彼女がキレた
やっと更新です。楽しんで頂けたら嬉しいです。
何気にカエサルとタヤの関係たのしんでたりして。タヤくんの容姿は普通です。
バリバリバリッ!
激しい電撃でユシャさんの魔法ガードが震える。
『ヒナ?何が起こってるの』
ルー?ルーなの?いきなり呑気なルーの声が聞こえた。
『ルー!今ピンチなの。サルタイラの罠に嵌ってモンスターが暴れて、大変なの!』
『何?もうちょっと詳しく!』
『ああもう!ユシャさんと私がピンチなの。ユシャさんの魔力が少なくなってるらしくて!』
『ゲッ!ユシャも一緒なの?!』
今、ゲッって言った?ゲッって···
あの綺麗な顔でそんなこと言うんだ。因みにルーの声は私にしか聴こえていないようだ。ルーには、こちらの音聞こえてるのかな?
「ヒナ。この洞窟はコーデリオンの結界が張られている。これを越えて転移するだけの魔力が足りない。あいつらをなんとかして倒すしかない。隅でバリア張って隠れてろ」
···このために、ちまちまと俺の魔力を削ってきたのか。性格悪すぎるぞコーデリオン!
「ユシャさん大丈夫なの?」
「お前が心配することじゃない。モンスターの一匹や二匹何とでもなる。俺を誰だと思ってる。超級魔導師のユシャだぞ」
な、何?超強気。確かにユシャさん魔法は強いみたいだけど、魔力足りないって言ってたのに、魔力無くなったらどうするの!
ていうか、コーデリオンってお兄さんだよね?お兄さん完全に敵に回っちゃったの?
「タヤ、俺達だけでも避難するぞ!」
「えっ!クレメンティーナを置いて行けないですよ」
「バカ!命が無くなったら意味が無いだろうが!『非常口』」
我を忘れたビオラークラが制御出来なくなって手に負えないと諦めたらしい。
カエサルさんは小さな筒を出し何か叫ぶと光に包まれ消えていった。魔導具なのか?ズルい。
でも、ちゃんとタヤさんも連れて行った。
「ユシャさん二人が消えた!」
「あれは事故等で危険な場所から
出られなくなった時使う非常用脱出魔道具で、指定された魔法陣のところに戻るようになっている。簡易結界や簡単な魔法の檻から逃げられる超高級品だ」
「うわっ!ずりぃ!」
「だからお前は早く隅で隠れてろ」
ユシャさんに言われ移動しようとした時。
バリバリッ!
ユシャさんの防御魔法から出たとこん、ビオラークラの電撃がすぐそばに落ちた。キレた妊婦(産後です)ビオラークラ怖い!
「きゃああ!」
「ヒナ!」
私の身体は衝撃で飛ばされた。
『ヒナ、少し身体借りるわよ』
ルー、なんて?······ダメだ。意識が···
「ヒナ!大丈夫かヒナ!」
慌てて駆け寄り抱き起こすが、気を失っている。
しかし·····
ヒナが気を失うと入れ替わるように彼女が現れた。
ゆっくりと目を開け立ち上がる。ヒナの身体なのに纏う雰囲気が違う。
「何やってんのよ。」
「···お前ルーか?」
「そうよ。久し振りねユシャ」
姿も声もヒナのまま。なんか変な感じだ。
「お前ヒナに何をした。ヒナをどうするつもりだ」
「今はそれどころじゃ無いでしょ。ヒナの魔力をあなたに移すわ」
「そんなことができるのか?」
「ヒナは私にとっても大切な子よ。守ってあげて。」
ルーはそう言うと聞いたことのない呪文を呟いた。俺に触れたヒナ(ルセラ)の手からスーッと暖かい物が身体に入る感じがして魔力が満たされてきた。
魔力を、流す練習とは違う。
まるで浸透してくるようだ。
「これは···」
危ない!突然ヒナが脱力したよう傾いた。ふう、既のところで抱きとめることができた。
電撃をガードで避けながら洞窟の隅までヒナを連れて行く。
うっすらとヒナの目が開く。気がついたのか、ルーか?ヒナか?
「ユシャ、大切な話がある」
その口調はルーだな。
「なんだ?」
「神殿で待ってる」
「ルー!」
ヒナの身体はグッタリしてルーの気配が消えた。
どういうつもりだ!ルーは何を考えているんだ。
俺に神殿に来い、だと?何様だ。
···いや、今はこの窮地を何とかしなければ。ルーの言った通り魔力が回復している。
ビオラークラはヒステリー状態のようだ。無駄に放電している。水属性だが放電、電撃を使えるから厄介だ。
火を使えば倒すこともできるが、希少生物でもあるので殺すのは最終手段だな。
眠らせるか。この魔力量なら使える。
『完全氷雪』
完全に凍らせると死ぬので、加減しながら、ビオラークラの体を冷やし冬眠状態にしていく。
強力な魔法を加減して使うのは魔力を大量に必要とする。
ヒナの魔力があって助かった。
そして、ビオラークラは眠りについた。卵が幾らか電撃で焼けてしまったのは自業自得だ。悪く思うなよ。
ガゴゴォーーーン!!!
