ヒナ、アレに出会う
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後少しで一章完結します。
もうしばらくお付き合い下さいませ。
少し前方に照明魔法ライトボールを出し、洞窟に入る。
中は入り口より高さも横幅もあり、二人くらいなら楽に並んで歩ける広さがある。
鼻が利くのと危険察知能力があるというパザを先頭にアレックス、俺と続く。パザのおかげでサーチ魔法は必要なさそうだ。
「うわぁ。洞窟ってこんな風になってるんだ」
アレックスが少し興奮した声を出す。まあアレックスにしてみれば初めての迷宮、洞窟だから仕方ないか。
というのも、この地域の子供達は無闇にダンジョンだの洞窟など行かないように教えられている。
危険だということもあるが、冒険者とのトラブルを避けるためという理由もある。
ゴツゴツした壁の岩肌や足元を小さな虫が這っている。こんな所へヒナがよく来たものだ。いや、あいつのことだから一人キャーキャー騒いでいたかもしれんな。思わず口許が緩む‥‥いかんいかん、こんなことを考えている場合じゃない。
「あいつら、何考えてるんだろうね。こんな所に女の子連れてくるなんてさ。冒険者ならともかく、ヒナだよ。ヒナ。あの子は絶対、そういうタイプじゃないと思うんだ」
「まあ、確かに。ヒナ殿は荒事を好むようには見えませんな」
そうだな。いつもニコニコしててそのくせちょっとからかうとムキになる。好奇心は旺盛なのにどこか臆病なところもある。でも、あいつは諦めたり腐ったりしない。変に前向きだったり素直だったり···
おや?
しばらく歩いた所で二股に別れ道が見えた。ん?何かの塊がある。岩ではないようだ?
「少年がいます。ユシャ様」
「アベルとオリオンだ!大丈夫か!あれ····ユシャさん。ヒナがいない!おい、ヒナはどうしたんだ!起きろ!」
アベルとオリオン、二人が倒れていた。周りを見回すがヒナは居る気配はない。
二人に怪我はないようだが意識がない。アレックスが起こそうと声をかけるが一向に起きない。
無理に起こさない方が良さそうだ。
誰かが二人を操ってここへヒナを連れてきたのだとしたら、やはり狙いはヒナか。
ご丁寧に魔法での外との連絡や転移ができないような仕掛けがしてある。壊すと洞窟が崩れるかもしれない。
「アレックス、ここの洞窟は念話が外に届かない。二人を運べるか?」
「二人一度には無理。パザさんは...無理だよね」
「申し訳ない。われは非力だ。だが、足には自信がある。すぐに助けを呼んでこよう。」
アレックスが此処に残りパザが助けを呼びに行くことになった。
アレックスは俺についてヒナを探しにいきたいと言ったが、この先魔法の罠の気配がぷんぷんしている。
そんな所に連れていける訳がない。
「ユシャさん。気をつけて。絶対ヒナを助けてよね」
「ああ、もちろんだ」
責任を感じてか半分泣きそうなアレックスを説き伏せ、一人罠の気配の強い方に進む。ヒナに持たせた魔除けの匂いが微かにする。
········確かにあれは臭い。
案の定、罠だらけだ。
だが、ちまちしたセコい罠ばかりが続く。ただひたすら多い。嫌がらせか!
上から石が落ちてきたり大量の虫が降ってきたりとか。
足元が崩れ落ちたり、横から槍が突き出してきたかと思えば今度は矢が飛んでくる。はては大きな岩が転がってきたり。
ユージに聞いた異世界の冒険物語のようだ。
しかし、少しずつだが魔力を削られる。嫌な感じだ。コーデリオンの仕業としか思えない。俺の性格とか癖を把握しての罠だろう。
その少し前···
あれ?
二人がいない。
「おーい。アベルくーん、オリオンくーん。どこー?」
え、はぐれちゃった?引き返すべき?でも、分かれ道もあったし、帰り道がよくわからない。
ヤバい!超ヤバい!
今は誰もいないしジャオさんに出てきて貰って······でも寝てたら起こすのも可哀想だしな。
アルクくんは一回しか呼べないから勿体ないし。
あーもう帰りたい。虫はいっぱいいるし、湿気多くて気持ち悪いし····
う~ん···あれ?クンクン····
潮の匂い?
海の匂いがするみたい。
「こっちだ!」
なんとなく海の潮っぽい匂いがする方へいってみる。
どんどん香りが強くなる。出口?明るい。
洞窟の出口らしき所についた。
「え?」
そこには広い体育館サイズの空間で岩が並んでて天井のいくつかある穴から日が差し込んでいる
チャプン!
