さよならバカンス
お付き合い頂きありがとうございます。
このお話で第1章完結です。
目を覚ました時にはすべて終わっていて、ゴツゴツした岩じゃなくフカフカのベッドに寝ていた。
私が目覚めると、側にいた女の人が直ぐに人を呼びに行ってくれた。
ホテルのメイドさんらしい。
まず、ユシャさんとアデリーナさん、そして知らない男の人がやってきた。
「外傷は治癒魔法で治っていますね。魔力も回復してきているようだし、もう大丈夫でしょう。栄養のあるものを食べて身体を休めて下さい」
知らない男の人はお医者さんだった。お医者さんが部屋から出ていくと、ユシャさんの説教タイム。
「大人しくしてるとか言ったのは誰だったかな?こっちは仕事で来てるというのに、だいたいお前は······」
ユシャさんの言葉がグサグサ刺さる。心を無にして耐える。色々と反省点は多いから。あ、無になってたらダメか。
「····まったく、アレックスに伝言残すとか、アルクを召喚するとか方法はあっただろうに、浮かれ過ぎてたんじゃないのか?」
返す言葉もございません、はい。
「まぁまぁ、ユシャさん。ヒナさんも反省してることだし、この辺で治めて下さいな」
アデリーナさんお口添えありがとうございます。素敵な女性は心も広い。
「確かに、アベル達が操られてたのもあるし、この話はここまでにしようか。アベル、オリオン、アレックス入れ」
ショボンとした三人が部屋に入ってきた。
「ヒナ、ゴメン!」
「すみませんでした!」
「危険な目にあわせてごめんなさい!」
「俺達調子に乗ってたスマン!」「怖い目にあわせて悪かった」
「もっと気をつけてなきゃいけなかったのに本当にごめんなさい」
直角、90度に頭を下げるなんて、どこの軍隊だよ。
「い、いや三人とも頭上げて!わ、私は大丈夫だから!大丈夫だから!」
アベルくん、オリオンくん、アレックスくんが私に平謝りするので、困った。逆にいたたまれない。特にアレックスくんには迷惑かけただけだったし。三人とも私を守れなかったのが悔しかったらしい。
それとパザさんが私達の捜索に大活躍したらしい。お礼を言いたかったけど、ご主人のスケジュールの都合でスタラーダを今朝早く出たとのことだった。残念、また会えるかな。
午後には元の部屋に帰ることができた。私が居たのはホテルの一室で医務室の隣の療養室と呼ばれる部屋だった。具合が悪くなったお客様や従業員を一時的に休ませる為の部屋だということだった。私は昨日丸一日寝ていたらしい。ご心配おかけしました。
「そう言えば、ユシャさん。あの後、どうなったんですか?」
「あの後って、どの後だ?」
「私が意識失ってからです」
あー···ユシャさんにとっては話が繋がってるんだろうけど、私は意識ない時に何がどうなったのかわからないんだからね。
ヒナには、ルーとの魔力譲渡の件は省いて、警備隊が来たこと、ビオラークラは魔法で冬眠状態にして海に返したことを話した。
「良かった。ビオラークラ生きてるんだ」
モンスターの心配か。
「ヒナ、俺達は首都ヴォイスに行くことになったから、そのつもりで。出発は明後日だ」
「ええっ!なんでまた急に?」
ちょっと待って!いつの間にそういう話になったの?俺達ってことは、間違いなく私も一緒に行くんだよね。私、まだ心の準備できてない!
「お前と同郷のケントという異世界人が警備隊宿舎で待っているそうだ。会いたいんだろう?ついでに首都観光してくればいい」
「こちらに来てくれるんじゃなかったんですか?」
「彼は高所がダメらしい。ドラゴンに乗れなかったそうだ」
「え?」
杉下さん高所恐怖症だったの?
と言うわけでユシャさんと二人首都行き決定です。
アベルくんとオリオンくんにめっちゃ羨ましがられた。アレックスくんは家族で行ったことがあるらしい。
そして、あの警備隊の隊長という超美形に会った。
「いつぞや会ったな。第3警備隊隊長エルフォンス・フリードディルヒ・バルシュタインだ」
「浅田妃奈です」
「サングラスで失礼する。私の目は特殊で見え過ぎるので魔導具のサングラスをいつもかけている」
「見え過ぎる····」
それって、ヤバいスキルなんじゃ···
「ヒナ、鑑定眼の高精度スキルだ。別に透けて見えるわけではない」
「あ、はい」
ユシャさんから補足が入った。べ、別にそんな誤解してたわけじゃ···なくはないけど。
う·····エルフォンス隊長が微妙な顔してるっぽい。しかし、サングラスしてこの美貌、外したらどれほどの美人なのやら。傾国の美女も真っ青の美人なんだろうな。
「コホン、では、簡単にこれからの予定を説明しよう」
警備隊はユシャさんに依頼していた件の残務処理をしてから帰るとのことで、ユシャさんと私は一足先に飛行船で首都に向かう。
飛行船?
