうか。
天井からはいろんな乾燥した植物がたくさん吊されている。あの畑の小屋を思い出す。
この部屋は天窓から日が差していて、建物の中なのにとても明るい。
ユシャさんはキッチンで何か作っているようだ。私は先ほど食べたスープの器を持ってそちらに向かう。
「アルク、飯だぞ」
「アォン!」
な、何?ユシャさんがしゃがみ込んで何かに話しかけている。
恐る恐るそちらの方に歩いていく。
「あ!」
小さな犬のような生き物が大きなお皿の餌を勢いよく食べている。
ほへ~~~~可愛い······しばし見とれる。
「なんだ?聖獣を見たことないのか?」
「せいじゅう!?このちっちゃいのが?」
「アルクは聖獣ガルワンドだ。このっちっちゃいのとか言うと機嫌悪くするぞ」
「アルクくんて言うんだ。で、せいじゅうってなんですか?」
「お前本当に何にも知らないのか?」
え?
ユシャさんは私をこの世界の人間だと思ってるから、無知でおバカな娘だと思われてるんだ。
確かにこの世界のこと何にもわかんないけどさ。
それにしても、可愛い。白い長い毛、ピンと立った耳、ふわふわの尻尾。大きさは中型犬くらいかな。
触りたい······ウズウズする。
「アルクの飯がすんだら出かける。外に出てろ」
「はい」
外に出ると気持ちのいい風が吹いていた。
思い切り深呼吸して伸びをする。
「ウーン気持ちいい」
昨日は気が付かなかったけど空気が美味しい。まあ、あんな状況じゃ、そんなこと考える余裕なかったけど。
あれ?なんかこの風景、変じゃない?なんか違和感。
小さな立て札が立ててあるあたりにゆっくり歩いて近づいていく。
立て札には見たことのない文字が書かれてある。
この国の文字かな。全然読めない。
そして······
あ、あ、あ·····
「えええ~~~~~~~っ!!!!ここどこよ?!」
浮いてる!
このユシャさんの家がある所というか、土地というか浮いてる!
ううん、
向いにある土地も浮かんでいる······ここって浮遊大陸なの?
ここってここってマジ、ファンタジーの世界なんだ!
私······なんて所に来ちゃったんだろう······
恐る恐る端っこから下を見る。
あ、青い。海だ。下にも大陸とか島があるんだろうか。
「ラピュタみたい·······すごい」
すごいとしか言いようがない。
絶景だ······
ここは半島のようで、振り返るとユシャさんの家の後方には広い森と奥には山が控えていて、大陸に向かって広がっていた。
私と杉下さんは、あそこの森の向こうに落ちたって事か。だったら、川がこの近くにあるはず······
でも、どういう原理で浮いているんだろう?この世界の科学技術ってもしかしてスゴいの?
「何やってんだ。危ないぞ。それとも飛ぶのか?もしかして飛空魔法使えるのか?」
後ろからユシャさんがアルクくんを連れてやってきた。
「い、いや、すごい景色だなあ······と思って······浮いてるし」
アルクくんが足元にすり寄ってくる。
「······お前何者だ?」
「何者って言われても······」
異世界から来ましたって言って信じてもらえるのかなあ?
「魔導組織の者ではなさそうだし、サルタイラやアドゥーラでもないみたいだし······この世界の人間なら大陸が浮いていること位、子供でも知っている」
「は?猿平ら?あずーら?何それ?」
「ぷっ、はっはっは!」
笑われた······
この人でもこんな風に笑うんだ。でも笑いすぎでしょう。
「そうか、ただの迷子か。もしくは記憶喪失か?」
記憶喪失······
こっちの世界の人だったらこの状態はそういうことになるかも。
「あ、あの······」
「名前は覚えていたようだし······記憶喪失ではないなら帰るところがあるだろう。送っていってやってもいいが、先に行くところがあるから、その後でもいいか?」
「は、はい。ありがとうございます。」
良かった、でも、どこへ送って貰えば?どこか近くの街へ?
その前にあの小屋に行かないと、杉村さんを探さなきゃ。
「アルク頼む。」
「?」
アルクくん?
「わあっ!」
巨大化した!しかも背中に羽が!すごいすごい!