水!いや、海水だ。大きな海水の池。潮の香りはこの池だ。
そして、そこには主が······
「なんでここに?」
いつか、アルクくんの背で見た巨大クラゲのモンスター、ビオラークラがいた。
オーマイガッ!
叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
そうよ。気付かれなければ大丈夫よね。急いで引き返せばいいのよね···って·····無い!
さっき通ってきた穴が無い!
あちこちにある岩に隠れて見えなくなっちゃったのかな?
落ち着け。もちつけ。冷静になるのよヒナ!
アレ(モンスター)に見つからないように、出口を探すのよ。
チラッとアレを見る。
あの大きな頭(かな?)の下の沢山の脚の間にあるのは·····もしかして·····
卵?!
わわわ、ヤバい。生き物は妊娠してたり子供いたりすると警戒心が強くなるし凶暴になるって言うし、敵には容赦しないんだよね。
早くここから逃げないと。
ん?
〜~~~~!!!
またまた、声を出さなかった自分を褒めてあげたい!
骨が、骨が一杯転がってる〜
アレ(モンスター)が食べたの?
確かに小さいドラゴンとか捕まえて食べるとか言ってたっけ。
とすると、この近くならドラゴンシード島のドラゴンということ?
骨が少し小さいから子供のドラゴンなのか?弱肉強食は厳しい。
·····迷わず成仏して下さい。
そっと手を合わす。
てか、私も危ないんだった。
「ジャオさん、ジャオさん、起きてる?」
小声でジャオさんを呼ぶ。
『ん~~なぁにヒナ。なんか用〜?』
あわ、やっぱり寝てたっぽい。
「しっ!静かにして。今大ピンチなの」
『え?うゎっ』
だから静かにしてって言ったのに。寝ぼけた様子で現れた人形の姿のジャオさんの口をあわてて塞ぐ。
『グァワラォブァァァ!』
気づかれた!
ビオラークラはピカピカと光を放ち出した。私達を警戒して威嚇しているようだ。
『な、何なのあれ!?』
「多分ビオラークラってモンスター。早く隠れるわよ」
急いで岩陰に隠れたけれど、私達の存在に気付いた彼女(卵持ってるから多分メスだと思う)は警戒心丸出しで光を点滅し唸り声のような音を出す。
私達が動かないのでしびれを切らしたのか長い脚をこちらに伸ばし始めた。
いやーっ!なんか魔法魔法!
えーっとバリア?ディスペル?防御魔法他になんかあったっけ?あーパニックだぁー!
『水の護り』
ジャオさんが呟くと私達は大きなシャボン玉に包まれた。やっと二人が入っていられるくらいの大きさだけど。シャボン玉はふわふわと岩の数センチほど上を漂い出した。
「凄い!ジャオさん凄い」
『へへん。もっと褒めて褒めて』
「よっ!ジャオさんカッコいい!素敵!」
『ありがと。でもこれ、浮くだけしかできないんだよね』
なんですと?
じゃ、どうやってここから逃げるの?ジャオさんはまだ強力な魔法が使えない。人形を取る事に力を注いだので今の魔法レベルはまだ低いのだそうだ。
『そうだ。ヒナ風魔法使える?』
「少しなら」
『風でこれ移動させて逃げよう』
成る程!
先ずは、私が使える微風の風魔法で少し高さを上げる。岩に当たったら割れちゃいそうだもん。そして、水平移動。あー脚が付いてくる。
微調整しながら追いかけて来る脚を避けて移動する。
コレかなりムズい!
何十分、いや何分も経っていないのかも。まだ魔法のコントロールが上手くできない私にはかなりの集中力を必要とするので、もう既に疲労困憊である。
『それ、右』『ほら、左』『危ない!早く』
ジャオさん言うだけなら簡単だよね。精霊魔法の強さ自体どの程度なのかわからないけど、この水玉は簡単には壊れないらしい。
でもジャオさんの体力だって限界があるだろうから、早く逃げないといけないのは分かってる。
だけど、さっきから私達とビオラークラは戯れてるとしか見えないような追っかけっこを続けている。
この海水池のある洞窟は結構広い。
彼女も卵を持ったままでは余り動けないらしく脚だけ伸ばしてきている。
ん?余り動けない?
あれ?じゃあ、あの彼女のご飯になったと思しき骨の山は······誰が持ってきたんですか?
読んで頂きありがとうございます。お留守番のアルクくん、すっかり忘れられてます。
作者のお気に入りはパザさんですが、できれば獣族もっと出したい。モフモフ万歳。
次回も読んでね。