「首都に入るにはレイハス、ヴォイスを繋ぐ限定の道しか使えない」
ユシャさんの言う限定の道とは、ティファーンのレイハスから首都のヴォイスに通じる一本道のこと。
首都には他の地区からは通じる道はひとつもなく、空からも魔法の結界があり入れないようになっている。
しかも指定の飛行船か指定された定期獣車でないと入れない。
転移は指定の魔法陣のみ。これも神殿関係者か、上位貴族、緊急事態の警備隊意外使えない。ドラゴン等の騎獣ももちろん警備隊のみ許可されている。
行こうと思えば、徒歩、自前の乗り物で行く事もできるが、検問所があるから結局許可がないと入れない。
首都には魔霊樹や神殿等、貴重で大切なものが沢山あると言う。
だからってすごい用心深くない?
「厳しいんですね」
「ま、裏ワザが無いことはないがな」
「裏ワザ·····」
何それ。詳しく聞きたい。好奇心そそるフレーズ。
「教えて····はくれないですよね」
「当たり前だ。業務的秘密だからな」
ちっ!企業秘密ってやつなのね。
飛行船のチケットは手配してくれているらしい。
明日にはここを発ちレイハスの飛空船発着場に行かなければならない。
そして明後日には飛空船搭乗という訳だ。
「ケント(杉下さん)は私の警備隊宿舎にいるから、まず、そちらに向かってくれ。向こうの発着場には迎えをやっておく。迎えはジュノでいいだろう」
「ああ、彼は元気か。今は文官として第3警備隊にいるんだったな」
お知り合い?
「ジュノはユシャに憧れて魔導師修業していたから、会えるのを楽しみにしているだろう」
「弟子は取らないと言ってもなかなか諦めなかったから大変だった」「だからと言って私に押し付けることはないだろうユシャ。だが、今は文官として良くやってくれている」
「それなら良かった」
二人で笑い合う。あの〜そこで二人の世界作らないで頂けますか?でも、うん、眼福だ。
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さて、私はユシャさんとレイハスの飛空船発着場に来ています。地元の人は空港と呼んでるらしい。
空港には色々な形の飛空船がいる。何だかカオス。
長丸で機体にはよくわからない絵が書かれているのが、ここの飛行船。
他の派手な色や形の物は下の大地からの観光船や定期(ビジネス用)船だそうだ。
この大陸の飛空船は浮遊の魔法陣が機体の天井に刻まれておりそこに魔法石と魔法使いが魔力を流しながらコントロールするということだ。
二階建てのバスっぽいけど、一階が客室、二階が魔法陣があるコントロールルームつまり運転手席。乗務員もそこに控えているらしい。
運行は、一日3便、始発が日の出頃、次に昼頃、最終は向こうに夕刻頃に着く。
何時とかではなく、予定人員が全て乗り込んだらということで、船長の判断で適当に出発するらしい。ゆる過ぎる。
日本の列車見習ってくれ。
気流の状態で到着時間が多少前後する事があるが大体4〜5時間で着くらしい。
あ、また下の大地から観光船がきた。派手だな。金ピカだったり花模様だったり装飾がついてたり。
下の大地の飛空船は動力が魔素の電池みたいな物らしい。
下の大地のほうが科学発達してる?
下の大地の観光客は、特別許可がないと首都にいけない。そして、飛空船の空港自体がレイハスにしかないので、ここでの移動は大陸列車か獣車だ。
ゾロゾロと降りてくる人達は私の住んでいた世界を思い出させる。服装とか髪型がなんだか似てる。
ニニカの祭りで見かけた人達もあんな感じだったな。
下の大地からの客の人気ナンバーワンはティファーン。
スタラーランドあるもんね。
他はドングリの背くらべだが、収穫期だけはニーロカに来る人が増える。観光じゃなくて仕事に来る人がいるからだけど。
ちなみに下手に飛空船で首都へ入ろうとすると攻撃されるらしい。
過去、それで危うく戦争になりかけたとかならなかったとか。結界もそのため張られたのかもしれないな。
「ヒナ、行くぞ」
「はーい」
搭乗手続きが済んだようだ。
ユシャさんに呼ばれて、飛空船の発着の様子が見える窓を離れる。
私達が乗るのは昼の便。
何故だろう?
ティファーンに来る時のような、ワクワクドキドキする感じじゃなく、少し緊張してる気がする。
首都には神殿がある。
杉下さんがいるけど、ルーもいる。
何かの予感に意味もなく不安になっている自分に戸惑っている。
お読み頂きありがとうございます。
第2章開始までしばらくお待ち下さいませ。
またのお越しを····ってドコのお店やねん!
とにかく全完結が目標ですので、長い目で見て頂けると有り難いです。