その時、凄まじい爆音が響いた。
コーデリオンが俺を閉じ込めるため作った結界を力尽くで壊したのか。
俺たちが来たのと反対側の壁が大きく崩れ落ちた。
「ユシャ、無事か?」
「ユシャ様〜」
「大丈夫ですかー!」
第三ドラゴン警備隊の面々だ。
エルフオンスとサライ、レトなど顔馴染みの隊員達の魔法と物理的な力による荒技だ。しかしこれほどの大穴を開けるなんて一体何人連れてきたんだ········十人位はいそうだ。
「うげっ······」
「隊長、生ビオラークラですね。しかも卵持ち」
「隊長、大きいですね。こんな大きいのを近くで見られるなんてラッキーだなぁ」
そう言えば、確か隊長のエルフォンスは軟体動物が苦手だった。
「き、希少生物だ。下の海へ戻してやれ」
隊員達数人でビオラークラに浮遊魔法をかけ移動させていく。
先程あけた大穴からゆっくりと運び出されていった。
ヒナを抱え浮遊魔法で同じ穴から出ると、目の前に人工海が広がっていた。
ドラゴンシード島がすぐ向こうに見える。人工海の海水を引き込んでビオラークラを飼っていたようだ。
そして、ファイアドラゴンの子供を餌にしていたということか。ドラゴンもいい迷惑だ。
クレメンティーナとか言ったか。お前も酷い目にあったな。残った卵、無事に返せるといいな。
*********
何とか乗り切ったようだな。
さすがだユシャ。
お前を敵に回したくはない。
しかし、私にはこうするしかないんだ。
「コーリン(コーデリオン)行きますよ。もうこんな所に用はありません。タヤ、お前も泣いてないで早く来なさい」
「ふえ〜ん。クレメンティーナ〜」
「また飼えばいいでしょう」
「今度はドラゴン飼っていいですか?カエサル様」
「好きにしなさい。今度はちゃんと躾るんですよ!」
「はい!」
*********
ヒナをホテルに運び、医者を呼んで貰った。
擦り傷とか多少の打撲はあるが、魔力が減っている他は問題ないようだ。
アデリーナさんがメイドをヒナの部屋に付けてくれている。
意識が戻れば知らせてくれるだろう。アベルとオリオンもまだ眠ったままだ。
パザの知らせでホテルから警備隊に連絡が入ったのはエルフォンス達ちょうどティファーンに着いた所だったらしい。それで、急ぎ俺たちの元に駆け付けたということだ。
ロビーに降りるとエルフォンスが声をかけてきた。
「ユシャ、詳しいことを報告して貰っていいか?」
「ああ、大丈夫だ?アデリーナさん部屋をお借りします」
「はい、どうぞ。ご案内させますわ」
ホテル内の一室を借りた。少人数の会議やパーティーに使われる部屋だ。
大きめのテーブルとゆったりした椅子が4脚。窓からは人工海が見える。
あの洞窟へ誘い込まれたいきさつと、エルフォンス達が来るまでの事を話す。
「後、報告書に書けないことがある」と言うと、エルフォンスが防音の魔導具を取り出し発動させた。
「これでいいか。で、何があった?」
「ルセラが出て来た」
「は?」
確かに訳がわからないだろう。白の巫女として神殿の奥に居るはずのルセラが現れたなんて普通信じられない。
「ヒナの身体を依り代にして声を送ってきた。そしてヒナの魔力を俺に移した。聞いたこともない呪文を使ってな」
「魔力譲渡!?初めてニニカでヒナさんを見た時、ルセラ様のオーラを感じたのは気の所為ではなかったのか···」
どうやってヒナと接触したのかは分からないが、ヒナがルセラの魔力を纏っていること、ルセラから何らかの力が流れ込んでいるのは間違いない。
今まで俺が読んだ本にあんな魔法は存在しなかった。
魔力譲渡ができるなど···
エルフォンスもそんな魔法など聞いたことが無いという。
まして、他人の身体を遠くから操作するなど信じられないことだ。
暗示をかけたり魅了魔法で操る方法はあるが、直接接触のないはずの異世界人で、魔法の使えないヒナの身体自体を乗っ取るような事ができるのか?
·····やはりカジャク導師の言っていた禁呪魔法?
カエサルとコーデリオンも気になるが、そちらはエルフォンスに任せるとして···
「エル、俺はルセラに会わなくてはいけない。このまま中央首都ヴォイスに行こうと思う。」
「いきなり何だ?白の巫女に会うなど無理だ。神殿の最奥に入るのは不可能だろう」
「ルセラは俺に話があるらしい。方法は···まあ、なんとかする。ヒナのことは俺からもルセラに聞きたいと思っていたからな」
やはりヒナは誰かに預かって貰ったほうがいいだろう。
「ああ、そうだエル。お前が保護したという異世界人は連れてこなかったのか?」
「それが、彼は高い所がダメらしい。ドラゴンに乗れなかったので第3部隊の宿舎で待機中だ。こちらに召喚された時、いきなり空中に放り出されたんだそうだ。それで高い所がダメになったらしい」
「そ、そうか。ならばヒナもそちらに連れて行くことにしよう」
確かヒナも一緒に召喚されたんだから同じく空中に放り出されたはずだが?
ヒナはアルクに乗るとメチャクチャはしゃいでたぞ。
···女は強し。
お読み頂きありがとうございます。
因みにビオラークラはクラゲには似てますがモンスターであってクラゲとは違う生き物です。
卵は生まれても生き残って音なになるのは1%いるかいないかの希少生物。弱肉強食厳しい。