「カッコいいカッコいい~っ!スゴい!」
「お前······」
「何ですか?」
「いや、何でもない。」
アルクくんは広げた鳥の翼のような羽根を折りたたみ伏せの姿勢をした。
背中にユシャさんが乗る。
「ほら、早く来い」
ユシャさんの後ろに乗ろうとすると
「そっちじゃない。こっちだ」
「えっ、前~?!」
「ほら、早くしろ」
「は、はい」
ユシャさんの前に登り座る。スカートでこんな跨がるのって恥ずかしい······
アルクくんがゆっくり立ち上がる。
「きゃっ!」
落ちそうだよう~あっ!
ユシャさんの体が私を支える格好になる。だから前なのか。
ユシャさんは両腕を伸ばしアルクくんの首の毛を掴む。
「アルクは大丈夫だから、アルクの毛をしっかり掴んでろ」
「はい」
大きな馬、ううん象とかにのってるみたいな高さかな?これで空飛ぶなんてすごいなあ。
ドキドキ······
アルクくんが羽根を広げゆっくりと羽ばたく。
ふわりと浮き上がる。地上からだんだん離れて景色が一変した。
すごい······パラグライダーとか、こんな感じかなあ。
すぐ向こうの大陸に建物が見える。町があるみたい。
「あのかすかに白い物が見える方向に首都ヴォイスがある。手前には小さな町がいくつかある。送っていくのが手前のニニカあたりなら、今日でも行けるだろう」
あの白い物がある所が首都なんだ。落ちる時に見えた木だよね。結構大きな大陸なんだ。
だとするとあの木どんだけ大きいの。この距離であの大きさに見えるなんて、ラスボスかも。(ゲームかよっ!)
高く上がったので山しか見えない。あの小屋を探せるだろうか。
ユシャさんは、これからどこへ行くんだろう。アルクくんが方向転換するとそちらには森が広がっていた。
少し高度が下がった。
あっ!川が見える!川に沿って上流に飛んでいく。もしかして、あの小屋は、やっぱりユシャさんの?杉下さん大丈夫だろうか?
しばらく行くと橋が見えた。あの吊り橋だ。そして······あの小屋だ!間違いない!
アルクくんはそこに向かって降りてゆく。
「うわっ!」
下からの風でスカートが持ち上がるのを押さえようとしてバランスを崩しかけた。
「バカ!ちゃんと掴まっていろ!落ちるぞ」
後ろからユシャさんの左手が私を抱くようにして支える。
背中がくっついて、耳元から声がする。
なんだかくすぐったいようなゾクゾクするような変な感じだ。
「す、すみません······」
なんか顔が熱い。ドキドキしてしまう。
アルクくんは小屋のそばに降り伏せの姿勢をした。
先にユシャさんが降り、私はユシャさんに降ろして貰った。
「そういえばお前、変な服着てるな。そんな短くてヒラヒラした物はいて···まさか娼婦か?」
「なっなんで!違います!」
「そんなはずはないな。こんな色気もない子供が、なわけないか。」
笑いながら言っている。わざとですか?
「色気がなくてすみませんね!」
「どういたしまして。お前には良かったかもな」
「え?」
「なんだ?俺としたかったのか?」
「違います!!」
なんなの、なんなのこの人!失礼だし、スケベだし、口悪いし!
助けてくれた恩人だけど超ムカつく!
「なんだ?これは。」
あっ!
昨日、私達が食べたあの木の実の種を捨てた場所!
「誰かが、ここに来て······泥棒か?」
ここはやっぱりユシャさんの畑なんだ。
「ごめんなさいっ!」
思いっきり深く頭を下げる。
「はぁ?」
「昨日、それ食べたのは······」
「お前か?!」
「はい。あ、いや正確には私達······」
「馬鹿やろう!このラカはすげえ高く売れるんだぞ!俺の一番の収入源を!」
ひえ~っ!かなり怒ってる。
「ごめんなさい!、ごめんなさい!お腹空いてたので、つい······」
弁償なんて無理だよ。あ、まさか体で払えとか?!
「しょうがないヤツだな。」
あれ?怒ってないの?
「しかし、こんなに一人で食ったのか?腹壊さなかったか?」
「あ、あのもう一人居たんですけど······」
「何?」
ユシャさんの顔が少し険しくなった気がした。